ヨックモック、モロゾフ、ブルボン、出てくるわ出てくるわ……。 私の暮しでは、缶入りの菓子に出逢うことなど、めったにない。箱とフタの継目に貼り回したセロハンテープを、ぐるり一周剥す作業を最後にしたのは、さていつだったか、記憶にない。 幼いころは、洋菓子というもの自体を、知らなかった。東京に引越してきて、それまでほんのいく度か食べさせてもらったことのある、ビスケットというたいそう美味い菓子のことを、東京の大人はクッキーと称んでいて、不思議に思った。「クッキー」という単語自体が、初耳だった。 それでもまだ、自分で食べたことはなかった。たまさか母がお使い物として用意するのを視たのだったか、コロンバンや…