うっかり道を外れて木陰の坂道をのぼっていくと、こんもりとした緑の丘がぽこんと顔を出した。飛鳥歴史公園のなかでも、ちょっと奥まった場所にある中尾山古墳である。木漏れ日が葉の隙間を抜けて、まるで誰かの記憶のなかに足を踏み入れたような心地になる。 高松塚古墳のすぐ近くにありながら、訪れる人はそれほど多くない。けれど、この古墳はとびきり特別な存在だ。形は八角形。天皇陵にしか許されなかった、権威と祈りを象徴するフォルム。終末期古墳――つまり飛鳥時代の終わりごろ、7世紀の終盤から8世紀初頭にかけて築かれたとされている。 この中尾山古墳こそが、「真・文武天皇陵」とされる場所である。律令国家がまさに形になろう…