涙香 指環 1889年(明22)金桜堂刊。原作はフォルチュネ・デュ・ボアゴベ (Fortuné du Boisgobey, 1821~1891) の新聞連載小説『猫目石』(L’œil de chat) だが、涙香は元々の仏語から英訳された本からの重訳で記述していた。発表から1年後には和訳が出版されていたところに当時の日本の翻訳者たちの敏感さを感じる。 涙香は人名を日本名に、舞台となるパリの通りや公園の地名も漢字に置き換えているが、それでも洋風の雰囲気を十分に感じさせてくれる。今回は、酒類や産物の入市関税を逃れるために地下道で運び込む一味の犯罪を偶然知った貴族の青年とそれに巻き込まれた伯爵夫人の…