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2018-06-28

[]いとうみきおを良く知らない人のための『月曜日のライバル』の話。

前回までのあらすじ

 …………なぜ?

 と思ったら本当に献本が来た。

 …………なぜ?

 理由はよくわからないけど、頂いた以上はさりげなくステマの一つや二つをするのが世の習いなのでしょう。

 美しき国日本の伝統忖度

 ところで、あてくし今度お寿司を食べたいのですけれど…………。

 というわけでいとうみきお先生の久々の新作である。

 いい歳したジャンプ読者には結構なじみ深いものの、特定の世代より下の読者は全く名前を見聞きしたことないかもしれないいとうみきお先生である。

 そしていとうみきおという漫画家について、そして『月曜日のライバル』という作品について話すためには、まず当時のジャンプの話をしなければならない。別にそんなことはない気もするけど、せっかくこの作品に描かれている時代をリアルで目撃していた世代なのだから、当時の読者視点からいくらか書き残しておいた方がいいだろう。

 時は1994年、まさに週刊少年ジャンプの黄金期、そんな時期にジャンプの歴史に名を遺す一つの連載が始まった。それが和月伸宏の『るろうに剣心』である。明治初頭という当時の少年漫画では珍しい時代設定や、やや少女漫画チックな絵柄など、当時のジャンプではある意味異色な作品とも言えたのだが、魅力的なキャラクターの数々や迫力ある戦闘シーンが好評を博して、人気漫画ひしめくジャンプ黄金期の中を生き残り、連載枠を勝ち取る結果となった。

 しかし和月伸宏先生が台頭するのとは裏腹に、『幽遊白書』『ドラゴンボール』『スラムダンク』といった人気作品が立て続けに終わっていき、ジャンプの売り上げは急下降、一時は『GTO』『金田一少年の事件簿』を擁するマガジンに売上が抜かれることに。これが世間でいうジャンプ暗黒期というやつだ。

 暗黒期とはいっても『るろうに剣心』や現在アニメ放送中の『封神演義』、5部のアニメ化も決定した『ジョジョの奇妙な冒険』はあったし、『幕張』は宇宙一面白かったし、当時の一少年としてはそこまで暗黒という気もしなかったのだが、上の世代からすると知っている漫画が次々に終わっていくのは雑誌から離れるちょうど良い機会だったのだろう。

 しかし、人気作品が終わるということは、新人にチャンスが回ってくるということを意味する。そんな中である若手漫画家たちに注目が集まる。

 『鬼が来たりて』のしんがぎん、『仏ゾーン』『シャーマンキング』の武井宏之、そして言わずと知れた『ONE PIECE』の尾田栄一郎、彼等に共通するのは皆和月伸宏先生の下でアシスタントを経験していたということだ。このことから読者に「『るろうに剣心』のアシスタント出身は凄い」という評判が立ち、一部の間で彼らは『和月組』と呼ばれるようになる。

 そして、その 『和月組』から満を持して登場したのがいとうみきおだ。『ONE PIECE』のコミックのおまけコーナーなどでも言及されており、当時の読者は「いったい彼はどんな漫画を描くんだ、和月伸宏のアシスタント出身だからきっと凄い漫画を描くのだろう」と興味津々だった。そして始まったいとうみきお先生の連載デビュー作『ノルマンディーひみつ倶楽部』! 気になるその内容は…………まあ、普通

 決してつまらないわけではないが、凄く面白いわけでもない。そういった感じの内容で、雑誌の後ろの方で約一年間連載が続いたものの、打ち切り。ジャンプで連載枠をキープし続けるのは漫画業界の中でもっとも困難なことの一つなのだ。その後も『グラナダ -究極科学探検隊-』『謎の村雨くん』と連載が2本スタートするもどちらも一年持たず打ち切り。これ以降、いとうみきお先生の作品がジャンプで連載されることはなかった……。

 それからあまり消息も知られておらず、一時は死亡説なんかも流れたりしたのだが、そんないとうみきお先生がなんと宝島社でWEB連載を始めるという! しかもその内容は尾田先生や武井先生ともにアシスタントをしていた当時の話を題材にしたもの。

 つまりはいとうみきお版『まんが道』だ! ジャンプの売り上げが大きく上下する激動の時期の話でもあり、あの人気作家たちの知られざる若き日の姿が描かれるというのだ! こんなの絶対面白いに決まってる! 「この『まんが道』、手塚先生ポジションの人が現在進行形でまずいことになっているけど大丈夫?」という不安もあるけど、そこはあまり気にしないようにしよう!(2018年6月現在、『るろうに剣心-明治剣客浪漫譚北海道編-』はジャンプSQ.で無事連載再開されました。よかったですね!)

 そしてついに公開された『月曜日のライバル メガヒットマンガ激闘記』! 無料のWEB連載ということで物のためしに読んでみるかと、かなりの注目が集まった! 僕のtwitterのTLでも多くの人が読んでいた! そして気になる世間の人々の感想は……!

最初の3ページのノリがキツい

 うん、そうだね、確かに必要な前振りかもしれないけどちょっとキツかったね。

 ってかわざわざそんな言い訳がましくしなくても……。

(当時の僕の感想)

 けど、一番キツイのは最初の3ページだけだから……その後はそこまでキツくないから……。ってか、あれだな、このステマもう失敗してんな!

 そんなわけで始まったいとうみきお先生の新作ですが、今のところわりとオーソドックスなマンガ家アシスタント物語といった具合である。漫画家デビューを目指す青年が、プロの漫画家のアシスタントとなり、そこで後のライバルとなる仲間たちと出会っていくというのを、実際の経験に基づいたアシスタントあるある的な小ネタや、作中に登場する漫画家パロディなんかを挟みつつ描いていく。一巻の時点ではようやく登場人物が出そろったところだ。

 普通に展開するのなら、きっと彼らはこの後才能を開花させて、和月先生の職場から巣立っていき、プロの漫画家として活躍するのだろう……と思うのだが、しかしここである問題が浮上してくる。

けど、この主人公、みきおじゃん……

 他の漫画家の自伝的漫画、たとえば『まんが道』で満賀と才野が〆切りに間に合わず大手編集部のほとんどから仕事を切られても、『アオイホノオ』で焔がどれだけ調子に乗って上から目線になろうとも、我々は安心して読むことができる。なぜなら読者である我々は彼らが最終的に成功を収めるのを知っているから。一方この作品は…………。

 だって、いとうみきお先生って『まんが道』で言ったら、藤子や赤塚や石森じゃなくてどちらかと言えばテラさんのポジションじゃないですか。

 いや、もちろん週刊少年ジャンプで連載を持つだけでも物凄いことだってのは今更僕なんかが言うまでもないことですが、タイトルに『メガヒットマンガ激闘記』と入れるほどメガヒットはしてないんじゃないかなって……。

 そんなわけで、今は凄く正統派熱血漫画家物語になっている『月曜日のライバル』。けど正統派な分だけに「このノリでデビュー後の展開やるのはキツくない……?」という不穏さはつきまとう。不穏と言えば、ギャグっぽく描かれてるけど和月先生の仕事場ブラックすぎない……?

 しかしその不穏さが面白いのである。

 主人公であるいとうみきお成年がアシスタントの先輩として、後のライバルとなる後輩アシスタントたちに漫画に対する熱い思いを見せたり、プロ意識の高い言葉を放ったりして、正統派の主人公らしい姿を見せても、その後に起きることを知っている我々は「けど、この人、この後……」となってしまう。

 何と言うか、アメリカン・ニューシネマの序盤を見ているような感じというか、『ひぐらしのなく頃に』の部活のシーンを見ているような感じというか……。

 少年漫画風のタッチで描かれる漫画家の自伝風漫画でありながら、読んでいる読者が自然と不安や心配な気持ちになってしまうという不思議な作品。これはまさに今のいとうみきお先生のポジションでしか描けない代物であろう。つまりは唯一無二の一作なのである。

 ただ冒頭で「このマンガはドキュメンタリーではない!!」と作者が直々に宣言しているので、実際この先どうなるのかわからない。

 もしかすると『ノルマンディーひみつクラブ』が超メガヒットして、『ONE PIECE』、『仏ゾーン』、『ノルマンディーひみつクラブ』がジャンプの新三本柱に君臨する世界が描かれるのかもしれない……これはこれで。

 そういったわけで、いとうみきお先生の新作『月曜日のライバル』である。巻末の次巻予告を見ると、どうやら今後は尾田先生や武井先生のエピソードがもっと描かれたり、鳥島編集長らしき人が登場したりするようなので、「あっ、みきお先生の話は別にいいんで、もっと尾田先生や当時のジャンプの裏話をしてくれませんかね……」という人も安心してほしい。

 あとコミックの体裁ジャンプコミックスに寄せているので、書店の人はさりげなく平積みしている『ONE PIECE』の隣に置いたりすると良いと思う。

 というわけで、ある意味一番先が読めない漫画家漫画である『月曜日のライバル』。もし、この紹介で興味を持った人がいたらとりあえずWEBの連載を追ってみるといいのではないでしょうか。なんてったって無料ですからね。

 あと、あれですね、今後宝島社から僕の方に献本や連絡が来ることはなさそうですね。

2017-06-02 『黄昏流星群』と『人間交差点』って別の漫画だったの!?

[]自由主義少女リベ子ちゃん 広島死闘篇

前回:自由主義少女リベ子ちゃん・リブート - 脳髄にアイスピック

島耕作の新シリーズは『事件簿』……やはり、あれかしら、今の東芝の大赤字も地獄の奇術師のせいにされるのかしら……」

「リベ子ちゃん! シマコーに出てくる会社『初芝』のモデルは作者・弘兼憲史漫画家になる前に勤めていた松下電器産業(現・パナソニック)で、東芝とは一切関係ないよ!」

「漢字の字面じゃなくて母音に注目するのが大切なのよね……ってあなたは私の使い魔にして、自宅のトイレに置いておきたいマンガ一位は『三国志』ではなく『黄昏流星群』だと主張してやまないラルじゃない!」

「連載形式の作品よりも、一話完結の漫画の方が後腐れなく席を立てる……素人さんにはわからないかもしれないがね。ってそんなことより大変なんだよ、これを見てよ、これ!」

「ほーん、ここ最近テレビの面白ニュース枠として消費されている前川元事務次官の話じゃないの。なになに、出会い系バーに通い詰めだったけど目的は本人の説明通り、貧困調査で実は女の子の手もつないだことがなかった……まあ、いい話じゃないの」

全っ然、よくねえよ!

「ヒィッ」

「こちとら出会い系バーの報道が始まった時点で、どこの店なのか、お店の入場料はいくらなのか、一見さんでも入れるのか、働いてる女の子は本当に現役のJKなのか、いくらぐらい払えばヤラせてもらえるのか、お金を払って一緒にホテルに行こうとしたら、後ろから怖いお兄さんが来たりしないのかとか、色々気になって加計学園どころじゃないんだよ! ってか、あの新大久保の店絶対許せねえからな!

「落ち着いて、ラル! あなたが喋れば喋るほど、あなたとこのサイトの社会的地位が危ういわ!」

「そのくせ、はてなブックマークじゃ、こいつのことを見直したのなんだの、聖人扱いされだしちょる……そんなこと言われたら通る筋も通らんじゃないの! 大体手をつないだことがないから聖人だなんて言ったら、僕だってお金を払わないで女の子と手を握ったことなんて一度もないし、イソジンなしで女の子とキスしたことだって一度もないよ! もっとみんな僕のことを崇め奉れよ!」

「落ち着いてラル、わかったわかった私が落としどころをでっち上げるから、それ以上そのドブみたいな臭いのする口を開かないで! ポクポクポクポク…………ホイップ・ステップ・リベラール!」

「あ、なんか最近のプリキュアで聞いたような気がするやつだ! リベ子ちゃんも最近のトレンドを取り入れようと色々必死なんだ!」

「良いおとなとしてこの問題にどう対処するべきかわかったわ、ラル」

「よっしゃ! じゃあリベラルと言い張ってるだけのただただ反道徳的なだけのいつものやつをやっちゃってくれよ!」

是々非々

「…………はぁ」

「当たり前の話だけど、結局今回一番問題にするべきは前川元事務次官が証言した、『総理のご意向文書が実在するか否かで、それ以外は本筋じゃないでしょ」

「いや、このタイミングでこんな報道がされるあたり、政権メディアに何らかの圧力をかけたとか、そういう切り口だって」

「もちろんそれはそれで問題視する必要があるわ。だけど、こういう物事論点を一つ一つ分けて考えるのが大事なの。文書の有無、メディア報道、過去の天下り問題、出会い系バー通い、これらの話は全て前川元事務官という人間から一本の線でつながっているように見えて、全て別の話でしょ。別に前川元事務次官が実際に女子高生買春していたからといっても加計学園に関する文書でっち上げということにはならないし、逆に加計学園に関する正義の告発者であったとしても天下りを斡旋していたという事実は覆らない。だから是々非々」

普通ですね

「そういう意味では、個人私的な行動を捕まえて、聖人だと褒め称えるのもロリコン糞親父と罵るのも、双方ともに本筋から離れたしょうもない話題だとあたしゃ思いますけどね」

出た! 妖怪どっちもどっちだ! でもでも個人の名誉の回復だってあるんだよ!」

「いや、名誉って言ってもさあ、だって出会い系バーに通い詰めていたってのは事実なんでしょ? さっきセブンでおにぎり買うついでに(今だけ百円!)文春立ち読みしてきたけど、そもそも貧困調査が目的なら同じ女性と30回も会う必要なくね?とか、最初に出会った女の子が6年前ってこの手の店に通う期間、流石に長くない?とか、女子の貧困を気にするのも結構ですが男子の貧困についてはどうお思いで?とか文春の記事の〆の一文、明らかに皮肉じゃなかった?とか、まあ、いろいろな論点があって、そこらへん全部無視して良い人扱いするのはさあ……けど、ほらあたし個人の恋愛や性行為は法に触れない範疇ならば好きにすればってスタンスだから」

「ちょっとリベラルっぽい!」

「これだけ色々根掘り葉掘りされているのに、それでも現時点で買春をしたっていう具体的な証拠や証言が出てこない時点で、本当に法や条例には触れることはやってなかったんだろうなあとも思いますけど、本番してないから偉いって理屈ならキャバクラフィリピンパブに通ってるオッサンとどれだけ差があるのかって話じゃない。だけど、そういう性道徳や倫理的な部分を問題にしてこんな議論を交わす時点で話が本題から逸れちゃっているわけで、こういう下半身事情の話がみんな大好きなのはわかるけど、今問題にするべきことが何なのかって忘れないでおきたいわよね。というわけで今日のしゃべり場ここまで! リ〜ベラル〜、トカ〜レ〜フ〜、キルゼムオ〜ル〜♪」

「はっ、リベ子ちゃんが毎回言っているこの締めの台詞の元ネタは、漫画『大魔法峠』! そしてその『大魔法峠』の作者である大和田秀樹モーニングで連載をしていた『疾風の勇人』は安部総理祖父である岸信介が登場したばかりなのに、先日、突然の打ち切りに! そうか……いつものように茶化していたけど、実はリベ子ちゃんは、この国の政権の在り方に、そしてその政権の御用聞きに成り下がりつつあるメディア報道姿勢に静かに怒りを燃やしていたのかもしれない……!」

「いや、掲載順を考えてもあれは普通に打ち切りだったんじゃないかな……」

「そんなぁ……」

つづかない

2017-05-15

[]キン肉マン完璧超人始祖編」のベストバウトを5つ選んでみる。

 キン肉マンの新シリーズ「完璧超人始祖編」がついに完結してしまった。

 キン肉マンである。元々の連載は30年前に終わってしまったキン肉マンである。

 一般的にこの手の2世ものだったり、続編だったりは、だいたい当時の勢いが失われていたり、昔に比べて絵が衰えていたりしがちで、漫画そのものの面白さよりも当時を懐かしんで楽しむという意味合いが強かったりするのだが、キン肉マンは別だった。

 当時の読者だって、この30年で数々の漫画を読んで、すっかりすれっからしになっていたはずだ。キン肉マンより面白い漫画だってたくさん目にしただろう。歳を取って嗜好もある程度変わっただろう。

 それなのに、多くの読者が毎週毎週更新直後のキン肉マンを読んでは、日曜に深夜にリアルタイムで熱狂していたのだ。

 この大成功には様々な要因がある。

 まず、ゆで先生の絵が格段に上手くなっている。

 たとえばこのプラネットマンを見てほしい。

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右から左に現在の絵に近づいていくのだが、初登場時のおもちゃみたいな外見だったプラネットマンが*1凄くスタイリッシュなキャラになっているのだ。

 週刊連載をやった作家は連載時に画力のピークが来ることが多いのだが、ゆで先生は連載終了後も絵画教室に通い、今でも画力を向上させようと努力を続けてきたのだ!

 その結果生み出される試合の数々はどれも迫力満点なのだが、それ以外でも絵の巧さを感じる部分は多い。

 たとえば普段から面を被っているストロング・ザ・武道。

 その表情は面で隠され、目しか見ることができないのに、読者にはその感情がはっきりと伝わるのだ。

 これはなかなかできることではあるまい。

 怒る武道

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 悩む武道

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 次にストーリーが面白い。

 本筋自体は、かつて対立していた正義超人と悪魔超人が手を組んで、完璧超人の新勢力を迎え撃つという至ってシンプルなものだ。

 だが、本作はそれを描く上で過去に使われてきた数々の設定を引っ張ってきた。

 死んだ超人が玉を4つ集めることで復活できる超人墓場、子供の些細な一言をきっかけに兄弟喧嘩を始めた戦いの神と平和の神、そしてどこからともなくやってきて二人に剣を渡して殺し合いを強要する裁きの神ジャスティス、数億年前に全宇宙の超人を絶滅寸前に追い込んだカピラリア七光線、その他色々……。

 今となっては、いろいろ荒唐無稽で当時の漫画界のおおらかさを実感できるのだが、本シリーズではこれらの設定の数々を自然な形でストーリーに組み込み再構築していったのだ。

 その結果、毎回「この設定をこんな風に持ってくるのか」「あの設定がここに繋がるのか」という新鮮な驚きがあった。

 個人的に印象に残っているのは「肉のカーテン」誕生秘話である。

 キン肉マンが防御に使う技である肉のカーテン。それはキン肉マン祖父・キン肉タツノリが三日三晩敵に捕らわれた際に、拷問に耐えるために編み出した技と言われていた。

 だが、キン肉族であり今回の敵役の一人ネメシスはここにある指摘をする。

「おかしいとは思わぬのかその話! キン肉族の大王タツノリがひとり捕虜となり、しかも三日三晩にわたってさえも誰も助けに来ない? なぜたったひとりで拷問に耐えねばならなかった? どう考えてもおかしいだろう!」

 そう、この肉のカーテンという技にはキン肉族にまつわる忌まわしい秘密が隠されていたのだ!

 しかし、私にはそれよりもっと驚いた部分があった。

 キン肉マンでそういうまともな突っ込みを入れてもいいんだ!

 これは大発明である。そりゃネメシスの言うとおりだけどさあ、そんなこと言ったらおかしいと思うところばっかりじゃん、この漫画!

 しかし、この一連の話がネメシスというキャラの魅力を何倍にも引き立てる実にいいエピソードになっており、過去にそこまで深く考えないで書いたであろう話をここまで見事に昇華させて物語に組み込むあたり、今のゆで先生のストーリー作りはキレッキレである。

 これだけでも十分に現在の漫画界でもやっていけるのだが、そして何より本作はキャラクターが良い!

 昔懐かしいキャラクターと再び誌面で会える。これがリバイバル系の作品を読む上で何より喜びだ。

 しかも今のゆで先生の画力を当時を上回っている。ましてや今回はかつて敵だった悪魔超人が味方になっているのだから、ますます盛り上がる一方だ。

 だが、本作で魅力的なのは過去のキャラクターだけではない、それが今回のシリーズ名にもなっている『完璧超人始祖』だ。何億年も前から生きてきて、その力は悪魔超人編のボスである悪魔将軍と同等とも言われている超人たち。

 彼らは一部を除けば皆今シリーズが初登場、言ってしまえばポッと出のキャラクターなのだが、みんな非常に強く、そして誇り高かった。

 この誇り高いというのは実に重要である。キン肉マンの敵キャラクターというのは初登場ではともかく、終盤になると卑怯な手を使うようになってくるのが、ある時期からのお決まりの展開であった。

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 そんな卑怯な奴らを正義超人たちが正面から叩きのめすことでカタルシスが生まれるのだが、今回の完璧超人たちは、お前ら下等な超人相手に小細工は必要ないと、皆最後まで正々堂々と戦いを続けた。

 だからこそ、彼らはたとえ戦いに敗れてもその気高さが地に落ちることはなく読者に強く印象を残すのだ。そして、彼らが正々堂々と戦ったからこそ、今回のキン肉マンが単なる正義対悪という単純な構図ではなく、正義・悪魔・完璧という複数のイデオロギー対立というところにまで物語を進化させることできた。

 そして今回のシリーズで正義超人たちが終始主張し続けた「わかりあうために戦う」という言葉が重みを増したのである。

 キン肉マンという過去の名作を土台にこれらの要素が加わったことで、紛れもない傑作になった今シリーズ。その今シリーズのベストバウトを私的に5戦選ばさせていただいた。

 正直5試合に絞るのはなかなか難しかったのだが、そうしないとほぼ全試合解説することになるので、ご了承いただきたい。

5位 キン肉マンピークア・ブー

 主人公であるキン肉マンの試合である。

 正直キン肉マンって強すぎて戦わせづらいと思うんですよ。前シリーズの時点でも強すぎるから「火事場のクソ力」を封印ってハンデが与えられていたんですけど、今シリーズではその「火事場のクソ力」が戻っているうえに、師匠から52の関節技を追加で教わっているわ、奥義であるマッスル・スパークを習得したわ、フェイスフラッシュという謎の光線を出せるわで、スペック的にも最強だし精神面でも立派に成長していて弱点がほとんどない。普通に戦ったら苦戦するような相手はほとんどいないわけで。そのせいか主人公なのに、超人たちの試合が28戦あったこのシリーズでも2回しか戦ってないんですよ。

 しかし、2試合しか戦っていないのに、終わってみると「キン肉マンはやはりスーパーヒーローだった」という感想になってしまうのだから凄い。

 閑話休題。で、そのうちの一戦であり復帰戦がこのピークア・ブー。

 このピークア・ブーというのがなかなかの曲者で、最初は赤ちゃんのように何もできずに相手の攻撃を一方的に喰らうだけ。しかし、試合が進むにつれて相手の技や戦い方を学んでいって、最終的には相手の攻撃を返したり、相手の技を無効化したりと一方的な試合展開をするキャラで、強敵ではあるんですけど、プロレスラーという視点から見ると凄くしょっぱい男なんですよ。しょっぱくはあるけど、宇宙最強であるキン肉マンと戦うならばそれぐらいの相手じゃないと話にならない。

 そしてキン肉マンピークのペースにすっかりはまってしまい、キン肉バスターを始めとする得意技を次々と破られ、一方的にやられるばかり。そんな中キン肉マンピークア・ブーが急成長と引き換えに基礎的な技が身についていないということに偶然気付く。

しかし、基礎的な技だけではピークを倒すことができない……と思いきや出てきた技がこれである。

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 そう、風林火山。原作では一回しか使われていないのに、アニメでは毎試合のように見た記憶のある必殺技だ。キン肉マンって漫画は全巻読んでないけど、アニメは見てたってファンも意外と多いと思うんですよ。そのアニメで使われていた技をキン肉マンの久々の復帰戦で持ってくるあたりに、漫画を追いかけてきたファンだけではなく、もっと広い世代をも楽しませようとするゆで先生の懐の深さが感じられたのと、風林火山を持ってくる理由として、ただの必殺技でもなく基礎技の集合体だからピークア・ブーにも通用するというロジックが素晴らしかった。



4位 ステカセキング対ターボメン

 今悪魔超人が再登場? え、この21世紀に? ステカセキングが? それってどういうこと?

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 つまりこういうことである! 今回のシリーズを象徴するといってもいい1ページ。

 キン肉マンの新しく始まったWEB連載、正直な話連載当初はそこまで期待していなかった人もいたと思うんですけど、悪魔超人の本格的な参戦、そしてこのステカセキングの試合をきっかけに一気に注目度が跳ね上がった気がします。

 今のゆで先生が描くと、オモチャみたいなステカセキングがここまでかっこよくなるんだとか、設定上できるはずなんだけどまさか本当にやるとは……とか読者に色々驚きと感動を与えたこの1ページ。

 この後ステカセキングは色んな強豪超人に変身した後に、最終的に本来この場で戦うはずだったウォーズマンに変身するわけですが、結局それが原因で負けてしまうんですね。

 それに関してターボメンとの間でこのようなやり取りがあるわけです。

「ステカセよ あれだけ多彩な変身能力をもちながら なぜ正義超人ウォーズマンの技に固執した?」

「ケ…ケケ 変な勘繰りはやめてもらおう オレたち悪魔超人は せ…正義超人の助太刀にき…来たんじゃねえ… あくまでウォーズマンの わ…技でおまえを殺れると オレが ふ…踏んだからだ…」

「それだけ聞けばけっこう!」

 このあえて言い訳をしないステカセもかっこよければ、それ以上踏み込もうとせずに敬意を払ったかのようにトドメを指すターボメンもかっこよく、このシリーズはものすごく面白くなるんじゃないだろうかと期待を持たせる1戦でした。



3位 アトランティスマーリンマン

 アトランティスがめちゃくちゃかっこよかった(小学生並みの感想)

 アトランティスっていうやつは悪魔超人の中でも特にヒールレスラーらしい男で、以前に登場した時もミート君の身体を人質にしたりしてロビンマスクを倒した本来嫌われるタイプ、つまりどちらかといえば不人気な超人のわけですよ。今回彼はその因縁の相手ロビンマスクに代わって戦うのだけど、客席では誰も彼を応援しない*2。けど、そんな中、彼に声援を送る者がいた。それは子供! 

 嫌われ者だったアトランティスがこの少年の声援でピンチを脱し、致命傷を負うも少年の声に反応して立ち上がる。まるで正義超人じゃないか!

 そんな自分を応援する少年に対して彼が言った言葉がこれ。

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 日曜深夜にキン肉マンを読んで悪魔超人を応援している大人たちには耳の痛い言葉だ!

 そんなツンデレっぷりを発揮したアトランティスだが、自身の技は全て破られており、マーリンマンに2度も胸を貫かれてもはや命が尽きるのは時間の問題。そんな彼が最後の最後で見せた技がこれ。

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 前シリーズのロビンマスク戦の再現、さらにそのロビンマスクの技を使うという掟破りも含めて、ヒールながらもかっこいい悪魔超人アトランティスの良さがグッと詰まった名試合だった。



2位 ブラックホール対ダルメシマン

 今シリーズ前半戦の立役者といっても過言ではないブラックホール、通称BH。

 BHの技なトリッキーな技が多く、それを今のゆで先生が描くことで試合そのものが格段に面白かったのもあるんですが、BHの試合の時点で急遽参戦した七人の悪魔超人は、完璧超人の前に既に2敗。

「ああ、悪魔超人は今回はかっこいいけど、やはり正義超人の引き立て役なのかな……」と思った読者もいたと思うのですが、そんな読者たちの予想を完璧に裏切ったのが大きい。

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 そしてなんと言ってもこのゆで理論。

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 キン肉マンだからこそ納得できるこの理論!

 この展開の何が凄いかって、確かにBHは確かに前の週で自分で傷をつけていたんですけど、その時は傷の形がIじゃなくてXだったんですよ。つまり前の週の段階ではゆで先生はBHをどうやって勝たせるかを細かいところまでは考えておらず、一週間でこの理論を編み出したということになるんです。すげえや!

 そしてこの流れからの「くらえーーっ これはオレとステカセ…カーメンからの…悪魔のギフトだーーっ」という台詞と共に放たれる新必殺技が本当にかっこよかった。

 あと、BHはこの後もう一戦するわけですが、その試合でもとんでもない大技を見せるのでやはり前半戦のMVPは彼だった気がしますね。



1位 シルバーマン対サイコマン

 完璧。

 前半のMVPがBHだとするなら、後半のMVP候補がこのシルバーマン。

 シルバーマンというのは謎の多い男だったわけですよ。今でこそ首だけになって正義超人の守り神的存在になっている彼ですが、そもそも平和の神のくせに「戦ったらどっちが強いの?」という煽りで大喧嘩を始めて兄貴の首を剣ですっ飛ばしたり、テリーマンに「お前が命を捨てればウォーズマンが助かるよ」みたいなこと言ったりと、平和の神のわりに色々物騒だよなっていうのは、しばしばファンからネタにされてきた。それが、今回のシリーズで彼の色んな側面が明かされるわけです。実は完璧超人だった。実はキン肉族の祖先だった。実は虐殺王だった。実は完璧超人のスパイだった……。

 話だけ聞くと正義超人なのか、完璧超人なのかよくわからない男であり「果たしてシルバーマンとは何者なのか?」が中盤の大きなテーマだったのですが、実際に登場していざ戦ってみると、恐ろしいことに彼を示した上記の様々な言葉が全て正しかったことが証明されるのです。

 先ほどキン肉マンみたいなキャラは強すぎて描きづらいと言いましたが、シルバーマンってそれ以上に描きづらいと思うんですよ。だって、設定上ほとんど最強キャラみたいな扱いなので下手に苦戦させるわけにはいかない。しかし圧勝したら圧勝したで試合が盛り上がらない。しかし、読者の期待はついに拝めるシルバーマンの戦いでパンパンに膨れ上がっている。この状況で読者の期待に応え満足させるものを描かなければならない。

 そんな超高難易度の試合の相手を務めるのは、完璧超人始祖の一人サイコマン。このサイコマンはこの試合が4戦目。主人公のキン肉マンがこの時は1戦しかしていなかったのに、4戦目! それなのにほぼ無傷! さらにマグネットパワーを使いこなす。このマグネットパワー、キン肉マンが夢の超人タッグ編での決勝戦でヘル・ミッショネルズが使っていた能力なのですが、このときキン肉マンはマグネットパワーを正面から打ち破ることができず、封印するという変則的な形でしか対処できなかったんですね。しかしサイコマンのマグネットパワーは封印が不可能。まさに相手にとって不足はなし。

 スペックだけで見てもほぼ最強同士の戦いと大盛り上がりなのですが、さらに二人には完璧超人始祖として何億年もの積み重なった因縁があり、それが試合をより面白くするわけです。

 未来を見据えて後進を育成しようと仲間の下を去ったシルバーマン、いつまでも楽しかった過去の記憶に固執するサイコマン。決して重なることはない二人の思い。

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 そして試合中シルバーマンはマグネットパワーを操るサイコマンにこう訴えかけるのです。

「ダメだ 君は間違っているよ! 命を弄ぶような力なんて使うもんじゃない! 目を覚ますんだサイコマン!」

それに対してサイコマンはこう返す。

「目を覚ます? お断りします これが夢なら私は永遠に眠り続けましょう この覚めない眠りの果てにこそ 私たち11人が見た夢の続きがあるのですから」

 このやり取りを見た瞬間、僕はあることに気づきました。

 これは百合なんだ……。そしてどこからともなく流れ始める「君の銀の庭」。

幼い眠りを守りたい番人

大人になる門は固く閉ざされて

君は気付いていたかな?

ほんとのことなんて

いつも過去にしかない

未来や希望は全て

誰かが描く遠い庭の我が侭な物語

まだ誰もしらない

 え……? これサイコマンとシルバーマンの歌じゃん! タイトルに銀って入ってるし!!

 そうか、梶浦由紀はこの展開を予想していたのか……。

 そんな感動も含みつつ、2人の戦いはクライマックスに向かうわけですが、その結末がこれ。

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 一同ドン引き

 シルバーマンの必殺技のあまりの凄まじさに読者も正義超人も観客も口をぽかーんと開けるしかない。

 美しくも悲しい二人のすれ違いから凄惨すぎるこの結末。あれだけ上がりきった読者のハードルを軽々と飛び越えていき、シルバーマンという謎多き超人の本性が誰の目にもわかる結末に。これを見せられた当時の僕はゆで先生すげえやと手を震わすしかありませんでした。

 ちなみにこのシルバーマンとサイコマンのやり取りにはもうちょっと続きがあって、まさかキン肉マンでここまで感動するなんてという展開になっているので是非そちらも読んでほしい。サイコマン、僕たちは君を誤解していたよ……。



 というわけで以上が、今回のキン肉マン完璧超人始祖編の私選ベストバウト5戦となります。

 悪魔超人の試合が多かったのは、正義超人の試合もいい試合・名勝負が多かったけれど、やはり悪魔超人の試合はどちらが勝つのかわからないブックが多く、リアルタイムで読んだ時の意外性が強かったのが要因でしょうか。

 それに今週のシリーズ最終回の見開きを見ても、やっぱり悪魔超人の試合を選んでしまうのは仕方がないよ!

 とはいえ、どれも甲乙つけがたい名勝負ばかりで、こんな素敵な漫画を6年間描いてくださったゆでたまご先生には感謝の言葉しかない。

 俺のチョイスに納得のいかないという人は是非自身で5戦選んでみてほしい。本当に難しいから、これ。

 そしてキン肉マンを全く読んだことがない人にはさすがに勧めづらいのだけど、昔キン肉マンを読んだり、アニメで観たことがあって好きだったという人には是非今回のシリーズを読んでほしい。絶対面白いから。そう胸を張ってお勧めできる最高のシリーズでした。

 ありがとうゆでたまご先生。6月からの新シリーズも期待してます!

*1:これはこれで味があって好き

*2:半分くらいブラックホールのせい

2017-02-05

[]北方水滸伝を読んだという話

 範馬刃牙で主人公の範馬刃牙が「素手の時代だ……」と言ったことは有名ですが、僕も「blogの時代だ……」と急に思ったのでblogを書きます。

 ここしばらくはずっと全てのアウトプット能力をtwitterに注ぎ込んでいるのですが、まあtwitterというものは思ったことを気軽に呟いてボーボー炎上することには向いていも、ログを掘り返すのが面倒なため備忘録にはあまり向いておらず「あの時期俺何してたっけ?」ということを参照しづらいわけです。

 そこでblogの時代であるわけです。

 twitter以後、このぐらいの内容だったらわざわざblogに書かんでもtwitterで呟けばええやろと皆が思い始めたせいでblogがどんどん衰退していき、俺史観では21世紀、人々は安寧を求め、テキストサイトblogtwitterという流れに呑み込まれていったということになっているのですが、昔の偉い人が「ブタはゴロゴロした生活だが、シャケは流れに逆らって川をのぼるッ!」と言っていたので、とりあえずblogを更新することになりました。

 で、北方水滸伝を読んだわけです。

 水滸伝を知らない人にざっとあらすじを説明すると、中国の昔、役人の腐敗が進み民人が困窮した宋の時代に、一部の荒くれ者や道士や盗賊が湖の中の小島に集まって、梁山泊を名乗り、「俺らでちょっくらレボしようぜ」という流れでレジスタンス活動を開始したはいいものの、政府談合を持ちかけられて、あっさり政府側についてその後外敵と戦ったり、やっぱりまた政府と戦ったりする話で、アニメ版ジャイアントロボにも登場した、戴宗や楊志呉用や不死身の村雨健二といったキャラクターも大活躍します。

 もうここまで書いて色々面倒くさくなったので、感想とかは省略しますが、読み終えて、男としてのレベルが上がったな。という達成感があります。だって、作中である人物がある若者に向かって、「お前は山の中で修行して何もかもをわかったようになっているがそれではダメだ、街に下りて女を買ってこい」というシーンがあるんですよ。凄いや、北方先生、これが北方イズムだ、男の世界だ! 恋ダンス練習なんかしてる場合じゃなかった!

 で、まあ『水滸伝』を読んでいる間は、俺は水滸伝を読み切らなければならないという強迫観念に取りつかれた結果、水滸伝を読み、その合間合間にソシャゲのスタミナが溢れないように消費して、また水滸伝を読む以外の行動が取れず、そんなことをしている間に今年ももう1月が終わりましたが、とりあえず俺は水滸伝を呼んだ。そして続編に『楊令伝』全15巻と、『岳飛伝』全19巻が控えてるわけですが、多分この34冊を読むと今年何もできなくなるので、北方水滸伝は最高に面白かった。だが、秋が来るまでこのシリーズの続きを読むことはない。と思いました。おわり。

2016-07-11

[]一票を投じることの意味について考えてみた。

 no titleという記事が話題になっており、ブコメでは例によって、「ゴミみたいなブログ書いてる暇あるなら選挙行けばいいのにな」「おまえは選挙に行かなくていいから、とりあえず能書きをたれるのをやめろ」「ウジウジ小学生みたいな言い訳書いてて、男ならもっとしっかりしろよ」と散々な物言いであり、「はてなってクソだわ。やっぱりさるさる日記がナンバーワン!」という気持ちになってしまうし、そもそも「イケダハヤトを天才とか言っている人はちょっと……ま、話題になって良かったね」で済ませていい話かもしれないのだが、blogの内容自体は彼に限らず選挙に行かない若者について幅広く当てはまる内容かもしれないので、一応成人してからはそれなりに選挙に行っている僕の思うところを書いていきたい。

政治に関して無関心な訳ではない

僕は全く政治に興味が無いわけではない。

今回の参議院議員選挙も、憲法改正において重要な選挙だったという事も、何となく理解したつもりではあった。

ただ、重要な選挙だとしても、僕の一票で何かが変わるとは到底思えなかったのである。

 たとえば、自由民権運動だったり、アメリカでの黒人投票権法成立の過程を引き合いに出して、選挙権の大事さを説いてみても彼の考え方に大して影響を与えることはないだろう。

 今の若者にすれば選挙権など、蛇口を捻れば水が出てきたり、当たり前に空気が吸えたりするようなもので、そのありがたみを実感するのはなかなか難しいのではないだろうか。

 僕だって子供の頃は、お爺ちゃんに戦時中はいつも食料が不足していた。毎日三食食べられる今の世の中がどれだけありがたいかという話を聞かされても、その日の食卓にホウレンソウのお浸しがあがれば、「これ食いたくねえな……」とナチュラルに思ったものだ。

 そのような中で一票の価値というものをどのように説明するべきか。

 ここで古くから知られている有名なパラドックス、ハゲ頭のパラドックスを紹介しよう。

「髪の毛が一本もない人はハゲである」(前提1)

「ハゲの人に髪の毛を一本足してもハゲである」(前提2)

ここで前提1に前提2を繰り返し適用していく(つまりツルッパゲの人に髪の毛を一本ずつ足していく)。そして次の結論を得る。

「よって全ての人はハゲである」(結論)

 違う、そんなことはない。世の中にハゲじゃない人はいっぱいいる。少なくとも俺はハゲではない。床屋さんとかで後ろ髪切り終わった後に、「こんな感じでいいですかあ」って後頭部を鏡に映されるたびに不安と恐怖で少し吐きそうになるけど、俺はハゲじゃない。あと最近のエレベーターで、防犯カメラで上部からエレベーター内部を映した映像をリアルタイムで見れるやつあるじゃないですか、あれ見る時もすげー怖くて心臓がバクバクする。

 いや、その話はよくてパラドックスの話である。

 ハゲに髪の毛一本加えたとしても、ハゲはハゲでしかなくとても無力という話だが、そういう無力な一本一本が集まることで我々はハゲじゃないと胸を張って言えるのである。

 このように一見無力な一本一本が頭髪の持ち主に大きな影響を与える……そう、そしてそれは君が持つ一票も同じさ!という話なのだけど、こういう上手いこと言おうとして、全く言えてないたとえ話が出た時点で、大半の人はウィンドウを閉じるという統計の結果が出ているので、そうなる前に次の話題に移りたい。違うんだ。僕は髪の毛とかじゃなくてもっと生産的な話がしたいんだ。

中途半端な興味だと理解しきれない部分が多い

正直な話、政治にちょっと興味がある程度だと、政治に関して理解出来ない部分が多すぎる。

情報収集と言えば、テレビとインターネットが主になるとは思うが、どこを見ても「何が正解」なのかが全く分からない。

これは僕の情報収集における、リテラシーが足りなすぎるのかもしれないが、本当にそうなのだ。

今年から18歳以上の若者にも選挙権が与えられ、高校の授業で色々な議論がなされているようだが、正直あれは羨ましいと思った。

僕は政治に興味がありながらも、選挙に参加をしないのは、政治を完全に理解出来ていないからこそなのかもしれない。

 これに関しては、昔の偉い人の言葉を紹介したい。

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 選挙権を与えられた以上、投票する権利は18歳以上の国民全員に文句なしに与えられており、別に政治を完全に理解していなかろうが、誰に恥じるなく投票していいのだ。

 むしろ自分が完璧に理解する日が来ると信じて投票に行かない方が不味い。

 かく言う僕も大して政治に興味があるとは言えない人間である。それでも目に入る情報――テレビ見たり、新聞読んだり、ネットでポチポチしたりして――を集め、自分が投票することで最終的に一番自分に利益を還元してくれるだろう人を選んで投票している。だが、その熱心さは「今晩は何で致すか……」とDMMでサンプルを観てる時の十分の一にも及ばない。

 そんな適当でいいのかと言われるかもしれないが、それが民主主義というものである。

 まあ、遠くない将来に起こるであろう、自民党憲法改正に対して真剣に頭を悩ませる憲法学者にも、「このガチャには必勝法がある……!」とか言って毎日特定の条件でソシャゲーのガチャを回し続ける狂人にも、同じ一票が与えられており、それこそが民主主義の最大の美点であり、欠点であるのだが、まあそもそも政治に正解なんてない。

 人生に正解はなく、政治にも正解はない(ドヤ顔

 インターネットにはたまに「自民党に入れるとはお前はきちがいか!?」「お前らが民主党に入れたせいで世の中は悪くなった」などとのたまう人もいるが、そういう人を観かけたら、「この人は民主主義というものをわかっていないのだな」と思ってスルーしておこう。

選挙に行かない人は文句を言う権利がない

選挙に行かないんだったら文句を言う権利なんてない!」

これって良く言われる事だけど、僕はこの主張がそもそも理解出来ないし、別になんの文句も言う気もない。

自分が選挙に行ったとしても結果が変わらないのだから、どんな結果が出ようと受け入れるしかないのだ。

それよりも、選挙に行った人が結果を見て、「こんなの民主主義じゃない!」という文句を言っている人はみっともないとすら思えるが。

選挙の結果こそが民意で、民主主義なんじゃないのか。

 別に投票に行かずに政治に文句を言う権利はあるけど、自身が最小の労力で行える政治活動であるところの投票すら放棄しときながら、文句言うのは権利うんぬんというよりも人としてダサいと思いますね。

 ま、これに関しては各人の美学の問題かもしれませんが。

 また、結果がアレだとしても必ずしも受け入れずにブーたれる権利は十二分に保障されており、だからこそ多くの衆議院は4年持たずに解散するのです。

 あと、後半についてはわりと同意です。

政治を完璧に理解していないと叩かれる

これは特にネット上で見られる事なのだが、政治を完璧に理解出来ていないものが何かを質問すると叩かれる風潮がある。

以前、某タレントが「国の借金は増えていっているのに、何故公務員の給料はあがるのか?」とTwitterで呟いていた事があった。

それに対して、周りから総叩きにあっていたのである。

でも、そのタレント以上に政治を理解出来ていない若者(大人)は大量にいると思っているし、その程度の質問をすると総叩きにあう時代と考えると、若者が政治に参加したくなくなるのも分からないだろうか。

完璧に理解していない人がほとんどで、だからこそ質問をするのに、「そんな事も分からないの?」と返されたらもうそこで終わりじゃないか。

もちろん、フォロワーも大量で影響力のある人物が、誤解を与えるような事を呟いた事に対して、総叩きにあっていたのかもしれないが、周りが丁寧に解説していれば、きちんとした理解を改めて呟くのかもしれないのに。

 そういう危険性がないとは言いませんが、政治を完璧には理解するというのは基本不可能です。

 もし誰もが政治を完璧に理解していたら、選挙のたびに池上彰がもてはやされることはありません。まあそういうことです。

 またこの件に関しては、批判的なリプライが大量に届く一方で、ちゃんと国の借金の仕組みを丁寧に説明するようなリプライもあったので、世の中には優しい人もいるということです。

 そして貴方の質問に「そんな事も分からないの?」と返す大人がいたら、「貴方のような人間に聴いた僕が馬鹿でした」と言って引き下がりましょう。そのような人間とは距離を遠ざけるのが賢明です。

 とはいえ、それでもそういう対応は傷つくというのであれば、自分で調べるのが一番という気もしますが、せっかくのインターネットだし、やっぱ増田ですよ、増田! はてな匿名ダイアリー

 あいつら、馬鹿だから! ダボハゼってあいつらのために作られた言葉だから!!

 こっちが軽い気持ちで適当なこと書くと、顔真っ赤にして反論と称してトラバブクマで大量に説明してくれっから!

 匿名だからこっちのプライドが傷つくこともないし、増田マジおすすめ!!

投票したい人も別にいない

これを言ったら本当に失礼な話かもしれないが、選挙に行った人は、支持している人が当選してどんな事をしてくれるかを完璧に理解しているのだろうか?

今回元タレントが当選したみたいだが、演説を聞いてる限り、夢だ希望だ諦めないだ言ってるが、どんな政策を掲げていて、当選したらこんな事をしてくれそうだなとは思えなかった。

比例選なので、ちょっと違うかもしれないけど。

演説で土下座をしている候補者なんかもいたが、あんなの見ても引いてしまうだけだった。

そもそも、演説では「高齢者の生きやすい社会に!」とか「若者が夢を持てる日本に!」なんて言うけど、その人が当選後本気で動いて日本を変えよう!という気があるとも思えない。

特に、こういう考えが出てきたのは辞めていった都知事の影響もあるかもしれない。

 ぶっちゃけ白紙でもいいです(断言)

 誰に入れるのが正解かとは正直誰にも言えないし、長年選挙に行ってれば、「やっぱあの人に入れるんじゃなかったか……」と思うことも一回や二回ぐらいはあるでしょう。

 世の中ってそういうもんです。

 それはそれとして、世代投票率というのはそれなりに重要でして、もし明日から50代以上の投票率が0%になり、10代20代の投票率が100%になれば、政治家政党はガンガン若者向けの政策を発表するでしょう。

 これはあくまで極論でこんな都合よくことが進むはずないのですが、だとしても、ほんのわずか、たとえ大河の一滴にすぎないとしても、貴方が投票所に赴いて投票活動を行ったということが貴方の世代にとって大事なのです。

 白紙投票は消極的与党を利することに繋がるのでよろしくない。という反論もあるかもしれませんが、まあ結局投票しないのであれば結果的に与党を利することには変わりません。だったら投票所に行って、貴方の世代政治家に目を向けてもらった方がよろしいでしょう。

 真面目に考えて自分で選んで投票することが本当は1番なんですけどね。

人間は結局自分が第一なのではないか

僕は東京都に住んでいるが、今都知事が二人連続で、「お金絡み」の事が原因で辞めていった。

確かに、ちょっと失望してはいるが、人間なのだからしょうがない事なのかもしれないと思っている。

結局、人間はみんな自分が第一なのではないかと思う。

選挙時、候補者の時点ではみんな「国の為に!」なんて綺麗事言うけど、結局当選後はお金にまみれて国の為に動いているのか?と疑問なのである。

もちろん、国会議員のお仕事は大変なのかもしれないが、どんどん税金が上がっていく中で、そういったスキャンダルが明るみに出ると、もう諦めるしかないよなと思ってしまう。

 しゃーない。

 人間とはそういうものです。理想やロマンだけではご飯は食べてはいけないのです。

 国というのは結局は一人一人の人間の集合体です。

 なので、貴方も国にとって良い投票などと考えず、自分にとって一番良い政策を実施してくれそうな政治家政党を選びましょう。

 

選挙に行かなくても最悪の事態が起こるとは思えない

ここ最近特に選挙が盛り上がっているように見えるのは、やはり憲法改正についてなのであると思っている。

憲法が改正されると戦争が始まってしまう!」と主張している人もいるが、さすがにそれはないだろうと思ってしまう。

極論で主張して、それを阻止する為に投票しろと言うのはやっぱりおかしい気がするし、どう考えても自発的に戦争を本気で起こす気でいるんだったら、国民全体が反対するだろう。

無責任な話かもしれないが、僕が選挙に行かない理由のひとつとして、「最悪の事態が起きるなら全力で僕以外の国民が止めるのだろう」という点があるのだと思う。

ボロクソに叩かれるかもしれないが、選挙に行かない若者の多くはそうなんじゃないだろうか。

 確かに、最悪の事態はそう簡単に起こりません。朝、枕に髪の毛が数本ついていたところで、フサフサの僕はやっぱりフサフサです!

 しかし、そうした積み重ねが毎日毎月毎年続くことによって……。

 そういうわけなので、最悪の事態が起きるかどうかはわかりませんが、当たり前な話、君以外の人間が君と同じことを考えちゃうと誰も止めなくなってしまいます。

 また、世の中の物事において「俺以外の誰かがやってくれるだろう」というのは、だいたい一番楽な解決手段で僕もよく採用しているのですが、唯一のリスクとして「俺以外も誰もやってくれなかった」場合、高確率で最悪の事態を引き起こします。起きた。

 まあ、何もたった一人でダムをせき止めろと無茶振りしているわけではなく、ちょっと近所の投票所まで足を延ばすぐらいなので(もちろんそれこそが死ぬほど面倒くさいということは否定しませんが)、だったら投票して最悪が訪れる可能性を少しでも減らした方が良いでしょうという話です。

ネット上では、匿名だからなのか分からないが、とりあえず叩けば良いという風潮があるが、選挙に行かない若者をただ叩いたって何も起きない。

 というわけで、今回は僕なりに柔らかい言葉で説明してみたつもりですが、いかがでしたでしょうか?

 これ読んで、「いや、ハゲ頭のパラドックスとか言われても……」と返されたら、「そうだな俺が悪かったな」としか言いようがないのですが、もし、これを読んだ若者が「じゃあとりあえず次の選挙にでも行ってみるか」と考えてくれるようでしたら、僕もFGOの新イベントを放置してこんな文章を書いた甲斐があるというものです。僕はね、ガチャで源頼光を絶対に手に入れるんだ……世間の連中は馬鹿にしてるけどFGOのガチャにはね、必勝法があるんだよ……本当だよ……。

 それでは皆様また来週。