私が今までに読んだ本の紹介(鮎川哲也編:追記・訂正あり)

鮎川哲也
 昭和を代表するミステリー作家の一人(既に故人)。松本清張(もちろんこちらも故人)に代表される社会派ミステリーではない、いわゆる本格ミステリーの方です。ミステリーの老舗・東京創元社は氏の名前をつけた「鮎川哲也賞」を毎年主催しています。
(私は清張も好きですけどね。清張作品としては、「憎悪の依頼」(新潮文庫)、「偏狂者の系譜」、「1952年日航機『撃墜』事件」(角川文庫)*1を持っている)。
 私が持っている鮎川氏の著書は以下の通りです。
 「朱の絶筆」「悪魔はここに」「消えた奇術師」*2光文社文庫・星影龍三シリーズ)、「白昼の悪魔」「早春に死す」「わるい風」(光文社文庫・鬼貫警部事件簿)、「無人踏切」(編著、光文社文庫*3
 また、鮎川氏が生前高く評価していたという、山沢晴雄氏の著書「離れた家」(2007年、日本評論社)も「あの鮎川氏が高く評価しているんじゃ!」ということで持っています。山沢氏は鮎川氏と同時代に活躍した昭和のミステリー作家(当然、鮎川氏と同年代)だが、鮎川氏と違い、アマチュア作家(本職は、大阪市職員)で活動の舞台が主として同人誌だったため、マニア以外には長く忘れられた存在となっていたと言う。この「離れた家」が初の単著。*4*5*6

【追記:11/1】
鮎川氏の作品とは言い難いが、鮎川氏の作品が収録された本を持っていることに気づいたので追記。
江戸川乱歩の推理教室」「江戸川乱歩の推理試験」(以上、光文社文庫)である。
この2つの本は、乱歩が出題に関わった、ミステリ作家たち(鮎川氏の他には、私でも知ってる有名どころでは例えば、佐野洋氏、土屋隆夫氏、仁木悦子氏など)による短編犯人当てクイズを本にまとめた物である。
鮎川氏の作品としては、「推理教室」には、「不完全犯罪」が、「推理試験」には「魚眠荘殺人事件」が収録されている。
率直に言って乱歩存命の時の作品なので少し古い。また、この頃は、本格ミステリが今ほど人気がなかったと言うことから読者に配慮しているのかもしれないが、現在の本格ミステリマニアにとってはかなり、やさしめである(短編なのであまり複雑に出来ないという理由もあるだろうが)。とは言え、民放の安直な作りの二時間ミステリドラマに比べたら当然かなり頭は使うので、私のような浅いミステリ好きなら充分楽しいと思う。

*1:「1952年日航機『撃墜』事件」は「もく星号遭難事件」を取り上げた「日本の黒い霧」(文春文庫)的な長編小説。(陰謀論チックなのでどこまで信じていいのか、わからんのが難点だ)
 なお、現実の事件をヒントにした小説が多いのが私にとっての清張の魅力の一つ(短編集「偏狂者の系譜」にも大本教弾圧をヒントにした「粗い網版」が収録されている)

*2:「消えた奇術師」は名探偵・星影龍三シリーズから「密室もの」(密室殺人)を取り上げて収録したもの。一方、鬼貫物はほとんどがアリバイ崩しである。

*3:無人踏切」は鉄道が出てくる短編ミステリー(なお、必ずしも鉄道をメインにしたアリバイトリック物ではない)を鮎川氏がまとめたもの。鮎川氏の作品としては表題にもなっている「無人踏切」が収録されている。

*4:こういうのは日本評論社(人文/社会/自然科学がメイン)じゃなくて、ミステリーの老舗(東京創元社とか早川書房とか)が出せばいいと思うんですけどね。なお、日本評論社からはミステリ作家・天城一の「天城一の密室犯罪学教程」、「島崎警部のアリバイ事件簿」、「宿命は待つことができる」、「風の時/狼の時」も出ている。なお、天城も山沢氏同様アマチュア作家(本業は大阪教育大学教授(数学))でマニア以外には長く忘れられた存在であった。

*5:日本評論社みたいな「何でこの出版社がミステリを?」と思う出版社には、他に国書刊行会(世界探偵小説全集)、論創社(論創ミステリ叢書)がある。

*6:「離れた家」について簡単に感想を。
 収録作品で「すごい」と思ったのは、やはり表題となった「離れた家」だろう(他もすごいが)。アリバイトリック物なのだが、「アマチュアが何故ここまでトリックをひねるか?」「現実にここまで複雑なトリックをやる人間がいるとは思えない」というぐらい、ひねりまくったトリックで、プロの鮎川氏ですら「一読ではわからなかった」と言ったらしい(もちろん私もよく分からない)。
 ドラマ化しても、マニアな視聴者が多い深夜ならともかくゴールデンでは視聴率が取れそうにない(と言うか最近のゴールデンのミステリードラマの多くは逆にひねりがなさ過ぎである)。
 また、落ちの意味がよく分からなかったのが、「世にも奇妙な物語」的な収録作品「時計」。
 本格ミステリ作家がこういうSFチックな作品を書くなんて意外(ドラえもんの作者だと思っていた、藤子・F・不二雄のSF短編を読んだときのような意外さ)だが、落ちがどうしても理解できない。
(この「もやもや感」は藤子・F・不二雄SF短編「四畳半SL旅行」(未だにあの漫画の落ちの意味が分からん)を読んだ時の感覚に似ていると思った。)

私が今までに読んだ本の紹介(鯨統一郎編)(追記あり)

鯨統一郎
 ユーモアミステリ作家。私はお笑いが好きなので、こう言うのは大好きです(ただお笑いの好き嫌いはかなり分かれると思うので嫌いな人もいるかもしれません)。
 私が持っている鯨氏の著書は以下の通りです。
 「邪馬台国はどこですか?」、「新・世界の七不思議」(以上、創元推理文庫)、「『神田川』見立て殺人」、「マグレと紅白歌合戦」(以上、小学館文庫)、「みなとみらいで捕まえて」(光文社文庫)、「KAIKETU!赤頭巾侍」(徳間文庫)
 「邪馬台国はどこですか?」は鯨氏のデビュー作で短編集。「邪馬台国」の所在地(もちろん一般には近畿説と九州説が有力)や、「本能寺の変」の真相等について、トンデモさんによるバカバカしい「珍説・奇説」が「今まで誰も知らなかった歴史の真実」として大まじめに展開されます(ただその中には「明治維新の黒幕は勝海舟」とか「イエスの復活はマジック」とかいうオチ自体はあまりひねってないものもあるが)。
 当然、鯨氏のおふざけな訳ですが、人によっては「ふざけるな!」となるかもしれません(他の作品も含め、鯨氏のようなお笑いミステリーはまじめな人にはつらいかもしれない。ただ鯨氏作品は私の知る限りブラックなネタはない(登場人物はトンデモさんだが愛嬌があって憎めない)ので、その点は救い)。
 「新・世界の七不思議」は「邪馬台国はどこですか?」の続編。「世界の七不思議(ピラミッド、ナスカの地上絵等)」について前回同様の「珍説・奇説」が展開されます。
 「『神田川』見立て殺人」、「マグレと紅白歌合戦」は歌謡曲見立て殺人(「神田川」以外にも、「別れても好きな人」「勝手にしやがれ」などいろいろある)を警視庁きっての名警部(ただし自称)マグレ(間暮)*1が解決していくというもの。*2*3
 「どこの世界に歌謡曲で見立て殺人する奴がいるんだよ」*4、「歌謡曲じゃなくても見立て殺人なんて不自然だよ」*5とマグレに突っ込まずにはいられない。
 「みなとみらいで捕まえて」*6は横浜で起こる難事件を解決していくもの。
 「KAIKETU!赤頭巾侍」*7は江戸時代を舞台にしたミステリー。
 例によって例のごとく、鯨氏流のギャグが連発される。

【2014年10/20追記】
よくできた鯨ミステリー書評を見つけたので紹介。

http://writing.flip365.net/author/02author_ka/t_kujira/magure_kandagawa.html
■「神田川」見立て殺人 間暮警部の事件簿 (鯨統一郎)
 鯨先生ってどんな作風なの? という問いには「この作品を読め」と答えます。
 正直言って、これが鯨作品の中で、特に出来の良い作品だとは思いませんが、鯨先生らしさという意味ではピカイチだと思います。
主人公の間暮警部は大川探偵事務所の面々と事件関係者がいるところに颯爽と現れて、ものすごい美声で昭和の名曲を歌い始めます。
 そして歌い終わると、宣言します。
 「この事件は見立て殺人です」
 そして「この部屋の中に犯人がいます」と。
探偵事務所の面々以外の事件関係者が一人しかいなくても言っちゃいます。
 見立て殺人だとする根拠は、もはやとんちクイズのようなこじつけっぷり*8です。
 犯人を指摘はしても、その理由はなかなか言いません。
 実際にミステリ的な解決を導き出すのは、大川探偵事務所の(注:所員)小林君とひかるです。
 彼らがマグレの指摘によって再び事件を洗い直して真相にたどり着くのです。
 それでも当然のごとく、犯人は間暮警部の指し示した人物です。
 とにかく間暮警部の推理は無茶苦茶なのに、なぜか結果だけはずばり的中しているのです。
 言ってみれば、事件解決という意味では、間暮警部の存在はあまり意味がないと言えます。(事件を洗い直すきっかけにはなっていますが、それだけのためにこんなエグイ設定は要らないわけでw)
 それでも、その「要らない部分」にこそ、鯨ワールドのエッセンスが詰まっているのです。
 鯨先生の作風には「こじつけ」の面白さというものがあると思います。
 普通のミステリファンが鯨先生の作品を読むと、はじめはあまりのこじつけ度合いに陳腐さを感じてしまうかもしれません。
 しかしはまってしまうと、逆に普通のミステリ的、論理的解決だけでは満足できなくなること請け合いです。
 抜け出すことは困難です。
 馬鹿馬鹿しいと思いつつ(失礼!)ついつい手に取ってしまうのです。
 それにしても、緊迫したシーンでいきなり登場して、歌い始める間暮警部といい、いつもそのそばに控えて、音楽を流したり、マグレと共にこれまたすごい美声で歌ってみたりと大活躍の(注:間暮の部下)谷田貝美琴(刑事ですw)といい、シュールでよいです。
 ワタシ的には、マグレに頼まれてひかるが、歌い始めるとばっちり振り付けまでキメて谷田貝さんと「UFO」をデュエットするシーンが好きですが。
ただ、この作品(シリーズ)のウィークポイントは、出てくる歌を知らないともう一つ楽しめないことですかねぇ。

 まあ、「歌を知らないと今ひとつ乗れない」てのは、そうなんですけど、逆に「四つのお願い」を聞いて小生なんか、ちあきなおみのファンになりましたけどね。いやファンていうほど、それほど熱心じゃないけどちあきなおみはいいと思いますよ、ええ。

*1:マグレは「思いつきがマグレあたりしたんじゃないの?」という意味のネーミングだろう。マグレの推理は、はっきり言って無茶苦茶である。また、日本で人気のあるメグレ警視(アニメ「名探偵コナン」の目暮警部の元ネタ)にもかけているのだろう。

*2:「『神田川』見立て殺人」では殺人犯人は一般人、動機も怨恨や財産目当てという普通の動機だが、「マグレと紅白歌合戦」では殺人犯人は秘密結社「ブラックローレライ」(東映の特撮物かよ!)というとてつもなく斜め上の方向を行っている。

*3:ちなみに「『神田川』見立て殺人」はマグレシリーズ第1作、「マグレと紅白歌合戦」はマグレシリーズ第3作(マグレがFBIに協力するため、アメリカに旅立つという落ちなので多分最終作)。第2作「マグレと都市伝説」は買いそびれてしまった。ちなみに「マグレと都市伝説」には、うろ覚えだが、安倍首相の施政方針演説に「アインシュタイン」が出て来たことを「右翼ってアインシュタインが好きだね」とからかうギャグがあったと記憶している(ギャグの意味が何のことか分からない人は分からない方がたぶん幸せだと思う)

*4:なお、本当に見立て殺人なのか、マグレの勘違いなのかはうまくぼやかされている。

*5:横溝正史の「獄門島」(芭蕉の俳句)、「犬神家の一族」(ヨキ(斧)・コト(琴)・キク(菊))、「悪魔の手毬唄」(村に古くから伝わる手毬唄)等(「病院坂の首縊りの家」の「生首風鈴」も見立てかな?)。一応好きですけど。映画やドラマを見るたびに「見立て殺人」する必然がどこにあるんだ、作者・横溝の趣味だろ、といつも突っ込まずにはいられない。

*6:「みなとみらいで捕まえて」の題名の元ネタは「ライ麦畑で捕まえて」だろう(ミステリーの内容と、サリンジャーは全然関係ないが)

*7:「KAIKETU!赤頭巾侍」の題名の元ネタは「怪傑黒頭巾」。「KAIKETU」となっているのは「怪傑」と(事件の)「解決」と両方をかけているのだろう。ちなみに赤旗日曜版には「黒頭巾旋風録」(佐々木譲)という作品が連載されたことがある(←全然、鯨氏に関係ない)

*8:何せUFO見立て殺人のときは「Under・Foot・Orange(被害者の足下にオレンジが)」ですからね。