たむ読書&映画&音楽日記

2018-01-21 『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』中村融編(創元SF文庫)

[][]『黒い破壊者 宇宙生命SF傑作選』中村融編(創元SF文庫)★★★★☆

「狩人よ、故郷に帰れ」リチャード・マッケナ/中村融訳(Hunter, Come Home,Richard Mackenna,1963)★★★★☆
 ――この惑星じゃ木は死にやしない。だから薪で火を熾すことができない。恐獣グレート・ラッセルを殺した者だけが、成人男子と見なされた。だが人口が爆発し、恐獣が足りなくなった。駆除用植物ザナシスを使って、このフィトの星を一掃し、恐獣を放し飼いにするはずだった。だが葉状生物《フィト》たちは死ななかった。

 一つの星の生物相を一変させてしまおうという傲慢、掛け違えた武士道みたいなおかしな美意識が横溢する先祖返りした男権社会。こんなでは、テロのようなものがあろうとなかろうと、結果は同じだったと思いますが、それはさておき。動植物とでもいうのかウイルスのようとでもいうのか、「主役」はフィトなる生命体で、人間の手に負えるようなものではありませんでした。かなり面白い作品なのですが、最後は何でもかんでも「愛」になってしまうところに微苦笑でした。
 

「おじいちゃん」ジェイムズ・H・シュミッツ/中村融訳(Granpa,James H. Schmitz,1955)★★★★☆
 ――筏とはある種の植物動物だ。つばの広い円錐形帽子が浮かんでいるようで、色は緑で、革でできているような感じ。あるいは灰緑色のパイナップル上半分を生やしている睡蓮の葉だろうか。沼地を移動するさい、輸送手段として使えた。評議員を案内するためばかでかい筏〈おじいちゃん〉のところまで行くと、見慣れない芽が出ていた――。

 改めて考えてみれば、植物にしろ動物にしろ、繁殖期があって当然なのですが、そんな宇宙の生命体のことよりも、囚われていずれ死が訪れるのを待つしかない状況の人間を前に麻酔銃を持ったまま何もできずに時間だけが過ぎてゆく状況に息が詰まりました。
 

「キリエ」ポール・アンダースン/浅倉久志訳(Kyrie,Poul Anderson,1968)★★★☆☆
 ――大鴉号は、超新星の最近辺へ向かって、最後のジャンプの準備をととのえた。ミュータントであるエロイーズだけが生きている渦であるルシファーと心を通じることができた。「われわれが研究しようとしているこの質量は、あまりにも濃密なので、どんな力も重力を超えられない。理論的には体積ゼロになるまで収縮して消失してしまう。しかも重力のせいで時間の進行が遅くなるんだ」

 ブラックホールという言葉以前にブラックホール現象を扱った作品で、内容のスケールと比べて作品は短いのですが、理論とドラマを詰め込んだ先には、あまりにも残酷な結末が待ち受けていました。
 

「妖精の棲む樹」ロバート・F・ヤング/深町眞理子訳(To Fell a Tree,Robert F. Young,1959)

 あまり好きではない作家なのでパス。
 

「海への贈り物」ジャック・ヴァンス/浅倉久志訳(The Gift of Gab,Jack Vance,1955)★★★☆☆
 ――姿を消したレイトをさがしていたフレッチャーは、甲板の上に白いロープがあることに気づいた。次の瞬間ロープが足首に巻きつき、舷側へと引きずられていた。正体を調べてみようと照会してみると、デカブラックに関する記述が削除されていた。養殖鉱業の前任者クリスタルに問い合わせたが、はぐらかされてしまった。フレッチャーはみずから海に潜り確かめてみることに……。

 作品自体は非常に面白いものの、クリスタルとフレッチャーの態度には、デカブラックを知能のない動物として扱うか知能のある未開人として扱うかの違いしかないように感じられて、あまり乗り切れませんでした。信号をわざわざ表にするヴァンスがお茶目です。
 

「黒い破壊者」A・E・ヴァン・ヴォークト/中村融訳(Black Destroyer,A. E. Van Vogt,1939)★★★★★
 ――ケアルは巨大な前脚をぴたりと止めた。遠方から光が現れ出て降下してくる。巻きひげ状の耳が、膨大な量の特殊原形質《イド》の存在を伝えて小刻みに震えた。ケアルは見慣れない二本脚の生き物に目を凝らした。グループのなかでいちばん小柄な者が、ピカピカ光る金属棒をかまえた。

 掉尾を飾るのは『宇宙船ビーグル号』の一部の初出ヴァージョン。猫のような外見にほぼ無敵とも言えるケアル自身の魅力もさることながら、何といってもエイリアンVS人類の構図にわくわくしました。

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2018-01-14 『あいにくの雨で』麻耶雄嵩(集英社文庫)

[]『あいにくの雨で』麻耶雄嵩(集英社文庫)★★★★☆

 かなり以前に講談社文庫版で読んだときには、『翼ある闇』や『夏と冬の奏鳴曲』の派手さに隠れてまったく記憶に残っていませんでしたが、再刊を機に読み返してみたところ、充分ヘンテコでぶっとんでいました。

 高校三年生の如月烏兎《きさらぎ・うと》、熊野獅子丸《ゆや・ししまる》、香取祐今《かとり・うこん》は、廃墟となっているコンクリート製の“塔”でホームレスの死体を発見した。雪上には行きの足跡一本しかなく、当初は事故だと思われたが、殺人の疑いが浮上してきた。はからずも現場は、祐今の母親が殺された場所であった。警察は、偶然にも事件の日に「駈落ち」していた祐今の祖父を疑ったが、祖父の行方は以前として知れぬまま……。一方、烏兎と獅子丸は現生徒会長・有川から頼まれ、「調査室」の仕事に復帰することになった。クラブ活動の予算案が漏洩しているのだという。文系の有川派と対立する体育会系の清原に通じているスパイがいるらしい。二次調整のある今週末までにスパイを発見してほしい……。今は教師となっている矢的武志《やまと・たけし》に止められながらも、烏兎たちは調査活動と並行して密室殺人の謎をさぐるのだった……。

 冒頭でいきなり密室トリックが明らかにされます。文章では位置関係がわかりづらいものの、その直後に「第一」の殺人が描かれているので、注意深く読んでいれば著者の仕掛けに気づくことのできる(かもしれない)親切設計と言えます。

 烏兎は生徒会調査室の活動を「陣取りゲーム」だと考えていました。そうではなかったと悟って打ちのめされる烏兎でしたが、現実はさらに残酷なものでした。犯人にとっては烏兎が「ゲームではなかった」と考えたことすらゲームであり、密室殺人も謎解きもすべてゲームだったからです。生徒会調査室のパートには、その「黒幕」に読者の目を向けさせることで、殺人の黒幕にもミスリードさせる役割があると同時に、どちらも「ゲーム」で繋がっているという共通点もあったことに、真相を知った読者は気づくことになっています。

 この「ゲーム」という感覚はいかにも麻耶雄嵩という感じがしますし、「人は誰も自分が小説の主人公となりたがるが、実際は途中で退場する(させられる)脇役でもありうるのだ」という文章ともども、いかにも麻耶雄嵩という作品でした。

 『あいにくの雨で』というタイトルとは裏腹に、当日の天気が雪でなければ密室は構成されなかったことを考えれば、皮肉なものです。

 町に初雪が降った日、廃墟の塔で男が殺害された。雪の上に残された足跡は、塔に向かう一筋だけ。殺されたのは、発見者の高校生・祐今の父親だった。8年前に同じ塔で、離婚した妻を殺した疑いを持たれ、失踪していた。母も父も失った祐今を案じ、親友の烏兎と獅子丸は犯人を探し始める。そんな彼らをあざ笑うように、町では次の悲劇が起こり――。衝撃の真相が待ち受ける、青春本格ミステリ。(カバーあらすじより)

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2018-01-10 『寝ても覚めても夢』ミュリエル・スパーク/木村政則訳(河出書房新

[]『寝ても覚めても夢』ミュリエル・スパーク/木村政則訳(河出書房新社)★★★★☆

 『Reality and Dreams』Muriel Spark,1996年。

 短篇集『バン、バン! はい死んだ』に続く、ミュリエル・スパーク作品です。今回は長篇。

 撮影にこだわるあまりにクレーンから落下して大けが、妻は資産家の一族なのでわがままな仕事ぶりも思いのまま、女は芸の肥やしとばかりに浮気は当たり前、プレゼントを受け取るスター(≠女優)の演技にダメ出しを繰り返し、キャンプ場で見かけた平凡な娘からインスピレーションを得て一本作ってしまう……これだけなら職人肌の映画監督、と言えなくもありません。

 ところが初登場がこれ以上のインパクトなのです。看護師に片っ端から色目を使うのなどは序の口。怪我で意識が朦朧としているため、妻を殺してお金を手に入れキャンプ場の娘に贈る――という映画と現実をごたまぜにした妄想を弁護士に相談しそうになる始末です。

 それに輪を掛けてひどいのが周りの人間たち。親戚中で一気に五人も失業し、前妻との娘コーラの旦那はインドに失踪、現在の妻との娘マリゴールドは問題児、キャンプ場の娘役の女優ジャンヌは端役と知って精神不安定、コーラは失業中の義弟と浮気を始め……。

 これだけあって平常心の主人公が恐ろしい。落ち着きたくなると馴染みのタクシーに乗って運転手のデイヴとおしゃべりをする――という、映画の主人公みたいな行動にも笑ってしまいますが、そのデイヴがこれまた映画のように襲われても、マリゴールドが失踪しても、マイペースは変わりません。マリゴールドをさがしに来たはずが妻と仲良く食事をし、果てはまたもやインスピレーションを得て、その映画の主役抜擢をマリゴールド帰還のとっかかりに利用する……ある意味、骨の髄まで映画監督なのでしょうが……。

 意地の悪さが痛快な、イギリスのブラックユーモアの女王が贈る、奇妙な家族の物語。

 映画監督のトムは、撮影中の大事故で瀕死の重傷を負った。九死に一生を得て現場に復帰するも、ままならぬことばかり。タイトルは二転三転、製作陣からは横槍が。得意なはずの女優たちの扱いにも手こずる始末。そんななか、トムの次女が失踪した。まったくかわいげのない娘ではあるが心配だ。金目当ての誘拐か、有名人の父親に反抗しての蒸発か。行方がつかめぬまま、今度はトムの知人が銃撃され……現実が見えない男とドライな女たちの滑稽な駆け引き。(カバー袖あらすじより)

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2018-01-06 『ミステリーズ!』vol.86

[]『ミステリーズ!』vol.86

「紐育チーズケーキの謎」米澤穂信
 ――小佐内さんと小鳩くんは古城さんの通う中学校の文化祭に出かけ、ニューヨークチーズケーキを。キャンプファイアーに向かう小佐内さんに体格のいい男子学生がぶつかり転倒したのを見て、小鳩くんが駆けつけたものの小佐内さんの姿はなく、古城さんが言うには「先輩、拉致されたんです……」

 vol.80「巴里マカロンの謎」に続く、小市民シリーズ第二作。どうやら新シリーズは国名都市名シリーズのようです。今回の謎は90秒ほどの間に消えたCDの隠し場所です。小佐内さんが咄嗟に隠したものを小鳩くんが探し出すという趣向が取られています。頭のいい人のメッセージを頭のいい人が解いているため、ダイイングメッセージもののような不自然さがありません。
 

「未知との遭遇」丹野文月
 ――亡くなった兄弟子の七笑亭朱紋は自力で移動できないほど体力が衰えていた。病院から出かけたがる朱紋を手助けした者が弟子の中にいるのではないか。朱紋の弟子を引き取ることと手助けした犯人を見つけ出すことを、紋蝶は師匠の紋鏡から頼まれた。

 第14回ミステリーズ!新人賞優秀賞受賞作。落語人情ミステリというのはある種ひとつのジャンルになってしまっていると思うのですが、シリーズものではないからこそできる趣向という意味では、既成作家にはできない、新人賞ならではの作品ということもできます。
 

「プロメテウスの晩餐」オキシタケヒコ
 ――旅の途中クーデターのため動くに動けなくなってしまった青年の料理の腕を見込んで、現地に残り発掘調査を続けていたホセ老人は自分たちのキャンプに青年を案内した。ホセの講義に影響され、青年は人類の発祥に思いを馳せる。

 第3回創元SF短編賞優秀賞受賞作。これをSFとする懐の広さよ。「モノリス」を変化のきっかけと捉え、ホセ老人が青年に示してみせる解釈は、飽くまで現実的です。敢えて既存のジャンル分けにするなら考古学ミステリと呼ぶのがしっくりきます。しかしそこには確かに(古い言葉ですが)センス・オブ・ワンダーがあるのも事実です。
 

「鞄図書館」40冊目(3)芳崎せいむ
 本篇にはまったく書かれていませんが、目次には「最終回」とあり編集後記には「堂々のフィナーレ」とありました。しかしこれまで散々ゲーテの引用をしてきておいて、「ジョン」って……。
 

  

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2018-01-02 「キャンディケイン」藤田和日郎、「一日三食絶対食べたい」久野田シ

[][][]「キャンディケイン」藤田和日郎、「一日三食絶対食べたい」久野田ショウ、『ACCA PS』『ACCA 外伝 ポーラとミシェル』『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』オノ・ナツメ、『S-Fマガジン』2018年2月号

『モーニング』2018年2・3合併号(講談社)

 オノ・ナツメと藤田和日郎とやまだないとの読み切りが掲載されている、36周年記念号です。『ハコヅメ〜交番女子の逆襲〜』というコメディと、『テセウスの船』というサスペンスが面白そう。

「黒博物館 キャンディケイン」藤田和日郎
 ――閉館時間を過ぎて黒博物館に駆け込んできた女は、狼男に襲われたと学芸員に告げた……。

 黒博物館シリーズの新作読み切り。掌篇に近いような短さの短篇ですが、シリーズものだからこその意外性。これまで飽くまで進行役だった学芸員が主役。巻末には「See you in the 3rd series.」とあるので、『スプリンガルド』『ゴースト&レディ』に続く3作目も描かれる予定はあるようです。
 

『アフタヌーン』2018年2月号(講談社)

「一日三食絶対食べたい」久野田ショウ
 ――世界が氷に覆われ、生き残ったユキはリッカという少女と共同生活をしていた。病弱なリッカのためにも働いて栄養のあるものを購入したいユキだったが、求人は危険な「外の仕事」しかなかった。

 「三途の川でワルツを」で審査員特別賞を、「宇宙のライカ」で四季大賞を受賞した著者による新作読み切り。感情の起伏はあからさまには描かれていないのに、この作品であれば、えんどう豆と笑顔だけで充分です。こうした機微の描き分けが、いずれ長篇連載を始めたときにどうなるのか楽しみです。
 

『ACCA 13区監察課 P.S.』(2)、『ポーラとミシェル ACCA外伝』オノ・ナツメ(スクエア・エニックス)
 ACCAは登場人物がたくさんいるので、1巻から読み返す必要がありました。ジーンがオータスと苗字で呼ばれずにファースト・ネームで呼ばれている理由には唐突感がありましたが。スイツ区議員はあの特徴的な髪のハネがコマから切れていますがあの人なんですね。ウォーブラーが3期連続に決まったときの「本当だったんだ」というエグレットの一言は3巻・4巻を踏まえてのことだったり、エイダーとグルスは2巻で接点が描かれていたり、細かい発見がいろいろありました。外伝『ポーラとミシェル』は『P.S.』1巻で描かれたパイン長官とマホガニーというライバルの娘同士の物語です。内容はほぼ正篇とは関わりが少なく、こうした背景の物語ならまだまだたくさんありそう。ほかの登場人物がらみの外伝も読みたい。
 

『ハヴ・ア・グレイト・サンデー』(1)オノ・ナツメ(講談社モーニングKC)
 ニューヨーク帰りの作家と息子と娘婿の日常を描いた掌篇集。番外編には『COPPERS カッパーズ』のキースも登場します。
 

『S-Fマガジン』2018年2月号No.725【オールタイム・ベストSF映画総解説PART3】

「オールタイム・ベストSF映画総解説」も2004〜2017年までで完結。『猿の惑星/創世記』『ターミネーター:新起動/ジェニシス』などはネームバリューを借りただけの作品だと思っていたのですが、あらすじとコメントを読むかぎりでは面白そう。 
 

「『ガールズ&パンツァー』と戦車SF」
 昔はアニメやゲームをもSFに取り込むのを懐の広さだと好意的に捉えようとしていたのですが、今では何にでも首を突っ込むオタクの開き直りにしか感じられなくなってしまいました。

「サイバータンクvsメガジラス」ティモシー・J・ゴーン/酒井昭伸訳

「からっぽの贈り物」スティーヴ・ベンスン/中村融訳

「SFのある文学誌(56)未来派の機械賛美、ダダの表現革命」長山靖生

「書評など」
松崎有里『架空論文投稿計画』はタイトルだけで楽しい。タイトルといえば世界幻想小説大賞を受賞したソフィア・サマター『図書館島』も惹かれるタイトルです。

「マリッジ・サバイバー」澤村伊智

「アーサー・C・クラーク生誕100周年記念特集」

「タイムをお願いします、紳士諸君」アーサー・C・クラーク&スティーヴン・バクスター/中村融訳

「《白鹿亭綺譚》一九九〇――ジェット推進式タイムマシン」「隔離」アーサー・C・クラーク

「乱視読者の小説千一夜(57)もう一匹のケルベロス」若島正

「大森望の新SF観光局(59)〈奇想天外〉のころ(その1)」

「筒井康隆自作を語る(5)『虚人たち』『虚航船団』の時代(前篇)」
 

       

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