2012-02-07 『メフィスト』2011 VOL.3
■[メフィスト]『メフィスト』2011 VOL.3
麻耶雄嵩のメルカトルものが新連載。綾辻行人『奇面館』・法月綸太郎『キングを探せ』・有栖川有栖〈ソラ〉シリーズについての著者のことば掲載。
「メフィスト初登場ミステリ作家特集」と銘打って、主に創元組の短篇が掲載されています。どうした事情かすべて時代物でした。
「妖曲鉄輪」高井忍
――「お、鬼が出よった」。舎人の言葉を聞いて季武と公時が追いかけると、鬼女は立ちふさがった右中将藤原道綱とともに川のなかに姿を消した……。一方、前妻の祟りに悩まされていた惟成は、道長に伴われて天文博士安倍晴明の許を訪れていた。
「謡曲」鉄輪を史実に取り入れ、ミステリ的な真相を組み込んだもの。橋から消えた鬼女という謎の真相はあのパターンかと見当がつきますが、鬼女が生まれる理由に複層的な答えが用意されていて、それが史実にも寄り添っているという、なかなか凝った構成でした。頼光四天王や藤原道長や安倍晴明といったクセの強い登場人物ばかりのため、誰が探偵役なのか解決編までわからないところも、楽しみの一つでした。
「日入国常闇碑伝 雨鉄砲」詠坂雄二
――神藤七宗が率いた鉄砲備・形女衆は数々の挿話に彩られている。わけても「風雨の下でも不具合なく放たれる」とうのが有名で、雨鉄砲という名は明らかにそこから由来するものである。だが彼らのほとんどは常闇と共に生じた混乱のなかで死亡していた。それなのに――近ごろになって、雨鉄砲と呼ばれる怪異が現れていた。
上記「妖曲鉄輪」は実際の伝説をもとにした作品でしたが、こちらは架空世界の伝説自体を創作したもの。詠坂雄二というのはトンデモ系のヒトという印象だったのですが、実際に読んでみるとそんなこともありませんでした。かつて戦場で無敵を誇った異能集団の最期を描いた伝奇小説です。ミステリとしては、怪異を退治しに行った形女衆がなぜことごとく戻って来なかったのか、怪異はなぜ雨鉄砲と呼ばれたのか、という疑問に対する解答が、伝奇小説らしい非現実的なものでありながら人間の業(形女衆の業)として納得できるものになっています。
「水の都の怪人」三木笙子
――幸次郎は伊太利のヴェネツィアで日本語を教えている青年だ。実業家の邸宅から金貨を根こそぎ奪った賊は、カーニヴァルの仮面をかぶっていたという。やがて今度は金貨がばらまかれるという事件が起こる。幸次郎の下宿先の店主ジョヴァンニは、赤マントを着た賊が別れた妻なのではないかと疑うが――。
シリーズ同様に明治を舞台にした作品です。あの「連盟」パターンというとホームズものの原典があまりにも有名なため、ネタ自体で意外性を演出するのはほぼ不可能だろうと思うのですが、本篇では、あのネタであること自体を隠そうという試みが為されていました。金貨をばらまくという行為自体があのネタとしてはさほど奇妙な出来事ではないため目くらましになっているうえに、「ばらまくために盗む」ところにまで遡って何の変哲もない強盗事件をスタート地点にしているため、気づきづらくなっています。
「愛をささやくもの」相沢沙呼
――わたしリープリシュはミス・ドリオロジーのところで女中として働くことになった。お嬢さんはとても変わったひとで、女中の仕事のほかにも自分の仕事をいくつか手伝ってもらいたいたがった。働いて三日目、お嬢さんのところにラッセル警部が訪ねて来た。先日、身投げした女性を目撃してしまった際に、お会いした警部さんだ。
ヴィクトリア朝が舞台、妖精研究家(ドイル)、変装、探偵と助手、とくれば、いやでもホームズを連想します。が、こうして読んでみるとホームズものとは男の物語だったのだなあ、と気づかされます。トレードマークのパイプさえも。というわけで本篇はとことん女の物語でした。女性を主役にして語り直したホームズものの変奏曲とも言えそうです。
「QEDシリーズ完結 高田崇史&歴代担当者座談会 QEDの真実」
『百人一首の呪』と『六歌仙の暗号』は面白かったものの、タタルさんのキャラクターに馴染めなかったのと、三作目の『ベイカー街の問題』がイマイチだったせいで、以降の作品は読んでいなかったのですが、ターニングポイントと語られている『式の密室』は読んでみたいと思いました。
「男子校での正しい探偵術 猿よ、安らかに眠れ」望月守宮
――「俺、決めたんだ。もうオナニーをやめる!」藪原のこの素っ頓狂な発言こそが、『移動図書館事件』の始まりだった。持ち物検査をしても見つからない不健全なものをおさめた、移動図書館と呼ばれるものがあるという噂の真偽を確かめるべく、名探偵たるぼくは、兄とすり替わって学園に潜入した。
呆れるほどにくだらなさすぎ。
「垂里冴子のお見合いと推理 季節4 隣人にはご用心(前編)」山口雅也
――冴子の妹・空美は、小説家になると勢いだけで宣言したが、肝心の書き方がわからない。姉弟の助言にしたがって窓の外を眺めていると、隣家のカーテン越しに、男女の争う影を目撃した。翌日、家から出て来たのは夫だけだった――。
このシリーズは初読書。『生ける屍』や『キッド・ピストルズ』からは考えられないほど軽妙な、ホーム・コメディふうの作品でした。
「囁くもの メルカトル鮎 悪人狩り」麻耶雄嵩
――偶然というのは恐ろしい。小説の取材で鳥取に向かった私は、そこでメルカトルと遭遇した。だが依頼人の若桜商事の社長はトラブルで来られず、代わりに秘書の郡家が迎えに現れた。メルカトルはガムを噛んで椅子に貼り付けたかと思えば、社長令嬢にプレーボーイのような口をきいたり、らしくない行動を取り始めた。
「答えのない絵本」を含む『メルカトルかく語りき』で、(相変わらず)ミステリの一つの極北を描いた著者でしたが、今度はこう来ました。探偵の推理の根幹である消去法のロジックが揺らぎかねないというか、揺らいでないというか。「銘」探偵とはよく言ったものです。
「ビバ日本語! 〈言霊シリーズ〉2」深水黎一郎
――俺は優秀な日本語教師である。生徒の一人のマリーが厄介な質問をしてくるので、「東洋の神秘ですよ」と答えておいた。
ハードボイルド探偵ふうの日本語バカミス。扱われている日本語の問題についてはいたって真面目です。
「通い猫ぐるぐる」倉知淳
――「捜査上の守秘義務があるから詳しくは話せない――とにかくその猫が必要なんだよ」と云う満久を説得して聞き出したところによると、脱税容疑のかかっている社長が、妻の飼い猫に秘密の番号を託したらしい。
むりやり感がともなうのは暗号の宿命かもしれませんが、わかる人にだけはわかる(気づく人だけは気づく)という点では、すぐれた暗号ではないでしょうか。
「人魚が殺した シリーズ・異質物係」化野燐
――大地主であるK家の当主が殺されていたのだという。たまたま通りかかった哲氏が疑われることになったが、すんなり解放されることになった。真犯人の見当がついたからだ。年齢不詳のため人魚を食べたと噂されている被害者の囲われ者・椿だった。だが事件のあった二時間後、哲氏は歩いて五時間かかる場所で椿と思われる女性を目撃していた……。
シリーズものの真ん中あたりであるらしく、本篇だけ読んでもよくわからない情報が多く含まれていました。人魚の肉を食べたものは不老不死のほか神通力を得ることができる――という伝説のうち、その神通力の一つとして瞬間移動の謎が扱われています。
「シレネッタの丘」初野晴
――仙道信雄と冬美夫妻が殺され、脳性マヒである孫の仁紀が血まみれになって発見された。仁紀には自力で部屋の錠をかけることができなかったため、高い知能を持ったインコとして有名になったリエルが仁紀を守るために錠をかけたと推測された。俺はリエルの行方を捜していた……。
植物と動物に対する愛を感じる作品でした。動物の知性の方に意識を向けておいて、意外性は別角度からもたらされました。
「H-1グランプリ(15)ライツヴィルにて」喜国雅彦
クイーンのライツヴィルものを総ざらえ。
2012-02-06 『S-Fマガジン』2012年3月【2011年度英米SF受賞作特集】
■[SFマガジン]『S-Fマガジン』2012年3月【2011年度英米SF受賞作特集】
「雲界のスルタン」ジェフリー・A・ランディス/中原尚哉訳(The Sultan of the Clouds,Geoffrey A. Landis,2010)
――太守の思わぬ招きによって、研究者のリアと僕は金星の空中都市群を訪れたのだが……(袖コピーより)
シオドア・スタージョン記念賞。「青き深淵へ」は天王星が舞台でしたが、今回は金星です。「問題は金星の地表が、地球の海面相当のレベルよりはるか下にあること」による独裁者の思惑。
「火星の皇帝」アレン・M・スティール/古沢嘉通訳(The Emperor of Mars,Allen M. Steele,2010)
――不幸なできごとで正気を失った火星の作業員ジェフが、惑星上で見つけたものとは(袖コピーより)
ヒューゴー賞/アシモフ誌読者賞・ノヴェレット部門受賞。『火星のプリンセス』+『エンリコ四世』。
「アウトバウンド」ブラッド・R・トージャーセン/中村仁美訳(Outbound,Brad R. Torgersen,2010)
――地球が炎上したとき、ぼくは11歳だった。ぼくと妹は必死で木星行きの船へ乗り込んだが……(袖コピーより)
アナログ誌読者賞ノヴェレット部門受賞。子孫を残すということ。
「女王の窓辺にて赤き花を摘みし乙女(前編)」レイチェル・スワースキー/柿沼瑛子訳(The Lady Who Plucked Red Flowers beneath the Queen's Window,Rachel Swirsky,2010)
――女王お抱えの魔術師であるわたしは命を落とし、そして女王の召喚に応じて蘇った――(袖コピーより)
ネビュラ賞ノヴェラ部門受賞。召喚される側の視点というのが面白い。
その他の受賞作のなかでは、世界幻想文学大賞『Who Fears Death』ンネディ・オコラファー、英国SF協会賞・キャンベル賞『The Dervish House(ダルウィーシュ館)』イアン・マクドナルド、ディック賞『The Strange Affair of Spring Heeled Jack(ばね足ジャックの怪事件)』マーク・ホダーをぜひ読んでみたい。コニー・ウィリス『Blackout』『All Clear』は、ハヤカワ銀背より刊行予定。
「書評など」
◆映画『TIME/タイム』は、『ガダカ』の監督による新作。
◆ファンタジーノベル大賞出身者の新作がいくつも紹介されています。勝山海百合『さざなみの国』、西崎憲『ゆみに町ガイドブック』のほか、ノストラダムス・ブーム世代の少女の成長を描いた粕谷知世『終わりつづける世界のなかで』、過去に罪を犯した少年たちの現在を描く遠田潤子『アンチェルの蝶』に惹かれました。
◆「もし、幕末に開国派が処刑され、米・英・仏・露の四カ国連合と日本が会戦していたらどのような明治が訪れていたのか?」というのが、月島総記『刃の如く』。平山夢明の新作『或るろくでなしの死』も刊行。
◆海外からはチャイナ・ミエヴィル『都市と都市』、ジョージ・ソーンダーズ『短くて恐ろしいフィルの時代』、スコット・ウエスターフェルド『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』、キアラン・カーソン『トーイン クアルンゲの牛捕り』。
「ウェイプスウィード(後篇)」 瀬尾つかさ
――海を支配する巨大海藻の群生には、想像を絶する秘密が隠されていた。(袖惹句より)
なんだか盛り下がってしまいました。
「サはサイエンスのサ」(202)鹿野司
「SENSE OF REALITY「王様は裸だ!」金子隆一/「“そのとき”を想像しておくこと」香山リカ」
ニュースにもなってたストラディバリウスの音色について。
「現代SF作家論シリーズ(14)光瀬龍」磯部剛喜
「SFのある文学誌(3)」長山靖生
今回は「うつぼ舟」と神代文字。
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2012-02-04 『ミステリマガジン』2012年3月号No.673【特集 逆転裁判/逆転検事
■[ミステリマガジン]『ミステリマガジン』2012年3月号No.673【特集 逆転裁判/逆転検事に異議なし!】
「逆転裁判/逆転検事」のクリエイターお二人のインタヴューのほか、お二人が敬愛するバークリイ「帽子の女」再録、法廷ミステリ「正義」スチュアート・M・カミンスキー、弁護士ミステリの代表格E・S・ガードナー「浄い金」再録。
「帽子の女」アントニイ・バークリイ/青田勝訳(Mr. Simpson Goes to the Dogs,Anthony Berkeley,1946)
――生まれて初めて競犬場に足を踏み入れたシンプスン氏は、女の手が隣にいる男のポケットのなかに入っていき、また出てきたのを目撃した……。
善人が勝手にドタバタして悪い方悪い方を選んでぬかるみに嵌ってゆく、古き良きサスペンスの香りたっぷりの作品でした。とはつまり、ハラハラドキドキに加えてニヤニヤしながら楽しめました。
「正義」スチュアート・M・カミンスキー/北野寿美枝訳(Justice,Stuart M. Kaminsky,1996)
――男爵夫人が無惨に殺された。殺人の嫌疑をかけられたのは愛人の青年だった。法廷は正義が果たされるにはほど遠かった。陪審員が被告の政治思想を批判することもあった。良家の被告人に判事が慈悲を与えることもあった。
正義の裁きは望むべくもない19世紀ロシアの法廷が舞台となった作品。悪意に満ちたほどに下卑て描かれる傍聴人や陪審員の様子からは、裁判というより公開処刑に近かったのであろう現場の雰囲気が伝わってきます。正義のゆくえよりもむしろアナーキー(?)な青年詩人被告人が記憶に残りました。
「浄い金」E・S・ガードナー/平出禾訳(Honest Money,E. S. Gardner,1932)
――呑み屋が手入れにあい、亭主は客のふりをして難を逃れたが、妻が警察に捕まってしまった。しかも警官に賄賂をつかませようとしたかどで重罪になる可能性があるという。裏にはいったい何が……?
本篇はペリイ・メイスンものではなく、活躍するのは弁護士ケン・コーニング。袖のコピーに「タフガイ弁護士」とあるとおり、本篇では弁護士らしいところは描かれず、完全に私立探偵小説でした。今となっては珍しい個性の強い訳文が印象的です。
「over the edge」堂場瞬一
新連載。
「トッカン the 3rd おばけなんてないさ」高殿円
新連載。
「迷宮解体新書(50) 黒田研二」村上貴史
「ヴァイオリニスト」ロバート・ブロック/植草昌実訳(The Fiddler's Fee,Robert Bloch,1940)
――ニッコロ・パガニーニは悪魔の申し子にちがいない、と人は言う。旅籠の息子の名もニッコロといった。高名な演奏家の前でヴァイオリンを披露したニッコロに、パガニーニは囁いた。「お前に真の師をつけてやろう」
悪魔との契約もの。確かに『サイコ』が有名な著者ですが、本誌紹介文にわざわざ「『サイコ』の」と断わりが入れてあるのにはそれなりのわけがありました。『サイコ』のある趣向を連想させる部分があるのです。
「書評など」
◆『短くて恐ろしいフィルの時代』ジョージ・ソーンダース、『フィデリア・ダブの大仕事』ロイ・ヴィカーズ、『都市と都市』チャイナ・ミエヴィル、『キングを探せ』法月綸太郎あたりが気になりました。
「独楽日記(51)これまでの震災の話をしよう」佐藤亜紀
twitterと震災後について語る。「幾らか」?
「ミステリ・ヴォイス・UK(51)新作シャーロック・ホームズ」松下祥子
ガイ・リッチーのホームズ映画新作に、BBC「シャーロック」の新作に、ドイル社公認贋作アンソニー・ホロヴィッツ「絹の家(The House of Silk)」、と目白押し。
「そして俺もいなくなった (9)」岡野宏文 泉鏡花「眉かくしの霊」「沼夫人」
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2012-01-29 『惡の華』(1)押見修造(講談社マガジンKC)
■[漫画]『惡の華』(1)押見修造(講談社マガジンKC)★★★★★
何といっても表紙に尽きます。大笑いしてしまいました。表紙だけで★5つ。
詳しくは書影をご覧の通り。史上まれに見るインパクトのデザインです。装幀は久持正士・土橋聖子(hive&co.)。
この装幀の前では内容などどうでもいいのですが、そこはそれ、内容はというと、ボードレール読んでるオレってかっこいい――という文字通り中二病の中学二年生・春日が、ふとした拍子に恋心を抱いている佐伯さんの体操着を盗んでしまい、それを目撃していたクラスでも浮いている仲村さんに、思い通りに操られてしまうという、甘酸っぱいんだか腐れ切ってるんだかわからないドロドロな話です。この仲村さんというのがドSの女の子で、春日に変態じみたことをさせては興奮するという凄まじい性癖の持ち主です。これが青年マンガだったならただのエロ漫画になっていたかもしれませんが、少年マンガという抑えがうまく利いて(痛々しい)青春ものになっております。
※でもそれは第一巻だけでした。第二巻ではド変態漫画(これはこれで面白いものの)、第三巻では都合のいい妄想漫画になってしまいました。第四巻・第五巻でド変態に戻る。そしてカバーデザインのフォーマット自体を変えるという大胆な発想!
表紙もそうですが、現役中学生はどうなのかわかりませんが、今読むとけっこう笑えて面白いです。なにしろボードレールに入れ込んでいるので、好きなクラスメイトのことを真顔で「ミューズ」「ファム・ファタール」と呼ぶ主人公。「ボードレールを理解する人間が/この町に何人いる!?/なぜ/全ての鉄がさびてるんだ!?」と自転車で疾駆しながら心のなかで叫ぶ主人公。「どいつもこいつも間抜けでだらしないおっとせいの群れだ!」と心のなかで同級生を罵倒する主人公。「佐伯さん…オレはもう二度とこの体操着を取り出さない…/もう匂いをかいだりしない/これ以上罪を重ねるようなことはしない/ごめん…佐伯さん/ありがとう…オレを救ってくれて…」という変態丸出しの台詞を切なくシリアスにつぶやく主人公。ボードレールの肖像画を写真立てに飾っている主人公。
おまけページで「作品解説」と銘打って作者手書きの裏話が掲載されていますが、驚くほど字が汚い!
巻末のあとがき漫画を信じるかぎりでは、作者が真性の変態っぽいのが気持ち悪いのですが……。
あ、主人公が『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』を読んでいるシーンがあるので、SF好きの方もどうぞ(?)。
あまりにもインパクトのある装幀だったので、思わず自分の本棚から印象に残る装幀・好きな装幀の本をいろいろと探して見ました。
1.『言いまつがい』糸井重里(装幀:祖父江慎)
祖父江さんの装幀はどれもインパクトがありますが、やはり内容と装幀がぴったり一致しているこのシリーズを挙げます。裁断が斜め、背が本体より短い、角が丸い、扉に穴、奥付の発行年は日付ではなく「バレンタインデー」。まつがいだらけの装幀です。
2.『稲垣足穂全集』筑摩書房(装幀:クラフト・エヴィング商會)
足穂は羽良多平吉による『ユリイカ』足穂特集号も捨てがたいのですが、暴言を承知で言えばあちらは「ほかの人にも思いつけそう」なのに対して、唯一無二の全集版に軍配を上げます。だって箱が厚紙なんです。服を買ったりクリーニングに出したりしたときに挟まっているような、あの表面が白くてつるつるで裏面が灰色でざらざらの厚紙。その裏面を表側にして箱にして、題箋を貼り付けただけ。それでどうしてこんなにもお洒落になってしまうのか、そもそもどうやってこのアイデアを思いついたのか。
3.『二月十四日』金子彰子(装幀:金田理恵)
カバーで本体をすっぽりくるんで、端っこが糊留めされていました。そして、「(カバーは)『破き外して紙片を捨てて』いただいてもかまいませんが、剥がれたハートをのこし、前表紙にもう一度折り返してお読みください」という、詩「二月十四日」を引用したメモ付き。そうなのです。カバーのハートマークが糊どめされていて、ちょうど手紙の封を切るようにしてカバーを開き、本文を読むようになっているんです。著者は十代で「二月十四日」を発表したあと詩からは遠ざかり、それから二十数年後に初めて出したのがこの詩集とのこと。つまり二十年越しのラブレター、というめちゃくちゃお洒落な装幀なのでした。
たまに子供等らが/膝小僧を切って/窓の桟は/いっそうさびた(「家郷」より)
獅子座流星群の/最後の飛沫を/浴びて/消えてしまった/五人の仲間/誰かがもってきた/コーヒーの味は/十一年経っても/味蕾から消えない(「望遠レンズ」より)


4.『昨日いらつしつてください』室生犀星(装幀:室生犀星)
室生犀星晩年の詩集である本書は、著者自装です。手書き文字のタイトルと活字体の「詩集」と著者名を、手書きの枠で囲っただけのシンプルなデザインなのですが、これが非常にいい味を出してます。

5.『隻眼の少女』麻耶雄嵩(装幀:関口聖司)
これはコスプレではありません。(ええと、コスプレと言えばコスプレなんですが、)つまり作中に出てくる名探偵は、実際にこんな恰好をしているんです、普段から。なぜって? それは本書をお読みください。
6.『Self-Reference ENGINE』『Boy's Surface』円城塔(装幀:名久井直子)、『虐殺器官』『ハーモニー』伊藤計劃(装幀:水戸部功)
それぞれ単行本版と文庫版。黄色い本とピンクの本と黒い本と白い本。
7.『このページを読む者に永遠の呪いあれ』マヌエル・プイグ(装幀者不明)
ラテンアメリカ文学叢書の一冊。シリーズはすべて同じ装幀ですが、手元にあるのがこの本なので。ダンボールの筒箱、四角いシンプルな題箋、幅広の帯、フランス装っぽい本体……おそらく刊行された当時でさえレトロだったのではないかと思われる、上品で落ち着いた装幀は、見ているだけでほっとした気分になれます。
8.河出文庫(カバーフォーマット:佐々木暁)
現行版の文庫が書店に並んでいるのを初めて見たときは眩暈がしそうでした。白と真っ黄色で真っ二つにされた分類のためだけのけばけばしいデザイン――いくらなんでも……と思いながら手にとってみると、ただの直線と思えたものが、和紙ふうの切り貼りだとわかって感心したものです。これが果たしてお洒落なのか、すべての文庫イラストに合うのかは措いておいて、文庫とバーコードという縛りに挑戦した点を評価したいです。
9.幸田文の作品
本というより和風の小物のような、味わいのある、手で触れていつまでも愛でていたいような作品です。この2冊は内容ではなく本そのものが欲しくて購入しました。

2011-12-31 『ミステリマガジン』2012年2月号No.672【特集 アジア・ミステリへ
■[ミステリマガジン]『ミステリマガジン』2012年2月号No.672【特集 アジア・ミステリへの招待】
今月号は久しぶりに『ミステリマガジン』『S-Fマガジン』ともに当たりの月でした。
特集は「アジア・ミステリへの招待」。北欧特集のときとは違い、ガイドに加えて短篇も3篇掲載されています。
台湾・中国・インド・ミャンマーの現状に加えて、そうした国々のミステリの日本での受容史、および島田荘司による巻頭言。こうして並べられてみると、島荘が事実誤認をもとに華麗にアクロバットを決めているのがよくわかります。ミステリとはいかにきれいに嘘をつくかなんだなあとしみじみ思いました。
意外と訳されているものなんですね。早川・創元から洩れちゃうとなかなか目につきにくい。『蝶の夢』の水天一色(中国)、ミャンマーのミンティンカ『マヌサーリー』『バラモン・バーコン』、ベトナムのトラン・ニュット『王子の亡霊』あたりを読んでみたい。
「待つ人」サニー・シン/武藤崇恵訳(The Wait,Sanny Singh,2011)★★★★★
――シャルマ夫人は毎日夫の帰りを待っている。戦争となり、電報が届いた。さいわい、死亡したわけではなかった。行方不明だった。三十年のあいだ……国境の向こう側から、シャルマ空軍少佐が脱走したという噂が伝わってきた。どうやら在パキスタン・インド高等弁務官事務所に電話をかけてきたようだが、どうしてそんなことができたのかは謎だった。
インド。長びく国際間の緊張が続くインド・パキスタンで、盗聴を防ぐために夫婦がシャワーを出して会話するような「日常」を破る、行方不明の兵士を待ち探し続ける夫人――という状況自体がすでに尋常ではないというのに、三十年経ってまた事態が動き出します。インドが舞台だと、これが「SF」でも「歴史」でもない皮膚一枚の感覚なのかどうかもわからないのがいい方に作用してます。
「計算機」ミトラン・ソマスンドゥルム/富永和子訳(The Calculator,Mithran Somasundrum,2012)★★★★☆
――「ぼくは計算機なんだ――」国際暗算競技大会に参加するためロンドンからバンコクにやって来たという男は、アティヤに向かってそう言った。翌日、彼は店に来なかった。「あの人に何か悪いことが起こったに違いないわ」。わたしは肩をすくめた。「わかっていることが少なすぎるな」
タイのハードボイルド。ほんのちょっと知り合っただけの男がいなくなったけれど気になるから探して欲しい、といういかにもハードボイルド小説らしい依頼で幕を開けます。真相にはタイの国内事情(?)らしきものも絡んでいて、ハードボイルドを借り物ではなくうまく自国のものにしている印象を受けました。
「親友」ソン・シウ/米津篤八訳(2010)★★★☆☆
――ナバギを預けたヨンギョンは、約束の日になっても引き取りに来なかった。いつまで経ってもほえ癖の直らないナバギだが、その日はなぜか元気がなさそうだった。マンションを訪れた私を待っていたのは、ヨンギョンが死んだという報せだった――。
韓国。駄犬が駄犬であるがゆえに知らぬ間に犯人を指摘するところに味があります。さり気ない伏線も、まるでそんな駄犬っぷりを際立たせているようでした。どうして物覚えのいい獣医が被害者の恋人の顔だけを覚えていなかったのかがよくわからない。知らず被害者のことが好きだったから意識してかっかしちゃったってことかな? 右肩下がりの斜体字が異様に読みにくい。
「迷宮解体新書(49)相沢沙呼」村上貴史
マジックとミステリというとどうしたって泡坂妻夫を連想してしまいますが、相沢氏は「ライトノベルで育ち」、北村薫や加納朋子ら日常の謎をむさぼり読み、サラ・ウォーターズを「お嬢様と侍女というのがまさにストライク(笑)」という理由で好きだそうです。
「彼女がくれたもの」トマス・H・クック/府川由美恵訳(What She Offered,Thomas H. Cook,2010)★★★☆☆
――黒。彼女は黒だけに身をゆだねていた。メモを書きつけ、カウンターの客伝いにおれに寄こしてきた。“あなたが人生について知っていることは、わたしにもわかっている”。「これはデートの誘いか?」「ちがうわ。情事の誘いよ」
新刊『ローラ・フェイとの最後の会話』に合わせて宣伝しようとしたところ、著者本人から「だったらこの短篇がいいんじゃない」とすすめられた作品だそうです。こういう小粋もどきの会話は苦手です。
「四人目の空席」スティーブ・ハミルトン/越前敏弥訳(Room for a Fourth,Steve Hamilton,2006)★★☆☆☆
――ゴルフ場のレッスンプロが頭を殴られ殺されていた。アシスタントプロのわたしはコースを回っていた三人に話を聞くが……。
ポケミス『解錠師』に合わせた短篇掲載の模様。ひねりが回りくどすぎて却って意外性が鈍っています。
「勝手に文庫解説(2)」北上次郎
『水上のパッサカリア』
「幻談の骨法(18)」千野帽子
「独楽日記(49)タンタンの冒険」佐藤亜紀
「書評など」
◆『特捜部Q』は早くも第二弾「キジ殺し」が登場。『水晶玉は嘘をつく』アラン・ブラッドリー、『おやすみなさい、ホームズさん』キャロル・ネルソン・ダグラス。『第七階層からの眺め』ケヴィン・ブロックマイヤーは、「ジャンル混淆の〈ストレンジ・フィクション〉の見本市のような一冊」。『リヴァイアサン クジラと蒸気機関』スコット・ウエスターフィールドは、新ハヤカワSFシリーズの第一弾。ノンフィクションは『曹操墓の真相』。
「『アメリカ・ハードボイルド紀行』刊行記念対談」小鷹信光×松坂健
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