たむ読書&映画&音楽日記

2018-08-16 『歌うダイアモンド』ヘレン・マクロイ/好野理恵他訳(創元推理文庫

[]『歌うダイアモンド』ヘレン・マクロイ/好野理恵他訳(創元推理文庫)★★★☆☆

 『The Singing Diamonds and Other Stories』Helen McCloy,1965年。

 「まえがき」ブレッド・ハリデイ

「東洋趣味《シノワズリ》」今本渉訳(Chinoiserie,1946)
 米澤穂信編『世界堂書店』で今本訳を、『EQミステリマガジン』1956年12月号No.006で田中西二郎訳「燕京畸譚」を読んでいるので今回はパス。
 

「Q通り十番地」吉村満美子訳(Number Ten Q Street,1963)★★★☆☆
 ――トムが鼾をかきはじめたのを見て、エラは忍び足で外に出た。車には乗らなかった。ナンバーを見られる恐れがあるからだ。エラは人と違っている。トムは病的欲求とは縁のないごく平凡な男だった。エラはQ通りに足を踏み入れた。少年がナイフをきらめかせた。「合言葉は?」

 合成製品だらけとなった世界で本物の食物を使ったヤミ料理屋を訪れる若妻が登場します。言ってみればただそれだけの話なのですが、やはりミステリ作家、事情が明らかになるまでのいかがわしい犯罪臭の漂わせ方はお手のものです。
 

「八月の黄昏に」吉村満美子訳(Silence Burning,1957)★★☆☆☆
 ――ルネに出会って統一場動力型飛行機の製作を手伝うようになるずっと前から、いずれ自分が地球以外の惑星を目指すのだという気がしていた。父はそんなことは信じてなかった。だが私が十六歳のころ、あの事件が起こった。空高くから目の前に楕円形の物体が現れ、空中に静止してから、忽然と消えてしまった。

 オチは見えている――と思っていたのに、微妙にズレたオチになっていました。プチ・ホラーですが、さほど優れているとは思いません。
 

「カーテンの向こう側」霜島義明(The Other Side of the Curtain,1947)★★★★☆
 ――レティは医師に言った。「似たような夢が八か月も続いているんです。そのときによって警察がいたり法廷の中だったりします。薄暗い廊下を歩いていると、カーテンに行き当たります。怖くなってそこから先には行けません」ラルフがしゃべっている。「レティ、こちらクレイン警部にメイザーさんだ」「前の奥さんが亡くなった件でお訊きしたいことがあるのです」

 型通りなのにその型が妙にいびつで型からはみ出たところもあるのは「八月の黄昏に」と同様です。妄想を描いた幻想小説のように見えたのは初めのうちだけ。またたく間に、前妻の死亡事件をめぐるサスペンスに早変わりしました。「目を覚まそうとする意志の力が失くなる」という発想に新味があります。目が覚めない目が覚めないと思っているうちにずぶずぶと嵌ってゆく様子はそれこそ悪夢でした。
 

「ところかわれば」吉村満美子訳(Surprise, Surprise,1965)★★★☆☆
 ――何の間違いか、人類初の太陽系探査隊のメンバーに私が選ばれた。アモリスも同行する予定だという。「君はアモリスなしでは生きていけないからな」と学長は言った。その国は合衆国と呼ばれていて、国民は米国人と呼ばれ、言語は英語だった。「地球へようこそ」英語訛りの南火星だった。隊長も英語で答えた。「よお、ベイビー」

 火星人と地球人のファースト・コンタクトSF。文化や生態の異なる二種間で起こるドタバタが楽しい作品ですが、もうちょっとギャグや毒があってもよいとも思います。
 

「鏡もて見るごとく」好野理恵訳(Through a Glass, Darkly,1949)★★★☆☆
 ――ミス・クレイルが解雇された理由をベイジル・ウィリングがたずねると、学長はしぶしぶ口を開いた。初めはメイドでした。裏階段を降りる途中でクレイル先生とすれ違ったとき「こんばんは」と声をかけたのに、礼儀正しい先生が返事もしませんでした。おかしいなと思いながらキッチンに降りていくと、そこにクレイル先生がいたんです。

 長篇『暗い鏡の中に』原型。真相はこうしたパターン以外にはあり得ないのですが、「なぜわざわざそんなことをするのか?」というところに、必然性がありました(それもこうした理由以外あり得ない、とは思いますが)。真相のパターンが限定されるため意外性がなく尻すぼみですが、(実話をなぞっているとはいえ)これでもかというほどドッペルゲンガー現象を披露してゆく序盤のサスペンスに花がありました。
 

「歌うダイアモンド」好野理恵訳(The Singing Diamonds,1949)★★★☆☆
 ――その女は名前をマティルダ・フェアヴォーンといった。「集団幻覚みたいなことってあるのでしょうか?」「証明されたことはありませんよ」「歌うダイアモンドを見た人たちはどうなのでしょう?」「おそらくは見間違いでしょう」「新聞記事を見ていたら、この十三日のうちに、目撃した六人のうち四人が……死んでいるのです」

 性別も年齢も住んでいる場所もまったく違う人々が、共鳴音を発するダイアモンド型の飛行物体を同じように目撃したあと、不可解な死を遂げる……どう考えても不可能な事件は、やっぱり説得力のある解決は無理でした。この奇想は好きですけどね。暗示による事件を解決していることを考えれば、ウィリング博士の精神科医らしさの出た作品と言えるのかもしれませんが。
 

「風のない場所」吉村満美子訳(Windless,1958)★★☆☆☆
 ――その窪地ではどうして風が吹かないのか、知る人はいない。情勢は厳しくなり、夜中に地平線の向こうで大きな光が閃いた。よその町から食糧をわけてもらおうと、電報局に出かけた人は、一時間ほどで戻ってきた。電報局はなかった。街もない。あるのは瓦礫の山だけだ。

 放射能で滅びゆく人類を描いた掌篇。わたしにはちょっとおセンチに過ぎました。
 

「人生はいつも残酷」霜村義明訳(Better Off Dead,1949)★★★★☆
 ――今の私はフランク・ブライではなくスティーヴン・ロングワースだ。あれから十五年、ヤーボローの街で私を覚えている人間がいるだろうか。ブライは試してみたくなり、隣の座席の女に話しかけた。「ヤーボローのことは戦場で会った男から聞いたんですがね。フランク・ブライという男です」。女の顔から血の気が引いた。「そんなはずありませんわ! ブライは十五年前に殺されたんですもの」。金を盗んだ疑いを私に着せ、殺そうとした者を見つけ出すつもりだった。では殺された男は誰なのだ?

 原書には収録されていない翻訳版ボーナス中篇。わざわざ収録しただけに、なかなかの力作です。復讐ものサスペンスのように始まり、蓋を開けてみれば犯人探し、すれ違いと二転三転する真相は、サスペンスと謎解きのブレンドが巧みな著者らしいところです。金が盗まれた事件と、主人公が殺されそうになった事件、人が殺された事件、そこに盗んだ金が返ってきたという不可解な出来事が加わります。どれをどう組み合わせるか、がポイントです。

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2018-08-15 「百大武器譜」、『あさひなぐ』27、『おやすみシェヘラザード』1

[][]「百大武器譜」、『あさひなぐ』27、『おやすみシェヘラザード』1

『good!アフタヌーン』2018年9月号(講談社)

『黒狼 ヘイラン』2「馬賊」百地元
 『ゴールデンカムイ』には箱館戦争を生き延びて年老いた土方歳三が出てきますが、この『黒狼』には戊辰戦争を生き延びて若いまま大陸にワープした原田左之助が登場します。新撰組云々は置いておいても、大陸の歴史ものとして面白そうです。
 

『亜人』60.5「D-day II」桜井画門
 議事堂襲撃の5分前。コウマ陸佐って誰だっけと思いましたが、けっこう前から登場していた人物でした。「対亜人特選群」のステッカー、ほんとに着けてるんですね。
 

「百大兵器譜」陶延リュウ
 ――強力な兵器百本の保持者百人で編成された「百器譜」。かつてその頂点に君臨していた一族の生き残り兄妹が、頂点を取り戻そうとする。

 2018夏四季賞受賞。つまりこれから百人斬りの第一歩。絵にもキャラにもストーリーにも戦いにもわくわくできませんでした。
 

『あさひなぐ』(27)こざき亜衣(小学館)
 インターハイ本戦。旭はいつまで経ってもメンタルが直りませんね。けれどそんなぐだぐだを経て、表紙にもなっている旭と将子が、ようやく共に戦う対等な仲間というなりました。頼もしい。
 

『おやすみシェヘラザード』(1)篠房六郎(小学館)
 説明下手な先輩が後輩を部屋に連れ込み夜な夜な映画の粗筋を語るのだが、あまりの下手くそぶりに、毎回後輩は眠ってしまう……面白そうな内容だったのですが、回によって当たり外れが大きかったです。『呪怨』『アウトレイジ』のように、ちゃんとあらすじを語っているはずなのにまったく別の映画みたいに聞こえる回や、『君の名は。』のように本筋からは逸れてもギャグとして面白い回もあれば、ほんとうにただ説明下手なだけの回もありました。
 

    

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2018-08-11 『朝霧』北村薫(創元推理文庫)

[]『朝霧』北村薫(創元推理文庫)★★★★☆

「山眠る」★★★★☆
 ――駅のホームで小中学生のころの同級生と一緒になった。鷹城君という本屋の子だ。鷹城君はちょっと複雑な顔をしたあと、「本屋やってて、やなこともあるぜ」と言った。「本郷の親父さん、校長先生をしていたろう。ずっと一人で、堅物という感じでさあ。でさあ、もう年だろう。そうなってから、エロな本、いっぱい買い込むんだよ」あっと思った。――ゆがんで張られた障子が目の前に浮かんだ。

 久しぶりに読み返した〈私〉シリーズ。もともと理が勝ちすぎているきらいのある〈私〉でしたが、この作品前半の文豪との対話は、エッセイで知る「北村薫」の生の声がそのまま出て来たようで、単なる知識や解釈のひけらかしめいて鼻につき不快とさえ感じてしまいました。けれど俳句づくしの果てに訪れる、姉の結婚を控えた〈私〉の父や同級生の父である俳句の宗匠に見える「父」の姿には、感涙を禁じ得ません。『秋の花』や「朝霧」で円紫さんが見せたような人の親としての顔が、まだまだ〈私〉には必要なのでしょうか、今回の二人は簡単に「答え合わせ」をしてしまいます。無論、成長に「推理」は必要ないわけですが。実際、この作品の〈私〉は、人生の先輩に対して慰めとなる言葉をかけることもできるくらいに成長しています。俳句つながりで同級生のアルバムから家族のアルバムになり自然おじいちゃんのエピソードに至った話が伏線となり、もう一度俳句と同級生に戻って「何かが崩れて行く様を見た」瞬間が衝撃的でした。
 

「走り来るもの」★★★☆☆
 ――仕事を終えて天城さんがフランス料理店に誘ってくれた。ストックトン「女か虎か」の話から、編集プロダクションの赤堀さんの話題になった。結末のない話を赤堀さんから貰ったことがあるという。アフリカに猛獣狩りに来ている語り手と妻と友人は、三角関係にあった。臆病な語り手は、二人にけしかけられてライオンを撃たざるを得なくなる。ライオンを引きつけて、わたしは引き金を――。

 リドル・ストーリーの古典「女か虎か」から始まり、紫の上と源氏の君のあいだに交わされる男女の機微の怖さ――とくれば、この作品も作中のリドル・ストーリーも男女間の愛憎がテーマになっているのは自明ですが、円紫師匠は「一瞬に悟った」という言葉から申し訳程度とはいえ論理的に推論を引き出しています。論理的推理としては弱いようにも見えますが、前段の落語の解釈で「理屈」「自然」という話が出ているので、この真相にしてもものごとというものの当然の帰結なのでしょう。
 

「朝霧」★★★★★
 ――職場の先輩同士の結婚式に、見覚えのある人がいた。はっとした。ベルリオーズの『レクイエム』を聴きに来ていた人だ。側に行って声をかけたかった。少し、――残念である。そういえば大掃除のとき、曾祖父の翻訳を見つけたことがある。そうなると祖父のことも気になってくる。「日記ならあるぞ」父が答えた。「判じ物だ。鈴ちやんがお判りになりますかと持つて来た。忍 破片窗袖毛太譽太勘……」鈴ちゃんというのは下宿屋の娘だろう。

 俳句づくしの「山眠る」、リドル・ストーリーと愛憎づくしの「走り来るもの」、に続いて掉尾を飾るのは、忠臣蔵づくしの「朝霧」です。秘めた思いを暗号によって秘めたまま、それでも伝えたのは、いかにも少女めいたごっこ遊びにも見えますが、苦しい胸のうちをたとい自己満足にでも解き放つ精一杯の試みだったのでしょう。もともとが解かれるための暗号なので難しすぎては話になりませんが、作品世界と結びついてたいへん自然なうえに優れた暗号でした。〈私〉の祖父であり、みずから劇作も試みるほどの人物のこと、ましてや「お寺」の近辺に住んでいたのだから、わからなかったはずはない――と思います。落語「淀五郎」のなかで淀五郎が気づいていたのかどうか、という話とも、たぶん無関係ではないのでしょう。祖父に届かなかった(かもしれない)思いに代えて、孫娘は自分の思いをしっかり届けようと決意して物語は終わります。

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2018-08-09 『タイムリープ あしたはきのう』(上・下)高畑京一郎(電撃文庫)

[]『タイムリープ あしたはきのう』(上・下)高畑京一郎(電撃文庫)★★★☆☆

 意識だけがタイムトリップするという設定が珍しいのですが、そのほうが矛盾なく辻褄を合わせるには好都合で、そうでもなければここまで複雑なことはできなかったでしょう。

 主人公の翔香は危険が身に迫ると無意識に安全な時間に移動してしまうため、一週間を目まぐるしく行ったり来たりです。そもそもどうして時間移動してしまうのか――自体がはじめのうちは謎でもありました。

 謎の解明以前に現状把握と現状維持だけでも一苦労なのに、植木鉢が落ちてきたり車に轢かれそうになったりといった危険を避けながら、タイムパラドックスを起こさないように気を付けながら謎と原因をさぐろうとする過程に、目が離せません。

 そしてすべてのきっかけである日曜日――。真相自体はさほど驚愕するものではありませんが、きっちり組み立てられた物語に、読み終えたときの満足感が味わえます。

 鹿島翔香。高校2年生の平凡な少女。ある日、彼女は昨日の記憶を喪失している事に気づく。そして、彼女の日記には、自分の筆跡で書かれた見覚えの無い文章があった。“あなたは今、混乱している。若松くんに相談なさい……”/若松和彦。校内でもトップクラスの秀才。半信半疑ながらも、彼は翔香の記憶を分析する。そして、彼が導き出したのは、謎めいた時間移動現象であった。“タイム・リープ――今の君は、意識と体が一致した時間の流れの中にいない……”/第1回電撃ゲーム小説大賞で〈金賞〉を受賞した高畑京一郎が組み上げる時間パズル。遂に、文庫に跳躍《リ−プ》!!(カバーあらすじ)

 若松和彦。校内でもトップクラスの秀才。クラスメイトの鹿島翔香に起こっている不可解な記憶の混乱を分析した彼は、翔香に告げた。“タイム・リープ――今の君は、意識と体が一致した時間の流れの中にいない……”/タイム・リープ。意識だけの時間移動現象。正常な時から“剥がれて”しまった翔香の『意識時間』。その謎に和彦は迫る。だが、浮かび上がった事実は、翔香を震感させた。“そんな……嘘よ……”/第1回電撃ゲーム小説大賞で〈金賞〉を受賞した高畑京一郎が組み上げる時間パズル。最後のピースが嵌る時、運命の秒針が動き出す――。(カバーあらすじ)

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2018-08-05 『ミステリマガジン』2018年9月号No.730【“ミステリ考”最前線】

[]『ミステリマガジン』2018年9月号No.730【“ミステリ考”最前線】

「特集“ミステリ考”最前線」

「大丈夫――彼はただ死んだだけだから」レイモンド・チャンドラー/田口俊樹訳(It's All Right --He Only Died,Raymond Chandler,2017)
 ――金のない患者は都立病院にまわすことになっていた。ウィリアムズ医師はコートを脱ぎかけたが、病院の方針を思い出して家に帰った。

 チャンドラーの未発表原稿。1956〜1958ごろ書かれたと推測されるそうです。三人称ということを差し引いてもまったくチャンドラーらしくない作品で、小説よりもむしろ「著者の覚え書き」の方にチャンドラー節が強く現われていました。
 

「ロス・マクドナルド『ギャルトン事件』を読む」若島正
 『ギャルトン事件』は未読なのであとまわし。
 

「小鷹信光論 女子大でハードボイルド」池上冬樹

「進化するハードボイルド・ヒロインたち」穂井田直美

「エドガー賞考」編集部

「ジョン・ル・カレ インタヴュー」/加賀山卓郎訳

「ハヤカワ文庫 スパイ小説フェア開催記念トークショー」手嶋龍一×佐藤優
 トークショーだけじゃなく、この二人による註釈付きのスパイ小説があれば読みたいのに。

「『コールド・コールド・グラウンド』レビュー」小財満/糸田屯

『IQ』レビュー」北原尚彦/丸屋九兵衛
 安全地帯ではないところから書かれた北アイルランドという小財氏のレビューは読みたいと思わせるし、「ニガ(nigga)」と「ニガー(nigger)」の違いなどの指摘は丸屋氏ならではのものでした。
 

「裏切りの巨匠ルヘイン」編集部

「デイヴィッド・ヤング インタヴュー」三橋曉インタビュー
 東ドイツを描いた『影の子』の著者。これも面白そう。
 

「小特集〈幻想と怪奇〉語りと騙り」

「写本」マーガレット・アーウィン/小林晋訳(The Book,Margaret Irwin,1930)★★★☆☆
 ――新刊書を読む気分ではなかったコーベット氏は、伯父の残した神学書に手を伸ばした。翌日もその本を手に取ると、前日にはなかった文章が目に入った。「余は目的を完遂せずに死す。続けよ。汝、果てることなき研究を」。次々に現れる文章を実行し、うまくいっているように思えたが……。

 写本の言葉どおりに動かされて写本と反する現実の方こそ間違っているのだと感じるようになってしまうところや、唯一の解決策と思えることを実行したあとのことなどに、呪いの恐ろしさを感じます。
 

「嬰児」L・A・ルイス/小林晋訳(The Child,Leslie Allin Lewis,?/1934)★★★☆☆
 ――その森には入るなと言われた。我が子を殺して収監された女が脱走して逃げ込み、以来森から生き物がいなくなり、森に入った男はうわごとを繰り返しながら死んだという。

 怖さのポイントがよくわかりませんでした。女が産み落とした赤ん坊を育てていた○○――ではなく、野生化した赤ん坊が怖い
 

「海泡石のパイプ」L・A・ルイス/小林晋訳(The Meerschaum Pipe,Leslie Allin Lewis,?)★★★☆☆
 ――かつて連続殺人犯が住んでいた屋敷に、私は格安で住んでいた。家具調度もそのまま残っていて、パイプもその一つだった。消毒して使ってみると実に素晴らしい味わいだった。だがやがて近所でまたもやバラバラ殺人事件が起こり始めた……。

 まさにクラシックな作品
 

「ミステリマガジンの早川さん〈幻想と怪奇〉特別版」coco 

「蛍火が消える晩」町田そのこ(2018)★★★★☆
 ――逸郎がいなくなった。通帳の残高もなくなっていた。妊娠したお腹を抱え、わたしはあの場所に向かっていた。十五年前、父親を殺してきたという隆之と蛍を見に来ていたことにして共犯者になったのだった。そしていま、同じ場所で隆之と遭遇した。

 『ミステリーズ!』vol.89にも読み切り「おわりの家」が掲載されていました。どうやらミステリ界からも注目の新人さんのようです。確かに「おわりの家」にも「蛍火が消える晩」にもどんでん返しがあります。この作品の語り手と隆之はふたりともびっくりするほど家庭に恵まれていません。人間の嫌な部分を描きながら、読後感はそんなに悪くない作風。
 

「おやじの細腕新訳まくり(11)」田口俊樹

「逃げる男」ビル・プロンジーニ/田口俊樹訳(The Running Man,Bill Pronzini,1968)★★★★☆
 ――隠れて乗っていた貨物列車から降ろされ、彼は日陰を探して砂漠を歩いていた。カレンは今ごろ半狂乱になって捜索願を出していることだろう。ようやく店にたどり着いたが、新たに入って来た二人の男に銃を突きつけられ、彼は店員ともどもホールドアップされてしまった。二人組によれば、ある男が列車から飛び降りる。逃亡車が待っていると信じて。だが待っているのは銃なのだ。

 凄いシチュエーションのなか、自分の命と娘の命を守るためと店主に決断を迫られたためとはいえ、いざというときに行動することができる勇気には惚れ惚れします。これほどまでの状況に陥らなければ行動できない人間だったのか、普段から決断することに慣れている人間だったのか、いずれにしてもきっかけとしてはとんでもない威力がありました。
 

「ミステリ・ヴォイスUK(108)エベレストと富士山」松下祥子

「Dr.向井のアメリカ解剖室(96)映画に見る日米感性の違い」向井万起男

「幻談の骨法(76)山尾悠子『飛ぶ孔雀』の世界開示。」千野帽子
 

「ショーン・ヘイゼル探偵事務所」丸山薫

「書評など」
『日曜の午後はミステリ作家とお茶を』ロバート・ロプレスティは、タイトルと大矢博子絶賛からコージーっぽいのを連想したので興味をなくしていたのですが、「ヘンリイ・スレッサーのような短篇作家を愛する読者にとってはこれ以上にない珠玉の作品集」と書かれては読まないわけにはいきません。〈ドーキー・アーカイヴ〉の新刊はウェストレイク『さらば、シェヘラザード』

香納諒一『完全犯罪の死角 刑事花房京子』は、刑事コロンボでおなじみ倒叙もの。最近本格界隈では大倉崇裕や倉知淳の倒叙ものが好調なので、香納諒一のチャレンジにも期待したいところです。

◆周辺書からはジャック・ドゥルワール『ルパンの世界』、山崎まどか『優雅な読書が最高の復讐である』

◆ノンフィクションからは山田ルイ53世『一発屋芸人列伝』、コミックでは田村由美『ミステリと言う勿れ』
 

  

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