たむ読書&映画&音楽日記

2017-06-24 『裏窓クロニクル』友桐夏(東京創元社)

[]『裏窓クロニクル』友桐夏(東京創元社)★★★★★

 著者サイン本購入。社会悪の化身たる「篁《たかむら》」一族と、願いを叶える「魔女」に関わった少年少女たちのエピソードを描く、連作長篇。
 

「第一話 願いを叶える」★★★★★
 ――鳴征《なりまさ》の婚約者が姿を消した。それがすべての発端だった。篁の三姉妹が嫡子を含む男性と不適切な関係にあるという落書きを見て、初《はつ》と織《おり》が激怒した。そうして愛人の連れ子である私に、「魔女」にこの件の解決を願って来いと命令したのである。私は出かけ、魔女の教会の前で、絵を描いている青梧《せいご》という少年と、すでに願いを告げていた撫子という少女と出会った。しかし私は事件の解決ではなく、将来に関して確かな保証を得ることを願った。

 ここに出てくる魔女は実際に魔法を使うわけではありません。が、なにがしかの力(権力)を持っていることは事実です。大時代的な設定を用いることで、願いを叶える「魔女」という存在を読者にすんなり受け入れさせることに成功しています。互いに本名で呼ばぬ大家、弑虐趣味のある嫡子、しいたげられる愛人の子、裏窓から見える離れに住んでいることから人呼んで「裏窓の娘」……これでもかというまでの耽美趣味と少女趣味が、絢爛たる美しさを織り上げながら、当然のごとく(と言ってしまいますが)それがミステリ部分の根幹にも関わる造りになっていました。この連作の背骨となる設定と、第一話の核となるギミックが、それぞれ明らかにされるのが、いずれも魔女のノートをきっかけとしているところが鮮やかです。
 

「第二話 地図と待ち針」★★★★★
 ――二学期の初日、どしゃ降りの雨の日にやってきた陰気な転校生。それが彼女――淑乃《よしの》だった。淑乃は転校早々、情報を遮断されるという迫害に遭っていた。けれども鞠亜《まりあ》の目に焼きついているのは、呪いの彫像めいた姿ではない。四年二組には横暴な三人の女子児童がいて、うさぎを抱くのにも我が物顔で他の児童に命令していた。うさぎが死んだ日、先生も含めて何もできずにいたとき、淑乃だけが行動したのだった。

 一見すると、第一話とは打って変わって、ごく当たり前の小学校が舞台のように見受けられます。スクールカーストから疎外される内省的な転校生と、ただ一人鈍感であるがゆえに転校生と打ち解ける語り手の交流だと――。しかしながら物語が進むにつれ、転校生とは、青梧の友人である「絵が『響く』少年」の娘と思しき淑乃だということが明らかになります。そこで、転校生ゆえの寂しさをまぎらすために「繋いで」いたと思われた作り話の意味が、一変してしまいます。おしゃれだな、と思っていた英題にも、とんでもない意味が込められていたことがわかります。転々と居場所を変える転校生と、点を繋ぐように言葉を繋いでゆくことの二つの意味を込めたタイトルが秀逸です。
 

「第三話 大きな振り子」★★★★★
 ――事の発端は沢村都馬《さわむら・とうま》という男子だった。新学期に図書館の隣に引っ越してきた沢村都馬は、お金持ちの子供で、わたしだけは「通行料」を払わないと家に入れてもらえなかった。恩も仇も確実に返す。結果としてこの精神だけは沢村都馬がわたしにもたらした変化の中で唯一歓迎すべきものだった。わたしは図書館に通い、沢村家の自転車小屋に重しを乗せて、屋根を落として自転車をつぶす計画を立てた。

 第二話に出てきた鞠亜の後輩が語り手を務めています。タイトルと内容から、因果応報の物語であろうことはわかりますが、さてもたらされるのが「いじめ」のしっぺ返しなのか「復讐」のしっぺ返しなのかは、最後までわかりません。鞠亜の鈍感力が意外なところで真実を射抜いていました。語り手が強くて真っ直ぐで、悪意だけでなく善意にも報いるところにかたくなな魅力があります。あまりにも極端な行動原理が、見事なまでに貫かれていました。
 

「第四話 記憶の中の鍵」★★★★★
 ――「鏑木くんの靴が、赤い色水で汚されています」クラス会でそう発表したのは、笙子だった。見張り隊ができてからは、笙子は疑われるのが嫌で単独行動を控え、わたしは笙子の体調管理に気を配るという免罪符を得て見張りには参加しなかった。そんなだから、笙子は早退するのも休憩時間を選んだ。入学してすぐに学校横のマンションに引っ越してきたうえに、わざわざ笙子を迎えにくる母親を、わたしは演技じみていると思った。それも三年前のことだ。笙子が死に、母親が鏑木君に我が子を殺されたというビラを配り、鏑木君が失踪し、母親もベランダから転落した。

 第二話に出てきた鞠亜の「読書好きの同級生」である冬槻蘭花が語り手となって登場するほか、第三話の語り手・春と「院内学級で知り合った入院仲間」綿引笙子と「リーチくん」鏑木理一の名前も明らかになります。綿引家と鏑木家は「篁」の血を引いているようです。どうやら冬槻さんがこのシリーズを通しての探偵役となりそうな気配です。第三話で解決されなかった謎が明かされました。

 第三話の春の行動が、憎しみと人助けの攻防に巻き込まれていたというだけでもショッキングなのに、それに追い打ちを掛けるような冬槻の言葉が残酷です。第三話を読んでいる読者には、春が実際に「責任をと」るタイプだと痛いほどわかっているだけに、この先が心配です。

 それにしても、この無念な悪意とささやかな人助けが、目に見える形になって現れた現象が、異様な過保護と陰湿な悪戯という正反対の見かけを取っているというのは、日常の謎ミステリとしても非常によくできていると思いました。
 

「第五話 嘘つきと泥棒」★★★★★
 ――立派な不良債権だった秋霖ヶ原バードランドホテルを立て直したのが、黒い寡婦と呼ばれる麟さんだった。麟さんに引き抜かれたわたしは、ブライダル部門の責任者に据えられ、「フォーチュン・サークル」と呼ばれる言い伝えを捏造し、軌道に乗せていた。会議で部門の拡大を提案し、嵐野さんを誘ったのは、スパイの可能性がある新入社員をそれとなく見張っておくよう、麟さんから言われていたからだ。「鍵がない!」わたしは作戦を実行に移した。

 時代は進んで語り手は社会人になっています。寝不足をキーに組み立てられる二通りの推理は、きっかけとなる高校生たちの出来事を知っている(つまり作中人物より有利な手がかりを持っているはずの)わたしの思考力を遙かに超えていました。嵐野さんというミスディレクションが推理するという構図が面白いです。物事をはっきり口にする細身の嵐野の正体については、当初からある程度の見当がつきましたが、語り手である円谷の正体と、真相を言い当てるナイト・マネージャーの正体には、驚きました。【嵐野春。円谷淑乃。鏑木理一=鏑木青梧と奏子(裏窓の娘)の息子
 

「第六話 薔薇と猫の夜」★★★★★
 ――私の思い描く完璧な孵卵器が実現すれば、六家はやがて崩壊する。バードランドホテルの獲得は私の念願だった。ここを私の隠れ家とし、子供たちに開放しよう。モニターでは麟と嵐野が話している。「あなたが理一さんの姉だったことと、笙子さんの死と、何か関係してますか」「わたしはひとつの結果を想定してひとつの行動をとっただけよ。あなたの行動があったからこそ、あの三件は引き起こされたのよ」

 春と麟、そして探偵と麟の直接対決があり、少なくとも春や冬槻が関わっていた部分についての取りあえずの全貌は明らかになりました。出来すぎなほどにすべてが繋がっていたのですね。その正体は人心をコントロールする、まさしく黒幕としか言いようのないものでした。それにしても春の何と極端なことか。終盤には、巨悪と被害者という構図だと思われていた本書に、意外な展開が待ち受けていました。第二話だけが一人称ではない理由も明らかになり、作中人物同様、笑ってしまいました。【新事実もほぼ出揃いました。鏑木青梧×奏子=理一。篁鳴征×綿引撫子=綿引笙子。篁鳴征×奏子=麟。そして綿引=東雲、(第七話にて)鏑木=唐橘。
 

「第七話 ハートランド」★★★★★
 ――多少の危険を覚悟で淑乃の誘いに乗った価値はなかった。「わたしは魔女を支持します。理想の実現を」「親の仇を討たないのか」「仇は本当に彼女でしょうか」「ほう」私は気のない相槌を打った。この女の父親。一冊のノートをあずかったばかりに。魔女の戦略は明快だ。王子と王女の心を奪い、王と王妃の首を落とせば、チェックメイト。甘く見ていた。

 エピローグのようなこの挿話にて、魔女の思惑や鳴征たちのおこなってきたことが明らかにされます。春の復讐にしても、麟の犯罪にしても、気の遠くなるような積み重ねによるものでしたが、魔女のおこなってきたことは、それと比べても何という壮大な布石でしょうか。残酷を通り越して雄大にすら感じます。

  

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2017-06-21 『巨娘』4、『Nemuki+』2017年7月号、『good!アフタヌーン』2017年

[][][]『巨娘』4、『Nemuki+』2017年7月号、『good!アフタヌーン』2017年7月号

『巨娘』(4)木村紺(講談社 good!アフタヌーンKC)
 2016年11月号(ウコ白清・日ヨ子との焼鳥対決)〜2017年5月号(不味いラーメン店クレーム対応)までが収録されています。焼鳥対決の第2回目終盤に3ページの追加あり(ほかにもあるかな?)。ジョーさんのひヨこへの評価とひヨこの二人の関係性が補足されていました。前巻では疲労で倒れたジョーさん。第4巻でも、久々登場のソボディーの攻撃を「悪くない/トオルなら倒せていたろう」と評したり、猪と一騎打ちして「さしものアタシも肝を冷やしたぞ」と正直に口にしたり、強いとはいえ完璧ではないところを見せています。
 

『Nemuki+ ネムキ・プラス』2017年7月号(朝日新聞出版)

「ことなかれ」7「激突」オガツカヅオ/星野茂樹
 連続飛び降り事件の続きです。前回の衝撃的なラスト――からの、さじはすっかり霊感体質になってしまいましたね。それにしても、事件自体は霊の仕業ではなく、自殺に見せかけた生身の人間による連続殺人だった、ということでしょうか? 同じマンション内で連続してそれはさすがに無理があるのでは……。前回あたりからりん太もさじも顔が変わって来てます。
 

『good!アフタヌーン』2017年7月号(講談社)

『十二人の死にたい子どもたち』(第1回)冲方丁×熊倉隆敏
 冲方丁の原作を、『もっけ』の熊倉隆敏が漫画化。新連載第1回目です。自殺志願者の十子ども十二人が空家となった病院に集まったが、そこにはすでに十三人目の男が死んでいた……。
 タイトルからわかるように『十二人の怒れる男』のオマージュでもあります。陪審制と同じように、予定通り自殺するもしないも十二人の全員一致が必要になります。すぐに死ぬか、死ぬ前に謎の男のことを調べるか――。多数決と話し合いが進められ……。

『ドレッドノット』(第1回)緋鍵龍彦
 就活に疲れたた詩織は、偶然会った男からバイトを紹介された。タクシー内で眠り込んでしまった詩織が目覚めると男の姿はなく、手首には機械、部屋には監視カメラ、そして鎖を引きずる音が……。
 この第1話だけなら意外性のあるホラー風味の作品になっていましたが、連載になってこれからどう展開してゆくのでしょうか。

「いそあそび」佐藤宏海
 第1回四季賞新人戦作品。磯で魚を獲る少女……。中学2年の浦島六郎は、磯で倒れている少女を見つけた。少女は元社長令嬢の村上セト。コンビニもない田舎で、人に借りを作るのを嫌って、倒れていたのだ。六郎は簡単に採れるニナ貝のことをセトに教える。

「美妙」松本勇祐
 ショート&ギャグオーディション2回目作品。いや、この企画、だめなんじゃあ。。。

「マルジュ」伊藤一角
 四季賞出身者による読み切り。警視庁捜査一課の「マル呪」に高卒で採用された小町。幽霊が見える体質を買われ、呪いによる目に見えないトラブルを解決する部署に配属された。上司である斑田は人間だというが舌が伸びるなど普通ではない。少女が連続して文字通り「消えてしまう」事件が起こっていた。

    

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2017-06-14 『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』有栖川有栖ほか(光

[]『大崎梢リクエスト! 本屋さんのアンソロジー』有栖川有栖ほか(光文社文庫)★★★☆☆

「本と謎の日々」有栖川有栖 ★★★☆☆
 ――店長は「読書なんかしないよ」と言いながら、本の知識もすごく広い。接客業のくせに明るい笑顔を作れない人だが、推理力は鋭い。「本が傷んでいた方がいい」というお客さんや、同じ本を二冊買って返品するときに「気をつけてくださいね」と言ったお客さんの謎も、たちどころに解いてしまった。

 本屋にまつわる小ネタ集。最後の二つ(ポップ消失と怪しい客)は実際にありそうでもあります。
 

「国会図書館のボルト」坂木司 ★★★★☆
 ――俺は小走りで先を急ぐ。『脱兎のごとく』いきたいところだが、悲しいかな俺は小デブの運動音痴だ。商店街の古い本屋。俺は予約していたアイドル写真集を手に入れた。その本屋は写真集のビニールを剥がしているため、中身が見放題なのだ。毛のじいさんや巨乳の兄貴やパンチラのおっさんといった立ち読み仲間もできた。だが小さな店なのをいいことに万引きするやつが絶えない……。

 個性的すぎるメンツが並ぶ町の本屋さん。「立ち読み」に目をつけた著者の目のつけどころが面白いです。そして個性的すぎるがゆえに、それが一種の目くらましになっているところも笑えました。図書館も古本屋もなしの「新刊書店」しばりの企画なのに、「国会図書館」?と首をひねるタイトルですが、実はそういう意味が込められていました――こんなきれいなオチいらないってば(^^;
 

「夫のお弁当箱に石をつめた奥さんの話」門井慶喜 ★☆☆☆☆
 ――月曜日。お昼ごはんを食べようとすると、松波さんが「あっ、おかずが二品しか入ってない」とまっさおな顔をした。その日の午後。松波さんはまったく使いものにならなかった。店内をふらふら歩きまって本を抜きだしては、「だめだ」「これもちがう」とわけのわからない独り言をつぶやいて本を閉じる。

 文体に腹が立ちます。民話みたいなタイトルなのにそのことに意味があるわけでもないのがまたむかつきます。本を読まない人でも知っているような人口に膾炙しすぎている作品を使っては面白くありません。そもそも書店員が主人公でなくても成立する話でした。
 

「モブ君」乾ルカ ★★☆☆☆
 ――冴えないスーツにメガネ。そんな風体から、美奈はその男を内心『モブ君』と呼んでいた。美奈のバイト先は北海道内に八つの店舗を持つ北洋堂書店だ。モブ君は朝の出勤時間前に雑誌を立ち読みしてゆく常連だった。美奈には一つの習慣があった。何度失敗しても成功目指してあがき続ける男の生涯を追ったノンフィクションを、本棚に確認することである。

 店員のあいだだけ(または自分のなかだけ)の名物客や、自分は大好きなのに人には伝わらない世間では評価されない本――そういう「わかる、わかる」に混じって、ちょっとつらい現実がピリリとスパイスになっていて、なのに最後にきれいごとでぶちこわしでした。
 

「ロバのサイン会」吉野万里子 ★★★★☆
 ――これが噂に聞いていた本屋か。ここでボクのサイン会が開かれるのだと、マネージャーの金井が社長に説明していた。金井はボクに大切なことを話さない。何を言ったって聞きとれやしないと決めつけている。まあ、仕方がない。ボクに話しかけるのは一緒に旅をしているADの山田ちゃんだけだ。山田ちゃんはよく本を読んでくれた。

 何とタイトルの通り、実際に驢馬のサイン会が開かれ、語り手も驢馬なのです。驢馬だからこそままならないこともありますが、驢馬だからこそ耳にできるぶっちゃけトークもありました。人間の言葉がわかるとは言っても人間と会話できるわけではなく、視点人物の役割をになっているだけで、なるようになったのは人間たちが自分たちの力でおこなったこと、というのがよいです。
 

「彼女のいたカフェ」誉田哲也 ★★★★☆
 ――「……コーヒー。ブレンドを、一つ」大学生くらいのその女性客はいつも難しそうな本を読んでいた。頭脳明晰?で美人でお洒落な感じなのに、ふとしたところで気のゆるみを見せるところまで、彼女は私の憧れだった。でも彼女が来店してくれたのは、一年にも満たない期間だった。私はバイトから正社員になり、異動先で出版社の営業マンと知り合った。

 シリーズ番外編。舞台はブックカフェ――ということで新刊本屋さんというお題をクリアしています。ずるいけどうまいセレクトです。偶然すぎる出会いも、人生に二度くらいならあってもいいでしょう。主人公が気になっているお客さんもいれば、主人公のことが気になる人もいた――という感じでゆるやかにリンクしています。
 

「ショップ to ショップ」大崎梢 ★★★☆☆
 ――待ち合わせのスタバに着くと、舟山の姿があった。「さっきまで後ろの席にいた二人づれの話が聞こえちゃったんだけどさ。鞄にいれる練習と、いれない練習。何だと思う?」場所が書店だとしたら――「まんびき」という言葉が頭に浮かんだ。

 ハリイ・ケメルマン「九マイルは遠すぎる」みたいな導入が嬉しいです。といっても語り手たちは推理に推理を重ねてゆくのではなく、ほとんど直感的に真相にたどり着いてしまいますが。あるいはシリーズものの一篇なのか、登場人物の扱いに中途半端なところを感じました。
 

「7冊で海を越えられる」似鳥鶏 ★★☆☆☆
 ――僕のバイトしている本屋には、「行儀の悪い客」もいれば、「行儀のよすぎる客」もいる。棚を並べ直してくれるのでひそかに「整理屋」と呼ばれているその一人だ。アメリカに留学することを黙っていたために喧嘩してしまった彼女が、当店で7冊の本を注文し、整理屋氏に送りつけた。何かのメッセージだと思うのだが、わからない。注文を受けた本屋ならわかるのではないかと――。

 なぜわざわざ本でメッセージを送るようなことをするのか――という理由が、もうひとつの意外性でいちおう必然性を持っていました(「犯人」は書店員だった)し、そう都合よくいくのかというメッセージの浮かび上がりかたも、露骨すぎる伏線によるキャラづけのおかげで納得のいくものになっています。が、この作者さんの「無駄さ」がどうにも苦手です。
 

「なつかしいひと」宮下奈都 ★★★☆☆
 ――ずいぶん遠くの町へ引っ越すことになった。母さんの四十九日を済ませると、僕たちは母さんの郷里へ身を寄せた。学校帰りによく外を歩いた。「前」はよく本屋に行ったものだった。ふと顔を上げると、棚の向こうに女の子がいた。「それ、おもしろいよ」彼女はにっこり笑ってそう言った。

 エリン「特別料理」は、見え見えの話を、見え見えの内容を最後まで言葉にはせずに、見え見えなのに最後まで読ませる作品でした。この話もそうしたタイプの作品でした。
 

「空の上、空の下」飛鳥井千砂 ★★☆☆☆
 ――ゴミ箱に捨てられていたのは、私の職場、右文堂書店で買われた本だった。空港ターミナル店にやって来るお客さんは、「暇つぶし」の人たちばかりだった。「これ、面白いですか?」そんな漠然とした質問をされ、思わず素っ気ない態度を取ってしまった。青くなったのは会計が終わってからだ。売上伝票は二枚とも『上』だった。

 押しつけがましい上から目線の「読書は楽しい」布教がうざくて、嫌な店員です。最後にはお客さんと仲直りして二人して自分語りが始まってしまいました。

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2017-06-13 『いなくなれ、群青』河野裕(新潮文庫nex)

『いなくなれ、群青』河野裕(新潮文庫nex)★☆☆☆☆

 ラノベや春樹キャラに特有の、哲学的名言による自分語りが延々と続くので、いらいらしてストーリーがいっさい頭に入ってきませんでした。

 11月19日午前6時42分、僕は彼女に再会した。誰よりも真っ直ぐで、正しく、凜々しい少女、真辺由宇。あるはずのない出会いは、安定していた僕の高校生活を一変させる。奇妙な島。連続落書き事件。そこに秘められた謎……。僕はどうして、ここにいるのか。彼女はなぜ、ここに来たのか。やがて明かされる真相は、僕らの青春に残酷な現実を突きつける。「階段島」シリーズ、開幕。(カバーあらすじ)

  

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2017-06-11 『武士道シックスティーン』誉田哲也(文春文庫)

『武士道シックスティーン』誉田哲也(文春文庫)★★★★☆

 アンソロジー収録の「彼女のいたカフェ」が面白かったので、ほかの作品も読んでみました。

 宮本武蔵を尊敬し勝つことだけを考えてきた磯山と、勝ち負けよりも自分のやってきたことが身についたかどうかを重視する早苗の、二人の同窓生が部活に汗を流す剣道小説。

 中学生の全国大会で準優勝だった磯山が、たかだか市民大会で負けた無名の相手――それが東松学園の「甲本」だった。東松に進学すれば、甲本と再戦できる――そう考えた磯山は、数ある推薦校のなかから、東松学園を選ぶ。

 勝負一筋磯山に対し、早苗はおっとりな……ではありません。宮本武蔵『五輪書』を読んでいる磯山に対し「へぇ……マニアだねぇ」と呟き、磯山が選んだミスドの選択に「なんか、無難を通り越してつまらないチョイス」というコメントを感じるなど、早苗は意外とふつうの女子高生です。これがただおっとりなだけの天然な女子だったなら、わざとらしくてつまらなかったろうな、と思います。とはいえ早苗の家は基本的にみんなお人好しでマイペースではあるのですが。

 磯山は「勝つこと」にこだわっているので、基本的に周りはすべて「敵」です。怒っている、わけではないのだけれど、普段からかりかりしてます。早苗にも平気で暴力をふるいます。自分が怪我をしたときに、真っ先に「周りは敵だ。さとられるな」と思っちゃうような人です。休み時間に鉄アレイを上げながら『五輪書』を読んでいるヒトですから、推して知るべしです。

 当然行き詰ります。行き詰ったあとの、吹っ切れ方が、でもやっぱりこのヒトらしい。キホン、剣道に真っ直ぐな人なんですね。

  

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