Q. 愚問を承知で伺いますが、世界最高のプレーヤーを定義するとすれば? 昨今では、メッシとクリロナが比較対象になりますが、私は異なるクラブで結果を出すクリロナに分があるという考えに傾きつつありますが、いかがでしょうか?

  • 1. まず、この「世界最高のプレーヤーを定義せよ」という質問が愚問かどうかを考えてみましょう。

これは何故愚問だとか、机上の空論だとか、個人の意見に過ぎないとされてしまうのかということですが、何がそう言わせる理由になっているのか?といえば、意見に「正統性」がない、「妥当性」がないからということに尽きるわけです。
だから個人の範囲でお話が終わってしまう。

オレの中では、誰が何と言おうと、世界最高のプレーヤーは、アレッサンドロ・デル・ピエーロなんだよ

こんな感じで。個人の主張。
この辺りの話はユルゲン・ハーバーマスのコミュニケーション理論からの援用です

コミュニケイション的行為の理論 上

コミュニケイション的行為の理論 上

この本に載っていた部分で
「評論家がオークランド・レイダースが優勝すると言うことと、一般人が同じ事を言うことでは必要なモノが違う」という感じだった文が今でも印象に残っていますからね。

ということで、正統性は何があれば充分なのでしょうか?数値や指標といった基準なのでしょうか?

 例えば、これが野球の場合、世界最高のプレーヤーを定義づける指標や数値というものが多く記録されていますね。特にマネー・ボールという本が上梓されて以来、考え方が一変したと言っても良いでしょう。ある特定のデータがチームの勝利に結びつく相関を考えた場合、打率本塁打打点といった所謂有名な数値よりも、出塁率OPS、といったもののほうが実は勝利に近づくということがわかり、加えてアメリカの野球好きの人間達が独自に指標を作って、RC27(=Runs Created per 27 outs 特定の選手1人で構成された打線で試合を行った場合、27アウト〔9イニング×3アウト=1試合〕で平均何点とれるかを算出した指標)、XR27(=eXtrapolated Runs per 27 outs こちらも特定の選手1人で構成された打線で試合を行った場合、27アウト〔9イニング×3アウト=1試合〕で平均何点とれるかを算出した指標、足し算形式感の高い指数)という指標で見れば誰が優秀な打者かの判定がすぐに着くことになったわけです。(2010年だとホセ・バウティスタという結論)
 注意しておきたいことは、この考えの問題として、特定の指標を選ぶのはよいが、守備と表裏一体の選手を攻撃面だけで決めるのはどうなのか?という点に尽きます。マネー・ボールの場合、ジョニー・デーモンを放出した後の中堅手の守備で大変頭を悩ませているビリー・ビーンオークランド・アスレチックスの部分が非常に印象的です。加えて安打や凡打といえども好い当たりだったのかどうかという数字には表れない部分の過程が全く排除されてしまうというのも問題になるわけです。数値がよいのに何故勝てない?という所謂「数字はウソをつく」点をどう頭にいれておくかという点が肝心になります。
 こういった数字などを以て、相手の理性が納得できる話をするという討議的な行為を経ることで、意見や主張に正統性を持たせることが今回のお話の鍵ですので、違う競技の話が長くなってしまいましたね。サッカーの話に戻しましょう。

 さて、この27個のアウトを9人の打順が同じ選手だとどうなるのか?という仮定で考えたことを活かした発言をした人が日本にもいました。それがイビチャ・オシムという人です。彼は当時チャンピオンズリーグを優勝して日本に来るんだったか、アジアツアーで日本に来たんだったかの、FCバルセロナというチームを評するに「11人のロナウジーニョロナウジーニョ・ガウーショ)と、11人のデコ(デコ・ソウサ)が戦ったら、後者が勝つ」という有名な発言をしました。まだマネー・ボールの概念が色々なところに浸透する前だった(発売はしてましたが)と思いますが、非常に興味深い、なんて聡明な人なんだと思わずにはいられない言葉を述べました。

マネー・ボール (RHブックス・プラス)

マネー・ボール (RHブックス・プラス)

彼がもたらした言葉でこれと同様に深い言葉は「ケミストリー」(アメリカンフットボールやバスケットボールでは使われているのは聞いたことありますし、アメリカンスポーツでは一般的に使われる言葉)、以外にありません。オシムという人は、どういうコネか知りませんが、日本人が言葉を輸入する前から海外の最先端の話を持ってきてくれる人ですね。
 
こう考えると、1人1人に対して、個人の印象に過ぎなかった選手の評価が、「11人だと仮定して話をする」という基準で評価する道筋が立てることは、評価としてそれなりに妥当すると思われます。誰が一番チームとして役立つ最高の選手なのか?という観点で見ることにしたいわけですが、それでも、まだ問題は解決しません、11人以前に1人の選手を評価する基準すらサッカーの場合ままならないのです。サッカーの公式記録は得点とファウルくらいのもの。得点数と90分あたりの得点割合しか算出できません。
マイケル・オーウェンが21世紀初頭はとにかくこの得点割合が高いアタッカーだったのは記憶していますし、ロナウドはシュート3本でハットトリックしたアトレチコ・マドリード戦などを見たら、彼らを選んでしまいたくなります。その論理だと現在最高はクリスティアーノ・ロナウドリオネル・メッシだということになるでしょうね。
サッカーの場合、それこそ数字があまり関わってこない競技なのが実情です。

しかし、得点とは違う部分にも、光を当てる必要があるのではないでしょうか?他に選手の判定を下す部分はあるはずです。ディフェンダーはどうして最高の選手を計上しないのか?誰が説明できるのでしょう?それこそアタッカーが守備が下手だから、もし11人が同じ選手だったら得点よりも多くの失点を計上して負けるのではないか?という疑問も出てきてもおかしくありません。

つまり、11人と仮定したチームを考えるために「隠れた価値」を掘り起こす作業が必要ということです。そこで、ここは私のやり方で隠れた価値を掘り起こすことで、何か指標にならないかと考えるわけです。
 一番考えやすいのは戦略的に起用できる選手というファクターです。何が大事なのかをざっと挙げますと
・トラップやパスなどのボール処理も含めてボールを相手に取られない、加えて味方の攻撃に視野が広く上手に関与する
フォアチェック、スライディング等、守備面で相手ボールのときにチームに貢献する
・戦術変更においても、困ることなく、ミスなく戦術実行ができる
・時間の使い方が上手い
といったところですね。ただこれじゃあ点数化や指標化に値するわけではありません。単に目安です。ただ、こういったことのプレーを「ファンダメンタル」と呼んだりするのも事実であります。
 このようなファンダメンタルファクターで考えられる、良さそうな選手の筆頭は、クリスティアーノ・ロナウドでもリオネル・メッシでもありません。現在の世界最高と言えそうなのはウェイン・ルーニーです。彼のプレーは全ての要素が高水準にあります。
彼が要因で失点して負けに繋がった試合というのは、監督の失策以外に言う言葉がない欧州選手権予選の大一番ロシア戦くらいしかないといえるくらいの選手です。
次いで挙げたい選手はフランセスク・ファブレガスソレール選手です。彼はチームがチームだけにタイトルには恵まれていませんが、彼の資質は類い希な選手です。
最近は優秀なディフェンダーというのもいるので気になっている選手としてフィル・ジョーンズ選手あたりは本当に11人だったら固い優秀なチームができるかもしれないとも思いますが、あんまり面白くないですね。

 残ってしまった両名について。クリスティアーノ・ロナウド選手の要因からの失点は昔からありました。有名なチェルシーとの決勝は彼がマッチアップだったから失点しています。リオネル・メッシはシステムの致し方ない弱点でもありますけれど、インテルとの試合のスナイデルの逆転ゴールはケアする立場にいたのは右ウィングのメッシ以外にいませんでした。(無茶な要求だから、その後本格的にメッシは中にコンバートされることになるわけです)
 ただ、最近野球で使われる指標の一つ、WAR(Wins above replacement 普通の選手と比べてどれだけ勝ちの計上に寄与できるか)というもの、サッカーに援用することを考えますと、得点の面ではクリスティアーノ・ロナウドリオネル・メッシも大きなアドヴァンテージがありますからね。難しいところですが。
 私がウェイン・ルーニークリスティアーノ・ロナウドリオネル・メッシのうちどれを選ぶかと言われたら迷わずルーニーと選ぶでしょうね。

2. さて、もう一点の議題であります、クリスティアーノ・ロナウドリオネル・メッシかという話にしましょう。

あまり多くリーガ・エスパニョーラを見ないので申し訳ないですが、まず比較に際して難しいのはこの両名が、同じようなポジションで活動をしているわけではない点があります。また両名の身長にかなり違いがあります。

 ただ異なるクラブでクリスチアーノ・ロナウド選手が活躍したのは事実なんですが、正直申し上げまして、マンチェスター・ユナイテッドにいた時でもある時期まで背が高くて速いウィンガーというくらいにしか考えていませんでした。しかも、往年のマルコ・オーフェルマルスライアン・ギグスに比べると何か足りない選手だとも思っていました。
尚、補足情報として、ロナウド選手はドリブルの仕掛けた数に比して、選手を抜いた数が圧倒的に少ない選手であることを書いておきます。仕掛けた回数に対して選手を抜いた比率が一番高い選手、それはメッシであり、次がロッベンリベリーと名ウィングが続きますが、ロナウドはTop10に入りません。


彼が変わるきっかけになったのは、2006年のW杯のオランダ戦の采配からです。彼がセンターフォワードでもやっていく存在であることを知った監督達が彼の起用に幅を効かせるようになって、彼の得点能力およびスピードを存分に活かし、失点関与係数よりも得点見込係数(両方とも説明のための仮の言葉)が多い選手になっていったわけです。化けたワケですね。(ユナイテッドファンとしてはウィングじゃなくて良かったということです)

 対しましてレオ・メッシという選手は、デビューのときから類い希なスピードと足技の技術を備えた選手であると同時に、4-3-3の右ウィングという絶好のポジションが彼にフィットしたわけです。彼の得点に絡む能力はおそらく世界屈指なのではないでしょうか。ただ彼はクラブチームに恵まれている故に本当に守備には期待できそうにありません。勿論身長の面でも。またアルゼンチン代表でのメッシ選手を見る限り、彼はアタッカー以外に適任がなさそうにも見えてしまうわけで先述の11人で考えると言う点では、そういったあたりの不利な材料の多い選手です。

 ただ、先ほどからの11人仮定論で考えない場合は、どちらも素晴らしい得点見込の高い選手ですから、最早、好き嫌いで決める以外にないかと思います。
「貴方が監督で、自分の好きな戦術で選手選考を行い、残り1人ストライカーとして、クリスティアーノ・ロナウドリオネル・メッシーを選びなさい」と言われたら、私は4-4-2が好きですからクリスティアーノ・ロナウドを選んでいるでしょうね。