2015-12-31
この「図鑑」に関して
この「図鑑」は「魚の中にある魚の形をした骨」、いわゆる「鯛のタイ」(他に「鯛中鯛」「鯛の鯛」などとも)の写真を集めたものです。
2013年3月現在で、紹介済みの「魚のサカナ」が (未同定魚種や、開設当初に紹介した同定が少々怪しいものも含む)を超えました。
初めの内は魚種によって形が全く違うのを見て喜んでいただけでしたが、数が沢山集まってくると、形の類似点の中に魚類の系統関係などが垣間見えたりと、非常に奥の深い「遊び」であることに気がつきました。もっと専門的かつ体系的に調査したらそれなりに面白い研究になりそうな気もしますが、ここに紹介したのは、あくまで「根っからの魚っ食いのささやかなお楽しみ」で集めたもの。今のところほとんどのものは「自分自身が食べた魚」から取り出した「魚のサカナ」です。
350エントリーを機に『50音順の索引(各エントリーへのリンク付き)』を作りました。是非ご利用下さい。もちろん上か右下のボックスからも魚名を含めた記事の内容が検索できます。また右側の『カテゴリー』欄で「目名」(魚種数が膨大なスズキ目とカサゴ目に関しては「亜目名」、更にスズキ亜目とベラ亜目に関しては「科名」もカテゴリー分けしてあります)から探すこともできます。この方法は、同じ「目(若しくは亜目/科)」に分類される魚達の「魚のサカナ」を一度に比較でき、硬骨魚類の「進化」の一端を感じられることもあって個人的には一番のおススメです。過去の記事(特に開設当時にまとめてエントリーしたもの)も、しばしば改稿したり写真を追加したりしています。宜しければ時々チェックしてみて下さい。
ちなみに筆者は魚類学の専門家ではありませんので、魚種の同定を含め、間違った情報が多々含まれていると思います(特に頻繁に変更される「分類群名」はフォローし切れていません)。何かお気づきの点がございましたら、どんな些細なことでも構いませんので、コメント欄、もしくはプロフィール欄に書いてあるメールアドレスからお気軽にご連絡頂けると有り難いです。宜しくお願いします。
尚、食味等に関するコメントはあくまで私見ですのであしからず。
トラックバックやコメントは大歓迎です。またこの図鑑(http://d.hatena.ne.jp/fishinfish2010/)自体へのリンクも原則的にフリーですので、ご自由にどうぞ。但し写真や文章の著作権は管理者であるfishinfish2010に帰属します。無断複製および流用はご遠慮下さい。特に営利目的の商業利用は固くお断りします。
多くの写真にサイズマーカーとして写り込んでいる爪楊枝の先端の『玉』部分の長さが約2.5mmです。それでは「魚のサカナ」の形のバリエーションを存分にお楽しみ下さい。
05/02/13 -「373: シマフグ」 04/04/13 -「372: クエ」 03/21/13 -「371: スマ」 03/14/13 -「370: ハガツオ」 03/08/13 -「369: ミギガレイ」 03/07/13 -「368: ホウセキキントキ」 03/06/13 -「367: ユウダチタカノハ」 03/05/13 -「366: ツムブリ」 03/04/13 -「365: オヒョウ」 03/02/13 -「364: イスズミ」 | 03/08/13 -「093: ヤナギムシガレイ」 03/08/13 -「042: ウサギアイナメ」 02/26/13 -「026: キンメダイ」 02/22/13 -「214: フウセンキンメ」 02/06/13 -「051: ブリ」 02/06/13 -「103: ヒラマサ」 11/12/12 -「039: オニオコゼ」 11/05/12 -「056: マハタ」 11/04/12 -「022: サケ」 10/04/12 -「033: ユメカサゴ」 |
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○「魚のサカナ」(と関連する語句)に関してもっと詳しく知りたい方はこちらへ。
○ 魚種の同定に用いた資料と記事内の記号などに関する情報はこちらへ。
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2013-05-02
373: シマフグ
フグ目フグ亜目フグ科トラフグ属
学名:Takifugu xanthopterus (Temminck and Schlegel)
英名:Striped puffer [原], Yellowfin pufferfish, Yellowfin puffer
地方名おまん(福岡県/山口県)、さばたろう(サバ太郎/島原)、きたまくら(北枕/九州・関西各地。ただし標準和名キタマクラとは別の魚)、おやま(明石)など。長崎県産の全長40cm程の活け個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「縞河豚のシマフグ」は、肩甲骨孔(写真では一番下にある下部が閉じていない孔)と、その上にある大きな射出骨の間隙にできる3つの孔の計4つの孔が並ぶという、これまでに紹介してきた全てのフグ科の「魚のサカナ」で見られた最大の特徴をやはり共有している。またこれらの孔の径は比較的大きめで、肩甲骨孔の直上(下から2番目)にあるものには薄膜が広がっている。「魚のサカナ」全体で見ると、左右方向に短めで『体高』が高い、いわゆる『おにぎり』型。烏口骨の『嘴』部分は短い。
烏口骨上方の突起(『背鰭』に相当)は比較的がっしりとした『槍』型。第4射出骨の後縁の一部が垂直方向に立ち上がるのもフグ科の「魚のサカナ」で頻繁に見られる特徴の1つ。
特徴的な体側の模様や鮮やかな黄色の鰭からシマフグ以外には考えられない個体であったが、念のため『日本産魚類検索 第2版』を開き、1)体に通常側線がある、2)体の断面は丸い、3)体表の背面(写真中段右の緑四角)と腹面(同赤丸)に小棘の分布域があるが、両者は連続しない、4)尾鰭後縁は截形(写真下段右)、5)鼻孔は2個、6)背鰭は17軟条(写真下左)、7)臀鰭は14軟条(写真下右)、8)体背部の斑紋は斜走帯(写真下段左)、9)胸鰭後方は暗色の斜走帯(写真中段右/1暗色斑ではない)などの形質を確認してシマフグであると判断(なお検索形質は第3版でも変更なし)。写真上段の全身像は、店頭の秤の上で撮影させてもらったものを「白背景」になるように処理してある。
ちなみに黄海〜南シナ海にはシマフグに外見が良く似たフタツボシフグ Takifugu bimaculatus (Richardson) が生息しているが、こちらの種は身/皮膚/精巣なども『有毒』である。今のところフタツボシフグは日本沿岸には生息しないとされているが、近年の地球温暖化のせいか、本来は南方にしかいなかったはずの魚種の生息域がより北方に伸びているという報告も相次いでいるようなので、十分注意されたい(フタツボシフグの外見に関してはこちらおよびこちらを参照/『検索』的には、フタツボシフグには胸鰭後方に1暗色斑があることでシマフグと見分けられるとされている)。
冬場に博多辺りで出回るシマフグは、特にこの時期に超高級魚となるトラフグと一緒に漁獲されたものがほとんどとのことだが、そのキロ単価はトラフグのそれと比べると段違いに安いことから、現地では『庶民のフグ』の一つとして楽しまれている。さて、今回の個体は、2012年12月に福岡市の「たべごろ百旬館ふくや」の鮮魚コーナーで購入したもの(当日はキロ2,500円/0.6kg)。店頭での写真撮影も快諾して頂き、その後同店のふぐ調理師に「身欠き」にしてもらい持ち帰ったもの。まずは2枚に下ろして半身は刺身に。ネット上では水っぽいという記載を良く見かけるが、実際にはそれほどでもなく(あくまで主観的なものだが)、歯応えがあるモッチリとした身。さすがにトラフグの「魔性の味」には敵わないものの、十分満足できる旨味・甘味を感じる。骨付きのもう半身はブツ切りにし、醤油/みりん/ニンニク/ショウガで軽く下味を付けて唐揚げに。食感も良くかなりの美味。
なお、厚生省環境衛生局長通知(最終改正は平成22年9月10日)「フグの衛生確保について」では、プロのふぐ調理師が処理したシマフグの筋肉(骨を含む)・皮膚(鰭を含む)・精巣は販売可能とされている。ご参考までに。
2013-04-04
372: クエ
スズキ目スズキ亜目ハタ科ハタ亜科ハタ族マハタ属
学名:Epinephelus bruneus Bloch
英名:Kelp grouper [原], Yellow grouper, Longtooth grouper, Mud grouper
地方名/流通名あら(九州地方/マハタなどの大型ハタ類の総称としても使われる。ただし標準和名アラは同じハタ科の別の魚)、もあら(藻アラ/長崎県)、もろこ(関東地方/特に伊豆諸島の釣り人が使用)、くえます(三重県),きょうもどり(和歌山県)など。
今回紹介するのは長崎産の天然個体の「あら」から摘出した左右の「魚のサカナ」(故に正確な全長は不明だが、ざっと見積もって60~70cmといったところか?)。左側の標本は射出骨付き。写真右は、写真左の右側の標本を拡大したもの。「九絵/九繪/垢穢のクエ」は、肩甲骨前縁が垂直に近く、肩甲骨と烏口骨本体を合わせた部分が角張った形状、烏口骨上方と射出骨の上縁が作るラインが一度下方に落ち込んでから烏口骨の上方突起部(『背鰭』)が立ち上がる、烏口骨下部が大きく湾入するなど、ハタ科の「魚のサカナ」の中でも特にマハタ属のものに典型的な特徴を有している。ただし、1)全体的に横長な印象、2)肩甲骨孔は比較的小さい、3)烏口骨の『背鰭』部は立派に立ち上がるが、その前縁は曲線的、4)『背鰭』部の上縁は非常に緩やかな曲線を描く、5)烏口骨下部の湾入部は直角に近いという形質の『組み合わせ』は、今のところ「九絵のクエ」に特徴的なもの。
マハタ属の「魚のサカナ」では烏口骨の『背鰭』部分が湾曲しながら大きく立ち上がるものが多く、「九絵のクエ」ではその湾曲の度合いが比較的大きい。また烏口骨の『背鰭』部分には「成長線」と思われるものがはっきり確認できる。
今回のサンプルは、頭/胸部/中骨(尾柄部より前側)のみの入手したところから摘出したものなので、「尾鰭後縁の形状」や、このサイズのクエならば体側に存在すると考えられる「傾斜した6~7本の暗色横帯」などは残念ながら確認不可能。ただし『日本産魚類検索 第2版』の検索キーである、1)背鰭棘数は11(写真中段左)、2)臀鰭軟条数は8(写真下段右)、3)背鰭棘条数は前方で少し高くなる(写真中段左)、4)頭部から体にかけての斑紋は弧状ではない(ように見える/写真上段左右:イヤゴハタやホウキハタではない)、5)頭部・体・鰭・鱗などの色や模様が、カケハシハタ/ナミハタ/ハクテンハタ/キジハタ/アカハタ/ホホスジハタ/シモフリハタ/オオスジハタのものとは異なる、6)体に暗色斑点がない(ように見える)こと、また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)下顎歯は大きく、側方で2列に並ぶ(写真下右)、8)前鰓蓋骨の縁辺は丸く、後下縁の鋸歯は大きい、9)鰓蓋骨に3本の棘があり、中央の棘は下方の棘に近い(写真下左)などの形質が確認できたことなどから、やはりクエと判断して問題なかろうと考えた(もちろんこの判断が誤りである可能性もあるので、専門の方のご意見を伺いたいところ)。
ちなみに、クエとヤイトハタの交雑種の頭部(特に頬部や鰓蓋)には、クエの体色を背景にヤイトハタの特徴である多くの黒斑が現れる(『遊魚漫筆』の『九絵「孤高の怪物」その未来』を参照)とのことだが、今回のものにはそのような斑点は見られなかった。またクエは、他の多くのハタ科の魚と同様に雌性先熟の性転換を行うとのこと。つまり大型のクエ個体は雄である可能性が高いこととなる。
2012年12月に福岡天神にある「魚の北辰」博多大丸店の店頭でザルの上に盛られていたもの(頭/胸部/中骨)。特に鍋のシーズンである冬場は需要と供給のバランスが大きく崩れており、キロ単価が1万円を超えることも珍しくないという超高級魚。今回値段を聞いたら「1,500円」とのことだったので即購入(ちなみに当日別の店では同じような「あら」を3,000円程度で売っていた)。実際予想以上に可食部分があり、個人的にはかなりお買い得と思った次第。頭とカマ部分は酒を少々入れた昆布出汁で炊いてポン酢で。弾力のある身には旨味がたっぷり含まれている。脂が乗った皮目のトロットした、また唇の少々コリットした食感も心地よい。全ての骨をしゃぶり尽くして大満足。中骨部は塩焼きに。弾力がありながらもしっとりした食感を併せ持つ身には脂がたっぷり乗り、旨味/甘味を非常に強く感じる。文句なしの旨さ。
将来的には丸一本購入して本稿も改稿したいところだが、、、
2013-03-21
371: スマ
スズキ目サバ亜目サバ科マグロ族スマ属
学名:Euthynnus affinis (Cantor)
英名:Yaito tuna [原], Kawakawa, Black skipjack, Eastern little tuna, Mackerel tuna, Yaito bonito, Dwarf bonito
地方名/流通名やいと(『新訂原色魚類大圖鑑』では別名扱い)、ほしがつお、うぶすかつ、おぼそ、あせかつ、ひらがつお、わたなべ(胸鰭の下の小黒斑を、渡辺家の家紋である「三ツ星一文字・通称『渡辺星』」に準えたものなのだとか)など。韓国済州島産の全長約51cmの雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外す前に、反対側から撮影しておいたもの。
「須万/須萬のスマ」は、細長い肩甲骨、立派に突き出した烏口骨上方の『背鰭』部、烏口骨本体と『嘴』部の間の湾入部などの形状的な特徴から、一見してスズキ目サバ亜目の「魚のサカナ」であることが推察できるもの。特に肩甲骨は非常に細長く、これまでに紹介したものの中では体色の良く似たソウダガツオの仲間(マルソウダ、ヒラソウダ)のものに良く似た印象。ただし「須万のスマ」は、ソウダガツオの仲間のものと比べて 1)烏口骨本体と『嘴』部の間の湾入部がかなり深く、2)『嘴』部がより直線状である。
また「須万のスマ」の烏口骨『嘴』部の根元近くには比較的大きめの孔が開いている(写真上赤丸)。
胸鰭下に特徴的な小黒斑があることからスマであると判断できたが、一応「日本産魚類検索 第2版」のサバ科の同定の鍵を辿り、1)体は紡錘型であまり側扁しない、2)両顎歯は微小(写真中段右)、3)腹鰭の大きさは普通(写真下左)、4)第1背鰭と第2背鰭はよく接近する(写真下段左)、5)側線は1本(写真下段左)、6)体は胸甲部を除いて無鱗、7)第1背鰭は前端で高くなる(写真下段左)、8)腹鰭間突起は2尖頭、9)側線は著しく波打たない(写真下段左)、10)胸鰭体側下部に数個の小黒斑がある(写真下段右)、11)口蓋骨に歯がある(写真中段右の緑丸)などの形質を確認した。また体側上部後半には多くの暗色斜帯がある(写真下段左)。ちなみにこの個体の小離鰭数は、背側が8/腹側が7であった。
2012年12月に福岡市の渡辺通にある「たべごろ百旬館ふくや」の鮮魚コーナーで購入(当日は1本2,000円)。店頭表示は「済州島産ヤイト」。厳密には「輸入魚」ではあるものの、地理的には福岡県から至近と言える韓国済州島産であることから鮮度的には全く問題なし。まず3枚に下ろし刺身に。少々柔らかめだが、繊維はしっかり結合している(故にハガツオほど身崩れしない)ために、歯で噛み切る時にはシコッとした食感がある。身の色はハガツオ同様に薄い(写真上右)が、血合いはハガツオよりも大きめ。ただしカツオほど血の味は感じない。また酸味も余りない。脂は皮目を中心にかなり乗っているが、嫌みは全くない。身に含まれる旨味は多く、非常に美味い。次いで「あら」と身の一部を煮付けに。口の中では繊維質の身が崩れるのを感じるが、パサつく感じはない。旨味は文句なし。また皮目の脂の乗った部分がとろっとして美味い。一部は「なまり節」に。カツオの「なまり節」を更に上品にしたような印象。やはり旨味は多い。最後に冷凍しておいた「柵」をブツ切りにし、塩コショウを振った後に片栗粉をまぶして唐揚げに。しっとりとした食感で非常に美味い。
2013-03-14
370: ハガツオ
スズキ目サバ亜目サバ科サバ亜科ハガツオ族ハガツオ属
学名:Sarda orientalis (Temminck and Schlegel)
英名:Striped bonito [原], Oriental bonito, Indo-Pacific bonito
地方名きつね、きつねがつお、さばがつお、しまがつお(ただし標準和名シマガツオは別の魚)、すじがつお、すじまんだら、はあがつ、ほうせんなど。今回紹介するのは長崎県産の全長約53cmの雌個体(小さい卵巣を確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外して、反対側から観察したもの。「歯鰹のハガツオ」は、スズキ目サバ亜目の「魚のサカナ」としては比較的薄手であるが、肩甲骨が細長い、烏口骨上方の『背鰭』部が立派に突き出す、烏口骨本体と『嘴』部の間が深く湾入するなど、この亜目の「魚のサカナ」の特徴を共有している。これまでに紹介したものの中では、マグロの仲間(クロマグロ、ビンナガ、メバチ、キハダ)やカツオのものと良く似た(反対にマルソウダやヒラソウダのものとはかなり異なる)印象。ただし「歯鰹のハガツオ」では、肩甲骨孔がかなり小さい。また本稿の標本では、烏口骨の『嘴』部の先端が『針』のように尖っている。
ハガツオの「魚のサカナ」の烏口骨『嘴』部背側は中程で『庇』のように折れ曲がる。そのために写真上の方向から観察すると「幅広」に見える。
特徴的な面構えと体色なので、店頭で見た瞬間にハガツオであることを確信したが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のサバ科の同定の鍵を辿り、1)体は紡錘型でやや側扁する、2)両顎歯は強い(写真下左右)、3)腹鰭の大きさは普通(写真下段右)、4)第1背鰭と第2背鰭はよく接近する、5)側線は1本(写真中段右の赤矢印)、6)体は全て小鱗に被われる(写真下段左)、7)体側上半部に縞模様がある(写真中段右)、8)鋤骨に歯がないなどの形質を確認してカツオであると判断。
2012年12月に博多を訪問した際に、柳橋連合市場内の竹森鮮魚店で購入(当日はキロ1,800円/1.7kg)。ネット上の情報でも「鮮度が重要」と良く書かれているが、今回の個体は色つやも良く、鰓は粘りも全くない鮮紅色という明らかに新鮮な個体。それでも身は柔らかめで、身割れしやすいので下ろす時には注意が必要。カツオなどとは全く異なるピンク掛かった白っぽい色の身(写真下の断面に注目)で、血合いはあまり大きくない。まずは刺身に。さっぱりした酸味の中に確かな旨味が感じられる。皮目には脂ものっているが、軽い風味なのでいくらでも食べられてしまう。無理矢理に例えるならば、脂の乗りがほどほどのビンナガ、もしくは逆に脂の良く乗った「黄メジ」(小型のキハダ)といった感じか。文句なしの美味。一部は「なまり節」に。身はやはり柔らかめだが、旨味甘みを強く感じる。続いて煮付け。ホワホワした食感になるが、脂の乗りが良いのでパサ付く感じはない。旨味も多い。最後にしばらく冷凍にしておいた「サク」をブツ切りにして唐揚げに。冷凍にしたせいなのか繊維質が強くなっているような印象。ただし旨味の多さは変わらない。結論としては、どの料理にしても非常に美味い魚。
2013-03-08
369: ミギガレイ
カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科カレイ亜科ミギガレイ属
学名:Dexistes rikuzenius Jordan and Starks
英名:Rikuzen sole [原], Rikuzen flounder
地方名めだまがれい、にくもち/にくもちがれい(肉持ちガレイ・福島県)、あなねばち(丹後地方)など。いわゆる「左ヒラメに右カレイ」とは関係なく、こちらは標準和名がミギガレイである(ちなみに標準和名ヒダリヒラメは存在しない)。新潟産の全長約26.5cmの雌個体から摘出した「魚のサカナ」。上が有眼側の、下が無眼側の標本。
有眼側(左)および無眼側(右)の標本を写真上とは反対側から観察。「右鰈のミギガレイ」は、一見してカレイ目の「魚のサカナ」であることが分かるもので、これまでに紹介してきたものの中では、同じカレイ亜科のクロガレイ(特に有眼側の前半分)やアサバガレイ(有眼側の後半分と無眼側)のものに良く似た印象。特にアサバガレイのものとは、無眼側の標本の烏口骨本体後下部と『嘴』部の間に骨梁の浮き出た小さな突出部が存在するという共通点もある。ただし、肩甲骨前縁、肩甲骨孔(ミギガレイのものは細長い)、烏口骨の『背鰭』に相当する部分の高さ、そこから『嘴』部にかけての湾入部の形状と位置、『嘴』部の先端の『針』の長さなど、各パーツごとにじっくり比較するとやはり多く(些細なものも含めて)の相違点に気付かされる【注】。
「日本産魚類検索 第2版」のカレイ科の同定の鍵を辿り、1)眼は体の右側にある、2)有眼側の体にイボ状突起がない(写真下段右)、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真下段右)、4)歯は小円錐状で、有眼側での発達が悪い(写真下段左)、5)口は小さく頭長(5.0cm)は上顎長(1.3cm)の約3.8倍(3.2倍以上)、6)体は楕円形、7)背鰭は74(文献値51~81。以下同)軟条、臀鰭は60(38~65)軟条、8)体は鱗に被われ、石状骨質板はない(写真下段右)、9)眼上に鱗がある(写真中段右)、10)側線鱗数は67(57~67)、11)側線はほとんどまっすぐ(写真下段右)などの形質からミギガレイであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』のミギガレイの項に記載されている、12)眼隔域は狭く、隆起する(写真中段左)、13)有眼側の上顎骨後端は下顎の前縁下に達する、14)鱗は剥がれやすく、有眼側は櫛鱗(写真下左の左側)で無眼側は円鱗(同右側)、15)背鰭と臀鰭に褐色の斑点がある(ように見える)などの形質も確認。またミギガレイの下顎の中央部には骨質の突起がある(写真下右の赤丸)。
雰囲気の良く似たヤナギムシガレイとは、背鰭と臀鰭の軟条数、側線鱗数(鱗の大きさ)、歯の形状、そして無眼側から見た時の上眼の位置などで見分けることが可能【参考】。
2012年11月に角上魚類日野店で購入(当日は大小6匹計0.74kgがトレイに盛られて250円。上で紹介したのはその中で最大の個体)。店頭表示も「みぎがれい」。福島などで「肉持ちガレイ」とも呼ばれるだけあって、確かにサイズに比して肉厚。今回は3匹ずつ塩焼きとムニエルに。超新鮮な個体という訳ではなかったが、塩焼きにしても生臭みのようなものは全く感じない。少し焦げた皮目からは食欲をそそる香りが立つ。しっとりとした舌触りの身が口の中でさらりとほぐれる時には確かな旨味を感じる。ギラギラするほどの脂の乗りや、溢れるほどの旨味などとは無縁だが、全体的な味のバランスが良いので、食後には「ああ旨いカレイを食べたなぁ」という満足感が残る。美味。塩焼きにして旨い魚がムニエルにして不味いはずはない。こちらも当然美味。可食部の多さ、値段からもコストパフォーマンスは高い。またミギガレイの煮付けもなかなか美味いので、機会があったら是非お試しを。
【注】ここで問題点を1つ。実はしばらく前から「カレイ科」のエントリーの改訂作業を少しずつ進めているのだが、その過程でこの科の「魚のサカナ」の形状には、どうやら同種内でも個体や産地によって「個体差」がかなり見られる(少なくともその傾向がある)ことが段々明らかになってきた。つまり上記したような「魚のサカナ」の形状の相違点は、必ずしも「種」の違いを反映しているものではなく、もしかしたら「個体差」程度の違いを見ているだけなのかも知れない。今後は可能な限り複数の個体からの標本を見比べて行こうと思っているが、カレイ科の「魚のサカナ」の形状に関する説明文は、あくまで「参考程度」のものであるとしてご覧頂けたら幸いである。
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【参考】ミギガレイとヤナギムシガレイの見分け方
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ヤナギムシガレイとムシガレイ、あるいはヤナギムシガレイとヒレグロを見分ける方法に関しては、色々な書籍やネット上でも言及されているのを良く見かける。ところが、分類されている「属」は異なるにもかかわらず、体色/体形をはじめとした全体的な印象が良く似ているために、実際にしばしば混同されてしまうのがヤナギムシガレイとミギガレイである(筆者自身も見分け方を習得するまでには少々時間を要した)。ということで、以下に両種の見分けに役立つポイントをまとめてみた。
| 全体像(有眼側) | ![]() | ![]() |
| 全体像(無眼側) | ![]() | ![]() |
| 頭部(有眼側) | ![]() | ![]() |
| 頭部(無眼側) | ![]() | ![]() |
| 鼻腔 | ![]() | ![]() |
| 歯 | ![]() | ![]() |
| 側線 | ![]() | ![]() |
| 鱗 | ![]() | ![]() |
| 背鰭軟条(後部) | ![]() | ![]() |
ミギガレイとヤナギムシガレイを並べて比較すると、ヤナギムシガレイの方が明らかに体高が低く細長い(写真1および2段目左右)。本文中にも記した通り、身はミギガレイの方が厚い。ただし、どちらかの種が単独で店頭に並んでいたら、見分けるのはなかなか難しいはず。またミギガレイの方が背鰭や腹鰭の軟条数が明らかに少ない(ミギガレイは文献値で背鰭軟条数が51~81、臀鰭軟条数が38~65。ヤナギムシガレイはそれぞれ84~102、72~81であるとされている)。「めだまかれい」という地方名の通り、ミギガレイの方が眼は大きい(写真3段目左右/ヤナギムシガレイも小さくはないが)。ちなみに両種とも眼の上に小さな鱗がある。ヤナギムシガレイでは、上眼が背縁に近いために、無眼側を上にして置かれていてもその一部が見えることが多い(写真4段目右の赤丸/ただしこの個体ではあまり見えていない)。前鰓蓋骨の後縁はミギガレイでは直線的で確認しやすいが、ヤナギムシガレイでは丸みを帯びあまり明瞭ではない。ミギガレイの鼻腔は、大きな穴のように陥没している(写真5段目左の赤丸)が、ヤナギムシガレイの鼻腔はさほど目立たない(写真5段目右)。ミギガレイの歯は小円錐状だが、ヤナギムシガレイのものは門歯状(写真6段目左右)。両種とも側線はほぼ直線状(写真7段目左右)だが、側線鱗数はミギガレイの方が57~67と少なく(ヤナギムシガレイでは85~100)、それに合わせてミギガレイの方が鱗が大きい(写真7および8段目左右)。またミギガレイの鱗の方が剥がれやすい傾向があるとのこと。ヤナギムシガレイでは、背鰭/臀鰭の後方8~9軟条の先端が分枝するが、ミギガレイではそのようなことはない(写真9段目左右)。以上ご参考までに。
2013-03-07
368: ホウセキキントキ
スズキ目スズキ亜目キントキダイ科キントキダイ属
学名:Priacanthus hamrur (Forsskål)
英名:Duskyfin bulleye [原], Moontail bullseye, Lunar-tailed glasseye, Goggle eye, Crescent-tail bigeye, Black-spot big-eye
地方名きんとき(他のキントキダイ属魚種との混称)、かげきよ(他のキントキダイ属魚種との混称)、かねひら(高知)、うまぬすっと(福岡)、きんめだい(九州/もちろん標準和名キンメダイは別の魚)、じゅさかーひーちー(沖縄)、いちぐさらー(沖縄)など。千葉県館山産の全長約19cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。
「宝石金時のホウセキキントキ」は、これまでに紹介してきた2種のキントキダイ科の「魚のサカナ」の中では、チカメキントキのものにより似ている印象だが、1)肩甲骨孔が丸くて大きい、2)烏口骨『背鰭』の前縁が本体に対してより垂直に近い方向に立ち上がる、3)烏口骨本体の下部後縁が鋭角に尖る、4)烏口骨の『嘴』部がより幅広いなどの相違点を挙げることができる。
『日本産魚類検索 第2版』のキントキダイ科の『同定の鍵』を辿り、1)体長(15.8cm)は体高(5.5cm)の2倍より大、2)背鰭に欠刻がない(写真中段右)、3)側線有孔鱗数は約80、4)腹鰭は普通サイズで、その後端は臀鰭基底部にかろうじて達する程度(写真下段左の緑丸)、5)尾鰭は比較的深い湾入型(写真下段右/この個体では上下両葉端が伸びているかどうかの判断は難しいが、『海の魚大図鑑』によれば、本州沿岸に生息するものはあまり伸びない傾向があるとのこと)などの形質からホウセキキントキであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている 6)口裂は垂直に近く、下顎は上顎より長い(写真中段左)、7)両顎、口蓋骨、前鋤骨に絨毛状突起、8)後鼻孔は前鼻孔より大きい(写真下左)、9)前鰓蓋骨後縁に鋸歯(写真下右)、10)鱗は粗雑な櫛鱗で小さいなどの形質も確認した。
また今回の個体では、胸鰭が淡色(写真下右)で腹鰭の基部に1黒色斑がある(写真下左)が、これらは『魚類検索』では、ミナミキントキやアカネキントキの「検索キー」の1つとされるもの(ただしホウセキキントキが「枝分かれしてから」のキーである)。とは言うものの、臀鰭は湾入型、背鰭前方に黒点がない、有孔側線鱗数が約80と多い、鰓耙数が 5+10、更には各鰭に斑紋がなく、側線上には特徴的な模様があることなどを総合的に判断すると、やはりホウセキキントキという判断で問題ないと思われる。
前々および前エントリーのツムブリとユウダチタカノハと同様に、2012年11月に八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産が仕入れてきた千葉県館山産の「入り会い」のトロ箱の中で見つけたもの(当日はキロ600円/体重測定は失念。ちなみに当日ピックアップした魚の「魚のサカナ」の紹介は本稿にて打ち止め)。先の2種(実際はアイブリを含めた3種)同様にまずは生で試食。身質は良く、旨味甘味を強く感じる。この魚も残りは干物に。焼いた後もキメの細かいしっとりした身質で、こちらも旨味甘味を強く感じる。立ち上る風味も良い。今回食べ比べた『雑魚』4種の干物の中では文句なしに一番美味かった(個人的な評価では、美味い方からホウセキキントキ>>アイブリ>ツムブリ>>ユウダチタカノハの順)。
2013-03-06
367: ユウダチタカノハ
学名:Goniistius quadricornis (Günther)
英名:Blackbarred morwong [原]
文献やネット上では、ひだりまき/てっきり/からす/きこり/たかのは/からす等の地方名が見つかるが、ほぼ全てが同じタカノハダイ属のタカノハダイやミギマキと区別されずに使われていると思われるもの。
さて今回紹介するのは、千葉県館山産の全長約19cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。大きな射出骨付き。写真右は、写真左の標本から射出骨を外し、反対側から観察したもの。「夕立鷹之羽/夕立鷹羽のユウダチタカノハ」の形状は、事前の予想を遥かに上回り、近縁のタカノハダイのものと「ほぼ同一」と言えるもの。もちろん両者を詳細に比較すれば 1)肩甲骨孔がわずかに小さく、より丸い印象、2)横から撮影した写真では、烏口骨上方の『背鰭』部が多少低く、より太く見える、3)烏口骨下部の湾入部がより緩やか、4)烏口骨の『嘴』部が多少太い印象、5)のキールの上の平たい突出部がより大きいなど、極めて些細な相違点をいくつか挙げることはできるが、実際のところ同種内の『個体差』としても十分観察できそうな程度の違いでしかない。
「夕立鷹之羽のユウダチタカノハ」の烏口骨上方の『背鰭』部は、肩甲骨と烏口骨本体部が作る平面に対して斜め上方向に立ち上がるが、これは「鷹之羽鯛のタカノハダイ」でも見られていた特徴。
日本近海に生息するタカノハダイ科の魚は、タカノハダイ/ユウダチタカノハ/ミギマキの1属3種のみなので、同定は比較的容易。尾鰭に水玉模様があればタカノハダイ、尾鰭が濃黄色と黒のツートンカラーで、体側が濃い黄色で、唇が赤く、頭部の横帯が3本ならばミギマキ、尾鰭が白から淡黄色と黒のツートンカラーで、体側が白から淡黄色、唇は赤くなく、頭部の横帯が2本ならばユウダチタカノハである。
本稿の魚はその特徴からほぼ間違いなくユウダチタカノハであったが、念のため『日本産魚類検索 第2版【注】』のタカノハダイ科のページを開き、1)尾鰭は上葉が白く、下葉が黒い(写真下右)、2)口唇部は赤くない(写真中段右)、3)眼を通る黒褐色斜帯は胸鰭基部に達しない(写真中段左)、4)背鰭は17棘28軟条(写真下段左右)などの形質からユウダチタカノハであると判断。ただし本稿の魚の臀鰭は3棘8軟条(写真下左)であり、ミギマキ/タカノハダイのそれと同じ数となっている。
更に『新訂原色魚類大圖鑑』に記載された、5)体は三角形で側扁、6)後頭部は盛り上がり、背鰭棘条部はほぼ直線状、軟条部はなだらかに傾斜する(写真中段左および写真下段左右)、7)腹縁はほぼ平坦、8)口はやや下向きで唇は厚い(写真中段左右)、9)両顎歯は小さくて先端は尖り、やや幅広い歯帯をなす(写真中段右)、10)外列歯は大きい(写真中段右)、11)背鰭の棘条部と軟条部の基底長はほぼ等しい(写真下段左右)、12)胸鰭の下部軟条は肥厚し長く伸びる、13)背鰭と臀鰭の基底に鱗鞘(りんしょう)がある(写真下段左右および写真下左/写真下左が分かりやすいが、鰭の根本に鱗でできた『鞘(さや)』があることに注目)、14)体色は淡灰褐色をなし、幅広い黒褐色斜帯が走るなどの形質も確認した。
2012年11月に八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産で購入(当日はキロ600円/約0.1kg)。前エントリーのツムブリと同様、この魚も千葉県館山産の「入り会い」からピックアップしたもの。尾ひれ下葉の一部が欠損している。下ろしている時には腸からの悪名高き「におい」を感じたが、これを取り除いた身の方は臭いに関しては全く問題なし。まずは一部を生で試食。身質は悪くないが、如何せん旨味をほとんど感じない。残りは立て塩に30分ほど浸して干物に。これを炙ったものの身質もやはり悪くない(連れ合いは「キスに近い?」)が、やはり旨味がほとんど感じられない。季節/サイズ/鮮度など色々な要因はあるとは思うが、今回の個体に関しては「以前食べたタカノハダイの方が明らかに美味い」というのが我が家の結論。
【注】2013年2月26日に遂に出版された『日本産魚類検索 全種の同定 第3版』(『第2版』から約350種増の4213種類を掲載だそうです)は、筆者も東海大学出版会のサイトで注文済みだが、どうやら注文多数で(そりゃそうだ)手元に届くまでにかなり時間が掛かりそうな情勢、、、ということで、少なくとも現時点で既にストックされている(つまり『第2版』の検索キーで同定済みの)エントリー#400近くまでは『第2版』を元に記事を執筆する予定。またこれまでの記事の内容も『第3版』に合わせておいおい改訂しようと思ってはいるが、本「図鑑」もエントリー数がそれなりに多くなっているので実際どこまでやれるやら、、、
2013-03-05
366: ツムブリ
スズキ目スズキ亜目アジ科ブリモドキ亜科ツムブリ属
学名:Elagatis bipinnulata (Quoy and Gaimard)
英名:Rainbow runner [原], Rainbow yellowtail, Hawaiian salmon
地方名は多く、ネット検索で簡単に見つかるもので、つんぶり(千葉)、つんぶい(伊東)、すぎ(伊豆諸島/ただし標準和名スギとは別の魚)、おきぶり(三重/和歌山)、まるばまち(和歌山)、きつね(高知/ただし「きつね」とも呼ばれるハガツオとは別の魚)、いだ(愛媛)、うめきち(鹿児島)、ちょかきん(鹿児島)、とりかじまわし(鹿児島)、やまとながいゆ(沖縄)など。千葉県館山産の全長約30cmの小型個体から摘出した左右の標本。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。エタノール固定中に少々黄変してしまった。
「錘鰤/紡錘鰤/頭鰤のツムブリ」は、これまでに紹介したアジ科の「魚のサカナ」の中でも、やはり同じような紡錘型の体を持つアジ科ブリモドキ亜科、特にブリ属のヒラマサ、カンパチ、ブリのものに良く似ている。肩甲骨孔は大きく、肩甲骨の形状自体もほとんど変わらない。ただしツムブリのものでは、1)烏口骨の左右の幅が短いために寸詰まりな印象を与える、2)烏口骨本体の後下部が鋭角的に、比較的深く湾入する、3)烏口骨上方の『背鰭』部先端は丸みを帯び、そこから『嘴』部に向かう上縁のラインが曲線的(これらの点ではブリのものに似る)など、ブリ属の「魚のサカナ」との間にはいくつかの相違点が認められる。
特徴的な体色と体形から一見してツムブリであることが確実な個体であったが、念のため『日本産魚類検索 第2版』のアジ科の検索キーを辿り、1)腹鰭がある、2)背鰭棘部は皮下に埋没しない(写真中段右)、3)側線に稜鱗がない、4)背鰭軟条部(写真下段左の赤線)は臀鰭軟条部始部(同緑線)よりもはるかに前にある、5)背鰭棘間は鰭膜で連続する(写真中段右)、6)尾柄部に小離鰭(各2軟条)がある(写真下段右の紫四角)などの形質からツムブリであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載された、7)臀鰭前方に1本の遊離棘条がある(写真下左の青丸)、8)尾鰭は深く2叉する(写真下右)、9)尾柄部上下に各1欠刻がある(写真下段右および写真下右)などの形質も確認した。
2012年11月に八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産で購入(当日はキロ600円/約0.2kg)。店頭に置いてあった千葉県館山産の「入り会い」からピックアップした数種類の魚の内の1匹。2011年5月に沖縄県那覇市にある「泊いゆまち」を訪れた時に全長100cm前後の大型ツムブリを見かけたが、出張中にそのサイズの魚を入手する/食べ切るのはさすがに無理ということで泣く泣く諦めて以来の出会いで、思わず「おぉっ」と声を上げてしまった(お恥ずかしい限りです)。さて今回の魚は、まず一部を生で試食。旨味は少なくなく食感も良い。少々味が薄めのヒラマサ系の刺身と言ったところか。なかなか美味い。残りは開いて干物に。焼いた身の見た目、食感ともマアジの干物に似た印象だが、脂の乗りがさほどでないためか、実際に口にすると少々パサつくように感じる。旨味もそれなりにあるが、どちらかと言うとあっさりとした味わい(同じ日に同じトロ箱からピックアップし、同じように干物にして食べ比べたアイブリの方が旨味は明らかに多い)。実際ネット上では「ツムブリの大型個体は美味いが小型のものは美味くない」との記述が散見されるが、個人的には今回の小型個体でも「普通に美味しく食べられる魚」であったし、大型個体の方がより美味いのであれば是非いつか食べてみたいと思う。
【参考】Wikipedia「ツムブリ」を含め、ネット上では「ツムブリの大型個体ではシガテラ中毒の報告もある」という記述が散見されるが、筆者自身がネット検索したところでは、残念ながらその『報告』(元資料)は見つけられなかった。wikipedia「ツムブリ」にもリンクが貼られているFishBaseの"Elagatis bipinnulata, Rainbow runner"のエントリー内の"More Information">"Ciguatera"を見ると、カリブ海にあるイギリス領ヴァージン諸島の漁業の潜在能力に関する1969年出版の古い文献(Dammann, A.E., Study of the fisheries potential of the Virgin Islands. Special Report. Contribution No. 1. Virgin Islands Ecological Research Station (1969).)が唯一挙げられているが、残念ながらネット上で本資料のPDFなどを見つけることはできなかったので実際の内容は不明である。また厚生労働省の『自然毒のリスクプロファイル:魚類:シガテラ毒』にツムブリの名前は掲載されていない。更に2010年出版の文献(大城直雅: 魚類の毒 (4): シガテラ毒. 食品衛生研究, 60 (1), 37-45 (2010).)によると、1997~2006年に沖縄県で発生した合計33件(ただし関係部署が把握しているものだけ)のシガテラ食中毒の原因魚種リストの中にもツムブリの名前はない。もし「ツムブリのシガテラ食中毒」に関する『報告』をご存知の方がいらっしゃったら、ご教授頂けると有り難いです。
とは言うものの、「資料が見つけられない/危険魚リストの中に名前がない」即ち「100%安全」という訳でも決してないので念のため。上述した2010年の文献(と「自然毒のリスクプロファイル」)には、1)シガテラの原因となりうる魚は400種以上にのぼるとされている(ただし頻繁に食中毒をもたらすのは、バラハタ/バラフエダイ/イッテンフエダイなど、その一部である)こと、2)主要な原因魚としては、カマス科カマス属、ブダイ科アオブダイ属、ハタ科マハタ属、バラハタ属、スジアラ属、フエダイ科フエダイ属、アジ科ブリ属、サバ科サバ属など主にサンゴ礁周辺に生息する種が挙げられること、3)ただし原因魚に関して地域差や個体差が極めて著しいこと(例えば小さな島のある海域では食用とされる魚種が、同じ島の別の沿岸では高率に毒を有することもあるのだとか)、4)中毒を起こした魚の外見や味に異常は認められず、摂食前に毒性を判断するのは困難であること、などが記されている。また実際ツムブリの刺身を食べて「当たった」ことを記しているブログも見つけている。十分ご注意頂きたい(といっても、外見から中毒原因魚を判断できないのならばどうすれば良いのやら、ですね)。
2013-03-04
365: オヒョウ
カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科オヒョウ亜科オヒョウ属
学名:Hippoglossus stenolepis Schmidt
英名:Pacific halibut [原], Alaska halibut
地方名として、おがれい、ささがれい(ただし「ささがれい」とも呼ばれるヤナギムシガレイは別の魚)などがあるとのこと。また小型サイズの個体は「こひょう/小鮃/小兵」などと揶揄的に呼ばれる場合もあるとか。北海道襟裳産(出荷はJFえりも)の全長約44cmの雄個体(小さいながら精巣を確認)から摘出した「魚のサカナ」。上が有眼側の、下が無眼側の標本。
有眼側(左)および無眼側(右)の標本を上の写真とは反対側から観察。「大鮃/大兵のオヒョウ」を見て最初に眼につくのは、針状に非常に長い烏口骨の『嘴』部。この特徴はこれまでに紹介してきたカレイ科オヒョウ亜科に属する種(マツカワ/アブラガレイ/サメガレイ/ホシガレイ)の「魚のサカナ」でも見られていたものだが、本稿のオヒョウのものが「最長記録」である。また、これまで紹介してきたカレイ目の「魚のサカナ」は、近縁種間でも形状に明らかな差異が観察されることが多かったが、「大鮃/大兵のオヒョウ」も他の種のものと比較するとやはり「独特」と言える形状。肩甲骨の先端は太く角張り、烏口骨本体下部は『カーテン』状に薄く波打つ。肩甲骨孔は丸い。
(写真左)有眼側の標本の烏口骨本体と『嘴』部を拡大して観察。烏口骨下部の『カーテン』状の部分がそのまま『嘴』部の上縁に繋がっている。また横から見ると針状に見える『嘴』部分だが、実際は少し幅広である。(写真右)無眼側の標本を「魚のサカナ」の『背側』から観察。『背鰭』部の張り出しに注目。また肩甲骨と烏口骨は少々角度をもって結合している(=平面状に並んでいる訳ではない)こともお分かり頂けるはず。
オヒョウを漢字で書くと「大鮃」、即ち「大きなヒラメ」を意味する訳だが、実際は眼が右にあるカレイの仲間。『日本産魚類検索 第2版』のカレイ科の検索キーを辿り、1)眼は体の右側にある(写真中段左)、2)有眼側の体にイボ状突起がない(写真下段左および写真下右)、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真下段左)、4)顎歯は犬歯状(写真中段右)、5)口は大きく頭長(9.9cm)は上顎長(3.6cm)の2.75倍(3.2倍以下)、6)両顎歯は有眼側・無眼側とも良く発達する写真中段右)、7)尾鰭後縁は湾入する(写真下段右)、8)側線は胸鰭上方で湾曲する(写真下段左の紫四角)などの形質からオヒョウであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、9)体は長楕円形、10)尾柄部は細長い(写真下段右)、11)上顎後端は下目の中央下に達する(写真中段左)、12)鰓耙は強く短い、13)鱗は細かく、両体側とも円鱗、14)体色は有眼側が淡褐色で乳白色および黒色斑が散在(写真下段左および写真下右)などの形質も確認した。
オヒョウ属の魚は、北太平洋に生息する本稿の Hippoglossus stenolepis Schmidt(Pacific halibut; Wikipediaなどではこれを訳した「タイヘイヨウオヒョウ」なる名前が挙げられているが、標準和名はあくまでオヒョウである)、および北大西洋に生息する Hippoglossus hippoglossus (Linnaeus) (Atlantic halibut; 『新訂原色魚類大圖鑑』では学名をそのままカタカナに直し「ヒポグロッスス・ヒポグロッスス」として掲載。また流通名を訳した「タイセイヨウオヒョウ」もネット上では散見される)という世界でも2種類のみ。オヒョウ属の魚が世界最大のカレイの仲間であることは有名だが、FishBaseによれば、これまでの記録はオヒョウで全長267cm(ただし日本近海では、大きくなっても100cm程度とのこと)、特に大きくなる大西洋産ヒポグロッスス・ヒポグロッススに関しては何と470cmなのだとか。また属名の Hippoglossus は、ギリシャ語で「馬」を意味する"hippos"(FishBaseでは"ippos"になっているが恐らくタイプミス)と「舌」を意味する"glossus"が結ばれたものとのこと。直訳すれば「ウマノシタ(!)」である。
2012年11月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ500円/約0.8kg)。箱書きは「大鮃」で、お店の方も「長年やっているけど、頭付きのオヒョウは初めてかも」とのこと。体表は粘液でベタベタしており、独特の香りもある(カジカで感じるようなもの。ただし香り自体は異なる)。オヒョウの場合はシュードテラノーバ寄生の恐れがあり、また鮮度的なこともあったので、ほんの一部のみを生食。身質は悪くないが、旨味はあまり感じられない。残りは切り身にしてまずは半分をムニエルに。身が厚いので火は通りにくいが、その分「食べで」はある。筋肉質の身は火が通った後はぶりぶりした食感になるが、身離れは悪くない。残りの切り身は煮付けに。こちらの方が身は多少柔らかい。含まれる旨味は「ほどほど」程度だが「定食屋さんのカレイの煮付け」を思わせる普通に美味いもの。ただ総合的に見ると、オヒョウは決して不味くはないが、それほど大騒ぎするほどの味でもないかな、、、というのが個人的な感想。
2013-03-02
364: イスズミ
スズキ目スズキ亜目イスズミ科イスズミ属
学名:Kyphosus vaigiensis (Quoy and Gaimard)
英名:Large-tailed drummer [原], Brassy chub, Blue sea chub, Brassy drummer, Brassy rudderfish, Long-finned drummer, Lowfin rudderfish
地方名ひちくろ(五島)、いずすみ(全国)、ごくらくめじな(和名として使われたこともあるとか)、きんしち(金七/伊豆大島)、くろばんちょ(能登/イスズミ属の総称)、きつうお(高知)、しちゅー(沖縄:メジナとの混称)、うんこたれ/ばばたれ(近畿地方)など。
今回紹介するのは、神奈川県小田原産の全長約21cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から拡大して観察したもの。本『図鑑』にイスズミ科の魚が登場するのは初となるが、「伊寿墨/伊須墨のイスズミ」は、直感的にもイスズミと近縁(慣れていない釣り人などがしばしば混同してしまうのはご承知の通り)であることが明らかなメジナ科(メジナやクロメジナ)の「魚のサカナ」とやはり良く似た雰囲気を持っている。また「烏口骨本体下方後縁が突出(筆者にはイルカやサメの胸鰭のように見える)し、そこから『スカート/カーテン』様の構造が広がり、これが『嘴』部と結合した末端部には『嘴』部を縦走するキール部分の先端が突き出る」という特徴は、タカベ科(日本産はタカベ1種のみ)、カゴカキダイ科(日本産はカゴカキダイ1種のみ)、更にはイシダイ科(日本産はイシダイとイシガキダイの2種のみ)の「魚のサカナ」にも共通して観察されるもの。
実際、研究の世界からは長年にわたりイスズミ/メジナ/タカベ/カゴカキダイなどの類縁関係が示唆されており、Nelsonの「Fishes of the World Fourth Edition」(2006)では、イスズミ亜科/メジナ亜科/タカベ亜科/カゴカキダイ亜科/Parascorpidinae亜科の5亜科をまとめて「イスズミ科 Family Kyphosidae」としている(ただし、この「イスズミ科」の単系統性はまだ確定していない旨も明記)。また同書にも引用されている、2002年に報告されたミトコンドリアのNADHデヒドロゲナーゼのサブユニット2のDNA配列を用いた系統解析【参考文献1】の結果では、タカベ科/イシダイ科/イスズミ科/ユゴイ科/カゴカキダイ科/イスズミ科の魚が確かに近縁であることが示されており(とはいうものの、その系統的な「らしさ」は比較的低いため、それぞれを別々の「科」として扱うのが適当であろうと結論しているが)、これらの「魚のサカナ」の形状が似ているのも「なるほど納得」といったところである。
写真上は、本『図鑑』でこれまで紹介してきた「Nelsonによる”イスズミ科”」(とシマイサキ科)に含まれる「魚のサカナ」を【参考文献1】中の系統樹(ちなみにNJおよびMLとも分岐パターンは同じ)に合わせて並べてみたもの(上の「系統樹」の枝の長さは、実際の結果を反映していないのでご注意)。これらの「魚のサカナ」(シマイサキのものを除く)の全体的な形状が良く似ていることにご注目。ここまで来ると、論文中の系統樹でイスズミ科とカゴカキダイ科の間に位置しているとされるユゴイ科の「魚のサカナ」は是非とも見てみたいところ。
イスズミ科の魚は、両顎の外側の列の歯が単尖頭であること、背鰭棘が10~11であることで、体型の良く似たメジナ科の魚(歯は三尖頭で、背鰭棘は14~15)と区別できる【追加情報】。『日本産魚類検索 第2版』のイスズミ科の検索キーを辿り、1)体は高く、尾柄は短い、2)体の側面には多くのオリーブ色の細い線がある(写真下左)、3)背鰭は11棘14軟条(写真下段左の赤点)、臀鰭は3棘13軟条(写真下段右の赤点)などの形質からイスズミであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』のイスズミの項に記載されている、4)吻が短く先端は鈍い(写真中段左)、5)口は短く両顎は同長(写真中段左)、6)全鋤骨に歯、前鰓蓋骨縁は細かい鋸歯状、7)尾鰭後縁は湾入(写真下右)、8)吻以外の頭部、背鰭、臀鰭は鱗に被われる(写真中段左、写真下段左右)、9)腹鰭/背鰭/臀鰭は暗色(写真下段左右)などの形質も確認した。更にこの個体の第1鰓弓鰓耙数は 31 (9+22)で、この形質もイスズミであることと矛盾しない(ちなみにテンジクイサキでは26~31、ノトイスズミでは21~24、ミナミイスズミでは26~29である【参考文献2】)。
2012年11月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ500円/0.14kg)。見るからに新鮮な個体であったが、価格からすればやはり『雑魚』扱い。魚体の処理をしている時には腑から悪名高き『磯臭さ』が漂ってきたが、この部分を取り除いてしまった後は臭みは全く感じなかった。鱗は結構飛び散る。身の色は多少黒っぽく、メジナ類のものに良く似た印象。腹膜は真っ黒。まずは一部を生で試食。身質は期待以上に良く、旨味甘味もしっかり感じる。なかなかの美味。残りは開いて干物に。しっかりした身で、旨味が何故か「まずまず」くらいに落ちてしまったが、少なくともほとんど臭みはない(ニザダイの開きで苦労したのとは大違い)。磯釣り師には大変嫌われている魚ではあるが、今回の個体に限って話をすれば、普通に美味しく食べられた。
【追加情報】イスズミ科のイスズミでは、両顎の外側の列の歯が単尖頭(歯先の山は一つ)であるのに対して、メジナ科のメジナ/クロメジナでは、歯は三尖頭(歯先が三つ又になっている)。またメジナの顎には歯が2~3列並ぶが、クロメジナではほぼ1列のみ。また今回のイスズミの背鰭棘は11(10~11)であったが、体型の良く似たメジナ科の2種では14~15であることにより区別可能。
| 全体像 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 歯 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 背鰭棘 | ![]() | ![]() | ![]() |
【参考文献】
1. Yagishita, N., Kobayashi, T., and Nakabo, T.. Review of monophyly of the Kyphosidae (sensu Nelson, 1994), inferred from the mitochondrial ND2 gene. Ichthyol. Res. 49: 103–108 (2002). PDF
2. 坂井 恵一、「日本のイスズミ属魚類」、「能登の海中林(のと海洋ふれあいセンターだより)」 2004年3月 第20号 PDF
2013-02-27
363: ホシホウネンエソ
ワニトカゲギス目ヨコエソ亜目ムネエソ科ムネエソ亜科ホウネンエソ属
学名:Polyipnus matsubarai Schlutz
英名:Starry hatchetfish [原]
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今回のエントリーには半消化された魚の写真(不快感を与える恐れがあるもの)が出てきます。
この手の写真が苦手な方や、食事中の方などはご覧にならない方が良いと思います。
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前エントリーで紹介した静岡県産のナンヨウキンメの胃袋の中に半消化状態で入っていた、体長約9cm(全長では恐らく10.5cmほど)の個体から摘出した「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を拡大して観察したもの。消化酵素で軟骨組織が脆弱になっていたのか、標本調製中に中烏口骨が外れてしまったため修復してある。射出骨(第1射出骨は小さな三角形だが、第2〜第4射出骨は細くて長い)付き。
中烏口骨を修復する前に撮影した写真上の右側の標本。ワニトカゲギス目の「魚のサカナ」は今回が初登場となるが、「星豊年狗母魚/星豊年狗尾魚/星豊年鱠(エソは魚偏に曾)のホシホウネンエソ」の形状は文字通り独特なもの。比較的小さい肩甲骨および肩甲骨孔、斜め上方向に大きく広がった烏口骨『背鰭』部、末端が大きく扇型に広がった烏口骨『嘴』部などは、中烏口骨のない状態の方が観察しやすい(写真左)。また烏口骨からは筒状で高さのある構造物が突き出ており、この部分に中烏口骨が結合する(写真右の赤四角/この写真は、写真上左の左側の標本のもの)。またこの筒状の構造物は「底抜け」になっており、反対側から観察すると小孔が開いている(写真下右の赤丸)。
肩甲骨と中烏口骨の部分を拡大して観察。ホシホウネンエソの中烏口骨の先端部分は、表側から観察すると『飛行艇のフロート』のような形状(写真左)。肩甲骨からもそこそこ距離がある(写真右)。
ホシホウネンエソの耳石も独特の形状。本体と垂直方向の突起があり、『サムアップ』しているようにも見えて楽しい。
今回の個体はナンヨウキンメの胃の中でかなり消化されており、胸鰭と尾鰭の一部を除いて各鰭が失われているなど状態はあまり良くなかったが、ムネエソ科の魚であることだけは確実であるように思われたのでそこから「検索」開始。1)腹部縁辺に骨質隆起(竜骨板)がある(写真下段左)、2)背鰭前方に棘突起(ではないかと思われるもの/写真下右の赤丸)がある、3)体高は著しく高く、強く側扁する、4)臀鰭基底部に透明域がない、5)腹部上部発光器(SAB)と思われるものが3個程度ある(写真下段右の緑丸/恐らく6個はないはず。また腹部発光器[AB]の数は分からない)、6)後側頭骨棘は小さく、分枝しない(写真下左の赤丸)、7)竜骨板の縁辺に鋸歯がない(写真下段左)、8)背鰭前黒色帯は細く尖り、体側中線を越える(写真中段右の青四角。赤矢印は側線の位置を示す)という形質を確認し、ホシホウネンエソであると判断した。
また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている通り、両顎に極めて小さな歯がある(写真下)。更に静岡産のナンヨウキンメの腹の中にいたものということで、駿河湾などの太平洋に分布という生息域の情報にも矛盾しない。
ただし魚の状態が状態だけに、判断ミスをしている可能性は低くないはず。詳しい方からの情報をお待ちしています。
さすがに今回の魚を試食する勇気はなかったので、写真撮影と「魚のサカナ」の摘出だけで処分した。
【参考】ホシホウネンエソのきれいな写真(町田吉彦氏撮影)は、『土佐の自然』ギャラリー集の第3号: 第126集の#963がオススメです。
2013-02-26
362: ナンヨウキンメ
キンメダイ目キンメダイ科キンメダイ属
学名:Beryx decadactylus Cuvier
英名:Broad alfonsino [原], Beryx, Cuvier's berycid fish, Imperador, Long-finned beryx, Red bream
地方名/流通名ひらきんめ(平キンメ/ただしフウセンキンメが「平キンメ」として売られている場合もあるので注意)、いたきんめ(板キンメ)など。静岡県産の全長約52cmの大型個体から摘出した左右の標本。個体のサイズ相応の大きな「魚のサカナ」で、最長部で約6cmある。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。
「南洋金目のナンヨウキンメ」の形状は、これまでに紹介したキンメダイ目の「魚のサカナ」の中で、やはり同じキンメダイ属のキンメダイやフウセンキンメのもの(2013年2月に写真を追加した、愛知県西浦産の小型個体から摘出した標本)と多くの共通点を有している。特にフウセンキンメのものとは全体的な雰囲気を含めて大変良く似ているが、ナンヨウキンメのものでは 1)『体高』が低い(左右に細い)、2)烏口骨上方の『背鰭』部が低い、3)烏口骨本体後部下縁から『嘴(尾)』部に繋がるラインがより深く湾入する、4)『嘴(尾)』部がより細く長いなど、両者間の相違点を幾つか挙げることはできる。
「南洋金目のナンヨウキンメ」の烏口骨の『背鰭』部にも幾つかの孔が開く(写真上左)。また『嘴』の平たい先端部には『成長線』のような模様が観察できる(写真上右)。
キンメダイ属の魚の耳石はそれぞれ独特の形状。今回のナンヨウキンメの耳石はさすがに大きく、幅が約1.9cmもある。
日本近海に生息するキンメダイ科の魚は2属4種で、その内3種(キンメダイ/フウセンキンメ/ナンヨウキンメ)がキンメダイ属の魚である。本稿の個体は体高があり、キンメダイ/フウセンキンメとは明らかに異なるものであったが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のキンメダイ科の検索キーを辿り、1)背鰭棘数が4(写真下段左)、2)臀鰭基底長は背鰭基底長より長い(写真下段左右)、3)臀鰭軟条数は29(25~30/写真下段右)、4)頭部涙骨に鋭い1棘がある(写真下右の緑丸)、5)体は高く、体長(40cm)は体高(18cm)の約2.2倍などの形質を確認し、ナンヨウキンメであると判断。
ちなみにフウセンキンメとの共通点は「魚のサカナ」の形状に留まらず、ナンヨウキンメの鼻孔も2つとも丸く(写真中段右)、また頭部涙骨の棘は強い(写真下右の緑丸/もっと正確に書くと、ナンヨウキンメの棘の方が強大。この個体では先端が折れている)。
ナンヨウキンメの鱗は弱い櫛鱗(写真下)。
2012年10月に角上魚類日野店で購入(当日はキロ1,300円/1.82kg)。店頭表示は「平キンメ」。2枚に下ろし、まず一部を刺身で試食。下ろしている時は身が柔らかめに思われたが、口の中では予想以上にしっかりした歯応えを返してくる。脂からくる甘み、身自体に含まれる旨味を強く感じる。半身の残りは少し厚めに切って「魚しゃぶ」に。食感が改善され、旨味もより立つ。骨付きの半身とあらは「定番」と思われる煮付けに。身離れ、食感とも良く、また旨味甘みを強く感じる。たまたま遊びにきた親戚にも振る舞ったが「これはうまい!」とあっという間に食べ尽くしてしまった。非常に美味い。
ナンヨウキンメは一般にキンメダイ(およびフウセンキンメ)より食味が劣るとされ、市場価格もそれなりに安価となる。実際本稿のナンヨウキンメの購入日には千葉産のキンメダイも並んでいたが、後者のキロ単価は2,000円を越えていた。ただ、今回のナンヨウキンメは非常に美味で、この魚だけを単独で食べる分には「全く問題なし」というのが個人的な感想。もちろん個体サイズ/季節/産地などの要因がたまたま上手く絡み合った個体であったという可能性もあるので、今後機会があれば是非「キンメダイ属3種の食べ比べ」をしてみたいところ。
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【参考】日本産キンメダイ属魚種の見分け方
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上述した通り、日本近海に生息するキンメダイ科の魚は2属4種で、その内の3種はキンメダイ属のキンメダイ、フウセンキンメ、ナンヨウキンメである。市場に流通しているのはキンメダイがほとんどであると思われるが、フウセンキンメやナンヨウキンメが少なからず出回っているのもまた事実。お互いに良く似た体色/体型(特にキンメダイとフウセンキンメは非常に良く似ており、実際1999年に出版された論文によってようやく別種であることが確定したくらい)なので、どこに注目したら良いのかが分かっていないと見分けは案外難しいと思われる。ということで、キンメダイ属3種の「見分けのポイント」を以下にまとめておく。
| 全体像 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 鼻孔 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 涙骨棘 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 背鰭 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 臀鰭 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 鱗 | ![]() | ![]() | ![]() |
| 耳石 | ![]() | ![]() | ![]() |
【写真1段目】「平キンメ」の流通名/地方名通り、ナンヨウキンメは体高が高く平たいので比較的判別しやすい。キンメダイとフウセンキンメは体高が余り高くないが、両者を並べて比べるとフウセンキンメの方がわずかに体高が高いことが多い模様(ただしキンメダイ/フウセンキンメのどちらか1種しかいない場合に、体高の高低を判断するのはかなり難しいはず)。また側線有孔鱗数が、ナンヨウキンメでは少なく52~62、フウセンキンメでは60~69、キンメダイでは65~73とのことなので、数値が重ならないところでは同定の参考になると思われる(ちなみに本稿のナンヨウキンメでは61だったので、キンメダイではないが、フウセンキンメの可能性は残ることになる)。
【写真2段目】キンメダイとフウセンキンメ(およびナンヨウキンメ)を見分けるのに最も分かりやすいのが目の前にある鼻孔の形状で、良く見ると、キンメダイの後鼻孔(写真中の「2」)は細長いスリット状であるのに対して、フウセンキンメとナンヨウキンメのそれは丸っぽい。
【写真3段目】またキンメダイの涙骨棘(鼻孔の下の眼と口の中間辺りに生じる棘/緑丸に注目)はあまり目立たないが、フウセンキンメとナンヨウキンメのそれは鋭く強大(プラスチックトレーの上でラップに包まれている場合は、そのラップを突き破ってしまうほど)であることも判別ポイントとして使えそうである。
【写真4段目】ナンヨウキンメを確実に見分けるための「ポイント」は背鰭の軟条数で、キンメダイでは13から15本(14本が多い)、フウセンキンメでは12から13本(13本が多い)であるのに対し、ナンヨウキンメでは18~20本と明らかにその数が多い(写真4段目/棘条と軟条の区別がつかない方は、背鰭の筋をまとめて数えて20本以上<実際には22本以上になるが>あればナンヨウキンメである)。
【写真5段目】臀鰭の軟条数(ちなみに棘条数は全て「4」)にはそれほどバリエーションがなく、数値が重なってしまっているために見分けの重要なポイントにはならない(ただし文献値的には、25軟条ならナンヨウキンメ、31および32軟条ならフウセンキンメとなるはず)。またナンヨウキンメの場合は臀鰭軟条基底が少々丸くなるという記述をどこかで見たような気がするが、この写真を見る限り大きな違いがあるようには思われない。
【写真6段目】体側背側の鱗の後縁に注目すると、キンメダイのものでは滑らか、フウセンキンメのものでは比較的強い櫛鱗、ナンヨウキンメのものでは弱い櫛鱗という違いがある。
【写真7段目】耳石の形状も種によって異なるようだが、実際は個体によっても異なる場合を確認しているので、種の同定のための「ポイント」にはならないと思われる。
2013-02-25
361: アヤメカサゴ
カサゴ目カサゴ亜目フサカサゴ科メバル亜科カサゴ属
学名:Sebastiscus albofasciatus (Lacepède)
英名:Yellowbarred red rockfish [原]
地方名アカガシラ(和歌山)、アカゲ(茨城)、オキアラカブ(長崎)、マダラホゴ(鹿児島)など。神奈川県小田原市産の全長約30cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「綾目笠子/文目笠子のアヤメカサゴ」は、すっかり見慣れたフサカサゴ科の「魚のサカナ」の基本形で、その中でも筆者が『カサゴ型』と呼んでいる、烏口骨の上方の『背鰭』部の高さが低いタイプ。同じカサゴ属のカサゴやウッカリカサゴのものとほぼ同じ形で、相違点を挙げることが困難なほどである。
「綾目笠子のアヤメカサゴ」を下側から見ると途中で折れ曲がっていることが分かる。また第4射出骨の後端も少々湾曲している。
フサカサゴ科の魚は種類が非常に多い上に、似たような外見/体色のものも多いため、魚種の「同定」に困難が伴うことも少なくないが、アヤメカサゴに関しては体色があまりに独特なので比較的容易に同定可能。また日本近海に生息するメバル亜科カサゴ属の魚自体がカサゴ/ウッカリカサゴ/アヤメカサゴの3種のみである。今回の個体に関しても店頭で独特の「虫食い状斑紋」を見た瞬間にアヤメカサゴであることを確信したが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のフサカサゴ科の検索キーを辿り、1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条も欠刻もない(写真下段左)、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)眼下骨系(頬)に棘がない(写真中段左)、5)背鰭は12棘12軟条(写真下左)、6)胸鰭上半部の後縁は浅く湾入する(写真下段左)、7)尾鰭後縁は丸い(写真下右)、8)胸鰭腋部に皮弁がない(写真下段右)、9)胸鰭は17軟条(写真下段右)、10)体に赤色の地色に黄色の虫食い状斑紋がある(写真中段左右)などの形質を確認し、最終的にアヤメカサゴであると判断。
『新訂原色魚類大圖鑑』にも記載されているように、アヤメカサゴの上顎は下顎よりわずかに長い(写真下)。
2012年10月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ2,000円/0.45kg)。店頭表示は単に「カサゴ」。鰓は粘り気も全くない鮮紅色で、眼色や体の張りからも非常に新鮮な個体であることは明らかであったので、2枚に下ろし、半身は刺身、骨付きの半身は塩焼きに。刺身にした半身は更に半分に分け、皮を引いた普通の刺身と、皮付きで表面を炙り「焼き霜」にしたものの2種類を試食したが、個人的には「焼き霜」のほうが好み。皮目の香ばしさが加わって風味が格段に良くなる。口に入れた時に旨味が溢れるという訳ではないが、噛んでいると上品な旨味甘味が出てくるタイプの身。美味。また塩焼きにすると、しっとりとした身質で身離れも悪くない。上記した通り皮目の香ばしさは素晴らしい。生よりも旨味は立ち、咀嚼する毎に上品な旨味が広がる。とても美味い。
「釣魚1400種図鑑」(小西英人著)では、カサゴやウッカリカサゴの食味を「良」、アヤメカサゴの食味を「極」としている。これを見てしばらく探していたアヤメカサゴを今回ようやく食べることが出来た訳だが、個人的には「そこまで差があるかな?」というのが正直な感想。もちろんアヤメカサゴは美味い魚であることに異論はないし、今回は3種を並べて食べ比べた訳ではないので念のため。
2013-02-24
360: クロサバフグ
フグ目フグ亜目フグ科サバフグ属
学名:Lagocephalus gloveri Abe and Tabeta
英名:Dark rough-backed puffer(『原色』に英名表記なし)
地方名/流通名は数多く、ネット上で調べが付くものだけでも:サバフグ(大阪市/高知市/鹿児島市/枕崎市)、ギロ(下関市)、アオカナト(下関市/北九州市)、アオマル(下関市)、カナト(北九州市/大分市)、クロカナト(北九州市)、アオフグ(宮崎市)、チャンプク(鹿児島市/枕崎市)、クロ(鹿児島市/枕崎市)など。
今回紹介するのは、神奈川県小田原市産の全長約28cmの抱卵雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。「黒鯖河豚のクロサバフグ」の形状は、パッと見でもフグ科の「魚のサカナ」であることが明らかなもの。特に大きな4つの射出骨の間隙にある3つの孔と、その下にある肩甲骨孔の計4つの孔が並ぶという、これまでに紹介してきた全てのフグ科の「魚のサカナ」で見られた最大の特徴はクロサバフグのものでも共有されている。射出骨の3つの孔は比較的小さく丸い。肩甲骨孔は射出骨の孔よりも小さく『涙』型。烏口骨の上部突起(『背鰭』)部はかなり細長い『針』状で、烏口骨本体から『嘴』部に掛けての部分は太い。
「黒鯖河豚のクロサバフグ」の形状/特徴が同じサバフグ属のシロサバフグのものに良く似ていることは想定の範囲内だったが、全体的な雰囲気がトラフグ属のコモンフグのものにもかなり似ているというのは予想できなかった(もっとも系統関係を考えれば「たまたま」なのだが)。
写真上の右側の標本を斜め上方向から観察したもの。烏口骨の上部突起(『背鰭』)部は『角』のように斜め上方向に鋭く突き出している。また第1射出骨の前縁および第4射出骨の後縁には『タブ』のような構造物があることを確認できる。これはこれまでに紹介してきた幾つかのフグ科の「魚のサカナ」でも見られていたもの。
「日本産魚類検索 全種の同定 第2版」のフグ科の同定の鍵を辿り、1)体に側線がある(写真下右)、2)体の断面は丸い、3)体表の背面(写真中段右)と腹面(写真下段左)に小棘の分布域がある、4)尾鰭後縁は二重湾入型(写真下段右)、5)胸鰭は黒くない(写真中段左)、6)尾鰭下葉先端は上葉に比べて明瞭に長くない(写真下段右)、7)鰓孔は白い(写真中段左の赤丸)、8)体背面の小棘域は胸鰭先端の前方までしか達しない(=背鰭起部付近まで達しない/写真中段右の赤線が体背面小棘域の最後端)、9)尾鰭上下葉端は白い(写真下段右)などの形質からクロサバフグであると判断。
日本近海産のクロサバフグ個体は無毒と考えられており、厚生省環境衛生局長通知(最終改正は平成22年9月10日)「フグの衛生確保について」でもプロのふぐ調理師が処理したクロサバフグの筋肉・皮膚・精巣は販売可能とされている。ただし、南シナ海産の個体の筋肉(弱毒)、卵巣(猛毒)、肝臓(猛毒)には毒が含まれているとの報告があり、また体型および体色が良く似ており、筋肉・皮膚・肝臓・卵巣・腸が強毒なドクサバフグという種もいる。上の形質8)でドクサバフグは一応見分けられることになっている(ドクサバフグでは、体背面の小棘域が背鰭起部付近まで達する。こちらを参照)が、素人判断は非常に危険である。もし釣りの獲物などを個人的に食べてみようという場合は自己責任で(万が一の場合も当方は一切責任を持ちません)。
今回の個体は、前エントリーのトゴットメバルと同様、2012年10月に八王子総合卸売センター内の高野水産に入荷した小田原産の「入り会い」に入っていたもの(当日はキロ1,000円/0.58kg。ただし腹の中に水を大量に飲んだ状態だったので、実際の体重はもっと軽いはず)。写真撮影後は、同店のふぐ調理師に処理してもらい自宅に持ち帰った。今回はブツ切りにして唐揚げに。少々水っぽく感じないでもなかったが、旨味はそれなりに含まれている。トラフグの「魔味」には到底敵わないのは言うまでもないが、そういう比較を抜きにすれば、これはこれで美味い。
2013-02-23
359: トゴットメバル
カサゴ目カサゴ亜目フサカサゴ科メバル亜科メバル属
学名:Sebastes joyneri Günther
英名:Saddled brown rockfish [原](FishBaseに英名表記なし)
流通名/地方名としては、ウスメバルと区別されずに「おきめばる(沖メバル)」「あかめばる(赤メバル/もちろん標準和名アカメバルは別種の魚)」など。
神奈川県小田原産の全長約22cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「戸毎眼張のトゴットメバル」の基本形状は、すっかりお馴染みとなったフサカサゴ科の「魚のサカナ」のもので、その中でも烏口骨の上方にある『背鰭』部の前縁と第4射出骨の後縁が作るラインが比較的深く湾入する(これにより『背鰭』部が高く見える)という、筆者が『メバル型』と呼んでいるタイプ。特にアカメバル、クロメバル、そして本稿のトゴットメバルと良く似たウスメバルなどの「魚のサカナ」とは「酷似する」と言っても良いレベルで、肩甲骨孔が多少大きく見えること、烏口骨の『嘴』部が直線状で比較的長いことなど、ほんの些細な相違点を挙げることしかできない。
ちなみに写真右では、第2/第3射出骨が作る孔が比較的小さく、第1/第2射出骨が作るものとほぼ同じ大きさのように見えるが、写真左からも分かるように必ずしも事実を反映していないので念のため。
「日本産魚類検索 第2版」のフサカサゴ科の検索キーを辿り、1)側線は溝状でない、2)胸鰭に遊離軟条がない(写真下左)、3)胸鰭も背鰭も普通の大きさ、4)胸鰭に欠刻がない(写真下左)、5)背鰭は13棘14軟条、6)頬に棘がない(写真中段左)、7)胸鰭上半部の後縁は丸い、7)眼窩下縁に棘がない、8)弱い頭頂棘がある(写真下段左)、9)下顎は著しく前に突出せず、その先端は尖らない(写真中段左)、10)尾鰭後縁は2叉する、11)主上顎骨には鱗がある(写真中段右の赤四角)、12)涙骨には顕著な2棘がある(写真中段右の緑丸)、13)胸鰭は16軟条(写真下左/ただしこの写真からは計測しにくいかもしれない)、14)体側の上半分に、輪郭が丸みを帯びた5本の明瞭な黒色帯がある(写真下段右)、15)側線有孔鱗数は48(47~53)などの形質からトゴットメバルであると判断。
外見が非常に良く似たウスメバルとは、形質14および15で区別することが可能(ウスメバルの斑紋は不定形で、側線有孔鱗数は52~56とトゴットメバルより多い)だが、「ウス」メバル=斑紋が「薄い」と考えてしまう人も少なくないようで、比較的斑紋が濃く出ているウスメバルをトゴットメバルと誤同定してしまっているのをネット上でも時々見かける。もちろんトゴットメバルの斑紋にもある程度のバリエーションはあるが、1)頭に近い方から1本目は上下2つの円斑が完全に分離、2)2本目および3本目は上下の円斑が1本目より大きく、一部が重なったようになる(もしくは下の円斑に、勲章の帯のような形で上の円斑が結合している)、3)更に背鰭の軟条部下に現れる4本目および5本目は背縁に近い上側にだけ円斑があり側線には届かないというパターンはほぼ共通している模様。ご参考までに。
2012年10月に八王子総合卸売センター内、高野水産に入荷した小田原産の「入り会い」の中の1匹(当日はキロ1,000円/0.15kg)。体側の特徴的な模様から、トロ箱の中に見つけた瞬間にトゴットメバルであることを確信したが、筆者が東京多摩地区でこの魚が売られているのを見たのは(記憶にある限り)初めてのこと。他の場所の状況は分からない(少なくとも2012年末に愛知県・三河一色さかな村のトレーの上に1匹乗っているのは発見した)が、少なくとも東京多摩地区では「沖メバル」としてはウスメバルが主に流通し、トゴットメバルの流通量は圧倒的に少ないはずである。
本稿の個体は余計なことは考えずに塩焼きに。皮目から立ち上る芳香が素晴らしい。身質はかなり良く、脂も良く乗っている。溢れるほど多量ではないが、上品な旨味も含まれている。美味。
2013-02-22
358: カラフトマス
サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属
学名:Oncorhynchus gorbuscha (Walbaum)
英名:Pink salmon [原], Humpback salmon
流通名/地方名:あおます(青マス/青鱒)、せっぱります(背張鱒/『新訂原色魚類大圖鑑』では別名扱いだが、平成19年に日本魚類学会により「日本産魚類の差別的標準和名の改名」が行われた際に差別表現とされた『せっぱり』が含まれるこの名前が将来的に「標準和名」として使用されることはまずないだろう)、オホーツクサーモン(北海道の一部地域)。また宮古/山田/釜石/大船渡辺りでは「さくらます」とも呼ばれているようだが、もちろん標準和名のサクラマス(ヤマメの降海型)とは別の魚である。
さて今回紹介するのは、北海道根室産の全長約51cmの塩漬け個体(「塩マス」)から摘出した左右の「魚のサカナ」。細長い射出骨付き。エタノール固定前に一応オキシドールによる脱色/脱脂処理を行ったが、この処理だけでは脂分が完全に抜け切らなかったのか、気づいた時にはエタノール浸漬中にもかかわらず中烏口骨と烏口骨の一部が黄変していた。
写真上の右側の標本から射出骨を除去し、その両側から拡大して観察したもの。「樺太鱒のカラフトマス」は、一見してサケ目の「魚のサカナ」であることが分かるという意味では「基本形」と言えるものだが、実際には 1)肩甲骨が比較的小さく見える、2)肩甲骨孔が円もしくは楕円形でなく、少々いびつな形状、3)烏口骨上方の突起(『背鰭』)部は高いが、その先端部は切り落とされたようになっている(=先端が前方へ尖らない)、4)この『背鰭』部には小さな孔が1つ開いている、5)中烏口骨が非常に大きい、6)烏口骨の『嘴』部が太くて短いなど、サケ目の「魚のサカナ」の中ではかなり特徴的なもの。
上に挙げた「樺太鱒のカラフトマス」の特徴の中でも、もっとも目立つのが「中烏口骨が非常に大きい」こと。特に擬鎖骨と接する遠位部は大変大きく広がる(写真上)。真横から見ると、その前方先端は肩甲骨の前縁を遥かに越えている(一段上の写真上左)。
「青マス」という流通/地方名の通り、カラフトマスの背面は青みがかった暗色(ただし今回の個体は「塩漬け」のためか、この色が少々分かりにくい)。
『日本産魚類検索 第2版』のサケ科の同定の鍵を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ(写真上段左)、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真上段右)、3)体の背面に大きめの黒点が散在(写真中段左右)、4)尾鰭全面に大きめの黒点が散在する(写真下段右)、5)下顎歯基底部は灰白色(写真下右/マスノスケでは下顎歯基底周辺が真っ黒である)、6)尾鰭後縁は黒く縁取られない(写真下段右)などの形質からカラフトマスであると判断。また縦列鱗数が150〜240と多く、鱗が非常に小さい(写真下左/今回は計測していない)こともカラフトマスの大きな特長。ただし今回の個体は、内臓と鰓の除去後に塩漬けされた個体であるため、パーマークの確認や鰓耙数の計測は出来なかった。
2012年9月に八王子綜合卸売協同組合の興実水産で購入した「甘塩の青鱒」(当日は1,300円/匹)。身は柔らかいが、脂はかなり乗っており、包丁を入れるとじわっと溢れてくるほど。3枚に下ろした身の色はベニザケに比べるとかなり淡い(写真下左)。「甘塩」と言っても塩気はやはり強いが、焼いてもパサパサにはならないしっとりした身で、上品な旨味とともにあっさりと食べることができる。かなりの美味。同時に食べ比べたベニザケ(「本ちゃん」)よりも個人的には好み。アラは三平汁に(写真下右)。良い出汁が出てこちらも美味い。ショウガを入れると「塩マス」独特の風味が弱まって食べやすくなるので、臭いが気になる向きは是非お試し頂きたい。
市販の「サケ水煮」缶は、カラフトマスを原料に使用したものが多い(写真下)。
2013-02-21
357: ツマグロアオメエソ
ヒメ目アオメエソ亜目アオメエソ科アオメエソ属
学名:Chlorophthalmus nigromarginatus Kamohara
英名:Blacktipped greeneye [原],Blackedge greeneye, Grinner
地方名/流通名めひかり(目光/ただしアオメエソ属の魚の総称)、あおめ(高知/トモメヒカリとの混称)など。宮崎県産の全長約25cmの雌個体(真っ白の卵を確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外し、反対側から観察したもの。
「褄黒青目狗母魚/端黒青目狗尾魚/褄黒青目鱠(エソは魚偏に曾)のツマグロアオメエソ」は、これまでに紹介したヒメ目の「魚のサカナ」の中でも、やはり同じアオメエソ属のアオメエソやマルアオメエソ(両者は同一種であるとする説もあるが)に良く似ている。烏口骨の上方突起(『背鰭』)部の下方に小孔が開いているのも共通。ただしツマグロアオメエソのものでは、1)肩甲骨と烏口骨本体が楕円形を作り、その円周に接するように烏口骨の『背鰭』部と『嘴(もしくは尾)』部が結合(つまり「接線」は比較的短い)する、2)肩甲骨の大きさに比して肩甲骨孔が比較的小さい、3)『背鰭』から『嘴』にかけてのラインが緩やかな曲線を描く、4)アオメエソ/マルアオメエソのものに比べると烏口骨の『嘴』部が短めなどの特徴を見出すことができる。
『日本産魚類検索 第2版』によれば、日本近海に生息するアオメエソ科の魚は7種(本当に別種かどうか議論があるというアオメエソ/マルアオメエソを含めて)で、その全てがアオメエソ属。今回の魚は 1)鋤骨外縁に歯がない(写真中段右の赤四角)、2)尾鰭後縁が黒い(写真下段左)、3)下顎の外歯叢は3〜4列(写真下段右の赤四角)という形質からツマグロアオメエソであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』のツマグロアオメエソの項に記載された、4)背鰭前方がやや隆起、5)吻は眼径とほぼ同長で先端は尖る(写真中段左)、6)口は大きく斜位(写真中段左)、7)上顎後端は眼の前縁下に達する(写真中段左)、8)下顎は上顎より長い(写真中段左)、9)両顎に歯帯を形成し、口蓋骨歯は粒状、10)背鰭は体の中央より前方にあり、腹鰭とほぼ相対、11)脂鰭と臀鰭も相対、12)尾鰭後縁は2叉する(写真下段左)、13)肛門周囲に黒い発光器がある(写真下左)、14)腹鰭に黒色横帯がある(写真下右)などの形質も確認した。
ちなみに属名の Chlorophthalmus は「緑の眼」(写真下左右)、種小名の nigromarginatus は「(鰭の)縁辺が黒い」という意味。正に「ツマグロ」「アオメ」エソである。
2012年9月に八王子綜合卸売協同組合の三倉で購入したものだが、当日のキロ単価は2,700円(2匹で0.41kg/表示は「目光」)。3枚に下ろしてみると、真っ白の美しい身が登場。ただし小骨は少なくないので丁寧に抜く必要がある。まずは刺身に(写真下左)。全体に柔らかいが、歯を立てるとプリプリした抵抗も感じる。脂は乗っているようで、咀嚼していると甘味と上品な旨味が昇ってくる。ただ同時にいわゆる「水っぽさ」を感じないでもなかったので、刺身をしばらく昆布に挟み「昆布締め」に。適度に脱水され、また昆布の旨味もプラスされるため、家族には単なる刺身よりも好評。もう1匹は開いてから塩焼き(干してはいない)にして、同じ日に購入した新潟産のアオメエソの塩焼きと味比べ(写真下右/上がアオメエソ、下がツマグロアオメエソ)。ツマグロアオメエソでは小骨が少々当たるが、アオメエソでは小骨は全く感じない。身が非常に柔らかいアオメエソに比べれば、ツマグロアオメエソの身質の方がしっかりした食感を与える。ツマグロアオメエソの脂の乗りはアオメエソと比して遜色ない(焼いている時に染み出てきた脂の量で判断)が、旨味成分含量はアオメエソの圧勝。塩焼きの総合評価ではやはりアオメエソに軍配を上げざるを得ないが、ツマグロアオメエソもなかなか美味い魚であるのは間違いない。ただ個人的には「キロ単価2,700円」の価値は見出せなかったというのが正直なところ。
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【参考】上で紹介した個体と同時に購入したもの(全長約26cmの雌個体)は、何らかの理由で左の胸鰭を欠損していた(写真下右の赤四角/店頭では全く気付かなかった)。
そこでこの個体からも「褄黒青目鱠のツマグロアオメエソ」を摘出してみたが、胸鰭との連結ポイントである射出骨のみならず、「魚のサカナ」全体が大きく変形しており、特に烏口骨部分の異常は顕著であった。このことから、この個体の鰭の欠損は後天的な外傷の影響ではなく、胸部の発生に失敗した「奇形」の可能性の方が高いと思われる。
2013-02-20
356: トミヨ(トミヨ属淡水型)
トゲウオ目トゲウオ亜目トゲウオ科トミヨ属
学名:Pungitius sinensis (Guichenot)【注】
英名:Amur stickleback, Ninespine stickleback, Amur ninespine stickleback, Amur nine-spined stickleback, Chinese stickleback(『新訂原色魚類大圖鑑』に英名表記なし)
地方名とげそ(新潟県)、はりんこ(石川県)、はりざっこ(秋田県)など。青森県産の全長約5.5cmの個体から摘出した「魚のサカナ」。写真からも明らかなように、左右5~6mmの小さな標本で、上部には比較的小型の射出骨が4つ結合している。全体の形状と大きな肩甲骨孔が「可愛らしい」印象を与える。
写真上の右側の標本を拡大して両側から観察。「富魚/止水魚のトミヨ」の形状は、これまでに紹介したトゲウオ目の魚であるアカヤガラとアオヤガラの「魚のサカナ」とも大きく異なる、文字通り「独特」なもの(筆者の頭の中には「ウル○ラマン」に出てきたとある怪獣が浮かんだ)。
ただし、近年の系統学的解析からは、現在の分類における「トゲウオ目」は単系統ではなく、棘鰭上目内で3つの異なった位置(ヨウジウオ亜目/トゲウオ亜目/インドストムス科)に明確に分かれること、およびトミヨの仲間が含まれる「トゲウオ亜目(シワイカナゴ科/クダヤガラ科/トゲウオ科)」は、ヤガラの仲間が含まれる「ヨウジウオ亜目」よりも、「スズキ目ゲンゲ亜目」(ゲンゲ科やニシキギンポ科)により近縁であることが示唆されており【参考文献7】、ヤガラ類とトミヨの「魚のサカナ」が似ていないのは当然であるとも言える(もっともスズキ目ゲンゲ亜目の「魚のサカナ」にもほとんど似ていないのだが、、、)。
烏口骨本体の後部下端は「魚のサカナ」の作る面と垂直方向に幅広になっており、例えるならば『琴柱(ことじ)』のよう。ただし、この部分が擬鎖骨と結合していたかどうかは未確認。また『背鰭』から『嘴』部分にかけて、骨の内部に密集した粒状の模様が見える。
従来日本産トミヨ属魚類は、鱗板列の連続性などの形態的特徴に基づきトミヨ、イバラトミヨ(別名キタノトミヨ)、エゾトミヨ、ムサシトミヨ、および絶滅種のミナミトミヨに分類されていた。この分類に基づく「日本産魚類検索 第2版」のトゲウオ科の同定の『鍵』を辿ると、1)背鰭棘は9本(7本以上/写真中段右)、2)体側の鱗板は体前部から尾柄部まで連続する(写真下段左の赤矢印/エゾトミヨ・イバラトミヨ・ムサシトミヨでは体側の鱗板は体前部または尾柄部に限られる)、3)背鰭・臀鰭・腹鰭の棘の鰭膜は透明(写真下段右の赤四角/ミナミトミヨでは鰭膜が黒い)などの形質から、本稿の魚は「トミヨ」であると判断できる。
ところが、近年のアロザイム分析や系統学的解析【参考文献1−4】の結果、トミヨおよびイバラトミヨを見分けるための表徴形質とされていた「鱗板列形態の相違」は、実際は「種内多型」であったため分類に使えないことが判明し、遺伝学的には I)北海道北部、東部、石狩川流域およびサハリンに不連続に分布する「エゾトミヨ」(背中のトゲが10〜13本で、その長さはイバラトミヨ/トミヨの各型のものに比べて短い)と、かつてはトミヨ・イバラトミヨとされていた、II)北海道東部太平洋岸の河川の下流域のみに生息する(つまり本州には分布しない)「トミヨ属汽水型」、III)秋田県雄物川(おものがわ)水系や山形県天童市にのみ生息する「トミヨ属雄物型」、IV)上記2型よりも広い地域に分布する「トミヨ属淡水型」(ちなみにムサシトミヨは遺伝学的にはこの型に含まれるとのこと)の4グループに分けられることが明らかになった。また「トミヨ属雄物型」と「トミヨ属淡水型」は形態的に良く似ており、また一部地域では同所的に分布する地点もあるものの、背鰭棘鰭膜が「雄物型」では黒色であるのに対し「淡水型」では透明であることで識別できるとのこと。
今回の個体は、i)背鰭棘鰭膜が透明、ii)青森県産、iii)同じ「パック」の中にオタマジャクシ(=基本的に汽水域では生きられない)が2匹も紛れ込んでいたなどの形質/産地/状況証拠から、「トミヨ属淡水型」であると判断した(間違っているようならば是非ご指摘下さい)。
ちなみにトミヨを含めたトゲウオ科魚類の雄は、巣作りと卵塊の保護行動を行うことが知られている。環境省のレッドリストでは“トミヨ属淡水型本州地域個体群”が「絶滅のおそれのある地域個体群(LP)」に、また青森県では重要希少野生生物 (Bランク) /「絶滅危惧II類」にそれぞれ指定されている。
2012年9月に角上魚類日野店で購入した青森県産の「ごり」のパック(当日のキロ単価は800円)の中に3匹だけ紛れ込んでいたもの。本稿の写真の個体は「魚のサカナ」を摘出しただけで口にしておらず、また残りの2匹は現在も冷凍保存中(エタノール浸漬標本にする予定)なので、今のところトミヨ/トミヨ属淡水型の食味に関するコメントはできない。
【注】従来の形態的分類における「トミヨ」の学名。現況に合わせて「トミヨ属淡水型」とした時は、学名が確定していないことから Pungitius sp. "Freshwater type" などとなるはず。
【参考文献】
1. Takata,K., A.Goto and F.Yamazaki. Biochemical identification of a brackish water type of Pungitius pungitius,and its morphological and ecological features in Hokkaido,Japan. Japan.J.Ichthyol., 34:176-183 (1987). PDF
2. Takata, K., A. Goto and F. Yamazaki. Genetic differences of Pungitius pungitius and P. sinensis in a small pond of the Omono River system, Japan. Japan. J. Ichthyol., 34: 384–386 (1987). PDF
3. Takahashi, H. and A. Goto. Evolution of East Asian ninespine sticklebacks as shown by mitochondrial DNA control region sequences. Mol. Phylogenet. Evol., 21: 133–155 (2001). 要旨(全文PDFのダウンロードは要アクセス権)
4. 河又邦彦・杉山秀樹.淡水型と雄物型に固定したアロザイム遺伝子と形態学的特徴.秋田大学教育文化学部研究紀要(自然科学),57: 7–12 (2002).(ネット上にPDFはなさそう)
5. 杉山秀樹「トミヨ属雄物型:きわめて限定された生息地で湧水に支えられる遺存種の命運」シリーズ・Series 日本の希少魚類の現状と課題 魚類学雑誌 56: 171–175 (2009). PDF(参考文献6も併録)
6. 酒井治己「名前のないトゲウオ類」シリーズ・Series 日本の希少魚類の現状と課題 魚類学雑誌 56: 178–179 (2009). PDF(参考文献5も併録)
7. Kawahara, R., M. Miya, K. Mabuchi, S. Lavoué, J.G. Inoue, T.P. Satoh, A. Kawaguchi and M. Nishida, Interrelationships of the 11 gasterosteiform families (sticklebacks, pipefishes, and their relatives): A new perspective based on whole mitogenome sequences from 75 higher teleosts. Molecular Phylogenetics and Evolution 46: 224–236 (2008) 要旨(全文PDFのダウンロードは要アクセス権)
2013-02-02
355: アシシロハゼ
スズキ目ハゼ亜目ハゼ科ゴビオネルス亜科マハゼ属
学名:Acanthogobius lactipes (Hilgendorf)
英名:Whitelimbed goby [原](FishBaseに英名表記なし)
青森県産で全長約6cmの雄個体(第1背鰭棘条の先端部が糸状に伸びている/下の写真下段右参照)から摘出した左右の「魚のサカナ」。つまようじの『頭』の大きさからも分かるように標本の幅は4~5mmほどしかない小さなもの。写真右は、写真左右側の標本の拡大図。固定用のエタノールから取り出した後、写真撮影中にも乾燥が急激に進んだ結果、射出骨の内側に白帯状の模様ができてしまった(右の拡大写真の方が『白帯』が大きい=より時間が経ってから撮影されたもの)。
「足白沙魚/足白鯊のアシシロハゼ」は、これまでに紹介してきた全てのハゼ科の「魚のサカナ」で見られた「軟骨質で薄い肩甲骨が巨大な射出骨の下に貼り付く」という最大の特徴をやはり共有している。「魚のサカナ」全体の形状を見ると、射出骨の前先端部が尖る、射出骨の後縁は直線的、烏口骨の上方突起(『背鰭』)部は高くその先端は鋭角的、烏口骨の『嘴』部も比較的長いなど、やはり同属のマハゼ科のものに、またその中でも特にマハゼのものに良く似ている。とは言うものの、「足白沙魚/足白鯊のアシシロハゼ」では 1)肩甲骨孔がより大きい、2)射出骨中央部や後縁部が引っ掻かれたようにならない、3)烏口骨の『背鰭』部はより高く鋭い、『嘴』部はより短いなど、マハゼのものとの相違点を些細ながら複数挙げることは可能である。
ちなみにジュズカケハゼやヌマチチブなどとは「魚のサカナ」の形状がそれなりに異なるので、これらの種がパックの中に混在(下記参照)していても、この骨の形状を比較すれば(正しくは「比較できれば」もしくは「比較する気があれば」)魚種をある程度区別することができるかも知れない。
『日本産魚類検索 全種の同定 第2版』のハゼ科の「同定の鍵」を辿り、1)体側に側線はない、2)下顎先端は円錐状に突出しない(写真中段左)、3)背鰭は2基(写真下左)、4)第1背鰭棘数は8(写真下段右)、5)頬に横列皮褶がない(写真中段左)、6)眼下に眼を収納するくぼみがない(写真中段左右)、7)下眼瞼がない(写真中段左右)、8)腹鰭は完全な吸盤である、9)体形が伸長している、10)口は多少とも傾斜する、11)背鰭起点から背中線上に皮質隆起がない(写真中段左)、12)第1背鰭第1棘は軟らかくて曲げられる、13)鰓蓋をあけた時、鰓孔の後縁にあたる肩帯上に指状で楕円形をした縦長の肉質突起がない、14)前鼻孔下方に膨出部がない(写真中段左)、15)下の先端は深く凹まない(また同時に口角は眼の後縁を越えない/写真中段右)、16)顔のどこにもひげがない、17)臀鰭基底は第2背鰭基底とほぼ同長(写真下左)、18)体側に円形の模様がない(写真下左)、19)口角部に皮質突起がない(写真中段右)、20)吻は前に突出せず、上唇前縁を被わない(写真中段左右)、21)尾鰭後縁の形は丸くない(写真下右)、22)胸鰭上縁の軟条は遊離しない(写真下段左)、23)眼は著しく大きくはない(写真中段左右)、24)頬と鰓蓋に鱗がない(ように見える)、25)縦列鱗数は31、26)尾柄部の斑紋は後方で二分する(ように見える/写真下右の赤丸)、27)青森県産などの形質/産地からアシシロハゼであると判断。
また『新訂原色魚類大圖鑑』の「アシシロハゼ」の項に記載された、28)体はほぼ円筒形で後方に向かうにつれ側扁する、29)両顎には狭い歯帯があり、外列歯は大きい、30)左右の鰓膜下端は峡部に癒着、31)尾鰭は大きい、32)両背鰭と尾鰭に斑紋(写真下左右)、ただし尾鰭下方の3分の1は無斑(実際には暗色縦帯/写真下右の青矢印)、33)多数の淡色横帯がある(特に本稿の個体の体側には10本近い淡黄色横帯がきれいに出ている/写真下左)などの形質も確認した。
腹鰭は黒っぽく(写真下)、パックから本種をピックアップする時の良い目印になったが、これでは「アシグロハゼ」になってしまうような気も(婚姻色の可能性も?)。
2012年9月に角上魚類日野店で購入した青森県産の「ごり」のパック(当日のキロ単価は800円)の中に少量だけ混じっていたもの。ちなみにパックの中身はジュズカケハゼ(もしくはビリンゴ)が存在比で約70%、ヌマチチブが約25%、残り約5%が本種を含めたそれ以外の生物(他にスジエビやオタマジャクシも)といったところ。写真の個体は「魚のサカナ」を摘出しただけで食べてはいない。また残り数匹はエタノール浸漬標本にしてしまったので、今のところアシシロハゼの食味は不明。































































































































































































































































