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魚のサカナ(鯛のタイ)図鑑 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2015-12-31

この「図鑑」に関して

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この「図鑑」は「魚の中にある魚の形をした骨」、いわゆる「鯛のタイ」(他に「鯛中鯛」「鯛の鯛」などとも)の写真を集めたものです。

2014年4月現在で、紹介済みの「魚のサカナ」が 380種(未同定魚種や、開設当初に紹介した同定が少々怪しいものも含む)を超えました。

初めの内は魚種によって形が全く違うのを見て喜んでいただけでしたが、数が沢山集まってくると、形の類似点の中に魚類の系統関係などが垣間見えたりと、非常に奥の深い「遊び」であることに気がつきました。もっと専門的かつ体系的に調査したらそれなりに面白い研究になりそうな気もしますが、ここに紹介したのは、あくまで「根っからの魚っ食いのささやかなお楽しみ」で集めたもの。今のところほとんどのものは「自分自身が食べた魚」から取り出した「魚のサカナ」です。

350エントリーを機に『50音順の索引(各エントリーへのリンク付き)』を作りました。是非ご利用下さい。もちろん上か右下のボックスからも魚名を含めた記事の内容が検索できます。また右側の『カテゴリー』欄で「目名」(魚種数が膨大なスズキ目に関しては「亜目名」、更にカサゴ亜目、スズキ亜目、ベラ亜目およびカジカ亜目に関しては「科名」もカテゴリー分けしてあります)から探すこともできます。この方法は、同じ「目(若しくは亜目/科)」に分類される魚達の「魚のサカナ」を一度に比較でき、硬骨魚類の「進化」の一端を感じられることもあって個人的には一番のおススメです。過去の記事(特に開設当時にまとめてエントリーしたもの)も、しばしば改稿したり写真を追加したりしています。宜しければ時々チェックしてみて下さい。

ちなみに筆者は魚類学の専門家ではありませんので、魚種の同定を含め、間違った情報が多々含まれていると思います(特に頻繁に変更される「分類群名」はフォローし切れていません)。何かお気づきの点がございましたら、どんな些細なことでも構いませんので、コメント欄、もしくはプロフィール欄に書いてあるメールアドレスからお気軽にご連絡頂けると有り難いです。宜しくお願いします。

尚、食味等に関するコメントはあくまで私見ですのであしからず。

トラックバックやコメントは大歓迎です。またこの図鑑(http://d.hatena.ne.jp/fishinfish2010/)自体へのリンクも原則的にフリーですので、ご自由にどうぞ。但し写真や文章の著作権は管理者であるfishinfish2010に帰属します。無断複製および流用はご遠慮下さい。特に営利目的の商業利用は固くお断りします。

多くの写真にサイズマーカーとして写り込んでいる爪楊枝の先端の『玉』部分の長さが約2.5mmです。それでは「魚のサカナ」の形のバリエーションを存分にお楽しみ下さい。

更新履歴

新規登録

06/11/14 -「383: カワラガレイ」
05/01/14 -「382: アンコウ」
04/27/14 -「381: シマセトダイ」
04/26/14 -「380: カナド」
04/25/14 -「379: タカハヤ」
03/10/14 -「378: ヒメスミクイウオ」
03/07/14 -「377: ヒメ」
02/28/14 -「376: オオメハタ」
02/22/14 -「375: アカカサゴ」
01/28/14 -「374: マスノスケ
改稿・写真追加など

04/30/14 -「126: キアンコウ
02/28/14 -「210: ワキヤハタ
03/08/13 -「093: ヤナギムシガレイ
03/08/13 -「042: ウサギアイナメ
02/26/13 -「026: キンメダイ
02/22/13 -「214: フウセンキンメ
02/06/13 -「051: ブリ
02/06/13 -「103: ヒラマサ
11/12/12 -「039: オニオコゼ
11/05/12 -「056: マハタ

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○「魚のサカナ」(と関連する語句)に関してもっと詳しく知りたい方はこちらへ。

○ 魚種の同定に用いた資料と記事内の記号などに関する情報はこちらへ。

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2014-06-11

383: カワラガレイ

カレイ目カワラガレイ科カワラガレイ属

学名:Poecilopsetta plinthus (Jordan and Starks)

英名:Brick sole [原], Tile-colored righteye flounder

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愛知県西尾市にある一色漁港産の全長約12cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真左は、上が有眼側、下が無眼側と考えられる標本。写真右は、無眼側の標本を拡大して撮影したもの。今回「魚のサカナ」を摘出するために、何時ものように冷凍保存しておいたカワラガレイ(丸のまま)を熱塩水中で10分程度煮たが、その間に筋肉組織はおろか、骨と骨を繋ぐ軟骨組織まで崩壊し、脊椎骨を含めた体中の骨という骨が文字通りバラバラになってしまった。これらの骨の山の中から計4個の肩甲骨と烏口骨を「救出」したものが上の標本である(同時に耳石も救出)。ちなみに有眼側/無眼側それぞれにおける肩甲骨/烏口骨の組み合わせは、i) 肩甲骨と擬鎖骨が結合していたと考えられる位置、ii) 骨の厚み、iii) 接合部の形状、iv) 烏口骨の『背鰭』部分が湾曲する方向などから総合的に判断したが、この「再構成」が間違っている可能性もあるので念のため。

これまで紹介してきたカレイ目の「魚のサカナ」は、全体的には似たような雰囲気を持ちながら、実際に各部分ごとに他の種のものと比較すると近縁種間でも形状に比較的大きな差異が観察されることが多かったが、今回の「瓦鰈のカワラガレイ」もやはり「独特」であると言える形状。肩甲骨部分はアブラガレイのものと比較的似ているが、無眼側の烏口骨の上部突起(『背鰭』に相当)辺りが『庇』状に比較的大きくせり出していること、烏口骨下部が丸く湾入していること、烏口骨の『嘴』部(『尾』に相当)が曲線的に下方に伸びていることなどはカレイ目の他の種のものでは観察されなかった特徴である。

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有眼側(左)および無眼側(右)の標本を反対側から観察したもの。カワラガレイの「魚のサカナ」は全体的に薄いもので、特に肩甲骨の後縁と烏口骨の前縁(両者の接合部)は、『背』側で折れ曲がり薄い骨の2層構造を作っていた。

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『日本産魚類検索』のカレイ目の「科の検索」からスタート(『第2版』ではp.100〜『第3版』ではp. 134〜)。1)腹鰭は棘がなく6軟条(写真下左)、2)左右の鰓膜は癒合している、3)前鰓蓋骨に遊離縁がある、4)胸鰭は顕著(写真下段左右の赤丸)、5)眼は体の右側にある(写真中段左)、6)無眼側に胸鰭がある(写真下段右)、7)無眼側の側線は痕跡的で見えにくい(写真下段右)という形質からカワガレイ科であると判断できるが、実は日本近海に生息するカワラガレイ科の魚はカワガレイのみ(つまり1科1属1種)である。カワラガレイの項に記載された 8)尾鰭に2個の大きな黒斑がある(ように見える/写真下右)、9)有眼側の側線は胸鰭上方で上に大きく湾曲する(写真下段左の赤線に注目)などの形質も確認。無眼側の頭部や腹部には多数の皮弁(と言えるか分からないが)がある(写真中段右)。カワラガレイの仲間は、かつてはカレイ科に分類されていたが、上の形質7)からカレイ科から分離され、現在ではカワガレイ科とするのが一般的であると筆者は理解している。ただしWikipediaカレイ」などでは、「カレイ科カワラガレイ亜科」表記になっている。

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2012年12月に「三河一色さかな村」の高橋水産(高橋カンパニー)で入手。前エントリーで紹介したアンコウを購入した際に、その内の1匹が口にくわえていたものだが、実際に「エサ」として摂食したものなのか、あるいは網の中でたまたまそのような状態になってしまったのかは不明。この個体の鮮度はまずまずに見えたが、1匹だけということでそのまま冷凍保存。「魚のサカナ」調製時に「塩煮」を試食しようと思っていたのだが、上述したように塩水中で煮ただけで身も骨もバラバラになってしまったので、残念ながら現時点では味に関するコメントはできない。ただしネット上の情報によれば、一部地域では干物にして食べられている模様。

2014-05-01

382: アンコウ

アンコウ目アンコウ亜目アンコウ科キアンコウ属

学名:Lophiomus setigerus (Vahl)

英名:Blackmouth goosefish [原], Blackmouth angler, Broad-headed angler

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愛知県一色産の体長約20.5cmの雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。肩帯部から摘出後、エタノールにしばらく浸漬したものを半乾燥の状態で撮影。

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写真上の左側の標本を反対側から撮影したもの。エタノール処理前(左)と処理後(右)。「鮟鱇のアンコウ」は、これまでに紹介したアンコウ目の「魚のサカナ」と同じように、全体的に厚みのある軟骨質で、烏口骨の上方突起(『背鰭』)部はあまり高くないなど、ミドリフサアンコウのものよりも、やはり同じキアンコウ属のキアンコウのものの方により似ていると思われる。ただし肩甲骨上部の膨出部分は、(特に非乾燥状態で)アンコウのものの方がより大きく見える。また比較的骨の幅が薄い肩甲骨下部(および烏口骨の『嘴』部の付け根辺り)ではより早く乾燥が進行しており、そのために肩甲骨孔がより大きく見える。

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エタノール処理前の同じ標本を上側から観察。この方向から見ると「鮟鱇のアンコウ」は、途中で2度湾曲しているのが分かる。

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ネット上の情報はもとより、魚関係もしくは料理関係の書籍などでもしばしば混同されているが、一般に鮮魚店や市場で「あんこう」もしくは「本あんこう/ほんあんこう」として売られているのは、ほとんどが標準和名キアンコウであり、稀に「くつあんこう」などとして売られているのが本稿で紹介している標準和名アンコウである。流通量は当然キアンコウの方が圧倒的に多く、アンコウは基本的に底曵き漁の水揚げ港周辺で細々と流通する程度というのが実情とのこと。魚体サイズはキアンコウの方がより大型になるとされる。ただ実際問題、市場や鮮魚店などではキアンコウ/アンコウとも肝の大きさを見せるために腹側を上に向けて並べられているため、背側に集中している「表徴形質(要するに魚種の見分けに必要な『鍵』)」を店頭などで確認するにはそれなりの覚悟(?)が必要となる。

写真撮影時は『日本産魚類検索 第2版』のアンコウ科の検索キー(『第3版』も同一)を辿り、1)鰓孔(写真中段右の赤線)は胸鰭基部(同緑線)より背面上方に達しない(=胸鰭の前側が切れ上がらない)、2)上膊棘(じょうはくきょく)【注】は多尖頭(写真下段左の赤丸の位置、写真下段右は体表面から見た様子、写真下左は標本にしたもの/赤四角部分)、3)口腔内に白色斑がある(写真中段左)などの形質からアンコウであると判断。また、X線による骨構造の撮影が可能な環境下もしくは解剖後であれば、脊椎骨数が20以下(写真下右)であることで、脊椎骨数が26~27と多いキアンコウと区別できる。

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2012年12月に「三河一色さかな村」の高橋水産(高橋カンパニー)で購入したもの。当日はほぼ同サイズのアンコウばかりが12匹盛られて700円。今回は魚のサイズがあまり大きくなかったので「身欠き」状態にして唐揚げに。一般にアンコウ/キアンコウをきちんと区別した場合には、キアンコウの方が美味いとされているが、確かにアンコウの食味はキアンコウと比べて少々水っぽく、旨味もキアンコウより少ないように思われた。ただしこれらはあくまで「比較」の問題で、アンコウ自体を単独で味わうならば十分美味い。

【注】上膊棘(Humeral spines):擬鎖骨の"vertical limb"(和訳すれば垂直肢もしくは垂直脚/擬鎖骨の湾曲部から先の短い部分(実際には後方となる)で、「魚のサカナ」が結合した状態で言うと、『頭』即ち肩甲骨側の枝のこと)の後端から後方に伸びる大きくて複雑な棘。ちなみに、ミシマオコゼ類でも「上膊棘」と同じ位置に棘構造が観察できるが、こちらは一般に『擬鎖骨棘』と呼ばれている(どちらも英語では Humeral spines となるので、いわゆる「相同構造」なのだろうと推察しているのだが、、、)。


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【参考】アンコウとキアンコウの見分け方

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本稿のアンコウ(愛知県産/全長20.5cm)と、2012年2月に入手したキアンコウ(新潟産/全長35cm)の写真を使って両種の見分けに必要なポイントをまとめてみた。ちなみにこの写真のキアンコウの胃袋の中には『最後の晩餐』となった魚が大量に入った状態(腹側の全体像を参照)であり、体型が少々変わってしまっているのでご注意。

アンコウとキアンコウの体色を比べると、名前の通りキアンコウの方が少々黄色(もしくは赤色)がかっている(写真最上段左右)。またアンコウでは体がもっとも膨らんだ位置から少し後方に胸鰭があるのに対して、キアンコウでは体がもっとも膨らんだ位置に近いところにある(写真最上段左右/要するにキアンコウの胸鰭の方がより前側にある)。ただし、筆者自身の経験からしても、上記した2つの相違点は両種(もしくはその写真)を並べて比較してみないと判別は困難というのが実際のところ。

両種を見分けるために最も簡便な方法は、口の中を見る事で、アンコウの口中には黒褐色の背景に大きめの白斑が散在しているが、キアンコウの口中にはこのような白斑が存在しない(写真3段目左右)。ただし、写真からも分かるように、アンコウ/キアンコウとも口に鋭い歯がズラッと並んでいるので、口中を確認する時には怪我をしない様に十分気をつけて頂きたい。また、擬鎖骨の先端部から突き出る『上膊棘』の形状が、アンコウでは「多尖頭」(鹿の角のように枝分かれする/写真4〜6段目左)のに対して、キアンコウは「単尖頭」(枝分かれせず『槍』状/写真4〜6段目右。ちなみに写真5段目右の緑丸は、擬鎖骨に結合した状態の「黄鮟鱇のキアンコウ」)である。

更に胸鰭や背鰭の周縁に注目すると、アンコウの方がキアンコウよりも各鰭条間がより深く切れ込んでいる(よりギザギザしている)ような印象がある。まだ観察した個体数が少ないので断定はできないが、もしかしたら店頭で両者を見分ける時の参考程度にはなるかも知れない。


アンコウ(愛知県産)
キアンコウ(新潟県産)
全体像(背側)f:id:fishinfish2010:20130214153847j:imagef:id:fishinfish2010:20130214154603j:image
全体像(腹側)f:id:fishinfish2010:20130214163100j:imagef:id:fishinfish2010:20130214154602j:image
口内f:id:fishinfish2010:20130214153845j:imagef:id:fishinfish2010:20130214154600j:image
上膊棘(生鮮時)f:id:fishinfish2010:20130214163430j:imagef:id:fishinfish2010:20130214154557j:image
上膊棘(標本)f:id:fishinfish2010:20130214153840j:imagef:id:fishinfish2010:20130214154556j:image
擬鎖骨(標本)f:id:fishinfish2010:20130214163616j:imagef:id:fishinfish2010:20130214163637j:image
胸鰭f:id:fishinfish2010:20130214163715j:imagef:id:fishinfish2010:20130214153843j:image
背鰭f:id:fishinfish2010:20130214153842j:imagef:id:fishinfish2010:20130214154558j:image

2014-04-27

381: シマセトダイ

スズキ目スズキ亜目イサキ科ヒゲダイ属

学名:Hapalogenys kishinouyei Smith and Pope

英名:Fourstripe grunt [原], Lined javelinfish, Striped velvetchin

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愛知県西尾市にある一色漁港産の全長約25cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「縞瀬戸鯛のシマセトダイ」の形状は、これまでに紹介したイサキ科の「魚のサカナ」の中では、セトダイのものに最も似ていると思われるが、肩甲骨前縁の形状、肩甲骨孔の形状、烏口骨の上方突起(『背鰭』)部の形状と立ち上がりの角度、烏口骨下側の湾入部の形状などに違いが見出せる。

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ネット上の色々な情報を見る限り、シマセトダイは比較的珍しい部類の魚であるよう(例:鳥羽水族館NEWS ”珍しいシマセトダイを標本保存”)で、筆者自身が確認した範囲(頻繁に訪問できる訳ではないので、、、)では「三河一色さかな村」でも頻度良く見かけるような魚ではないと思われるが、2012年の年末だけは何故かあちこちの店で売られていたような印象がある。

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写真撮影時には『日本産魚類検索 第2版』のイサキ科の検索キーを辿り、1)臀鰭軟条数は9(写真下段左)、2)下顎腹面に痕跡的な髭がある(写真上段右)、3)背鰭起部に1前向棘がある(写真中段左の赤四角)、4)背鰭・臀鰭の軟条部と尾鰭の後縁は黒くない(写真中段右および下段左右/今回の個体の尾鰭後縁は多少黒いが、セトダイほど明瞭な黒色ではない)、5)体側に顕著な横帯がない(写真下右)、6)体側に数本の暗色縦帯がある(写真下右)などの形質からシマセトダイであると判断した。ちなみに同書『第3版』では、上記の第1検索が削除されたが、それ以外の検索キーは『第2版』と同一である。

また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)体は卵円形で側扁する、8)体高は高い、9)鼻孔が大きく、吻端より眼の前縁近くに開く(写真上段左)、10)眼は大きい(写真上段左)、11)下顎下面に4対の小さな孔がある(写真下左)、12)両顎歯は絨毛状歯帯をなし、その外列歯は大きい、13)上顎前方の歯は強くて犬歯状(写真下左)、14)背鰭第4棘は第3棘より長い、15)臀鰭第2棘は強大(写真下段左)などの形質も確認した。

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2012年12月に「三河一色さかな村」の深谷水産で購入したもの(同サイズのシマセトダイ2匹、全長約25cmのオオクチイシナギ2匹、全長約20cmのカゴカキダイに小魚が色々盛られて全部で1,500円)。この時のシマセトダイ2匹(およびオオクチイシナギとカゴカキダイ)は刺身にして知り合いの自宅で開かれた忘年会に持参。歯ごたえも適当で、身質もかなり良い。味の方も文句なく、脂の乗りも旨味も多い。体高の高いイサキ科の魚は基本的に美味いという認識が合ったが、期待に違わぬ大変な美味。忘年会参加者の評判もかなり良く、あっという間に皿の上からなくなってしまったと記憶している。

【注】『新訂原色魚類大圖鑑』に地方名「とももり」の記載があるが、どの地方の呼び名であるかは不明。またセトダイ/ヒゲダイ/ヒゲソリダイの項にも同じ名前が記載されていることから推察して、体高の高いイサキ科の魚が区別されずにこの名前で呼ばれている可能性が高い。

2014-04-26

380: カナド

スズキ目カサゴ亜目ホウボウ科カナガシラ属

学名:Lepidotrigla guentheri Hilgendorf

英名:Redbanded searobin [原]

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愛知県一色漁港産の全長約22cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」の標本。エタノール浸漬中に少々黄変してしまった。写真右は、写真左の右側の標本をより近くから撮影したもの。「金戸のカナド」の形状は、これまでに紹介してきたホウボウ科の「魚のサカナ」に典型的と言えるものであるが、烏口骨下縁の擬鎖骨と結合しているラインが比較的長くなっているために、同じカナガシラ属のカナガシラオニカナガシラのものよりも、属が異なるホウボウ(ホウボウ属)のものの方により似ているのが興味深い。

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カナドの「魚のサカナ」の第1射出骨(写真上左)と烏口骨(写真上右)には小孔が開いているが、第2、第3、第4射出骨にはこのような小孔は確認できない(少なくとも目視レベルで)。第2〜第4射出骨にも小孔が存在する同じカナガシラ属のカナガシラやオニカナガシラの「魚のサカナ」とは異なる部分と言えるが、この特徴(小孔は第1射出骨と烏口骨のみ)は、面白い事にホウボウの「魚のサカナ」でも見られるもの。ホウボウ科内の系統関係がどの程度詳しく解析されているのかは分からないが、もし分子系統解析のデータなどが存在しているのならば、カナドとホウボウがどのくらい近い(あるいは遠い)位置にあるのか是非確かめたいものである。

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日本産のカナガシラ属の魚は11種類が知られているが、各魚種の表徴形質(要するに見分けるためのポイント)が少々分かりにくいため、筆者のような素人レベルでこれらの魚種を見分けるのはなかなか難しいというのが実際のところ。その中にあって、カナドは背鰭第2棘が著しく長くなる(写真下段左)ため、外見からも比較的見分けやすい種である(ただしこの棘は網に引っ掛かるなどして折れている場合もあるので注意)。また尾鰭に2本(および尾柄部に1本)ある明瞭な赤色帯(写真下右)は店頭でトレイなどに盛られた状態でも判別しやすく、その上で第1背鰭後方に赤色円斑がない(写真下段左)こともカナドを見分ける時の参考となる。カナドの胸鰭内面の模様を『日本産魚類検索』からそのまま引用すると「下方に、虫食い状青色斑を含む1大黒斑があり、中央部は黄緑色、縁辺は淡い赤褐色」(写真下左)。ちなみに胸鰭内面の模様がカナドのものと比較的良く似たオニカナガシラでは、その縁辺が淡灰色〜青色となることで区別できる。

写真撮影時は『日本産魚類検索 第2版』の同定の鍵(『第3版』も同一)を辿り、1)第2背鰭は8棘15軟条で、基底には小棘のある骨質板がある、2)頬部に顕著な隆起線はない(写真中段左)、3)吻棘は顕著で、基底部は前に突出する(写真中段右)、4)吻背面は少々くぼむ(写真中段左)、5)側線有孔鱗数は60(明らかに70以上はない)、6)胸鰭は普通で、その後端は第2背鰭中央下に達しない、7)吻棘は多くの小棘からなる(写真中段右)、8)胸鰭遊離軟条先端(写真下段右の青線)は、腹鰭先端(同赤線)から眼径の1/2以内に達する(ように見える)、9)背鰭第2棘は第1棘より著しく長い(写真下段左)などの形質からカナドであると判断。

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2012年12月に三河一色さかな村にある「カネ長鮮魚店」で購入したもの(ほぼ同サイズのカナドが12匹盛られて450円)。今回は見るからに新鮮な個体であったので刺身と唐揚げに。刺身にすると、もっちりとした歯ごたえ。ホウボウほどではないが甘み旨味がある。また唐揚げにすると、身質も良く旨味もある。どちらの料理法でも美味。

2014-04-25

379: タカハヤ

コイ目コイ科ウグイ亜科ヒメハヤ属

学名:Phoxinus oxycephalus jouyi (Jordan and Snyder)【注】

英名:Upstream fatminnow [原], Southern fat minnow(FishBase英名表記なし)

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標準和名アブラハヤと区別されずに「あぶらはや」と呼ばれることが多いと思われる(その他の地方名としては、あぶらめ、うき、くそむつ、どろばえ、もつご等)。今回紹介するのは、長野県下伊那郡を流れる阿知川で釣獲された全長約15cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏口骨付き。写真左の標本は、烏口骨の『嘴』部(「魚のサカナ」の『尾』に相当)の先端が少々欠損している。

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写真上の右側の標本を両側から観察したもの。「高鮠のタカハヤ」の形状は、全体的に横方向にスラッと長く、烏口骨の『嘴』部の先端が鋭角的になっていることから、これまで紹介してきたコイ目の「魚のサカナ」の中では、オイカワウグイホンモロコなどのものと比較的似た印象を与えるもの。ただしタカハヤの「魚のサカナ」の中烏口骨は、他のものとは大きく異なる形状で、丁度リボンが棚引いているかのように大きく波打っている(写真左)。烏口骨の上方突起部(『背鰭』に相当)はあまり高くなく、比較的大きめの孔が1〜2個開いている。

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写真撮影時は『日本産魚類検索 第2版』のコイ科の検索キー(『第3版』も同一)を辿り、1)背鰭の最長鰭条に鋸歯縁がない(写真下段左)、2)臀鰭起部は背鰭基底後端より後にある(前にはない/写真下右)、3)眼の上縁は吻端よりも上(写真中段左)、4)口に髭はない(写真中段左)、5)腹縁は丸い(ように見える)、6)生時、眼の上縁は銀白色(と思われる/写真中段右)、7)臀鰭の分枝軟条数は6(写真下段右)、8)口は吻端にある(写真中段左)、9)胸鰭は垂直位、10)背鰭と尾鰭に顕著な斑紋がない(写真下段左および写真下左)、11)口は著しく小さくなく上向きではない(写真中段左)、12)側線は完全で尾柄部まで達する(写真下左)、13)鱗は小さく(写真下左右)、側線鱗数は72(ほど)、14)臀鰭起部は背鰭基底後端とほぼ同位置(写真下右)、15)上顎の先端は吻端より後ろ(写真中段左)、16)喉部は角張らずになめらか(写真中段左)、17)尾柄高(1.2cm)は高く、頭長(2.4cm)の50%、18)側線上方の横列鱗数は16、19)体側の縦帯は不明瞭(写真下右)、20)側線より下の体側の暗色斑点は明瞭(写真下右)、21)尾鰭基底中央に暗色斑がない(小さな暗色斑があるようには見えるが/写真下左)、22)尾鰭後縁の切り込みは浅い(写真下左)などの形質からタカハヤであると判断。写真では眼球が白く映っているが、これは冷凍されていた個体を半解凍状態で撮影しているため。

雰囲気の似たヤチウグイとは形質15および16と生息地(ヤチウグイは北海道やサハリンで生息するのに対し、タカハヤの生息地は本州の静岡県・福井県以西)で、アブラハヤ/ヤマナカハヤとは、形質17から22(アブラハヤ/ヤマナカハヤでは、尾柄高が低く頭長の48%以下、側線上方横列鱗数が20以上、体側の縦帯は明瞭、側線より下の体側の暗色斑点は不明瞭、尾鰭基底中央に暗色斑がある、尾鰭後縁の切り込みはやや深い。またアブラハヤ/ヤマナカハヤは、尾柄高が頭長のそれぞれ40%以上/38%以下であること、山中湖と本栖湖に分布しない/分布することで見分けられるとのこと)。

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筆者の父親が2012年夏〜初秋(正確な日時は不明)に長野県下伊那郡の阿知川で釣り、「魚のサカナ」摘出用にと冷凍保存しておいてくれたもの。今回は標本を摘出しただけで味見はしなかったが、ネット上の意見では「不味」というのが大多数(『原色甲殻類検索図鑑』でも不味と明記)。ただし「意外に美味い」などの意見も散見されるので、将来的に新鮮な個体がまとまって手に入ったら色々な料理を試してみるつもりである(まあタカハヤが市場流通するとは思えないので自分で釣るしかなさそうだが)。

【注】FishBaseでは、学名をPhoxinus jouyi (Jordan and Snyder)として『種』扱い。

2014-03-10

378: ヒメスミクイウオ

スズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科スミクイウオ属

学名:Synagrops philippinensis (Günther)

英名:Sharptooth seabass, Splitfin(『原色』に英名表記なし)

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愛知県蒲郡市西浦産の全長約10.5cmの個体から摘出した「魚のサカナ」の標本。「姫墨食魚のヒメスミクイウオ」は、肩甲骨と烏口骨本体の上縁が両者の接合部を中心に上方に盛り上がるなど、これまでに紹介してきたホタルジャコ科の「魚のサカナ」と形状の特徴を共有していることが一見して分かるもの。それらの中ではアカムツ(特に新潟産の個体からの標本)のものに最も良く似ているように思われるが、「姫墨食魚のヒメスミクイウオ」のものでは、1)肩甲骨孔の上方に小孔が存在する、2)烏口骨の上方突起(『背鰭』)部が槍のように尖る、3)烏口骨の『嘴』部分がより下方に向かうので、左右方向が多少寸詰まりに見えるなどの相違点を挙げることが可能。

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ヒメスミクイウオの耳石は魚体や「魚のサカナ」のサイズに比して大きい(ホタルジャコ科魚種の特徴かもしれない/要確認)。

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『日本産魚類検索 第2版』の検索キー(『第3版』でも変更なし)を辿り、1)臀鰭棘は2本(写真下段右/針の左側の2棘だが、第1棘は非常に短い)、2)腹鰭棘の前縁は鋸歯状(写真中段右の赤矢印)、3)第1背鰭(写真下段左の青矢印)と臀鰭(写真下段右の青矢印)の第2棘の前縁はなめらかなどの形質からヒメスミクイウオであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、4)眼は大きく、眼径は吻長、眼隔域長より長い(写真中段右)、5)口が大きい(写真下左)、6)上顎に絨毛状歯、両顎に犬歯があり(写真下左)、口蓋骨と前鋤骨にも歯がある、7)前鰓蓋骨の後下縁は突出し鋸歯状(写真下右の赤四角)、8)第2背鰭と臀鰭はほぼ相対する、9)尾鰭は2叉などの形質も確認した。

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2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で入手。前エントリーの「ヒメ」の山に1匹だけ紛れ込んでいたものだが、ヒメだけを袋に入れてくれた店員さんが「これは要らないよね?」と捨てそうになり、「いやいやいやいや要ります!」と慌てて静止して手に入れることが出来たもの。今回は「魚のサカナ」を摘出しただけで終わってしまったため、味の確認は出来ていない(次の機会には是非とも)。

2014-03-08

377: ヒメ

ヒメ目ヒメ亜目ヒメ科ヒメ属

学名:Aulopus japonicus (Günther)【注】

英名:Japanese aulopus [原], Japanese thread-sail fish, Japanese threadsail

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『新訂原色魚類大圖鑑』によれば、アカエソ、オキハゼ、トラギス、トラハゼなどの地方名があるとのこと(但し標準和名で言うところのアカエソやトラギスなどとは当然別種なので混同なきよう)。今回紹介するのはは愛知県蒲郡市西浦産の全長約24.5cmの雄個体から摘出した「魚のサカナ」の標本。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を除去し、反対側から観察したもの。さて「比女/姫のヒメ」の形状だが、肩甲骨と烏口骨本体がラグビーボールのような楕円形を作るという点においては、同じヒメ目のツマグロアオメエソのものとの共通性を見いだせるものの、基本的にはこれまでに紹介してきたヒメ目の「魚のサカナ」の形状とは大きく異なっていると言える。「魚のサカナ」の『背鰭』に相当する上方突起部分は『鎌』のような形状で大きく立ち上がり、また『尾』に相当する烏口骨の『嘴』部分は比較的直線的にかなり長く伸びている。肩甲骨孔は比較的大きめ。肩甲骨の後部下方と擬鎖骨との結合がかなり強いために、擬鎖骨から標本を外す時に肩甲骨の一部が擬鎖骨側に残ってしまい、写真で見られるように下部が抉れたような形になってしまう。

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こちらは全長約23.5cmの雌個体から摘出した標本。擬鎖骨の結合が強いために、剥がれて抉れたようになる肩甲骨下部も含め、「魚のサカナ」の形状に雌雄差はほとんどないと思われる。

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上の写真は左側に雄個体、右側に雌個体のものを並べてある。これらの個体は『日本産魚類検索 第2版』(『第3版』でも変更なし)の検索キーを辿り、1)背鰭は16軟条(写真下段左右)、2)側線鱗数は42(雄個体)と40(雌個体)、3)吻長は眼径とほぼ等しい(写真中段左右)、4)雄の背鰭前端付近の軟条は伸長しない(写真下段左)、6)鰓端数は22(雄個体)と20(雌個体)などの形質を確認してヒメの雄雌であると判断。また「固定された雌の背鰭前端付近には数個の暗色点が見える」(検索キーの一つ)とのことが、生鮮の個体を観察したためか今回この暗色点は確認できなかった。

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雄個体の臀鰭には明瞭な黄色縦帯が存在する(写真上左)が、雌個体の臀鰭は全体が白色である(写真上右)。

2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で購入(ほぼ同じサイズのヒメが雄雌混じりで10匹以上盛られて200円)。そもそも産地消費がせいぜいといったところで、ほとんど流通しないと思われるが、流通した場合でも普通はすり身などに加工されるとのこと。今回の魚は鮮度的には全く問題なかったので、まずは一部を刺身に。身は少々柔らかく、小骨も少なくないが、咀嚼していると甘み旨味を強く感じる。特に旨味はかなり後まで口の中に残るほど。残りはフィレにして南蛮漬けに。小骨がほとんど気にならなくなり、また食欲をそそる香りもある。生の時に感じた強い旨味はやはり熱を通しても消えない。ネット上の評判は賛否両論であるが、個人的には美味い魚であると思う。


【注】FishBaseではヒメの学名をHime japonica (Günther)と掲載し、Aulopus japonicusをシノニムとして扱っている。

2014-02-28

376: オオメハタ

スズキ目スズキ亜目ホタルジャコ科オオメハタ属

学名:Malakichthys griseus Döderlein

英名:Silvergray seaperch [原](FishBaseに英名表記なし)

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地方名しろむつ(白むつ/三河湾)、しょうわだい(昭和鯛/尾鷲地方)、でんでん(沼津・小田原)など(ただし近縁のワキヤハタやナガオオメハタとほとんど区別されていない)。愛知県蒲郡市西浦産の全長約22cmの個体(故に店頭では「白ムツ」)から摘出した左右の「魚のサカナ」の標本。エタノール浸漬の時間が長過ぎたために少々黄変してしまった。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察したもの。「大目羽太のオオメハタ」は、基本的にはこれまでに紹介してきたホタルジャコ科の「魚のサカナ」と共通する特徴を有しているように思われるが、1)肩甲骨と烏口骨本体が五角形に近い形になる、2)『背鰭』(烏口骨の上方突起部)の立ち上がりはあまり高くない、3)烏口骨本体後縁は垂直に立ち上がる、4)湾入部分の形状はあまり丸くないなど独特な部分も多い。また同じオオメハタ属のワキヤハタのものと比較すると、肩甲骨孔のサイズ、『背鰭』前縁および上縁の形状、烏口骨本体と『嘴』部(『尾』に相当)をつなぐ湾入部の形状、『嘴』部の太さなど、同じ属の「魚のサカナ」にしては比較的多くの相違点が観察できる。

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「大目羽太のオオメハタ」の『背鰭』部は、上方から見ると大きく湾曲している(写真左)。また『嘴・尾』部の太さは一定ではなく、所々太くなっている(写真右)。

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オオメハタの耳石はかなり大きく、最長部で1.2cmほどもある。

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写真撮影時には『日本産魚類検索 第2版』のホタルジャコ科の同定の鍵を辿り、1)臀鰭棘は3本(写真下左の黄緑ローマ数字)、2)腹鰭棘の前縁はなめらか(写真下段左の緑四角)、3)肛門(写真下右の赤丸)は臀鰭起部(同青線)に近い、4)下顎先端に棘がある(写真中段右の赤丸)、5)臀鰭基底長(2.3cm/写真下左の赤線)は臀鰭最長軟条長(2.4cm/同青線)とほぼ同長、6)体高(6.4cm)は体長(18cm)の1/3以上、7)側線有孔鱗数は44(41~47)などの形質を確認してオオメハタであると判断。同書『第3版』では、2001年に下記の論文で新種報告されたヒゲオオメハタが追加された関係で検索キーが少々変更されたが、5’)下顎先端の1対の棘を除いて棘はない、6’)臀鰭基底は短い、7’)体高は体長の約36%、8’)側線有孔鱗数は44(42~49)という形質から、やはりオオメハタであると判断した。標準和名に「ハタ」と付いているが、スズキ目スズキ亜目ハタ科の魚とは遠縁なので混同なきよう。

Yamanoue, Y. and K. Yoseda, 2001. A new species of the genus Malakcihthys (Perciformes: Acropomatidae) from Japan. Ichthyol. Res. 48(3):257-261. PDF(ダウンロードには要アクセス権)

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2012年12月に西浦鮮魚マーケットの石川商店で購入。ワキヤハタが大小13匹盛られた木箱の中に1匹だけ混じっていたもの。写真からも分かるように最高の鮮度とは言えない状態だった(前日の水揚げ分か?)が、その分値段は安く計14匹で300円。そのため刺身で食べることは最初から諦めて塩焼きに。適度な食感があり、旨味もなかなか含まれており美味。当日はワキヤハタの塩焼きと食べ比べたが、両種の食味はほとんど変わらないような印象(ただしメモを残すのを忘れてしまったので、あくまで「記憶の上では」だが)。

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【オオメハタとワキヤハタの見分け方】

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写真左は、本稿のオオメハタ(上)と、同じザルに盛られていたほぼ同サイズのワキヤハタ(下)を比較したもの。ほぼ同サイズのワキヤハタと並べた場合は、標準和名通りのオオメハタの眼の大きさが良く分かる(写真右)が、鮮魚店の店頭などで1匹だけが売られているような時にその絶対的な眼径を判断するのはなかなか難しいと思われる(写真下中段左右参照)。

そこで注目すべきは、臀鰭の基底長(写真下の下段左右の赤線)と最長軟条長(同青線)の比率。ワキヤハタでは臀鰭基底長がかなり長く、また臀鰭最長軟条長が短いために、全体的にかなり細長い印象を与えるのに対して、オオメハタでは基底長と最長軟条長がほぼ同長であることがご理解頂けるはず。また下顎棘は両種とも1対のみ(ただしこの写真のワキヤハタでは、下顎棘が折れてしまっているために短い)。

オオメハタ
ワキヤハタ
全体f:id:fishinfish2010:20130108143443j:imagef:id:fishinfish2010:20140224123118j:image
頭部f:id:fishinfish2010:20130108143442j:imagef:id:fishinfish2010:20140224123117j:image
下顎棘f:id:fishinfish2010:20130108143441j:imagef:id:fishinfish2010:20140224124101j:image
臀鰭f:id:fishinfish2010:20130108143438j:imagef:id:fishinfish2010:20140224123115j:image

日本産オオメハタ属魚種の見分け法は以下の通り。下顎先端付近に多くの棘(13対ほど)があり、主鰓蓋骨の2棘間にシミ状の暗色斑があればヒゲオオメハタ。下顎先端付近の棘が1対で、臀鰭最長軟条長が臀鰭基底長の70%未満(最長軟条長より基底長の方が明らかに長い)であればワキヤハタ。臀鰭最長軟条長が臀鰭基底長の90%より長い(最長軟条長と基底長がほぼ同じ)ようであれば、あとは体高が高く(体高は体長の36%以上)側線有孔鱗数が42~49であればオオメハタ、体高が低く(体高は体長の35%以下)側線有孔鱗数が48~51であればナガオオメハタである(ということで、有孔鱗数が48もしくは49の場合は両種とも可能性がある)。ちなみに「体長」とは、頭の先から尾鰭の_付け根_までの長さのこと。一般に釣魚などのサイズ計測に使われる、頭の先から尾鰭の先端部までの長さである「全長」とは異なる(当然「体長」の方が短い)のでご注意頂きたい。

2014-02-22

375: アカカサゴ

【注】2013年2月に発売された『日本産魚類検索 第3版』では、以前から単系統性に大きな疑問が呈されていた『カサゴ目』がとうとう消え、それまでに認められていた亜目(カサゴ亜目、カジカ亜目、セミホウボウ亜目)は、全て『スズキ目』に組み入れられた。またカサゴ/カジカ亜目内の分類も再検討され、例えばこれまでフサカサゴ科内に『亜科』としてまとめられていたものが、メバル科、ヒレナガカサゴ科、ハチ科などの『科』に格上げされ分離された。本『図鑑』も将来的には同書の改訂点に合わせて全面的に改稿する予定だが、残念ながら近い内にこれまでに書いた全てのテキストを見直して、改稿/リンクの貼り直しを行うのは不可能というのが正直なところ。ということで、取りあえず当座は『カサゴ目』を用いていた『タグ』の部分と、各エントリーの頭の『分類』の項だけを修正し、それ以上の改稿は今後の『宿題』とさせて頂きます。

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スズキ目カサゴ亜目フサカサゴ科シロカサゴ属

学名:Setarches longimanus (Alcock)

英名:Red smooth scorpionfish [原], Red deepwater scorpionfish

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愛知県蒲郡市西浦漁港産の全長約20cmの雌個体(卵巣を確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「赤笠子のアカカサゴ」の形状は、比較的『体高』(肩甲骨と烏口骨本体の高さ)が低めで、その上に扇のように射出骨が広がるという、カサゴ亜目の「魚のサカナ」に共通する特徴を有している。ただし烏口骨の本体と『嘴』(「魚のサカナ」の『尾』に相当)部分を繋ぐ部分が大きく湾入している点でメバル科の「魚のサカナ」とは大きく異なり、これまで紹介してきたものの中では、やはり極近縁種であるシロカサゴのものに酷似する。またこの部分は以前から紹介しているシロカサゴの標本よりも今回のアカカサゴのものの方がより深く湾入しているが、本稿の最後にまとめた「両種の比較」から判断する限り、単なる個体差の可能性が高い。ただし烏口骨の『嘴』部分は、アカカサゴのものの方がスラッとより長いように思われる。

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写真の個体の入手時には『日本産魚類検索 第2版』の同定の鍵を辿り、1)側線は溝状(写真下段左)で薄い円鱗に被われる、2)臀鰭は3棘5軟条(写真下段右/この写真では軟条部分が見にくいが)、3)体は赤い、4)主上顎骨中央部に隆起線がない(写真中段左)、5)体はやや側扁する、6)前鰓蓋骨第2棘は著しく小さい(写真中段右)という形質を確認してアカカサゴであると判断した。外見や体色が非常に良く似たシロカサゴとは、形質6(シロカサゴの前鰓蓋骨第2棘は良く発達する)で区別することができる。また2013年2月に発売された『日本産魚類検索 第3版』で追加された形となる「腹鰭は1棘5軟条」という検索キーも当時撮影しておいた写真から確認できた。

また背鰭棘に「刺毒」があるとしている資料やネット上の情報も多いが、実際に毒を持つかどうかはまだ良く分かっていない模様。ちなみに今回のアカカサゴ(および比較に用いたシロカサゴ)には、鱗が剥がれていたためか、以前より紹介していたシロカサゴ個体には見られた「肛門より前方の腹部正中線上にある明瞭な黒線」が認められなかった(写真下右)。また今回のアカカサゴ個体の尾鰭の先端には比較的明瞭な黒帯が認められる(写真下左)が、似たような個体の写真や図はネット上や筆者が所有する図鑑などでは見つけられなかった。単なる個体差なのだろうか?

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そもそもアカカサゴ/シロカサゴとも水揚げ漁港付近で消費される程度で一般にはほとんど流通せず、仮に流通した場合でも標準和名シロカサゴが「赤カサゴ」とされていることも非常に多い(実際シロカサゴの体色の方がより赤く見えるくらいなので仕方ないとも思うが)ため、標準和名アカカサゴを狙って入手するのはそれなりに難しいはず。

今回の個体は、2012年12月に愛知県蒲郡市にある西浦鮮魚マーケット組合の○河・河井商店で見つけたもの。何気なく眼を向けたシロカサゴが10匹ほど盛られたザルに1匹だけアカカサゴが混じっていることに気付いて即購入(ちなみにお代は全部で300円)。今回入手したのは1匹だけということで、残りのシロカサゴや玉ねぎ/ジャガイモ/セロリなどと一緒に、同じ日に購入したミノエビ(店頭表示はカブトエビ)およびヒゲナガエビ(店頭表示はガスエビ)の頭(刺身にした残り)でとったスープで煮込んでブイヤベース風に。身は柔らかめだが、エビの濃厚な旨味の中にあってもアカカサゴ独特の風味は確かに感じられる。美味。ただしシロカサゴとアカカサゴの味には大きな差はなさそうというのが率直な印象。もう少し多くの個体が手に入ったら色々食べ比べしてみたい。


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【アカカサゴとシロカサゴの見分け方】

以下の表は、本稿のアカカサゴと、同じトレイの上に盛られていたシロカサゴ(底曵き漁の獲物に「典型的」な状態の悪さのもの)の内1匹の各部分を細かく比較したもの。やはり「前鰓蓋骨棘」で見分けるのが妥当であると思われるが、もしかしたら吻長や頭部の体色(アカカサゴの方が吻長が多少長い/体色はシロカサゴの方が赤い)なども、ある程度の目安にはなるかも知れない。またこの個体から調製した「白笠子のシロカサゴ」の標本では、烏口骨の本体と『嘴』を繋ぐ部分が大きく湾入しているのがお分かり頂けるはず。

アカカサゴ
シロカサゴ
全体f:id:fishinfish2010:20130108114905j:imagef:id:fishinfish2010:20130108121844j:image
頭部f:id:fishinfish2010:20130108114904j:imagef:id:fishinfish2010:20130108121955j:image
前鰓蓋骨棘f:id:fishinfish2010:20130410132432j:imagef:id:fishinfish2010:20130108121953j:image
前鰓蓋骨棘
(標本)

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尾鰭f:id:fishinfish2010:20130108114900j:imagef:id:fishinfish2010:20130108121954j:image
腹部f:id:fishinfish2010:20130108114858j:imagef:id:fishinfish2010:20130108121952j:image
「魚のサカナ」f:id:fishinfish2010:20140207163553j:imagef:id:fishinfish2010:20140207163615j:image

2014-01-28

374: マスノスケ

サケ目サケ科サケ亜科サケ(タイヘイヨウサケ)属

学名:Oncorhynchus tschawytscha (Walbaum)

英名:Chinook salmon [原], King salmon, Quinnat salmon, Spring salmon

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流通名(実際には英名の1つ)である「キングサーモン」の方がおそらく通りが良いと思われるが、標準和名は上記した通り「マスノスケ」(その他の流通名としては、スケ、オオスケ、ラシャマスなど)。今回紹介するのは、北海道根室産の体長約65cmの塩漬け天然個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。中烏骨および射出骨付き。

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写真上の右側の標本から射出骨を取り除いた後に、両側から観察したもの。「鱒之介/鱒之助のマスノスケ」は、その形状から一目でサケ科の「魚のサカナ」であることが分かるもの。ただし、肩甲骨の上縁が比較的高く盛り上がるために、同科の他の「魚のサカナ」よりも烏口骨の上方突起(『背鰭』に相当)前縁の長さが比較的短いような印象を受ける。またこの前縁のラインも曲線的。烏口骨下方も膨らみ気味で、縦方向に幅広く見える。烏口骨上方突起には大小2つの孔が開いている。

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中烏口骨は比較的コンパクトな印象で、その前端は肩甲骨前端を越えない。肩甲骨孔には中心に向かって小突起が存在する。

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マスノスケは、サケ属中で最も大きくなる種(FishBaseによると最大記録は全長150cmとのこと)。日本に生息する他のサケ科の魚と外形を比べると、体高は高め、尾柄部は太め、吻端は丸みを帯びる(ただし産卵期の雄個体はいわゆる『鼻曲がり』になるとのこと)、眼は小さめなどの特徴が見て取れる。

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『日本産魚類検索 第3版』のサケ科の同定の鍵(ちなみに『第2版』も検索キーは同じ)を辿り、1)頭部が側扁し、頭頂部が膨らむ(写真上段左)、2)鋤骨・口蓋骨の歯帯は『小』字型(写真中段左の赤線)、3)体の背面に黒点が散在(写真上段右および下段左)、4)尾鰭全面に黒点が散在する(写真下段右)、5)下顎歯基底部は黒色(写真中段右)、6)尾鰭後縁は黒く縁取られる(写真下段右)などの形質からマスノスケであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)眼は小さい、8)口は大きい、9)歯は円錐形、10)体色は背面が青緑色で、腹面は銀白色、11)背面、背鰭(写真下左)、尾鰭に黒色斑が散在などの形質も確認した。今回も内臓と鰓の除去後に塩漬けされた成魚であるため、パーマークの確認や鰓耙数の計測は不可能であった。

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日本国内にマスノスケが恒常的に産卵を行う河川は存在しないと考えられており、ロシアに回帰する個体の内、極少数が主に北海道(他には青森県や岩手県など。後者に関しては『いわての魚類図鑑』の「マスノスケ」の項を参照)の太平洋沿岸で漁獲されるとのこと。実際国内で一般に流通している「キングサーモン」は、ほとんどがカナダ/チリ/北欧などで養殖もしくは漁獲されたものであり、国産の天然個体の希少性は非常に高い。本稿で紹介した個体は、2012年12月に角上魚類日野店の新巻・塩鮭販売用の特設テントで売られていた塩漬けされた国産の天然もの。北海道根室市カネキョウ三友冷蔵製(「本ちゃんますの助」のタグ付き/写真下)で、当日は1匹7,000円で購入(当日の価格的には他のサケ科魚種の「新巻」のおよそ2〜3倍。ちなみに2013年の同時期にはカナダ産の塩漬け天然キングサーモンが12,000円で販売されていた)。帰宅後に計量したところ、セミドレス(鰓と内臓が除かれた状態)で約3.5kgあったので、キロ単価はざっと2,000円となる。今回は定番の「焼き」で。火を通す前の身はかなり柔らかいが、焼いた後には固くなる。とはいうものの口にした時にパサつく感じは全くなく、脂の乗りが良いことも相まって、しっとりしたキメの細かさを感じさせるもの。「本ちゃん」表示イコール「山漬け」イコール「塩辛い」という訳では必ずしもないようで、実際はかなりの甘塩。身に含まれる旨味は多くかつ上品なもので、塩漬けにされたサケ科の魚で時に目立つエグ味や臭みは全くない。筆者がこれまでに口にした経験がある「塩をしたサケ科の魚」の中では、間違いなく最高の美味。筒切りにした上で一部は近所に住む親戚にお裾分けしたが、ここでも「これは抜群に美味いね」と大好評であった。

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ということで、本業の方が超多忙であった関係で何と約9ヶ月振りの『図鑑』更新になってしまいました。ただしこの期間中も『下書き記事』の数だけは少しずつながら増えており、この記事の執筆時点で60種ほどの『ストック』は確保しています。これからまた少しずつ、できる範囲で『蔵出し』して行きたいと思います。

2013-05-02

373: シマフグ

フグ目フグ亜目フグ科トラフグ属

学名:Takifugu xanthopterus (Temminck and Schlegel)

英名:Striped puffer [原], Yellowfin pufferfish, Yellowfin puffer

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地方名おまん(福岡県/山口県)、さばたろう(サバ太郎/島原)、きたまくら(北枕/九州・関西各地。ただし標準和名キタマクラとは別の魚)、おやま(明石)など。長崎県産の全長40cm程の活け個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。「縞河豚のシマフグ」は、肩甲骨孔(写真では一番下にある下部が閉じていない孔)と、その上にある大きな射出骨の間隙にできる3つの孔の計4つの孔が並ぶという、これまでに紹介してきた全てのフグ科の「魚のサカナ」で見られた最大の特徴をやはり共有している。またこれらの孔の径は比較的大きめで、肩甲骨孔の直上(下から2番目)にあるものには薄膜が広がっている。「魚のサカナ」全体で見ると、左右方向に短めで『体高』が高い、いわゆる『おにぎり』型。烏口骨の『嘴』部分は短い。

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烏口骨上方の突起(『背鰭』に相当)は比較的がっしりとした『槍』型。第4射出骨の後縁の一部が垂直方向に立ち上がるのもフグ科の「魚のサカナ」で頻繁に見られる特徴の1つ。

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特徴的な体側の模様や鮮やかな黄色の鰭からシマフグ以外には考えられない個体であったが、念のため『日本産魚類検索 第2版』を開き、1)体に通常側線がある、2)体の断面は丸い、3)体表の背面(写真中段右の緑四角)と腹面(同赤丸)に小棘の分布域があるが、両者は連続しない、4)尾鰭後縁は截形(写真下段右)、5)鼻孔は2個、6)背鰭は17軟条(写真下左)、7)臀鰭は14軟条(写真下右)、8)体背部の斑紋は斜走帯(写真下段左)、9)胸鰭後方は暗色の斜走帯(写真中段右/1暗色斑ではない)などの形質を確認してシマフグであると判断(なお検索形質は第3版でも変更なし)。写真上段の全身像は、店頭の秤の上で撮影させてもらったものを「白背景」になるように処理してある。

ちなみに黄海〜南シナ海にはシマフグに外見が良く似たフタツボシフグ Takifugu bimaculatus (Richardson) が生息しているが、こちらの種は身/皮膚/精巣なども『有毒』である。今のところフタツボシフグは日本沿岸には生息しないとされているが、近年の地球温暖化のせいか、本来は南方にしかいなかったはずの魚種の生息域がより北方に伸びているという報告も相次いでいるようなので、十分注意されたい(フタツボシフグの外見に関してはこちらおよびこちらを参照/『検索』的には、フタツボシフグには胸鰭後方に1暗色斑があることでシマフグと見分けられるとされている)。

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冬場に博多辺りで出回るシマフグは、特にこの時期に超高級魚となるトラフグと一緒に漁獲されたものがほとんどとのことだが、そのキロ単価はトラフグのそれと比べると段違いに安いことから、現地では『庶民のフグ』の一つとして楽しまれている。さて、今回の個体は、2012年12月に福岡市の「たべごろ百旬館ふくや」の鮮魚コーナーで購入したもの(当日はキロ2,500円/0.6kg)。店頭での写真撮影も快諾して頂き、その後同店のふぐ調理師に「身欠き」にしてもらい持ち帰ったもの。まずは2枚に下ろして半身は刺身に。ネット上では水っぽいという記載を良く見かけるが、実際にはそれほどでもなく(あくまで主観的なものだが)、歯応えがあるモッチリとした身。さすがにトラフグの「魔性の味」には敵わないものの、十分満足できる旨味・甘味を感じる。骨付きのもう半身はブツ切りにし、醤油/みりん/ニンニク/ショウガで軽く下味を付けて唐揚げに。食感も良くかなりの美味。

なお、厚生省環境衛生局長通知(最終改正は平成22年9月10日)「フグの衛生確保について」では、プロのふぐ調理師が処理したシマフグの筋肉(骨を含む)・皮膚(鰭を含む)・精巣は販売可能とされている。ご参考までに。

2013-04-04

372: クエ

スズキ目スズキ亜目ハタ科ハタ亜科ハタ族マハタ属

学名:Epinephelus bruneus Bloch

英名:Kelp grouper [原], Yellow grouper, Longtooth grouper, Mud grouper

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地方名/流通名あら(九州地方/マハタなどの大型ハタ類の総称としても使われる。ただし標準和名アラは同じハタ科の別の魚)、もあら(藻アラ/長崎県)、もろこ(関東地方/特に伊豆諸島の釣り人が使用)、くえます(三重県),きょうもどり(和歌山県)など。

今回紹介するのは長崎産の天然個体の「あら」から摘出した左右の「魚のサカナ」(故に正確な全長は不明だが、ざっと見積もって60~70cmといったところか?)。左側の標本は射出骨付き。写真右は、写真左の右側の標本を拡大したもの。「九絵/九繪/垢穢のクエ」は、肩甲骨前縁が垂直に近く、肩甲骨と烏口骨本体を合わせた部分が角張った形状、烏口骨上方と射出骨の上縁が作るラインが一度下方に落ち込んでから烏口骨の上方突起部(『背鰭』)が立ち上がる、烏口骨下部が大きく湾入するなど、ハタ科の「魚のサカナ」の中でも特にマハタ属のものに典型的な特徴を有している。ただし、1)全体的に横長な印象、2)肩甲骨孔は比較的小さい、3)烏口骨の『背鰭』部は立派に立ち上がるが、その前縁は曲線的、4)『背鰭』部の上縁は非常に緩やかな曲線を描く、5)烏口骨下部の湾入部は直角に近いという形質の『組み合わせ』は、今のところ「九絵のクエ」に特徴的なもの。

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マハタ属の「魚のサカナ」では烏口骨の『背鰭』部分が湾曲しながら大きく立ち上がるものが多く、「九絵のクエ」ではその湾曲の度合いが比較的大きい。また烏口骨の『背鰭』部分には「成長線」と思われるものがはっきり確認できる。

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今回のサンプルは、頭/胸部/中骨(尾柄部より前側)のみの入手したところから摘出したものなので、「尾鰭後縁の形状」や、このサイズのクエならば体側に存在すると考えられる「傾斜した6~7本の暗色横帯」などは残念ながら確認不可能。ただし『日本産魚類検索 第2版』の検索キーである、1)背鰭棘数は11(写真中段左)、2)臀鰭軟条数は8(写真下段右)、3)背鰭棘条数は前方で少し高くなる(写真中段左)、4)頭部から体にかけての斑紋は弧状ではない(ように見える/写真上段左右:イヤゴハタやホウキハタではない)、5)頭部・体・鰭・鱗などの色や模様が、カケハシハタ/ナミハタ/ハクテンハタ/キジハタ/アカハタ/ホホスジハタ/シモフリハタ/オオスジハタのものとは異なる、6)体に暗色斑点がない(ように見える)こと、また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、7)下顎歯は大きく、側方で2列に並ぶ(写真下右)、8)前鰓蓋骨の縁辺は丸く、後下縁の鋸歯は大きい、9)鰓蓋骨に3本の棘があり、中央の棘は下方の棘に近い(写真下左)などの形質が確認できたことなどから、やはりクエと判断して問題なかろうと考えた(もちろんこの判断が誤りである可能性もあるので、専門の方のご意見を伺いたいところ)。

ちなみに、クエとヤイトハタの交雑種の頭部(特に頬部や鰓蓋)には、クエの体色を背景にヤイトハタの特徴である多くの黒斑が現れる(『遊魚漫筆』の『九絵「孤高の怪物」その未来』を参照)とのことだが、今回のものにはそのような斑点は見られなかった。またクエは、他の多くのハタ科の魚と同様に雌性先熟の性転換を行うとのこと。つまり大型のクエ個体は雄である可能性が高いこととなる。

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2012年12月に福岡天神にある「魚の北辰」博多大丸店の店頭でザルの上に盛られていたもの(頭/胸部/中骨)。特に鍋のシーズンである冬場は需要と供給のバランスが大きく崩れており、キロ単価が1万円を超えることも珍しくないという超高級魚。今回値段を聞いたら「1,500円」とのことだったので即購入(ちなみに当日別の店では同じような「あら」を3,000円程度で売っていた)。実際予想以上に可食部分があり、個人的にはかなりお買い得と思った次第。頭とカマ部分は酒を少々入れた昆布出汁で炊いてポン酢で。弾力のある身には旨味がたっぷり含まれている。脂が乗った皮目のトロットした、また唇の少々コリットした食感も心地よい。全ての骨をしゃぶり尽くして大満足。中骨部は塩焼きに。弾力がありながらもしっとりした食感を併せ持つ身には脂がたっぷり乗り、旨味/甘味を非常に強く感じる。文句なしの旨さ。

将来的には丸一本購入して本稿も改稿したいところだが、、、

2013-03-21

371: スマ

スズキ目サバ亜目サバ科マグロ族スマ属

学名:Euthynnus affinis (Cantor)

英名:Yaito tuna [原], Kawakawa, Black skipjack, Eastern little tuna, Mackerel tuna, Yaito bonito, Dwarf bonito

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地方名/流通名やいと(『新訂原色魚類大圖鑑』では別名扱い)、ほしがつお、うぶすかつ、おぼそ、あせかつ、ひらがつお、わたなべ(胸鰭の下の小黒斑を、渡辺家の家紋である「三ツ星一文字・通称『渡辺星』」に準えたものなのだとか)など。韓国済州島産の全長約51cmの雌個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外す前に、反対側から撮影しておいたもの。

「須万/須萬のスマ」は、細長い肩甲骨、立派に突き出した烏口骨上方の『背鰭』部、烏口骨本体と『嘴』部の間の湾入部などの形状的な特徴から、一見してスズキ目サバ亜目の「魚のサカナ」であることが推察できるもの。特に肩甲骨は非常に細長く、これまでに紹介したものの中では体色の良く似たソウダガツオの仲間(マルソウダヒラソウダ)のものに良く似た印象。ただし「須万のスマ」は、ソウダガツオの仲間のものと比べて 1)烏口骨本体と『嘴』部の間の湾入部がかなり深く、2)『嘴』部がより直線状である。

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また「須万のスマ」の烏口骨『嘴』部の根元近くには比較的大きめの孔が開いている(写真上赤丸)。

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胸鰭下に特徴的な小黒斑があることからスマであると判断できたが、一応「日本産魚類検索 第2版」のサバ科の同定の鍵を辿り、1)体は紡錘型であまり側扁しない、2)両顎歯は微小(写真中段右)、3)腹鰭の大きさは普通(写真下左)、4)第1背鰭と第2背鰭はよく接近する(写真下段左)、5)側線は1本(写真下段左)、6)体は胸甲部を除いて無鱗、7)第1背鰭は前端で高くなる(写真下段左)、8)腹鰭間突起は2尖頭、9)側線は著しく波打たない(写真下段左)、10)胸鰭体側下部に数個の小黒斑がある(写真下段右)、11)口蓋骨に歯がある(写真中段右の緑丸)などの形質を確認した。また体側上部後半には多くの暗色斜帯がある(写真下段左)。ちなみにこの個体の小離鰭数は、背側が8/腹側が7であった。

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2012年12月に福岡市の渡辺通にある「たべごろ百旬館ふくや」の鮮魚コーナーで購入(当日は1本2,000円)。店頭表示は「済州島産ヤイト」。厳密には「輸入魚」ではあるものの、地理的には福岡県から至近と言える韓国済州島産であることから鮮度的には全く問題なし。まず3枚に下ろし刺身に。少々柔らかめだが、繊維はしっかり結合している(故にハガツオほど身崩れしない)ために、歯で噛み切る時にはシコッとした食感がある。身の色はハガツオ同様に薄い(写真上右)が、血合いはハガツオよりも大きめ。ただしカツオほど血の味は感じない。また酸味も余りない。脂は皮目を中心にかなり乗っているが、嫌みは全くない。身に含まれる旨味は多く、非常に美味い。次いで「あら」と身の一部を煮付けに。口の中では繊維質の身が崩れるのを感じるが、パサつく感じはない。旨味は文句なし。また皮目の脂の乗った部分がとろっとして美味い。一部は「なまり節」に。カツオの「なまり節」を更に上品にしたような印象。やはり旨味は多い。最後に冷凍しておいた「柵」をブツ切りにし、塩コショウを振った後に片栗粉をまぶして唐揚げに。しっとりとした食感で非常に美味い。

2013-03-14

370: ハガツオ

スズキ目サバ亜目サバ科サバ亜科ハガツオ族ハガツオ属

学名:Sarda orientalis (Temminck and Schlegel)

英名:Striped bonito [原], Oriental bonito, Indo-Pacific bonito

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地方名きつね、きつねがつお、さばがつお、しまがつお(ただし標準和名シマガツオは別の魚)、すじがつお、すじまんだら、はあがつ、ほうせんなど。今回紹介するのは長崎県産の全長約53cmの雌個体(小さい卵巣を確認)から摘出した左右の「魚のサカナ」。射出骨付き。写真右は、写真左の左側の標本から射出骨を外して、反対側から観察したもの。「歯鰹のハガツオ」は、スズキ目サバ亜目の「魚のサカナ」としては比較的薄手であるが、肩甲骨が細長い、烏口骨上方の『背鰭』部が立派に突き出す、烏口骨本体と『嘴』部の間が深く湾入するなど、この亜目の「魚のサカナ」の特徴を共有している。これまでに紹介したものの中では、マグロの仲間(クロマグロビンナガメバチキハダ)やカツオのものと良く似た(反対にマルソウダヒラソウダのものとはかなり異なる)印象。ただし「歯鰹のハガツオ」では、肩甲骨孔がかなり小さい。また本稿の標本では、烏口骨の『嘴』部の先端が『針』のように尖っている。

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ハガツオの「魚のサカナ」の烏口骨『嘴』部背側は中程で『庇』のように折れ曲がる。そのために写真上の方向から観察すると「幅広」に見える。

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特徴的な面構えと体色なので、店頭で見た瞬間にハガツオであることを確信したが、念のため「日本産魚類検索 第2版」のサバ科の同定の鍵を辿り、1)体は紡錘型でやや側扁する、2)両顎歯は強い(写真下左右)、3)腹鰭の大きさは普通(写真下段右)、4)第1背鰭と第2背鰭はよく接近する、5)側線は1本(写真中段右の赤矢印)、6)体は全て小鱗に被われる(写真下段左)、7)体側上半部に縞模様がある(写真中段右)、8)鋤骨に歯がないなどの形質を確認してカツオであると判断。

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2012年12月に博多を訪問した際に、柳橋連合市場内の竹森鮮魚店で購入(当日はキロ1,800円/1.7kg)。ネット上の情報でも「鮮度が重要」と良く書かれているが、今回の個体は色つやも良く、鰓は粘りも全くない鮮紅色という明らかに新鮮な個体。それでも身は柔らかめで、身割れしやすいので下ろす時には注意が必要。カツオなどとは全く異なるピンク掛かった白っぽい色の身(写真下の断面に注目)で、血合いはあまり大きくない。まずは刺身に。さっぱりした酸味の中に確かな旨味が感じられる。皮目には脂ものっているが、軽い風味なのでいくらでも食べられてしまう。無理矢理に例えるならば、脂の乗りがほどほどのビンナガ、もしくは逆に脂の良く乗った「黄メジ」(小型のキハダ)といった感じか。文句なしの美味。一部は「なまり節」に。身はやはり柔らかめだが、旨味甘みを強く感じる。続いて煮付け。ホワホワした食感になるが、脂の乗りが良いのでパサ付く感じはない。旨味も多い。最後にしばらく冷凍にしておいた「サク」をブツ切りにして唐揚げに。冷凍にしたせいなのか繊維質が強くなっているような印象。ただし旨味の多さは変わらない。結論としては、どの料理にしても非常に美味い魚。

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2013-03-08

369: ミギガレイ

カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科カレイ亜科ミギガレイ

学名:Dexistes rikuzenius Jordan and Starks

英名:Rikuzen sole [原], Rikuzen flounder

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地方名めだまがれい、にくもち/にくもちがれい(肉持ちガレイ・福島県)、あなねばち(丹後地方)など。いわゆる「左ヒラメに右カレイ」とは関係なく、こちらは標準和名がミギガレイである(ちなみに標準和名ヒダリヒラメは存在しない)。新潟産の全長約26.5cmの雌個体から摘出した「魚のサカナ」。上が有眼側の、下が無眼側の標本。

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有眼側(左)および無眼側(右)の標本を写真上とは反対側から観察。「右鰈のミギガレイ」は、一見してカレイ目の「魚のサカナ」であることが分かるもので、これまでに紹介してきたものの中では、同じカレイ亜科のクロガレイ(特に有眼側の前半分)やアサバガレイ(有眼側の後半分と無眼側)のものに良く似た印象。特にアサバガレイのものとは、無眼側の標本の烏口骨本体後下部と『嘴』部の間に骨梁の浮き出た小さな突出部が存在するという共通点もある。ただし、肩甲骨前縁、肩甲骨孔(ミギガレイのものは細長い)、烏口骨の『背鰭』に相当する部分の高さ、そこから『嘴』部にかけての湾入部の形状と位置、『嘴』部の先端の『針』の長さなど、各パーツごとにじっくり比較するとやはり多く(些細なものも含めて)の相違点に気付かされる【注】

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「日本産魚類検索 第2版」のカレイ科の同定の鍵を辿り、1)眼は体の右側にある、2)有眼側の体にイボ状突起がない(写真下段右)、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真下段右)、4)歯は小円錐状で、有眼側での発達が悪い(写真下段左)、5)口は小さく頭長(5.0cm)は上顎長(1.3cm)の約3.8倍(3.2倍以上)、6)体は楕円形、7)背鰭は74(文献値51~81。以下同)軟条、臀鰭は60(38~65)軟条、8)体は鱗に被われ、石状骨質板はない(写真下段右)、9)眼上に鱗がある(写真中段右)、10)側線鱗数は67(57~67)、11)側線はほとんどまっすぐ(写真下段右)などの形質からミギガレイであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』のミギガレイの項に記載されている、12)眼隔域は狭く、隆起する(写真中段左)、13)有眼側の上顎骨後端は下顎の前縁下に達する、14)鱗は剥がれやすく、有眼側は櫛鱗(写真下左の左側)で無眼側は円鱗(同右側)、15)背鰭と臀鰭に褐色の斑点がある(ように見える)などの形質も確認。またミギガレイの下顎の中央部には骨質の突起がある(写真下右の赤丸)。

雰囲気の良く似たヤナギムシガレイとは、背鰭と臀鰭の軟条数、側線鱗数(鱗の大きさ)、歯の形状、そして無眼側から見た時の上眼の位置などで見分けることが可能【参考】

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2012年11月に角上魚類日野店で購入(当日は大小6匹計0.74kgがトレイに盛られて250円。上で紹介したのはその中で最大の個体)。店頭表示も「みぎがれい」。福島などで「肉持ちガレイ」とも呼ばれるだけあって、確かにサイズに比して肉厚。今回は3匹ずつ塩焼きとムニエルに。超新鮮な個体という訳ではなかったが、塩焼きにしても生臭みのようなものは全く感じない。少し焦げた皮目からは食欲をそそる香りが立つ。しっとりとした舌触りの身が口の中でさらりとほぐれる時には確かな旨味を感じる。ギラギラするほどの脂の乗りや、溢れるほどの旨味などとは無縁だが、全体的な味のバランスが良いので、食後には「ああ旨いカレイを食べたなぁ」という満足感が残る。美味。塩焼きにして旨い魚がムニエルにして不味いはずはない。こちらも当然美味。可食部の多さ、値段からもコストパフォーマンスは高い。またミギガレイの煮付けもなかなか美味いので、機会があったら是非お試しを。


【注】ここで問題点を1つ。実はしばらく前から「カレイ科」のエントリーの改訂作業を少しずつ進めているのだが、その過程でこの科の「魚のサカナ」の形状には、どうやら同種内でも個体や産地によって「個体差」がかなり見られる(少なくともその傾向がある)ことが段々明らかになってきた。つまり上記したような「魚のサカナ」の形状の相違点は、必ずしも「種」の違いを反映しているものではなく、もしかしたら「個体差」程度の違いを見ているだけなのかも知れない。今後は可能な限り複数の個体からの標本を見比べて行こうと思っているが、カレイ科の「魚のサカナ」の形状に関する説明文は、あくまで「参考程度」のものであるとしてご覧頂けたら幸いである。


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【参考】ミギガレイとヤナギムシガレイの見分け方

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ヤナギムシガレイムシガレイ、あるいはヤナギムシガレイとヒレグロを見分ける方法に関しては、色々な書籍やネット上でも言及されているのを良く見かける。ところが、分類されている「属」は異なるにもかかわらず、体色/体形をはじめとした全体的な印象が良く似ているために、実際にしばしば混同されてしまうのがヤナギムシガレイとミギガレイである(筆者自身も見分け方を習得するまでには少々時間を要した)。ということで、以下に両種の見分けに役立つポイントをまとめてみた。

ミギガレイ
ヤナギムシガレイ
全体像(有眼側)f:id:fishinfish2010:20121128162146j:imagef:id:fishinfish2010:20121128171913j:image
全体像(無眼側)f:id:fishinfish2010:20121128162145j:imagef:id:fishinfish2010:20121128171912j:image
頭部(有眼側)f:id:fishinfish2010:20121128162144j:imagef:id:fishinfish2010:20121128171911j:image
頭部(無眼側)f:id:fishinfish2010:20130308112451j:imagef:id:fishinfish2010:20130308112450j:image
鼻腔f:id:fishinfish2010:20130308171557j:imagef:id:fishinfish2010:20130308171558j:image
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側線f:id:fishinfish2010:20121128162141j:imagef:id:fishinfish2010:20121128171908j:image
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背鰭軟条(後部)f:id:fishinfish2010:20130308112447j:imagef:id:fishinfish2010:20130308112446j:image


ミギガレイとヤナギムシガレイを並べて比較すると、ヤナギムシガレイの方が明らかに体高が低く細長い(写真1および2段目左右)。本文中にも記した通り、身はミギガレイの方が厚い。ただし、どちらかの種が単独で店頭に並んでいたら、見分けるのはなかなか難しいはず。またミギガレイの方が背鰭や腹鰭の軟条数が明らかに少ない(ミギガレイは文献値で背鰭軟条数が51~81、臀鰭軟条数が38~65。ヤナギムシガレイはそれぞれ84~102、72~81であるとされている)。「めだまかれい」という地方名の通り、ミギガレイの方が眼は大きい(写真3段目左右/ヤナギムシガレイも小さくはないが)。ちなみに両種とも眼の上に小さな鱗がある。ヤナギムシガレイでは、上眼が背縁に近いために、無眼側を上にして置かれていてもその一部が見えることが多い(写真4段目右の赤丸/ただしこの個体ではあまり見えていない)。前鰓蓋骨の後縁はミギガレイでは直線的で確認しやすいが、ヤナギムシガレイでは丸みを帯びあまり明瞭ではない。ミギガレイの鼻腔は、大きな穴のように陥没している(写真5段目左の赤丸)が、ヤナギムシガレイの鼻腔はさほど目立たない(写真5段目右)。ミギガレイの歯は小円錐状だが、ヤナギムシガレイのものは門歯状(写真6段目左右)。両種とも側線はほぼ直線状(写真7段目左右)だが、側線鱗数はミギガレイの方が57~67と少なく(ヤナギムシガレイでは85~100)、それに合わせてミギガレイの方が鱗が大きい(写真7および8段目左右)。またミギガレイの鱗の方が剥がれやすい傾向があるとのこと。ヤナギムシガレイでは、背鰭/臀鰭の後方8~9軟条の先端が分枝するが、ミギガレイではそのようなことはない(写真9段目左右)。以上ご参考までに。

2013-03-07

368: ホウセキキントキ

スズキ目スズキ亜目キントキダイ科キントキダイ属

学名:Priacanthus hamrur (Forsskål)

英名:Duskyfin bulleye [原], Moontail bullseye, Lunar-tailed glasseye, Goggle eye, Crescent-tail bigeye, Black-spot big-eye

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地方名きんとき(他のキントキダイ属魚種との混称)、かげきよ(他のキントキダイ属魚種との混称)、かねひら(高知)、うまぬすっと(福岡)、きんめだい(九州/もちろん標準和名キンメダイは別の魚)、じゅさかーひーちー(沖縄)、いちぐさらー(沖縄)など。千葉県館山産の全長約19cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。

「宝石金時のホウセキキントキ」は、これまでに紹介してきた2種のキントキダイ科の「魚のサカナ」の中では、チカメキントキのものにより似ている印象だが、1)肩甲骨孔が丸くて大きい、2)烏口骨『背鰭』の前縁が本体に対してより垂直に近い方向に立ち上がる、3)烏口骨本体の下部後縁が鋭角に尖る、4)烏口骨の『嘴』部がより幅広いなどの相違点を挙げることができる。

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『日本産魚類検索 第2版』のキントキダイ科の『同定の鍵』を辿り、1)体長(15.8cm)は体高(5.5cm)の2倍より大、2)背鰭に欠刻がない(写真中段右)、3)側線有孔鱗数は約80、4)腹鰭は普通サイズで、その後端は臀鰭基底部にかろうじて達する程度(写真下段左の緑丸)、5)尾鰭は比較的深い湾入型(写真下段右/この個体では上下両葉端が伸びているかどうかの判断は難しいが、『海の魚大図鑑』によれば、本州沿岸に生息するものはあまり伸びない傾向があるとのこと)などの形質からホウセキキントキであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている 6)口裂は垂直に近く、下顎は上顎より長い(写真中段左)、7)両顎、口蓋骨、前鋤骨に絨毛状突起、8)後鼻孔は前鼻孔より大きい(写真下左)、9)前鰓蓋骨後縁に鋸歯(写真下右)、10)鱗は粗雑な櫛鱗で小さいなどの形質も確認した。

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また今回の個体では、胸鰭が淡色(写真下右)で腹鰭の基部に1黒色斑がある(写真下左)が、これらは『魚類検索』では、ミナミキントキやアカネキントキの「検索キー」の1つとされるもの(ただしホウセキキントキが「枝分かれしてから」のキーである)。とは言うものの、臀鰭は湾入型、背鰭前方に黒点がない、有孔側線鱗数が約80と多い、鰓耙数が 5+10、更には各鰭に斑紋がなく、側線上には特徴的な模様があることなどを総合的に判断すると、やはりホウセキキントキという判断で問題ないと思われる。

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前々および前エントリーのツムブリユウダチタカノハと同様に、2012年11月に八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産が仕入れてきた千葉県館山産の「入り会い」のトロ箱の中で見つけたもの(当日はキロ600円/体重測定は失念。ちなみに当日ピックアップした魚の「魚のサカナ」の紹介は本稿にて打ち止め)。先の2種(実際はアイブリを含めた3種)同様にまずは生で試食。身質は良く、旨味甘味を強く感じる。この魚も残りは干物に。焼いた後もキメの細かいしっとりした身質で、こちらも旨味甘味を強く感じる。立ち上る風味も良い。今回食べ比べた『雑魚』4種の干物の中では文句なしに一番美味かった(個人的な評価では、美味い方からホウセキキントキ>>アイブリ>ツムブリ>>ユウダチタカノハの順)。

2013-03-06

367: ユウダチタカノハ

スズキ目スズキ亜目タカノハダイタカノハダイ

学名:Goniistius quadricornis (Günther)

英名:Blackbarred morwong [原]

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文献やネット上では、ひだりまき/てっきり/からす/きこり/たかのは/からす等の地方名が見つかるが、ほぼ全てが同じタカノハダイ属のタカノハダイやミギマキと区別されずに使われていると思われるもの。

さて今回紹介するのは、千葉県館山産の全長約19cmの個体から摘出した左右の「魚のサカナ」。大きな射出骨付き。写真右は、写真左の標本から射出骨を外し、反対側から観察したもの。「夕立鷹之羽/夕立鷹羽のユウダチタカノハ」の形状は、事前の予想を遥かに上回り、近縁のタカノハダイのものと「ほぼ同一」と言えるもの。もちろん両者を詳細に比較すれば 1)肩甲骨孔がわずかに小さく、より丸い印象、2)横から撮影した写真では、烏口骨上方の『背鰭』部が多少低く、より太く見える、3)烏口骨下部の湾入部がより緩やか、4)烏口骨の『嘴』部が多少太い印象、5)のキールの上の平たい突出部がより大きいなど、極めて些細な相違点をいくつか挙げることはできるが、実際のところ同種内の『個体差』としても十分観察できそうな程度の違いでしかない。

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「夕立鷹之羽のユウダチタカノハ」の烏口骨上方の『背鰭』部は、肩甲骨と烏口骨本体部が作る平面に対して斜め上方向に立ち上がるが、これは「鷹之羽鯛のタカノハダイ」でも見られていた特徴。

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日本近海に生息するタカノハダイ科の魚は、タカノハダイ/ユウダチタカノハ/ミギマキの1属3種のみなので、同定は比較的容易。尾鰭に水玉模様があればタカノハダイ、尾鰭が濃黄色と黒のツートンカラーで、体側が濃い黄色で、唇が赤く、頭部の横帯が3本ならばミギマキ、尾鰭が白から淡黄色と黒のツートンカラーで、体側が白から淡黄色、唇は赤くなく、頭部の横帯が2本ならばユウダチタカノハである。

本稿の魚はその特徴からほぼ間違いなくユウダチタカノハであったが、念のため『日本産魚類検索 第2版【注】』のタカノハダイ科のページを開き、1)尾鰭は上葉が白く、下葉が黒い(写真下右)、2)口唇部は赤くない(写真中段右)、3)眼を通る黒褐色斜帯は胸鰭基部に達しない(写真中段左)、4)背鰭は17棘28軟条(写真下段左右)などの形質からユウダチタカノハであると判断。ただし本稿の魚の臀鰭は3棘8軟条(写真下左)であり、ミギマキ/タカノハダイのそれと同じ数となっている。

更に『新訂原色魚類大圖鑑』に記載された、5)体は三角形で側扁、6)後頭部は盛り上がり、背鰭棘条部はほぼ直線状、軟条部はなだらかに傾斜する(写真中段左および写真下段左右)、7)腹縁はほぼ平坦、8)口はやや下向きで唇は厚い(写真中段左右)、9)両顎歯は小さくて先端は尖り、やや幅広い歯帯をなす(写真中段右)、10)外列歯は大きい(写真中段右)、11)背鰭の棘条部と軟条部の基底長はほぼ等しい(写真下段左右)、12)胸鰭の下部軟条は肥厚し長く伸びる、13)背鰭と臀鰭の基底に鱗鞘(りんしょう)がある(写真下段左右および写真下左/写真下左が分かりやすいが、鰭の根本に鱗でできた『鞘(さや)』があることに注目)、14)体色は淡灰褐色をなし、幅広い黒褐色斜帯が走るなどの形質も確認した。

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2012年11月に八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産で購入(当日はキロ600円/約0.1kg)。前エントリーのツムブリと同様、この魚も千葉県館山産の「入り会い」からピックアップしたもの。尾ひれ下葉の一部が欠損している。下ろしている時には腸からの悪名高き「におい」を感じたが、これを取り除いた身の方は臭いに関しては全く問題なし。まずは一部を生で試食。身質は悪くないが、如何せん旨味をほとんど感じない。残りは立て塩に30分ほど浸して干物に。これを炙ったものの身質もやはり悪くない(連れ合いは「キスに近い?」)が、やはり旨味がほとんど感じられない。季節/サイズ/鮮度など色々な要因はあるとは思うが、今回の個体に関しては「以前食べたタカノハダイの方が明らかに美味い」というのが我が家の結論。


【注】2013年2月26日に遂に出版された『日本産魚類検索 全種の同定 第3版』(『第2版』から約350種増の4213種類を掲載だそうです)は、筆者も東海大学出版会のサイトで注文済みだが、どうやら注文多数で(そりゃそうだ)手元に届くまでにかなり時間が掛かりそうな情勢、、、ということで、少なくとも現時点で既にストックされている(つまり『第2版』の検索キーで同定済みの)エントリー#400近くまでは『第2版』を元に記事を執筆する予定。またこれまでの記事の内容も『第3版』に合わせておいおい改訂しようと思ってはいるが、本「図鑑」もエントリー数がそれなりに多くなっているので実際どこまでやれるやら、、、

2013-03-05

366: ツムブリ

スズキ目スズキ亜目アジ科ブリモドキ亜科ツムブリ属

学名:Elagatis bipinnulata (Quoy and Gaimard)

英名:Rainbow runner [原], Rainbow yellowtail, Hawaiian salmon

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地方名は多く、ネット検索で簡単に見つかるもので、つんぶり(千葉)、つんぶい(伊東)、すぎ(伊豆諸島/ただし標準和名スギとは別の魚)、おきぶり(三重/和歌山)、まるばまち(和歌山)、きつね(高知/ただし「きつね」とも呼ばれるハガツオとは別の魚)、いだ(愛媛)、うめきち(鹿児島)、ちょかきん(鹿児島)、とりかじまわし(鹿児島)、やまとながいゆ(沖縄)など。千葉県館山産の全長約30cmの小型個体から摘出した左右の標本。写真右は、写真左の左側の標本を反対側から観察。エタノール固定中に少々黄変してしまった。

「錘鰤/紡錘鰤/頭鰤のツムブリ」は、これまでに紹介したアジ科の「魚のサカナ」の中でも、やはり同じような紡錘型の体を持つアジ科ブリモドキ亜科、特にブリ属のヒラマサカンパチブリのものに良く似ている。肩甲骨孔は大きく、肩甲骨の形状自体もほとんど変わらない。ただしツムブリのものでは、1)烏口骨の左右の幅が短いために寸詰まりな印象を与える、2)烏口骨本体の後下部が鋭角的に、比較的深く湾入する、3)烏口骨上方の『背鰭』部先端は丸みを帯び、そこから『嘴』部に向かう上縁のラインが曲線的(これらの点ではブリのものに似る)など、ブリ属の「魚のサカナ」との間にはいくつかの相違点が認められる。

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特徴的な体色と体形から一見してツムブリであることが確実な個体であったが、念のため『日本産魚類検索 第2版』のアジ科の検索キーを辿り、1)腹鰭がある、2)背鰭棘部は皮下に埋没しない(写真中段右)、3)側線に稜鱗がない、4)背鰭軟条部(写真下段左の赤線)は臀鰭軟条部始部(同緑線)よりもはるかに前にある、5)背鰭棘間は鰭膜で連続する(写真中段右)、6)尾柄部に小離鰭(各2軟条)がある(写真下段右の紫四角)などの形質からツムブリであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載された、7)臀鰭前方に1本の遊離棘条がある(写真下左の青丸)、8)尾鰭は深く2叉する(写真下右)、9)尾柄部上下に各1欠刻がある(写真下段右および写真下右)などの形質も確認した。

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2012年11月に八王子綜合卸売協同組合のマル幸水産で購入(当日はキロ600円/約0.2kg)。店頭に置いてあった千葉県館山産の「入り会い」からピックアップした数種類の魚の内の1匹。2011年5月に沖縄県那覇市にある「泊いゆまち」を訪れた時に全長100cm前後の大型ツムブリを見かけたが、出張中にそのサイズの魚を入手する/食べ切るのはさすがに無理ということで泣く泣く諦めて以来の出会いで、思わず「おぉっ」と声を上げてしまった(お恥ずかしい限りです)。さて今回の魚は、まず一部を生で試食。旨味は少なくなく食感も良い。少々味が薄めのヒラマサ系の刺身と言ったところか。なかなか美味い。残りは開いて干物に。焼いた身の見た目、食感ともマアジの干物に似た印象だが、脂の乗りがさほどでないためか、実際に口にすると少々パサつくように感じる。旨味もそれなりにあるが、どちらかと言うとあっさりとした味わい(同じ日に同じトロ箱からピックアップし、同じように干物にして食べ比べたアイブリの方が旨味は明らかに多い)。実際ネット上では「ツムブリの大型個体は美味いが小型のものは美味くない」との記述が散見されるが、個人的には今回の小型個体でも「普通に美味しく食べられる魚」であったし、大型個体の方がより美味いのであれば是非いつか食べてみたいと思う。


【参考】Wikipediaツムブリ」を含め、ネット上では「ツムブリの大型個体ではシガテラ中毒の報告もある」という記述が散見されるが、筆者自身がネット検索したところでは、残念ながらその『報告』(元資料)は見つけられなかった。wikipedia「ツムブリ」にもリンクが貼られているFishBaseの"Elagatis bipinnulata, Rainbow runner"のエントリー内の"More Information">"Ciguatera"を見ると、カリブ海にあるイギリス領ヴァージン諸島の漁業の潜在能力に関する1969年出版の古い文献(Dammann, A.E., Study of the fisheries potential of the Virgin Islands. Special Report. Contribution No. 1. Virgin Islands Ecological Research Station (1969).)が唯一挙げられているが、残念ながらネット上で本資料のPDFなどを見つけることはできなかったので実際の内容は不明である。また厚生労働省の『自然毒のリスクプロファイル:魚類:シガテラ毒』にツムブリの名前は掲載されていない。更に2010年出版の文献(大城直雅: 魚類の毒 (4): シガテラ毒. 食品衛生研究, 60 (1), 37-45 (2010).)によると、1997~2006年に沖縄県で発生した合計33件(ただし関係部署が把握しているものだけ)のシガテラ食中毒の原因魚種リストの中にもツムブリの名前はない。もし「ツムブリのシガテラ食中毒」に関する『報告』をご存知の方がいらっしゃったら、ご教授頂けると有り難いです。

とは言うものの、「資料が見つけられない/危険魚リストの中に名前がない」即ち「100%安全」という訳でも決してないので念のため。上述した2010年の文献(と「自然毒のリスクプロファイル」)には、1)シガテラの原因となりうる魚は400種以上にのぼるとされている(ただし頻繁に食中毒をもたらすのは、バラハタ/バラフエダイ/イッテンフエダイなど、その一部である)こと、2)主要な原因魚としては、カマス科カマス属、ブダイ科アオブダイ属、ハタ科マハタ属、バラハタ属、スジアラ属、フエダイ科フエダイ属、アジ科ブリ属、サバ科サバ属など主にサンゴ礁周辺に生息する種が挙げられること、3)ただし原因魚に関して地域差や個体差が極めて著しいこと(例えば小さな島のある海域では食用とされる魚種が、同じ島の別の沿岸では高率に毒を有することもあるのだとか)、4)中毒を起こした魚の外見や味に異常は認められず、摂食前に毒性を判断するのは困難であること、などが記されている。また実際ツムブリの刺身を食べて「当たった」ことを記しているブログも見つけている。十分ご注意頂きたい(といっても、外見から中毒原因魚を判断できないのならばどうすれば良いのやら、ですね)。

2013-03-04

365: オヒョウ

カレイ目カレイ亜目カレイ上科カレイ科オヒョウ亜科オヒョウ属

学名:Hippoglossus stenolepis Schmidt

英名:Pacific halibut [原], Alaska halibut

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地方名として、おがれい、ささがれい(ただし「ささがれい」とも呼ばれるヤナギムシガレイは別の魚)などがあるとのこと。また小型サイズの個体は「こひょう/小鮃/小兵」などと揶揄的に呼ばれる場合もあるとか。北海道襟裳産(出荷はJFえりも)の全長約44cmの雄個体(小さいながら精巣を確認)から摘出した「魚のサカナ」。上が有眼側の、下が無眼側の標本。

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有眼側(左)および無眼側(右)の標本を上の写真とは反対側から観察。「大鮃/大兵のオヒョウ」を見て最初に眼につくのは、針状に非常に長い烏口骨の『嘴』部。この特徴はこれまでに紹介してきたカレイ科オヒョウ亜科に属する種(マツカワアブラガレイサメガレイホシガレイ)の「魚のサカナ」でも見られていたものだが、本稿のオヒョウのものが「最長記録」である。また、これまで紹介してきたカレイ目の「魚のサカナ」は、近縁種間でも形状に明らかな差異が観察されることが多かったが、「大鮃/大兵のオヒョウ」も他の種のものと比較するとやはり「独特」と言える形状。肩甲骨の先端は太く角張り、烏口骨本体下部は『カーテン』状に薄く波打つ。肩甲骨孔は丸い。

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(写真左)有眼側の標本の烏口骨本体と『嘴』部を拡大して観察。烏口骨下部の『カーテン』状の部分がそのまま『嘴』部の上縁に繋がっている。また横から見ると針状に見える『嘴』部分だが、実際は少し幅広である。(写真右)無眼側の標本を「魚のサカナ」の『背側』から観察。『背鰭』部の張り出しに注目。また肩甲骨と烏口骨は少々角度をもって結合している(=平面状に並んでいる訳ではない)こともお分かり頂けるはず。

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オヒョウを漢字で書くと「大鮃」、即ち「大きなヒラメ」を意味する訳だが、実際は眼が右にあるカレイの仲間。『日本産魚類検索 第2版』のカレイ科の検索キーを辿り、1)眼は体の右側にある(写真中段左)、2)有眼側の体にイボ状突起がない(写真下段左および写真下右)、3)有眼側の鰓孔上端は胸鰭上端より上(写真下段左)、4)顎歯は犬歯状(写真中段右)、5)口は大きく頭長(9.9cm)は上顎長(3.6cm)の2.75倍(3.2倍以下)、6)両顎歯は有眼側・無眼側とも良く発達する写真中段右)、7)尾鰭後縁は湾入する(写真下段右)、8)側線は胸鰭上方で湾曲する(写真下段左の紫四角)などの形質からオヒョウであると判断。また『新訂原色魚類大圖鑑』に記載されている、9)体は長楕円形、10)尾柄部は細長い(写真下段右)、11)上顎後端は下目の中央下に達する(写真中段左)、12)鰓耙は強く短い、13)鱗は細かく、両体側とも円鱗、14)体色は有眼側が淡褐色で乳白色および黒色斑が散在(写真下段左および写真下右)などの形質も確認した。

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オヒョウ属の魚は、北太平洋に生息する本稿の Hippoglossus stenolepis Schmidt(Pacific halibut; Wikipediaなどではこれを訳した「タイヘイヨウオヒョウ」なる名前が挙げられているが、標準和名はあくまでオヒョウである)、および北大西洋に生息する Hippoglossus hippoglossus (Linnaeus) (Atlantic halibut; 『新訂原色魚類大圖鑑』では学名をそのままカタカナに直し「ヒポグロッスス・ヒポグロッスス」として掲載。また流通名を訳した「タイセイヨウオヒョウ」もネット上では散見される)という世界でも2種類のみ。オヒョウ属の魚が世界最大のカレイの仲間であることは有名だが、FishBaseによれば、これまでの記録はオヒョウで全長267cm(ただし日本近海では、大きくなっても100cm程度とのこと)、特に大きくなる大西洋産ヒポグロッスス・ヒポグロッススに関しては何と470cmなのだとか。また属名の Hippoglossus は、ギリシャ語で「馬」を意味する"hippos"(FishBaseでは"ippos"になっているが恐らくタイプミス)と「舌」を意味する"glossus"が結ばれたものとのこと。直訳すれば「ウマノシタ(!)」である。

2012年11月に八王子総合卸売センター内、高野水産で購入(当日はキロ500円/約0.8kg)。箱書きは「大鮃」で、お店の方も「長年やっているけど、頭付きのオヒョウは初めてかも」とのこと。体表は粘液でベタベタしており、独特の香りもある(カジカで感じるようなもの。ただし香り自体は異なる)。オヒョウの場合はシュードテラノーバ寄生の恐れがあり、また鮮度的なこともあったので、ほんの一部のみを生食。身質は悪くないが、旨味はあまり感じられない。残りは切り身にしてまずは半分をムニエルに。身が厚いので火は通りにくいが、その分「食べで」はある。筋肉質の身は火が通った後はぶりぶりした食感になるが、身離れは悪くない。残りの切り身は煮付けに。こちらの方が身は多少柔らかい。含まれる旨味は「ほどほど」程度だが「定食屋さんのカレイの煮付け」を思わせる普通に美味いもの。ただ総合的に見ると、オヒョウは決して不味くはないが、それほど大騒ぎするほどの味でもないかな、、、というのが個人的な感想。