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2017-10-22

[]12期・42冊目 『あした咲く蕾』

あした咲く蕾 (文春文庫)

あした咲く蕾 (文春文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

美しい容姿からは想像もつかないほどガサツな叔母の意外な秘密についての表題作、雨の日だけ他人の心の声が聞こえる少女を描く「雨つぶ通信」、西日暮里の奇妙な中華料理屋を巡る奇譚「カンカン軒怪異譚」など、『花まんま』『かたみ歌』の著者が、昭和の東京下町を舞台に紡ぐ「赦し」と「再生」の七つの物語。

「あした咲く蕾」

主人公には美しいが言葉遣いがガサツな叔母がいて、昔気質の同居の祖母とは衝突してばかり。そんな叔母は実はすごく情が深い人であり、姉である母だけが知る秘密があった。それは命を他者に分け与えることができるというもの。ただしそれは無限ではなく、自身の限られた寿命を譲ることであり、もしかしたら分け与えた途端に自分の命が絶えるかもしれないリスクが大きな能力であった。


「雨粒交信

ずっと母子家庭だったヒロインであったが、母親に恋人ができて複雑な想いを抱くようになる。そんな時、雨の日に限って、いきなり他人の寂しい心情が聞こえてくるようになって戸惑う。


「カンカン軒怪異譚」

あることで元気がなかった「私」は散歩の途中で見かけた中華料理店に入った。

そこでは威勢のいいおばちゃんが鉄製の鍋をカンカン叩きながら料理を奮っていた。

出されたチャーハンを食べた「私」はたちまち元気を取り戻すことになる。なんでも父から譲り受けて長年使っている鍋には人を勇気づける力があるのだとか。


「空のひと」

「私はアンタを許さない」という過激な台詞で始まる一篇。

中学の時に母子家庭で母を支えるために新聞配達をしていた同級生との出会い。運動会での奮闘、初めての遊園地でのデート。

紆余曲折の末に結婚したが、妊娠中に事故死してしまった夫への回想。


「虹とのら犬」

小学校の時に教師冤罪を着せられたことをきっかけに荒れてしまった少年。

だが、いわゆる知恵遅れでいじめられっ子だった少女だけは少年に対して笑顔を向けてくれた。


「湯呑の月」

主人公はしつけの厳しい母よりも、優しい叔母に懐いていて、いつもよく遊んでもらっていたのだが、ある日突然母から会ってはいけないと言われてしまった。

子供心に納得できないまま言うことを聞かざるをえず、その理由を知ったのは数年後の叔母の葬儀の時だった。


「花、散ったあと」

胃潰瘍で入院した幼馴染を見舞った主人公。だが、本当は末期の癌だった。

いつも、すぐばれるような嘘ばかりついていた彼とは腐れ縁で、小学校の時以来、長い付き合いだったが、特に思い出深いのは彼がアパートに転がり込んできて一緒に住んでいた10か月ばかり。

久しぶりに会って、当時近所迷惑なおばさんが同じアパートに住んでいた時のことが話題になった。


昭和の頃、東京の下町を舞台とした、ちょっと不思議で涙を誘う短編集。

多くが多感な子供時代の体験であり、家族、身近な親戚、雨、空といった誰もが頭に浮かびやすいキーワード。しかも、タイトルが情緒的でいいですね。

また、超能力といっても、使い勝手があまりにも難しくて、ありがたくないと言えるような(「あした咲く蕾」の命を分け与えたり、「雨粒交信」の寂しい声が聞こえるとか)。

明るく前向きになれると言えば、やはり「カンカン軒怪異譚」でしょうね。チャーハンが食べたくなる!

読み終えて寂しいく切ない気持ちとなったのが、表題作と「湯呑の月」。どちらも若くして未婚のまま逝った叔母ですが、対照的な人物像です。

さりげなく、表題作の最後の一文にはびっくり。

別の意味で最後の一文にはびっくりと同時にほっこりしたのが「虹とのら犬」ですね。

出会いが人生を変えたと言えるでしょう。

出会いと別れと言えば、「雨粒交信」、それに最後の「花、散ったあと」。

「雨粒交信」は親の再婚を前にして素直になれない少女の心境がよく伝わってきます。「声」によって一人の女の子を救い、後に義父となる男性との距離が縮むことになって本当に良かった。

「花、散ったあと」の幼馴染とのエピソードはなかなか面白いです。同じ嘘でも、騙そうというのではなく、切ない感情が見え隠れするところが深いですねぇ。

2017-10-15

[]12期・41冊目 『神鳥―イビス』

神鳥―イビス (集英社文庫)

神鳥―イビス (集英社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

夭逝した明治日本画家・河野珠枝の「朱鷺飛来図」。死の直前に描かれたこの幻想画の、妖しい魅力に魅せられた女性イラストレーターとバイオレンス作家の男女コンビ。画に隠された謎を探りだそうと珠枝の足跡を追って佐渡から奥多摩へ。そして、ふたりが山中で遭遇したのは時空を超えた異形の恐怖世界だった。異色のホラー長編小説。

金髪碧眼の美少年美少女を得意としていたイラストレーターの葉子はある小説の表紙絵を書く仕事を頼まれます。

それは男性向けヴァイオレンス小説を専門にしていた作家の美鈴慶一郎が今までの作風とは一線を画した、明治の女流画家・河野珠枝の伝記でした。

珠枝はその美貌で画壇に浮名を流した以外は明治の巨匠の陰に埋もれる程度の存在でしたが、晩年に遺した「朱鷺飛来図」だけはその構図といい、色合いといい、眼を惹きつけてやまない迫力がありました。

珠枝は痴情のもつれで男に片目を潰されるほどの大怪我を負い、郷里に戻って「朱鷺飛来図」を描きあげた後に庭の石に自ら頭を打って、若くして死んだ人物

彼女を扱った映画では、まさに恋に生きて恋に破れて死んだという風に描かれていました。

ただ、その映画を製作した女性監督は映画公開後に珠枝の晩年間近の軌跡を追い、なぜか飛び降り自殺を遂げたといういわくつき。

どちらも30歳を超えて今までの仕事に行き詰まりを感じていた葉子と美鈴は新たな仕事にて新境地を開くべく、「朱鷺飛来図」が描かれた背景と珠枝の晩年の事実に迫ることを決めたのでした。


仕事一筋で生きてきて、30歳を超えてもろくな恋愛経験もない堅物で、実家にて厄介者扱いされている葉子。

イジメられていた恨みをモチベーションにして小説を書き続けてきた美鈴。気弱な性質であっても、どこかおどけながらセクハラ気味にちょっかいを出してきてはぴしゃりと拒まれるのが逆にいいコンビに見えなくもないです。

そんな二人による探索行はまず珠枝の郷里の新潟、そしてトキの生息地である佐渡*1に向かいます。

「朱鷺飛来図」で描かれている朱鷺は荒々しくその足で牡丹を踏みにじるといった荒々しさを見せるのですが、実際のトキはかつて軽々と狩られていったように大人しい性質。

リアリズムを本質とした珠枝がなぜそのような幻想的な表現を取ったかという謎が残ります。

そこで次に痴情のもつれの惨劇を引き起こした相手である牡丹職人に男の故郷へと向かうのです。

そこで二人を待っていたのは説明不可能な不可解な現象であり、珠枝の実体験をその身をもって知ることになるのでした。


山道で彷徨った挙句に次元を超えて山村に紛れ込んでしまった二人。

そこで次々と犠牲になる村人といい、隙あらば嘴で空中から顔を突いてくる異様な化鳥の恐怖といい、さすがに惹きこまれるものがあります。

人間に追われて冬山での飢餓に見舞われ、絶滅の瀬戸際で凶暴化したトキの群れという発想が斬新であります。

トキなんて映像でしか見たことがなかったのでちょっと想像がつきにくいけど、動物によるパニックホラーとしても読めますね。

山村から出ても精神に影響が残るところは強引な気がしましたけど、どこまでも逃れられない恐怖が珠枝と映画監督の最期としても辻褄が合うようになっていて、なるほどと思わされました。

*1:本作で登場した日本産トキは2003年に死亡し絶滅。現在生息しているのは中国産の子孫らしい

2017-10-08

[]12期・40冊目 『食い詰め傭兵の幻想奇譚3』

食い詰め傭兵の幻想奇譚 3 (HJ NOVELS)

食い詰め傭兵の幻想奇譚 3 (HJ NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

探していたラピスの身体の一部があるという情報を掴んだロレンとラピスは、冒険者養成学校の卒業試験同行依頼を引き受けることになった。卒業生だというクラース達と再会し、学校へと赴いたロレン達は、学生パーティと目的の迷宮へと潜りはじめる。しかし、そこに待っていたのはモンスターの全く出現しない不審な迷宮で…これは、新米冒険者に転職した、凄腕の元傭兵の冒険譚である―。

本当は魔族であるラピスが一介の神官として冒険者になっているのは世間を知るための修行であったのですが、その力を発揮できないよう親によって四肢と眼を偽物に代えられるという尋常でない制限がありました。

最近になって、ラピスは左腕が隠されていた場所を突き止めたはいいものの、それは関係者以外には入れない冒険者養成学校の地下迷宮の中。

そこで、ちょうど学校から卒業試験同行依頼が出ていることから、依頼失敗続きで借金が増すばかりのロレンのためにも引き受けることになるのでした。試験監督で迷宮に潜るついでに機会を見て左腕を取ってこようというわけです。


冒険者養成学校へ向かう馬車の中でクラース一行と再会。なんでも卒業生である彼も同じ依頼を受けたのだとか。

前回の依頼(2巻)での顛末を通じて、どこか丸くなったクラースに軽い驚きを感じるも、狭い馬車の中でアンジェと二人だけの世界を作るに至っては、ラピスにより強制的に催眠の術をかけられてしまうのでした。

学校に到着するや、女生徒に囲まれて大人気のクラースに呆れつつ、監督役を引き受けた生徒パーティと顔合わせ。彼らはつい先日、ガラの悪い冒険者たちに絡まれていたのをロレンが救ったばかり。

監督を引き受けて実際に迷宮に潜ってみると、弱ったゴブリンを倒すにも時間がかかったり、危機感が足りなかったりと、なんとも彼らの頼りなさが目立つ。

しかし、不思議と魔物が出現しないまま、一行はどんどん下層へと進んでいってしまうのでした。


前巻で死の王(ノーライフキング)と化したシェーナのアストラル体を自身に同化させたことにより、小さくなった彼女が自分だけ見えるようになり、暗視などその能力も得てしまうことになったロレン。

今のところ、どんな態度を示すかわからないのでラピスには秘密なのですが、シェーナとのやりとりがなんとも微笑ましいですね。

それで今回は非常に楽そうに見えた依頼ですが、なぜかロレンが関わると、難易度が急激に高まるジンクス

1巻はゴブリン、2巻はゾンビ、そして今回はスライムというわけで、通常はどれも雑魚扱いの魔物なのに、尋常ならざる物量となって押し寄せて、犠牲者が出てしまう。

無事だったクラースたちと合流するも、さしものロレンたちも必死になって逃げることに。

どうしてこう毎回苦労させられるのか(笑)


さすがに今回はひょろりと滅んだ噂はたたないでしょうが、またしても無理しすぎて入院して借金が嵩むオチ。ロレンが人生に達観するようになるのもむべなるかな。

あ、書籍化でラピス視点のエピローグが入るのはいいですね。

邪神の存在やら、ロレンが能力的に人間離れつつあるところとか、今後の繋ぎとなった観があります。

そういや、この結末をWeb版で読んだ際は迷宮の底に封じられていた怠惰の邪神は足止めのスライムを放ってすぐに逃げてしまったので、この後どうなるのだろうと気になったもの。

その後、長らく縁は無かったのですが、Web版ではようやく再会することになるかもしれません(10/2時点)。

食い詰め傭兵の幻想奇譚

2017-09-30

[]12期・38,39冊目 『感染者(上・下)』

感染者〈下巻〉

感染者〈下巻〉

内容(「MARC」データベースより)

製薬会社政府までも巻き込む巨大な陰謀の影。医師マーカスは、耐性菌に冒された娘サニーを救うことができるのか? 謎の特効薬オメガ」の秘密とは? 医療最先端の問題に挑んだ戦慄のメディカル・サスペンス。

2年前に読んだ『キャリアーズ』の著者パトリック・リンチの作品を見つけて読んでみました。

今回の舞台はアメリカ・L.A。

貧困者が多く済むダウンタウンにあるウィンスブロウ病院に担ぎ込まれたのが、いざこざ争いで喉に銃撃を受けたチンピラ。それに足を撃たれた警官。

どちらも緊急を要しましたが、弾丸は抜けていたためにそれほど治療は難しくなく、数日経てば回復するとみられていました。

しかし事態は急変。患部が腐敗して膿が止まらず、どんどん容体が悪化していきます。

抗生物質を投与しても効かず、あれよあれよという間に二人は死亡。その原因として耐性ブドウ球菌に感染していたのでした。

他にも感染して重体に陥る患者が続出。

彼の病院は「疫病船」とマスコミにたたかれた揚げ句、主人公である外科医マーカス・フォードは休職にまで追い込まれます。

その頃、マーカスの娘サニーは以前から喉の不調を感じていたのですが、マーカスが家を空けている間に食中毒に罹ってしまいます。*1

サルモネラ菌に感染していたことで、急ぎ父の病院で抗生物質の投与を受けるのですが…。


事前にマーカスがアメリカ健康学会主催の会議で、製薬会社の売上至上主義による抗生物質の乱用が細菌に対する耐性を生み出すようになており、将来的にどんな抗生物質も効かない耐性菌の感染を招くのではないかとスピーチしたばかり。

そんなスピーチで抱いた危惧が最悪の形で現実となったのでした。

実は学会の直後にマーカスに接触してきたのが生化学者ノヴァク。

彼は以前いた会社で画期的な抗生物質を開発していたのではないかと推測され、マーカスは彼と会う約束をしたのですが、彼は何者かに殺害されてしまうのでした。


行き過ぎた抗生物質の乱用が招いた耐性菌の感染という医療危機に面した現場、巨大製薬企業のビジネスや行政が絡んだ容赦ない駆け引き、実に読み応えある本格医療サスペンスでした。

今や重篤な症状でなくても、インフルエンザや何らかの炎症を抑えるため、医者に行けば簡単に抗生物質を処方されます。

歴史的に見てもペニシリンの発見によって、近世に至るまで人類を脅かしていた疾病の多くを完治することができたり、手術など医療技術の発達に寄与しました。

しかし、抗生物質によって退治されるはずの細菌はそれに対する耐性を得るようになり、かつて絶滅したかに見えた病気が再び現代でも流行の兆しを見せるとか。

そういう意味ではフィクションでありながら、非常に現実的な内容でしたね。

未来ある13歳の娘のために無茶してしまうマーカスの心情も理解できます。

それにしても、細菌はもともと人間の身体の中にもあるもの。

進化して人類の新たな脅威となりうるという点ではウィルスと同じですが、細菌は抑え込もうとすればするほど耐性をつけてしまう点で非常に対応が難しいものであると思わされましたね。

*1:マーカスは妻とは死別

2017-09-24

[]12期・36冊目 『精霊幻想記8 追憶の彼方』

内容(「BOOK」データベースより)

奇しくも追い続けてきた宿敵と死闘を繰り広げることとなった大都市アマンドにて、遂に美春たちが捜す人物のひとり・皇沙月の情報を入手したリオ。折りよくリーゼロッテら貴族から、今までの功績に対する褒美の内容を求められていたリオは、勇者として召喚されたらしい沙月が出席するという夜会への参加を褒美として要求し、美春たちの待つ精霊の里へと帰還を果たす。一方、夢を通してリオが春人なのではないかという疑念を抱いた美春は、悩んだ末にとある人物へと話を持ち掛けるが―。

前巻のラスト、ルシウスとの戦いにおいて名を呼ばれたことにより、王女フローラにリオであることがばれてしまったのですが、彼女自身の罪悪感もあってその場は凌ぐことができました。

リーゼロッテの屋敷に戻り、セリアたちが負傷者の治療や後処理に勤しむ中で脅威は去ったと判断したリオは再び戦いの地に戻るものの、レイスの手によって痕跡も消されてしまい、もはや手の届かない場所まで逃げられたことを知ります。

その後リーゼロッテからの謝礼として、勇者お披露目の夜会に参加することを認められたリオはそこに美春らを連れていくためにいったん屋敷を辞去し、精霊の里へと向かうのでした。


リオに同行して、ガルアーク王国に勇者として召喚された沙月(春人や美春の高校の生徒会長)に会いに行くか?巻き込まれ召喚の自分たちは勇者の枷としてこの国の権力者たちに利用される立場になるかもしれず、難しい決断を迫られる美春たち。

結局、二人の保護者を自認する美春は亜紀と雅人のために行動に出ることにします。

一方でリオ(ハルト)に対して幼馴染の春人の生まれ変わりなのではないかという疑念の捨てきれない美春はある夜、不思議な夢を見ました。

それは美春と別れた後の春人の軌跡。

目覚めた時に傍にいたアイシアは厳しい道のりを歩いてきたハルトについていく覚悟はあるか、あるならばいつかきっと彼自身から答えが得られると問いかけられて、ハルくんと離れたくないと答えたのでした。




今回は正直に言えば、会話シーン盛り盛り(笑)

今後の自分らの行動を決めるための美春と亜紀、雅人の姉弟

春人を巡る美春とラティーファ、それぞれの過去と今の想い。

そしてついに明らかになったリーゼロッテの素性と流れ的に自身も明かさざる得なくなってしまったリオ(春人)との会話。

というようにそれぞれの行動指針を決める重要な内容もあれば、精霊の里の民を交えての軽い内容ももちろんあり。

ただ、少なくとも前半のフローラを救助して屋敷に戻ってからの会話は同じよな内容が繰り返されてくどく感じたので、地の文で省略しても良かったのではないかと思いますね。

精霊の里においても、登場人物が多すぎて個々の印象が薄くなっている気がしました。

良かった点としては、Web版では遠く離れてしまってすっかり忘れ去られた感のある美春が、書籍版ではちゃんとヒロインしているところですね。

そもそも主人公の初恋の人ですし、今後待ち受けている夜会イベントや彼女を慕っている千堂貴久との出会いを前に今回のような心情の動きが描かれたのは非常に良かったと思います。

逆に良くないというか、ハーレム要員多すぎで、しかも今回は一同に会したために会話も増えてストーリーが進まない点ですね。

そのせいで、夜会どころか沙月との出会いも間に合わなくて、エピローグで一瞬顔出ししたのみでした。

ハーレム展開のせいで魅力的な男性キャラがいないのももったいないです。

強くてミステリアスなのは敵だけで、味方側は主人公を引き立てるクズか未熟な人物だけというのはどうかと。*1

まぁ、それだけ期待が持てる作品ということで、今後も楽しみであります。

もう8巻まで来たけど、まだまだこれから怒涛の展開が来そうだなって気はしますね。

[]12期・37冊目 『呪術師は勇者になれない』

呪術師は勇者になれない (レッドライジングブックス)

呪術師は勇者になれない (レッドライジングブックス)

内容(「BOOK」データベースより)

突如として謎のダンジョンへ散り散りに放り出された白嶺学園二年七組の生徒達は、神が与える加護『天職』の力を手に、脱出を目指す…けれど、僕の天職『呪術師』には、一切戦う力がなかった。チートなし。覚醒なし。どうすんの、コレ、詰んでない?襲い来る凶暴な魔物。極限のサバイバル。そして、限られた脱出枠。愛と友情善意の協力。嘘と欲望、悪意の敵対。果たして、僕らの選択は―。

いわゆる一クラスまるごと異世界転移モノであり、不気味なダンジョンにほぼバラバラ状態で飛ばされて、一応それぞれに見合った天職クラス(ジョブ)と三つの初期スキルを与えられてスタートします。

そこまではよくある設定でしょうが、主人公のチート・覚醒はまったくありません。もうそれは可哀想なくらいに。

主人公・桃川小太郎はライトなオタク気質で平均的な女の子並みに小柄な体格。古武道の経験も無ければサバイバルの知識も無し。きわめて普通、というより逆境においては生き残りが難しいのではないかと見られるタイプ。

それなのに始めの段階でアクシデントがあって一人きりで放りだされ、呪術師という微妙な天職になったはいいが、弱いスキルばかり。

さらに早速雑魚じゃなくて中ボスくらいの風格のある鎧熊というモンスターとエンカウントしてしまうという運の無さ。

始めからハードモード全開で果たして生き残れるのか、ドキドキハラハラの展開が続きます。

爪で腹を切り裂かれつつも、運に恵まれ大変な苦労の末に鎧熊を倒したと思ったら、DQNクラスメイトに襲われ、『痛み返し』という同じ痛みを攻撃者に返すスキルのおかげで殺されることはなかったけど、この前までの親友にボコボコに殴られる始末。

冒頭だけでここまで不憫な主人公がいたでしょうか。*2


一方でクラス一のイケメン・モテ男かつ剣道の才能もある蒼真悠斗は妹の桜を守るために木刀一本で鎧熊に戦いを挑んで片目を潰すも敗れ、瀕死の中でクラス:勇者として覚醒。あっさりと倒してしまいます。

同じく聖女となった桜と共にチート兄妹はクラスメイトとの合流と脱出を目指すべくダンジョンを進んでいきます。

この蒼真悠斗が典型的な勇者として早々にハーレムパーティを形成するのは脇に置いておき、あくまでもクラス最底辺の弱者である桃川小太郎を主人公にして地に足をつけた地道な探索行を描いているのがいいんですよね。

全能感溢れる蒼真悠斗の清らかな理想と主人公の抱く絶望やコツコツ感との対比も秀逸。

さらにRPGゲームのように最初は弱いレベルの敵からだんだん強くなるというご都合設定ではなく、最初からモンスターとの戦いが一つ判断を間違えただけで命を落とすような、いきなり油断ならないものとなっていることに緊迫感を漂わせます。

不運にもゴーマに襲われて食べられてしまっているクラスメイトを見てしまい、何もできずにこそこそと逃げる主人公というのがまた切ない。


そしてなによりヒロイン・双葉芽衣子ですよ。

主人公の倍くらいの体格を誇る巨漢というのが新鮮(顔は痩せれば可愛いタイプ)。

料理部ゆえに刃物には慣れているし力はあるのに、極端に気弱で最初に出会った委員長と組んでも足手まとい。

結果的に重傷を負って見捨てられた状態で主人公と遭遇し・・・。

主人公が持っていた薬草で助けたのですが、そこで恋が芽生えるというわけでもなく、みじめな思いをしてきた二人が組んでそこからの逆襲がすぐに始まるというわけでもなく。

しかし、紆余曲折の末での双葉芽衣子の覚醒シーンは心震えましたね。

これから主人公とヒロイン*3の前途。それにまだ一巻なので他の登場人物は少ないですが、クラスの他の人物との関わりが楽しみです。

*1:主人公に礼を言えるだけでユグノー公爵がまともな人物に見えてしまう

*2:Web版も継続して読んでいるけど、いつ死んでもおかしくないくらいの危機に何度も見舞われる

*3:早くも予兆を見せているヤンデレぶりも