雑葉抄 このページをアンテナに追加 RSSフィード

2018-04-22

[]13期・12冊目 『旭日、遥かなり8』

旭日、遥かなり8 (C・NOVELS)

旭日、遥かなり8 (C・NOVELS)

内容(「BOOK」データベースより)

戦艦「伊勢」「山城」の轟沈と引き替えに、連合艦隊は最重要拠点であるトラック環礁の防衛に成功した。しかし日本艦隊は、敵機動部隊への索敵の遅れから、引き続き防戦を強いられる。対空装備を強化した旗艦「大和」が奮戦する中、ついに索敵機「彩雲」が米空母を発見。皇国の窮地を救うべく、新型戦闘機「零戦三三型」と艦上爆撃機「彗星」が奇襲に向かう―。一方、米太平洋艦隊は英艦隊と連携し艦隊決戦の構えを取る。「大和」「武蔵」と米英両国の最強戦艦、太平洋の覇権を懸けた最終決戦の行方は!白熱の戦記巨編、ここに完結。

トラック基地に対する苛烈な空襲および水上艦隊による夜間砲撃を終えたところで、航空機の消耗が激しい米機動部隊はいったん東方に引きました。後方から控えの航空機隊を乗せた護衛空母が駆けつけており、合流して今度こそ殲滅しようというのです。

日本の機動部隊はトラック攻防には間に合わなかったものの、航空機の補充が行われる前に敵を叩くべく索敵機を放つも、米軍はレーダーを生かして近づこうとする偵察機をことごとく撃墜しており、なかなか居所を掴ませません。

ようやく一機の彩雲が米機動部隊を補足するも、今から出撃していたら、帰投は日没後になってしまい、母艦に戻れなくなる機が増えることが懸念されます。

せっかく掴んだチャンスを逃さずにすぐに攻撃に出るか、それとも翌朝に仕切り直すか、艦隊を率いる角田司令は判断を迫られるのでした。


さすがに最終巻でボロ負けすることはあるいまいと思いつつも、先にどちらが見つけるかによって勝負の分かれ目となるだけに手に汗を握る展開。

そしてようやく攻撃隊が空母を含む艦隊を発見しても、上空直掩の戦闘機や猛烈な対空砲火を潜り抜けて射点につくのも大変なことでした。

ここでは米機動部隊の司令ミッチャーの判断が(彼らにとっては)裏目と出てしまい、爆弾や燃料を満載した航空機が並べられたところに彗星による急降下爆弾が落下。爆撃を受けた空母は次々と大炎上。

まさに史実ミッドウェー海戦を逆にやらせたようなもので、頑丈でタフネスぶりを発揮したエセックス級空母がまとめて沈められるという珍しい結果となりましたね。

残った空母群による反撃によって日本軍も正規空母が撃沈されるも結果的に大勝利を得て、次は戦艦を主役とした決戦。

隻数こそ近いものの、英米側はアイオワ級、キングジョージ?世級など最新鋭の艦を用意したのに対し、日本側は大和・武蔵以外は旧式で砲威力に劣ります。

ここでも内容的には痛み分けに近いものの、分散した英米艦隊を各個撃破する形になったのと、46cm主砲を持つ大和・武蔵が強さを発揮して辛うじて勝利をもぎ取ったと言えましょう。

一歩間違えたら、逆に日本側が包囲殲滅されていた可能性*1もありましたし、本当に最後までハラハラさせられる内容ではありました。


海戦にて日本が勝利を得て、その結果をもって講和を進めていくという流れの中で世界情勢としてはソ連が崩壊。独ロはウラル山脈を境に領土を分かつことになりましたが、旧領回復を悲願とするロシアにとっては臥薪嘗胆の思いに近く、将来的に敵対する可能性が高い。そこで日本としては地勢的ロシアに近く、日ロが四国同盟から脱退。

日本と戦う理由を失ったアメリカとしても、欧州を席巻して強大になったドイツをこれから相手取る必要があり、対日講和への流れとなるわけです。

今までの著者のシリーズで見てきたような流れですな。

途中まで勝利してきたのに敗戦に近い講和条件とか、国内で和平反対派が騒ぎ出すも天皇の鶴の一声で収束するのも同じ、パターンと化しています。

まぁ、それ以外だと内戦もしくは史実に近い無条件敗北のどちらかとなるのが目に見えていますが…。

今回も迫力ある空戦と海戦の描写、ヒトラー総統と山下大使との会話、日本を叩きのめしたくて悔しがるルーズベルト大統領と諫める側近など、そこかしこで楽しめるのですが、やはり全体的には流れが読めてしまうのです。


あとがきでは次回作の構想らしいことが書かれていました。

最初からif世界で背景説明は少しにとどめ、戦術に限定的した短めの内容(3巻以内)もたまにはいいんじゃないかと思いますね。

[]13期・13冊目 『神統記(テオゴニア)』

神統記(テオゴニア) (PASH!ブックス)

神統記(テオゴニア) (PASH!ブックス)

内容(「BOOK」データベースより)

その日も、果てもなく殺し合いが続いていた。灰猿人、豚人、蜥蝪人…亜人種らの度重なる侵攻に苦しむ辺境の地。戦いのさなか、命の危機に瀕した少年カイの脳裏に突如甦えった前世の記憶。「おにぎりが食いてえなぁ…」この世の『仕様』に気付きを得たカイは、神の加護のもと、抗い、這いずり、戦乱を生きる力を磨く―。広漠たる世横と深き謎、そしてひとりの少年の成長を綴る一大叙事詩

小説家になろう」にて、以前:『陶都物語〜赤き炎の中に〜』を執筆していた作家さんであり、書籍も購入して続編を楽しみにしていたのですが、同作は非常に残念なことに打ち切られてWeb版も更新が止まってしまいました。

その後、異世界を舞台とした新作を発表されて、これがまた非常に面白くて夢中になって読み始めて、この度めでたく書籍化されました。

『神統記(テオゴニア)』

今度こそはWeb版、書籍版ともに長く続いて欲しいと願うところであります。


本作においては人族が住まう辺境(作品内では辺土)において、兵卒として1年目のカイという名の13歳の少年が主人公。

辺土においては亜人種族の侵入が続いていて、体力の劣る人族は数をもって辛うじて対抗しているという厳しい状況。

強さこそ全てという中で、両親を失った孤児のカイはラグ村の中でも最底辺の境遇であり、ひもじい暮らしの中で育ちざかりの体はいつも食べ物を欲していました。

精強なる灰猿人(マカク)族との戦いの最中、ふと浮かんだ言葉「オニギリが食べたいなぁ」

それをきっかけにカイの頭の中に前世の知識がどんどん流入してきて・・・。


土地神の加護を受けし者*2の普通の人とは隔絶した超人ぶり。

生きとし生ける者にはその体内に神石を宿していて、それは本人の強さに応じた大きさとなっており、倒した者の中から神石を奪い、中の髄液をすすることにより強くなれる(カイの中の前世知識ではレベルアップと認識)。

一帯の辺土を統べる辺土伯の号令により、亜人の侵攻に対して村同士で援軍を出し合って協力して守りあっている。

ただし援軍を出してもらった場合は礼として食料を差し出さなければならなく、戦いのたびに貴重な働き手や食料を損耗し、このままではじり貧になりそうな気配。

次々と沸いて出てくる前世知識を消化しつつ、カイの生まれ育った辺土の状況と世界観が綴られます。

いわゆる異世界転生としてはハードモードな世界と言えましょう。

ある日、豚人(オーグ)族の大軍に攻められた村を救援に向かった、カイを含むラグ村の戦士たちですが、人族連合軍は敵の巧妙な罠に嵌って大敗。森の中で撤退中に豚人に執拗に追われたカイは重傷を負ったまま崖から落ちたのですが、それが運命を変える谷の神様との出会いであったのでした。


神々の存在が人々の暮らしに結びついていることがわかる時代背景を地球の歴史に当てはめてみると、中世よりも古い印象を受けました。

日常は淡々として落ち着いた文章でありながら、戦いとなると躍動感ある筆致。

亜人族との長い闘争が続く人族の村の中での最底辺であるカイの状況からして重苦しい雰囲気で始まりますが、屈託のないカイの個性もあって、ジブリアニメを見ているような、先の展開が楽しみでならない物語でした。

13歳という生きるのに無我夢中な少年は急に湧き出した前世知識に加えて、谷の神様の守護を得たことにより、ただの村人以上にこの世界の理に触れることになっていく。

例えば、先に戦った種族以外に蜥蝪人族や小人族との出会いもあって、急速に成長していく様子が楽しいです。

いずれ、ただの村の少年の枠には収まりきらない気配を見せつつ、今はまだラグ村の一員であることからは逃れられない難しさは感じますね。

*1:さすがにここでそれはないだろうと思いつつも、危ない描写があるので安心はできない

*2:ラグ村の中では領主とその嫡子と娘の3名のみ

2018-04-15

[]13期・10冊目 『精霊幻想記10 輪廻の勿忘草』

内容紹介

遂に公の場で、前世由来のアマカワ姓を名乗ると決めたリオ。その姓に沙月やリーゼロッテが強く反応を示す中、美春は幼馴染である天川春人がリオの前世であることも理解した上で、自分の気持ちは変わらないと訴える。それに対してリオは、自分と天川春人を同一視するべきではないと美春を諭すが――「美春は騙されている。なんとか、なんとかしないと……」第三者による介入で、話は更に複雑化していき……!? WEB版とは異なる展開から目が離せない《夜会編》、最高潮へ!

流れ的には前巻から引き続き、各国の勇者お披露目を兼ねた夜会の後編となります。

ガルアーク国王より名誉騎士の称号を賜り、前世の苗字であるアマカワ(天川)を名乗った主人公(地の分では本名のリオだけど、公式にはハルトを名乗っているので、前世と同じハルト・アマカワになる)。

すでに前世のことを話して入学式に面識があったことがわかった沙月、そして美春とともに岩の家に残した亜紀・雅人を含めて身の振り方を秘密裏に検討していきます。

すでにリオと共にいることを表明した美春ですが、亜紀・雅人の二人が兄である貴久と共に行くとなると、彼が勇者召喚されたセントグラ王国は遠距離にあり鎖国に近いこともあって、またいつ会えるかわからない。

基本的に本人たちの意思を尊重したいというリオですが、よく話し合ってもらうためにこっそり美春を連れて岩の家に戻ることにします。

一方で勇者召喚以来、ようやく美春たちに会えて喜ぶ貴久ですが、自分を蚊帳の外にして沙月・美春がハルト(リオ)と話をしている様子が気になって仕方ない。

かといって、王族貴族に敬意を払われるハルトには勇者といえども強く出ることもできず、もやもやとした気持ちを抱くのでした。


前半は夜会におけるそれぞれのペアのダンスだったり、恒例の美女(今回は王女)に囲まれてのお茶会でちやほやされるリオだったり、今後の身の振り方を決めるための三人(リオ・美春・沙月)の内緒話だったり、そこに介入しようとする貴久だったり。

今までリオが関わった女性たちがちょっとずつではあっても登場してきました。正直要らないと思えた部分もありましたが、10巻という区切りの意味もあったのでしょう。

個人的には肩のゴミを取るふりをしてクリスティーナ王女が妹フローラを助けた礼をこっそり言うシーンとイラストが良かったですね。

主人公を慕う女性が多すぎて収まりがつかなくなりそうな気がしつつも、今回目立ったのは策謀好きっぽいガルアーク王女シャルロット、そしてもちろんWeb版と違って強い決意を秘めて行動に出た美春でしょう。Web版よりもちゃんとヒロインしてる。

あそこまで言われても、今の自分は前世とは違うだの(戦闘行為や正当防衛とはいえ)殺人を犯して汚れているだの云々で受け入れないのはさすがにヘタレすぎます。

沙月でなくても怒ることころでしょう。

というか、沙月との存在無しでは二人がここまで気持ちを伝えあうことなかっただろうなぁ。もちろん以前からのアイシアのフォローも活きていました。

その代わりに沙月もリオに惹かれてしまった気がしてなりませんが。

結局、話し合いの際に共に行くことを選んだのは亜紀のみ。美春と雅人は引き続きリオと共に過ごすと聞いて承服しきれなくなった貴久は模擬戦を申し込みます。

そこで敗北するも諦めきれず、美春に執着する貴久は亜紀の協力に加えて王女を半ば脅して巻き込み、奪取する計画を立てて…。


やはりWeb版では離れ離れになったままフェードアウト気味となった美春との関係が書籍版ではきちっと解決したのが一番ですね。

長々と引っ張ってきましたが、転生した主人公と巻き込まれ召喚されたヒロイン。幾重の意味で引き離された二人がようやく新たに始まられることになったのだと思うと感慨深いです。

それにしても、坂田弘明にしても、今回の貴久にしても人間として未熟すぎて主人公の引き立て役にしかなっていない。

いったい勇者とはなんなのか。

まぁ、いずれ魔王を倒す実力を秘めているものの、いまだレベルは一桁台で圧倒的に経験が足りてないってことなんでしょうかね。

気になる点としては、悪堕ちした亜紀との和解は後日あるのか?*1

美春拉致を黙認した気配があるシャルロットは王族らしい解決手段を考えていたのかなってところですね。改めて惚れてしまった彼女の攻勢が始まりそう…。

[]13期・11冊目 『食い詰め傭兵の幻想奇譚5』

内容紹介

依頼の成功率は低いが、その実力を惜しんだギルドからロレンは昇格試験を受けることを打診される。

模擬戦の相手はあの女たらし・クラース。白熱した戦いを繰り広げる二人だったが、途中割り込んできた謎の女性に戦いを止められ、さらに依頼を頼まれることになり――。

4巻ではエルフと狂った妖精に”暴食”のグーラが登場。

さて次はどんな人外との出会いや滅茶苦茶な冒険が待ち構えているのか?

と思ったところで今回クラース相手の昇格試験の模擬試合中に乱入してきたのは吸血鬼の神祖ディア。

彼女が師匠の元から独り立ちするための試験を受ける同行者として、ロレンとラピスに白羽の矢が立ったのでした。((クラースはディアを見た目通りの子供として見下したために頭から埋められた(笑)))

見た目こそ幼い少女でありながら、その実年齢は500歳以上。

本気を出せば今暮らしているカッファの町どころか国さえ滅びかねない伝説クラスの実力者なのにただの人間に過ぎない自分の力が必要なのかと訝しむロレン。

ディアが言うには神祖の間でも勢力争いがあり、対立している神祖からの妨害、それも弱点をついた攻撃が予想される以上、実力ある冒険者の協力が必要なのだとか。

そうして依頼を受けてディアの試験に同行したロレンとラピスですが、早速のその日の夜のうちにアンデッド(ゾンビといくらか混じった吸血鬼)の大群の襲撃を受けます。

翌日は妨害のタイミングをずらそうと、街道から外れて予定の到達位置を変えてみても、やはり暗くなる頃に襲ってきたのはゾンビの大群に極めつけは巨大なドラゴンゾンビ。

しかもディアが突然力を失ってしまい、一転してピンチに陥ったかと思われたのです…。


個人的な実力は高くても一介の冒険者には荷が重すぎるスーパーハードな内容となるために生きて帰るのに精いっぱいなロレン。

入院費用も嵩んで(ラピスが立て替え)、余裕の無い生活から抜け出せそうにありません。もっともその一端にラピスが絡んでいるんですけど。

ようやく冒険者最底辺の銅級から黒鉄級に昇格してのお仕事は名目上は護衛なんですけど、その相手が伝説の吸血鬼であるディア。

相変わらず強力な人外に好かれてしまうというか(笑)

今回、大量の襲い掛かってくるのは2巻以来のゾンビ軍団(+低級の吸血鬼)ということで、ロレンはその大剣をもって斬りまくり、しまいにはドラゴンゾンビと一騎打ち。

そこでなんとかしてしまいそうなのが死の王を内包した今のロレンであります。

しかし、返り血というか飛び散った腐肉の汚臭やらで絵面を想像したら大変そう。

それからラピスの素のモード(言葉使いが極端に変わる)が見られました。ギャップありすぎて怖いですね。

ロレンは見ていないはずですが、ラピスの誘惑に靡かないのはなんとなく本能で察知するものがあったのかと…。


妨害の黒幕が判明し、最後に神祖シュトース自身が登場しましたが、依頼を放り出して逃げるつもりのないロレンとラピスは敵わない相手とわかっていても、戦いを挑みます。

二人が本気を出しても”思ったりより健闘している”レベルという規格外の強さを見せつけるシュトース。

そこで戦力となっていなかったディアが考えついたのは通常ならば考えられないほどに非常識な手段ですが、同時に神祖同士でなければ使えなかったのであろうなと納得。

結局、またしても最後に力を使いすぎて入院する羽目となったロレン。

ちゃんと報酬はもらえたので借金は増えていないかな。

特別製の防具ももらった上に神祖との繋がりができて上出来ではないかと。

*1:離婚は母親の不貞が原因なので、子供である春人・亜紀には和解が成ってほしい気がする

2018-04-08

[]13期・9冊目 『ブラックボックス

ブラックボックス (朝日文庫)

ブラックボックス (朝日文庫)

内容紹介

サラダ工場のパートタイマー、野菜生産者学校給食栄養士は何を見たのか?

会社の不祥事で故郷に逃げ帰ってきた元広告塔・栄実、

どん詰まりの地元農業に反旗を翻した野菜生産者・剛、

玉の輿結婚にやぶれ栄養士の仕事に情熱を傾ける聖子。

真夜中のサラダ工場で、最先端のハイテク農場で、閉塞感漂う給食現場で、彼らはどう戦っていくのか。

食い詰めて就職した地元のサラダ工場で、栄実は外国人従業員たちが次々に体調不良に見舞われるのを見る。

やがて彼女自身も……。

その頃、最先端技術を誇るはずの剛のハイテク農場でも、想定外のトラブルが頻発する。複雑な生態系下で迷走するハイテクノロジー。

食と環境の崩壊連鎖をあぶりだす、渾身の大型長編サスペンス。

農家の跡取りで大学で農学を学んできた剛でしたが、遺産相続のごたごたで土地が分割されてしまい、わずかに残った農地で旧来の農業から脱却した、まったく新しい方法を取り入れようとしていました。

それは地元の後藤ガラスの子会社・後藤アグリカルチャーによる最先端のハイテク農業。

密閉された内部ではコンピュータ制御により人工光と養液で野菜を作っていく。まったく自然に頼らず人間の勘や目分量などは介在しないものでした。

そこでは剛の存在はオーナーでありながら、作業は決められた手順で行われており、自身の農場であっても裁量権はなく、せいぜい監視くらいしかなかったのです。

しかし、まったく新しいハイテク農場では、予期しない機器トラブルが相次いで・・・。

一時期マスコミに取り上げられ持て囃された金融会社の美人広報としてメディアに露出していた栄実ですが、社長が脱税やインサイダー取引によって逮捕されると一転してマスコミから叩かれ、職を失い故郷に戻ります。

しかし、実名で報道されていたことからまともな会社には就けず、生活のために後藤アグリカルチャー傘下のサラダ工場・ニュートリションの生産ラインで働くパートに応募しました。

そこでは研修生として来日してきた外国人女性が24時間体制で働いており、英語ができて面倒見がいい栄実は日本人管理職と外国人との橋渡し的な役割を果たすようになっていくのでした。

日本人ではほとんど見向きもしない低賃金で過酷な労働環境ではあっても、来日外国人たちからすれば地元とはくらべものにならないほど稼げる。バイタリティに溢れた外国人女性たちと日本人としての認識のあまりの違いに戸惑いつつ、同情してついお節介を焼いてしまう栄実。

しかし、工場で加工された食品を三食摂っていた外国人女性の中に体調不良になる者が増えていきます。

それは過酷な労働環境のせいなのか、それとも殺菌消毒に使われる薬品のせいなのか、栄実は疑問を抱くようになるのでした。

この二人を軸に同窓会を機に久しぶりに再会した聖子が加わります。

医者に嫁いで玉の輿といえる結婚を果たしたものの、専門学校卒の彼女は有名私大卒ばかりの奥様グループに馴染めずに結婚生活まで破綻。地元に戻った後は一念発起して資格を取り、学校の栄養教諭として熱心に働いていました。


最初は高級カフェ向けだったニュートリションの野菜は地元企業による地産地消の名目で学校給食にまで提供されるようになります。

中盤あたりから聖子が加わったことにより、作る側の二人の疑念だけでなく、影響を受けやすい子供を見る栄養士の観点から異様なアレルギー反応や食中毒といった症状が次々と明らかになり、旧来の農法より安全安心だと喧伝されるニュートリションの野菜になにが起こっているのかを三人がそれぞれの立場で探っていくわけです。

私が子供の頃と比べて、今では重度の食物アレルギーを持つ子供が増えて、その辛さは身近に感じていることもあり、作品の中では今までなんともなかったものを食べていきなりアレルギー反応が出て病院に搬送される場面はやけに恐ろしく感じましたね。

特に機器の故障がきっかけとなって、ハイテク農場から出荷された野菜に発がん性物質が含まれていた(もともとは無害な原材料がたまたまある条件で組み合わさって反応したため)ことなど読み手としてはまったく新しい製法で加工されていく野菜の異常さは充分感じられました。

とはいえ、個人が企業の問題を追究する困難があり、伝手を辿ってマスコミやインターネットを駆使するも敗北してしまうところに現実の厳しさを見るしかありません。そこは単なるエンターテイメントとは違いますね。

過去の有名な公害病にしても、多くの被害者が涙を飲みつつ時間かかって公けにされてきたのだろうと想像できます。


後藤アグリカルチャーの今森社長による旧来の農業(重労働で画一的生産で自然災害に左右されやすい上に産業としての魅力に乏しい結果、後継者不足で補助金漬け)を一掃した全く新しい未来型農法(コンピュータによる完全管理で自然に左右されない閉鎖環境のハイテク工場)の理想もわかるのですが、軌道に乗せるまでに問題をうやむやにしすぎてしまったのが破綻の原因らしいです。

はっきりした原因がわからず、もやもやした状態が長かったので、読み終えてすっきりした感じはあまりしませんでした。

結局は提供する側のモラルに関わる問題であり、それはなかなか難しい課題でありますね。

口にするものだけに関心を惹きやすいが、単なるイメージで判断されやすく、風評による影響が大きいのが食べ物に関わる産業です。

本当に何が良くて何が悪いのか突き詰めようとしてもはっきりした答えが出そうにありません。

結局は自然の摂理に逆らって(あるいは外れて)行うことはどこまでも慎重さが必要だということなのかと思いましたね。

2018-03-31

[]13期・8冊目 『いつか、ふたりは二匹』

いつか、ふたりは二匹 (講談社文庫)

いつか、ふたりは二匹 (講談社文庫)

内容(「BOOK」データベースより)

眠りに就くと猫の身体に乗り移れるという、不思議な能力を持つ小学六年生のぼく。町で起きた女児襲撃事件の謎に、猫のジェニイの身体を借りて挑むことに。スリル満点、はじめての冒険の結末は―。子どもが大人になるために大切なことを教えてくれる、あったかくて、少し切ないファンタジック・ミステリ

主人公は母親の再婚により、義父と大学生の姉ができた小学六年生・智己。

しかし、単身赴任した先で義父が入院してしまったために母が付き添いに行ってしまい、姉の久美子とマンションで暮らすことになりました。

両親始め、周囲は姉が面倒を見ているのだと思っていますが、久美子は一切家事ができないために代わりに智己がやることになっていて、かなりしっかり者です。

実は智己には秘密があり、眠りにつくと特定の猫の身体に乗り移って行動ができるというもの。

散歩の途中でセントバーナード犬・ピーターと知り合い、ジェニィと名乗った彼はテレパシーで会話を楽しみます。

実は主人公と同じ学校の女子児童が故意に車で轢かれて大怪我を負うという事件が起きており、その前に同じく小六児童を連れ去ろうとした犯人と同一だという目撃証言がありました。

そのせいで、小中学生の集団登下校が再び始まったばかり。

その中で智己たちにとって憧れの女の子(先日の暴走車事件の時に現場にいた一人)は近所に小中学生がいなくて、男子高校生がわざわざ遠回りして付き添って登校してきたのを見ます。本人のとても嬉しそうな表情とともに。

智己は猫の身体を思いのままに動かせるということを活かして、ジェニィになっている間に事故のあった場所を見に行ったのでした、それがとんでもない事件に巻き込まれていくとはその時点では思いも知らなかったのでした。


少年処女向けのジュブナイルとして書かれたということもあって、あくまでも小学6年生視点(半ば以上は猫のジェニィ)で綴られる平易なミステリといった感じです。

一時的にでも猫の視点になるというのが斬新で、特殊な状況でのミステリを得意としてきた著者らしいですね。

猫のジェニィには相棒となる犬のピーターがいて、彼がいいキャラしているのですが、途中からやけに人間臭い言葉をしゃべるので、ただの犬じゃないことが予想できてしまいます。

少年処女向けでありながら、主人公があからさまな悪意(殺意)を向けられるというのが珍しいかなという気がしました。

子どもらしい正義と好奇心によって突っ込んでいったことで、良い結果と同時に悲しい結果を招くことも。

切ないラストですが、これで大人の階段を一つ昇ったという感じできれいに幕を引きました。

もっとも大人の読み手としては、いろいろと物足りない点があったのは確か。

連れ子同士で結婚して間もなく、両親が熱々なのはいいとしても、最初から智己がやけに大人びていて、家事一切を仕切っているのに大学生の久美子が甘えきっている不自然かなぁと。主人公の家族に対する認識が冷静過ぎますし。極度な悪意に対する恐怖以外に子供っぽさが見られても良かったんじゃないでしょうか。

車で襲われたとされる女の子たちの事情が予測でしか語られないためになんとも中途半端で、その後どうなったのか気になりました。それに犯人の詳細がばっさり端折られているのはもったいないと思いましたね。

2018-03-25

[]13期・7冊目 『麒麟の翼

麒麟の翼 (講談社文庫)

麒麟の翼 (講談社文庫)

内容紹介

ここから夢に羽ばたいていく、はずだった。

誰も信じなくても、自分だけは信じよう。

加賀シリーズ最高傑作

寒い夜、日本橋の欄干にもたれかかる男に声をかけた巡査が見たのは、胸に刺さったナイフだった。大都会の真ん中で発生した事件の真相に、加賀恭一郎が挑む。

ある夜、東京の中心である日本橋の麒麟が象られた欄干にもたれかかったまま身動きを止めた男がいた。

目撃していた交番の巡査は始め酔っ払いかと思って声をかけたところ、胸にナイフが刺さっており、搬送先の病院で死亡が確認された。

そして同日、すぐ近くの公園で若い男が巡回中の警官に声を掛けられて逃走。道路に飛び出したところで車にはねられて意識不明の重体を負う。

日本橋で死亡していた男性(青柳武明)の財布などの持ち物を持っていたことから、若い男(八島冬樹)がナイフで刺して持ち物を奪ったと推測された。

八島は意識を取り戻すことなく死亡したため、尋問もできず有力な証拠もないまま被疑者死亡で捜査は終息に向かうかと思われたところ、所轄の加賀刑事は青柳武明が死の直前に謎の行動をしていたことに疑念を抱き、独自に調べ始める。

一方で容疑者の八島冬樹と青柳武明には派遣社員と派遣先の部長という繋がりが判明。しかも八島が就業中に怪我を負った件について、青柳が労災隠しを指示したとされて、マスコミによるバッシングが始まってしまう。


加賀恭一郎シリーズです。

タイトルに見覚えがある気がしたのですが、2012年に映画化されていました。本編は見てないですけど、きっとテレビCMを目にしていたのでしょう。

冒頭で橋の欄干にもたれかかるという印象的な場面から始まったのは一見ありふれた物取り目的に見えた犯行。容疑者が意識不明の重体に陥っていることを除けば難航することは無さそうな事件でした。

それが次から次へとささやかながら気になる事実が出てきて、加賀刑事が独自に動き出す・・・と序盤からぐいぐいと惹き寄せられる展開でした。

少しずつ事件の細部から見えてくる何らかの綻びを加賀刑事による優れた洞察と地道な聞き込みによって解決へと導くさまは読んでいて続きが気になってしまうほどで飽きさせません。

無責任なマスコミの報道によって振り回される遺族やその周囲の描写あたりはいかにもミステリードラマっぽくはありましたが。

最後になって父の願いが息子へと通じ、贖罪の行動に出るところで終わったのは文句のつけどころが無いほどに良いラストでした。

ただ一つ気になったのは労災隠しについては、やはり青柳武明に責任の大部分があったということか、それとも死者に口無しでなすりつけられたのかがはっきりしなかったのは気にかかりました。個人的に会社の方針に従っただけなんじゃないかなって気がしますね。