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2017-06-05

15練乳/瀬野部屋/トリプルチーズバーガー「朧採集」 感想

はじめに

そんなわけで。15練乳・瀬野部屋・トリプルチーズバーガー主催の艦これ非公式ファンブック・朧合同誌「朧採集」を読みました。感想を書いていきます。

書誌情報については告知サイトをご覧ください。

朧合同誌「朧採集」告知サイト

本書は、どの作品にも駆逐艦・朧が2人以上登場するという珍しい趣向で作られた合同誌であります。17名の作家により執筆された朧たちは合計すると47名、都道府県や赤穂浪士いろは歌のかな文字数に等しい数の彼女たちが、入れ替わり立ち替わり紙面を賑やかしています。実際、最初から最後まで全ての作品ページに朧が絵か文字で描/書かれているという、その筋の方々にとっては嬉しさ極まる多幸感仕様になっています。

まずはなんといっても装丁がよいですね。

告知サイトの書影を見ればわかるとおり、表紙は各作家の朧たちが郵便切手となって散りばめられており(カニさんもいます)、左下にはタイトル「朧採集」の月偏をピンセットで抓む手が描かれています。絆創膏からしてこの手もまたどこかの朧の手でしょうか。*1

15練乳の前回の合同誌「お腹いっぱいになりました」から引き続き、夏見こまさんがデザイン協力されているとのことです。実際の書籍にはタイトル箔押しや色柄の遊び紙といった僕が好きな加工もされていて、ずっしりとした重さもあり、いっそう豪華さが感じられます。イチゴさんの内職によってメロンブックス通販版にも栞が付属するという仕様がありがたかったです。

「朧採集」という書名について。「採集」という言葉の選定に、手ずから朧にまつわるお話を集めていこうという主催者(それぞれが作家として本書に参加されています)の意気込みを感じます。*2なんというか「よーし、パパ張り切って朧のエピソード集めちゃうぞ」というエネルギッシュで欲深なタイトルだと思いました。

ところで、表紙の切手は本来「採集」ではなく「収集」という語を用いるものですから、書名とはややズレがあります。しかしこれは単に書名と表紙が乖離しているということではなく、「集(める)」あるいは「(艦隊)これくしょん」という言葉の連想から喚び出された切手が、「ここではないどこかへ運ぶための手形」という本来の役割を果たし、コレクションした朧たちのお話に触れるためのフォーマットとして機能している、ということであるように思います。目次ページでは各作品の題名の横に置かれた切手に消印が押されるという意匠があり、ここにおいて切手はそれぞれの作品世界へ飛ぶためのいわばチケットとして働いているわけですね。

唐突ですが、創作は扉の性質を持つ、ということを僕はここ二年ほど*3考えています。

かいつまんで書くと、創作、特に二次創作には、原典の作品世界やキャラクターに対して二次創作者が想像する作品世界やキャラクターを新しく繋げて開くものという一面があり、それはイメージとしては扉として捉えられるのではないかな、ということです。*4

先ほど”作品世界へ飛ぶ”と書きました。それはこの扉をくぐるということと同義であります。既述のような切手の意匠は、こういった僕の考え事とリンクしているところがあって面白く感じました。

この本には17の、あるいは47の扉があります。それぞれの扉の先で、それぞれの朧が呼吸をしています。ここからは、僕が切手を通して扉をくぐった先で見たこと、感じたことを述べていきます。採集行為になぞらえて、フィールドノートのようなものとしてお気軽にお読みください。

えび味噌汁「たとえ相手が朧でも。」

何事も初めが肝心です。本書のレセプションは、三人の大小混じえた朧たちの交流から始まります。タイトルは原作の着任時台詞の「誰にも負けない」にかかっているわけですが、

とある艦隊の中心的存在である朧、そんな朧を目標として「負けない」と言う小さな朧ちゃんたちが健気でよいです。初手から直球が気持ちよく投げ込まれたという感じの爽やかなスタートです。

かず「いつか来た道」

続く本作は、ある朧が艦娘になるきっかけとなった出来事と、そこで出会った先輩の朧にまつわるお話です。敷波ちゃん出てくるとテンション上がりますねテンションが! 振り返る過去の出来事は過酷なものでありますが、フェードインとフェードアウトの式波ちゃんとの会話がそれを確かな今に封じているように感じます。

砂上はりま「朧が朧に至るまで」(挿絵:せのん)

題名どおりに、一人の女の子が駆逐艦・朧になるまでのお話です。多くのバリエーション豊かな朧が出てきますが、こちらの鎮守府の艦娘運用の仕組みはかなり辛いものがありますね……実家・造船所・演習・出撃、長い戦いを経て朧へと至った彼女の日記は、閉じられた後までビターな物語として続いていくのでしょうか。朧だけでなく漣も二人出てくるところに妙味があります。

fuzino「新しい仲間?」

ドロップ着任の小さな朧を七駆があれこれと気遣いしていくお話。曙が絵本を読ませようとし、潮がシールをちらつかせ、漣が抱擁を提案する、この鎮守府固有の色が出た七駆の様態が面白いです。言われてみれば彼女らはそういうことをする娘さんであるような気もしてきます。この「自分では想像しなかったが、示されてみれば納得感がある」という感覚が同人の楽しいところですね。最後に朧と小さな朧のシンクロによって落着するところも好ましいです。

そこつ「唯幸せであれかしと」

海だけではなく、世界そのものが朧を苛む時、もう一人の朧には何ができるでしょうか。ひととき同じラムネを飲み、語られた夢を聴き、約束を胸にしまう……そういった交わりの中で、"魔法"という言葉には身を寄せたくなる温かな響きがあります。文章のリズムが心地よく、傍点やルビの振りといった技芸も冴えていて、執筆者の練度を感じさせる読み物でした。

ショーコ「生前、もしくは死後の話」

ファーストインプレッションとしては、本書の中で一番心掴まれたお話です。アイデアを短編漫画にまとめる構成力がたいへん素晴らしいです。喋るカニさんがいい役をしていますね。うちの朧付きのカニさんもこういう風に話してくれると嬉しいんですが、未だその兆しはありません……。

ななさん「模倣-イミテイト-」

こちらも心惹かれた作品です。短いページで感情を駆動させていくスロットルの上げ方が小気味良く感じました。ななさんは美少女の作画にあたって唇をはっきりと描かれるので、艦娘さんのお顔立ちに上品な艶があるところがよいです。

あざらく「オボロズ・ジャム」(挿絵:せのん)

同一艦娘は1つの艦隊内に同時に2人以上編成することはできないというゲーム上の仕様に対して「でも編成したいよね」という欲望のもと突き進んでいくスタイルは率直で好感を持ちます。この作品もかなり多くの朧が出てきて鉄火場もあり、たいへん賑やかになっております。世界よ、これがオボロンジャーズだ……

とだかづき「バックトゥザ朧!」

本書では唯一の四コマ漫画作品でした。タイムマシンで未来からやってきた朧、ありそうでないネタで面白かったです。二人の朧がわいわい楽しくお話した後にオチまでしっかり決まっていて、時間を絡めた話はやっぱり鉄板で強いと思いました。

せのん「刹那の間にて」

せのんさんの描く艦娘さんのお顔から、個人的には「sense off」の頃のゆうろさんに似た和やかさを感じます。安心感を覚えるというか……そのため、お話の内容は朧の危険が危ないものであるにも関わらず、作品全体にはゆとりのようなものがあってよいです。

さぶ「カノンがきこえる」

「艦これ」ゲームシステムの一つ・近代化改修をどのように捉えて表現するかは作家さんによってかなり幅があります。ここでのそれは切ないものとして描かれていますが、強化された朧の中で赤・青・橙・黄のポリフォニーが唄われる、そんなこともあるかもしれないと信じさせる確かさのある一作でした。

AMANAGI「98と、ぷらす1」(挿絵:かず)

このタイトルの作品が99ページに配置されている、というのは作り手の遊び心でしょうか。朧と小さな朧"ちぼろ"、女性提督の三人の絆を描きつつ百合要素もあるという小説です。主機の出力調整のくだりなど、艦娘の日常業務のディティールがよいですね。登場人物も皆優しい人たちばかりで微笑ましかったです。

猿渡ごしき「Island Memories」

観測範囲では朧(に限らないかもしれませんが)の史実にまつわるエピソードを描かれる方はそう多くはなく、今作は貴重な一本であります。艤装を纏わない素足の朧というビジュアルもまた珍しいものでありました。鉄は時間とともに朽ちていくのに対して、艦の魂と記憶は今なお「あの頃」を保ち続けている、それは確かに彼女からすれば嬉しいことなのでしょう。淡いトーンが作品全体に優しい風を吹かせているような印象の作品でした。

米屋ぺち「セピア色の記憶と」(挿絵:かず)

夢の世界で朧はもう一人の自分の声を聴く、というところから始まるお話です。怖気を伴う緊張感がだんだんと温かく解きほぐされていく、その過程はゆらゆらと波に運ばれるような読書体験でした。グッドです。

ソウタマエ「七駆っぽい朧」

素敵な七駆順列が展開されるお話です。画面づくりが丁寧で、四人の朧それぞれで異なる台詞のフォント、デフォルメの可愛らしさ、手書き文字のくだけ方など各所に楽しみがあります。ソウタマエさんのライトサイドが前面に出た快作でした。

うみどり「おぼろがさんにん!」

ポップでキュートな絵柄でお菓子作りする朧さんたちがかわいいお話でした。浜風や七駆のみんなも出てきてくれて嬉しいです。「誰にも負けないクッキー」、是非とも食べてみたいものですね。

苺6480「終の棲家」

去りゆくオリジナルの朧と、後を継ぐコピーの朧、二人の朧のお話です。提督*5とのお別れも、去りゆく朧から後を継ぐ朧への優しく確かな言葉も、後を継ぐ朧から去りゆく朧へのまっすぐな告白も、笑顔とともにあるということが有り難いと感じます。作中には本当によい笑顔が幾つも花開いていて、胸にじわじわと沁み入ります。ラストシーンも、原作台詞のアレンジが綺麗に決まっていて素晴らしかったです。

登場人物では去りゆく朧が好きですね。悲しみや苦しみが身体に刻まれ続けていても今はそれを遠いものにしてしまえた強さ、がんばってるうちに周りの人のことを考えられるようになった柔らかさを持つ彼女は、なんというか生のステージを一つ上がった人に特有の魅力があります。語りも軽やかで、それでいてしっかりとした裏打ちを感じさせるのでついつい聞き入ってしまいます。

また、イチゴさんの描く明石さんはどこをとってもかわいく温かくて素敵ですね。口では「工作艦が許すとでも?」って言いながらも高速修復材入りのお風呂入れてるのは艦種というよりは多分に本人のパーソナリティに因ってそうで貴いです。

まとめ

「朧が2人以上出る」というはっきりしたテーマがあるため、各作品アプローチは様々ながらも全体に統一感があり、綺麗にまとまったよい本でした。扉の向こうからいろいろとお土産をいただいた気分です。ありがとうございます。

同じ艦娘が2人といえば、まきえもんさんの「叢雲ちゃんと秘書艦叢雲改二」という漫画があり、*6これは同じ艦娘が2人いることの善さだけをハートフルに描ききった名作として僕の心に刻まれた作品です。*7そういったことから、自分の中で艦娘二人のお話は興味のあるテーマとなっていたため、今回の本も楽しみにしていました。*8

朧が二人以上いるという時、ほとんどの場合その朧たちには身体的・精神的な成長度の差、練度の差、性格的な個体差・鎮守府ごとの文化差など、何らかの差異があります。その差異が形作る、朧の微妙な輪郭の揺らぎについて考えを巡らすことは、本書の読後の楽しみの一つでありましょう。そして、差異を考えることはどこまでが同一かを考えることに近しく、それはまた駆逐艦・朧そのもの、輪郭の内側について考えることにも繋がってきます。

このテーマに果敢に取り組んだ17の作品を読み進めることは、自分にとって朧はどんな艦娘であるかということを見つめ直す旅のようでもありました。幾人もの朧と朧を繋ぐ線をなぞるようにページを手繰り、2人以上の朧たちを起点として、三角測量のように彼女たちが生きるそれぞれの艦これ世界の手触りまでをも得られることができました。

それでも、僕にとって朧はまだ、途方に暮れるくらいわからないことだらけの艦娘であり続けています。*9当方は他人のことをわからないままわからないなりに絆を深めるということを是とする気風の鎮守府ですので特に問題があるわけではありませんが、朧のことをわかっていくにはまだまだ時間がかかりそうですね。*10

では、そろそろ結びとしましょう。

本書は、より深く朧を識るための彼女たちの採集<<コレクション>>であり、2017年最新の彼女たちの記憶<<リコレクション>>であります。この本を手にしている限り、読者は17の新しい艦これ世界・47の新しい朧へと向かう、ささやかで絶対的な旅行権を持ちます。せっかくなので、この感想を読まれた艦これファン・朧ファンの方にも是非その権利を手にして気軽に旅してみてほしいと思います。どんなに輝かしく美しいものがその先に待っているとしても、自らの手で扉を開かないことにはそこへ辿り着くことはできないのですから。

そして、本書をきっかけとして18番目の、あるいは48番目の扉がこの世界に生まれたなら、それはとても豊かなことだと思うのです。

(BGM:newsong / tacica

*1:朧はバレンタインの季節限定グラフィックで右手人差し指・中指・薬指に絆創膏を巻いています。

*2:ほら、「採」の字に「手」偏入ってますし……

*3:つまり15練乳の艦これ同人誌を初めて読んだ時から今日に至るまでのことです。

*4:あるいは窓や門といった比喩でもいいかもしれません。

*5:今回はいつものシリーズのちいさな提督とは違う提督さんです。

*6https://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=62362949

*7:自分が艦娘2人ネタで創作するとしたら何らかのネガティブ要素をつい入れたくなってしまうのですが、この漫画は叢雲が二人いることのポジティブなところだけを描いていて、自分の中からは出てこない貴いものに触れたという感動がありました。

*8:同じ駆逐艦でも叢雲と朧は色々な点で異なった艦娘です。特に大きく違うのはゲーム内で改二が実装されているかどうかというところですね。「叢雲ちゃんと秘書艦叢雲改二」が新規着任した叢雲から先輩の叢雲改二を見る話であったのに対して、今回の本では先輩の朧がいる鎮守府に新しく小さい朧が入ってくるお話がいくつかありました。改二がないため、オルタナティブな朧を考えると小さい朧に寄りがちということはあるかもしれません。

*9:というかもう4年もゲームやって二次創作に触れてきているにも関わらず艦娘のことがよくわかりません……俺たちは雰囲気で艦娘と触れ合っている……うごご

*10:ちなみにうちの朧はLv120、不知火とともに駆逐艦のツートップになりました。期待を寄せれば寄せただけ応えてくれるよい子です。

2015-09-07

15練乳「おぼろちゃんといっしょ」〜「おもいでの殻」(朧ちゃんとちいさな提督)感想

はじめに

そんなわけで。いちご(苺6480)さんのサークル:15練乳による「艦隊これくしょん(艦これ)」非公式二次創作ファンブック「おぼろちゃんといっしょ」「ほしのふるよるは」「タメイキツミキ」「おもいでの殻」をコミケC88で購入して読み終えたので、感想を書くよ。

これらの同人誌は全て、とある鎮守府の"朧ちゃんとちいさな提督のおはなし"*1を描いた漫画作品だ。加えて、「ほしのふるよるは」「おもいでの殻」にはゲストイラスト・漫画・小説も収録されている。

著者のいちごさんは、日頃からpixivTwitterなどで数多くのイラスト・漫画を公開されている。僕が最初に目にしたのも、氏の艦これワンドロ*2イラストのツイートであったと思う。*3

簡潔にいちごさんの作品の魅力を述べるならば、それは柔らかい線画であり、鮮やかな彩色であり、かわいいキャラクターであり、彼らに寄り添ったきれいな言葉である。そして何より、それら全てが優しい視座から見据えられ描かれていることだろう。愛らしく微笑ましい絵の数々を鑑賞していると、僕はしばしば心に火が灯ったような暖かい気持ちになる。

そんないちごさんの艦これ二次創作の中心となっているのが、駆逐艦・"朧(ちゃん)"と彼女たち艦娘の司令官である"ちいさな提督"だ。いわゆる「創作提督」系作品の一つと考えて差し支えないだろう。未読の方は、まず朧ちゃんとちいさな提督がケッコンカッコカリするに至る一編、「朧ちゃんとケッコンカッコカリ」をご覧頂きたい。さらに、「朧ちゃんと提督つめあわせ」を見てもらえれば、およそ二人の関係や雰囲気がわかってくるはずだ。

朧ちゃんとケッコンカッコカリ by 苺6480 on pixiv

朧ちゃんと提督つめあわせ by 苺6480 on pixiv

"朧ちゃんとちいさな提督のおはなし"はどうやら全体としては"長い長いおはなし"*4であり、一連のイラストや漫画はその思い出のうちのあるひとときを短く切り抜いたものであるようだ。これから感想を綴る四冊の本の中で語られているのも、そういった切り抜きの思い出たちである。一つ一つ、辿っていこう。

vol.1 おぼろちゃんといっしょ

ファンブックvol.1「おぼろちゃんといっしょ」は、2人がケッコンカッコカリと新婚旅行を終えた後の2日間のお話。

表紙、手を繋いで歩く朧ちゃんと提督。提督が書いたと思しきおぼつかない字に頬が緩む。

よその鎮守府にお伺いする時は、そこの艦娘さんたちがどんな艦娘さんであるのか(もちろん自分の鎮守府の艦娘たちとは違う艦であるので)楽しみでもあり怖くもあるわけだけど、そこのところは最初にみなさんの紹介ページがあるので人見知り提督の読者も安心だ。提督・朧ちゃん・漣ちゃん・霧島さん・比叡さん・谷風のキャラ紹介、どれも短い文章ながら精確に人柄が伝わってきて楽しい。本編開始前の時点で漣ちゃんの印象が最高に(初期秘書艦で、縁の下の力持ちを悟られないように明るく元気に振る舞うって最高でしょう)。

本編。比叡さん・霧島さんによって朧ちゃんと提督の元に届けられた煎餅布団、これを機に二人は寝室を一緒にすることになった。冒頭の「さっすがですね〜!」から顕著なんだけど、このシリーズはゲーム版の台詞の流用がめちゃくちゃ上手いんだよね。それぞれの艦娘の身の丈にあった自然な用法で最大の効果(主にお笑い的な意味で)を発揮してくる。

明くる朝からはかわいいの波状攻撃。寝起きで頭が爆発してる二人、髪を結う朧ちゃんと結われる提督に和む。部屋着おひろめ会で眠さのあまりよくわからないことになっている二人、"からあげなどたべたい気持ち。"は本書の中でも一番可笑しい。執務室ピクニックで食事を行うみなさん、台詞と手描き文字が満載さればたばた賑やかでよろしいかと。

後のシリーズでたびたび出てくる、この鎮守府にはびこる二大悪癖「ドアを開けてからノック」「人の話を盗み聞き」もvol.1から登場している。こういう独自の「ならわし」みたいなものがあると、よその鎮守府に来たんだなあという感じがしていいね。安心感すら覚える(行為自体はおすすめできない……)。

アイスを食べる二人、お風呂あがりでタオルをごしごししながら食べたその味をいつまでも覚えていてほしいと差し出がましく思う。そして、寝る前に一日の良き思い出を振り返る提督の健気さ、楽しいのは朧ちゃんといっしょだからだと告げる純真さに胸を打たれる。提督の勝利によって思い出は閉じられる。いつまでもその"楽しい"が続くことを願わずにはいられなかった。

vol.2 ほしのふるよるは

ファンブックvol.2「ほしのふるよるは」は、クリスマスにまつわるお話。背中合わせでプレゼントを見つめる朧ちゃんと提督が嬉しそうでよい。なにげに身長差もあらわになっているし。

みなさんの紹介ページは、前作からそれぞれのレベルが上がっていたり、新しい顔が見えていたり。今回から登場した明石さんはこのシリーズの中でも大好きな艦娘さんの一隻だ。

さて本編。とある再会の後、霧島さんたちが持ち帰ったツリーに伴って、鎮守府はクリスマスムードに突入する。ご馳走の質は演習の戦果で決まる(!)ということで気合!入れて!戦いに臨む朧ちゃんと愉快な仲間たち"さいきょうのふじん"だった。

とにかく比叡と谷風の「おまかせ艦隊」*5がうい奴らすぎてね……今作を読んでから自分の艦隊の谷風ももうちょっと厚遇してあげようと思った。あと、紹介にはいなかったけど最上さん・龍驤さんもいい味出している。

さいきょうのふじんの戦果は上々、無事にクリスマスパーティを行える運びとなった。漣ちゃんがね、ほんとに気の回るいい子なんだわ……谷風をいじる手練手管も冴え渡ってるし。

シャンパンのジョッキ飲み……そういうのもあるのか……などど感心しつつ、提督からみんなへのプレゼントが行き渡る。そして朧ちゃんへのプレゼント、朧ちゃんから提督へのプレゼントも。「プレゼント」が何かすらわかっていなかった提督が温かい気持ちでクリスマスを好きになってくれたことが嬉しい。そして"……朧は"から"えっと朧も"へと助詞を掛け直す朧ちゃん、しびれるねえ……

クリスマスを題材にしたゲスト作品、コメントも含めて余すところなく楽しませていただいた。今後ゆっくりこっそり参加者さんたちのpixiv等をフォローしようと思う。

  • ミッタニウムさん:赤面ヴェールヌイがとってもいじらしい。
  • ジョイさん:朧と提督の隙間や、二人の身体の折り曲げ具合に惹かれる。
  • よりかさん:漣の善性は七つの海を覆って余りあるのでは?
  • そこつさん:愛宕の内側にそっと入り込むような小説は貴重でありがたい。
  • フジノキさん:靴下かわいいなあ。カニさんが物欲しそう……
  • いずみやみそのさん:漣の悪性は七つの海を覆って余りあるのでは?
  • かとうさん:また奥深い提督を一人(?)知っちまったな……
  • fuzinoさん:加賀さんと長陸奥の表情がかわいい。
  • だんちょうさん:何度お気に入りの艦娘をクリックしても普段と変わらなかった時の悲しみ。ほんとこればっかりは運営のさじ加減次第なんだよね……
  • 19さん:そこに☆を付ける発想はなかった。提督と雪風のノリもこれだけ軽いとむしろ清々しくていいっすね。
  • 鮭田まもしろうさん:ゆっくりと噛みしめるような朧ちゃんの表情の移ろい。
  • みほさん:やめてくれ朧、そのモノローグはオレに効く。

――そして時間はパーティ前の夕刻に遡り、明石さんは泣きながら"提督"に語りかけ、思い出は閉じられる。最後の1ページで明石さんにガツンとやられてしまった。この二人のお話が読みたいなあ。

vol.3 タメイキツミキ

ファンブックvol.3「タメイキツミキ」は、艦これの2015春アップデートによって実装された「能動分岐」のお話。

表紙は寒色が目立ち、糸電話を持つ朧ちゃんと提督の表情も少し物憂げだ。裏表紙を周って糸が鮮やかな色彩とともに伝っている意匠を優美に感じる。

まえがきにもある通り、いざ羅針盤によらず完全に望んだ進路を選べるとなると選ぶことに伴う責任が提督にのしかかってくる(少なくともそういう意識が生まれる余地がある)。それを思う時の不安と、そんな暗い想いを打ち払って応えようとしてくれる艦娘たちを描いたストーリーになっている。

鎮守府のみなさん、今回は新顔が多くて賑やかだ。綾波ちゃん・もがみん・敷波ちゃん・センダイサン・バリサン……お気に入りは綾波ちゃんかな。後述。

本編。うん、いっそ進路を艦娘に決めてもらいたい、なんつってな気分になることあるよね。とはいえ本当はもう提督の算段は済んでいるわけで、でも"えらんだほうでみんながつらかったら…"って思っちゃうわけで……。そこで艦娘さんたちに励ましてもらえるっていうことは本当にありがたいと思う。そして、朧ちゃんの言葉に後押しされ、ついに決断を下す提督の貴い表情に胸が熱くなる。

もちろん、ここで読者はこんなにも健気でちいさな提督に重い決断を迫る世界に怒りを表明したっていい。艦娘と呼ばれる者たちが戦いに身を投じる事の悲愴さについても(今に始まったことではないけれど)怒りたいだけ怒ればいいだろう。ただ、僕は「提督」があり「艦娘」があり「深海棲艦」があるこの世界――それらは「そうある」ものとして定まっているように見える――を呪う前に、「朧ちゃん」と「ちいさな提督」がどこへ向かっていくのか、もう少し見守っていきたいと感じた。「そうある」ことを認めながら受け入れず、「そうあれかし」と望みながら囚われず、思い出を手繰る旅はできないものだろうか。

――そして時間は第十一号作戦終了後へと進み、綾波ちゃんを中心としたいくつかのお喋りが繰り広げられる。提督、朧ちゃん、敷波ちゃん、もがみん……綾波ちゃんの言葉に赤面して飛びかかる朧ちゃんと迎え撃つ綾波ちゃんのいきいきとした顔・身体、非常によい。朧ちゃんのすらっとした左腕の先、左手に指輪も見えるいいコマなんだよなあ。

煙草を吸う艦娘たち、いいねー。*6綾波ちゃんともがみん、いつからライターを手にしていたのか、いつから煙草を吸っていたのか、もう覚えてないという言葉がどことなく悲しく響く。

そして、こちらの鎮守府おなじみの悪癖・盗み聞きから続く不穏な会話、"希望的観測"・"意思"・"生"・"執着"……ぞっとするような言葉の数々にめまいがした。思い出は燻る煙とともに閉じられる。

vol.4 おもいでの殻

ファンブックvol.4「おもいでの殻」は、サマーシーズン到来!なお話。

表紙、かばんやバケツにはたくさんの楽しいが入っているに違いない。裏表紙、指輪ケースに始まってこれまでのエピソードに登場した小道具(煎餅布団に付いてる本、耳あて、マフラー、靴下、海図?など)が流れるように配置されていて……ほんとそういうの弱いんすよ……。

みなさんの紹介、今回はおなじみの面子がそれぞれサマーバケーションな格好をしている。谷風のレベリングが捗ってるなー。

鎮守府は夏季休暇の気配に浮き立つけれど、提督は自分が休んだら代わりがいないので休まないなんて言う。その時の提督の顔が虚ろで怖くて、「提督」であることがこの子をどれだけ……いや、なんも言えねー……。今回はわくわくしつつもずきずき仕様なんだよね。谷風の"趣味を持つなんて考えた事もなかったな…"もわりとずっしりくる。

明石さんの提案で、近所に住んでいる「藤代さん」に提督を代行してもらい、アウトドアに繰り出す朧ちゃんと提督といつもの面々。藤代さんは漣ちゃん・霧島さん・明石さんとは知り合いということで、特に明石さんとの優しい会話が印象深い。綾波ちゃん・敷波ちゃん・最上さん・龍驤さん・浜風さん・木曾さんといった居残り組も描かれている。今回新登場の浜風さんと木曾さんもほんといい子らで嬉しい。

朧ちゃんらは川で水着披露の後、バーベキューに勤しむ。明石さんの水着カワイイヤッター! 花火もやって星空も見て、外で過ごす夏の休日を満喫した提督、楽しそうでよかった。

自身の提督と嫁艦で水着をテーマにしたゲスト作品は、今回14名参加で実際豪華。分厚く読み応えありありで、ページをめくるごとに晴れやかな夏が手元に届いた。ちいさな提督とのクロスオーバー的な作品もあって、世界が豊かに開けた感じがした。それってほんとにいいことだと思うんだよね……。

  • ジョイさん(朧):つまり朧に朧をかけてカワイイが2万倍だ。わかるか?この算数が。エエッ?
  • ぴかるんさん(朧):カニ島さん、ガンダムアシュタロンめいているので比叡がヴァザーゴになって合体すればよいのでは?
  • fuzinoさん(加賀):空母心を掴むのは並大抵のことではない……。むっちゃんもかわいい。
  • そこつさん(愛宕):こういった形の提督・艦娘の絆もまた好ましい。愛宕さんの幸せな未来を祈る。
  • だんちょうさん(電):あ、あれおかしいな、朧の蟹が種類レベルで変わってるような(目をごしごしする)。
  • みどるんさん(漣):ずきゅーん(ときめきで残機が1つ減る音)。この後ボールが流されて二人で慌てて追いかけたりするとよいなあと思った。
  • 恵太さん(時雨):方言入った提督に親しみを覚える。あらゆる時雨ちゃんの手つきが庇護欲をかきたてる。
  • 夏見こまさん(鳳翔):シチュエーションも提督の手の取り方も鳳翔さんとしおいちゃんの表情も素晴らしい。
  • いずみやみそのさん(漣):(ニーズを生み出すお客様は)いるさっここにひとりな!!
  • ちょっと剛毛さん(朧):ラムネ持ち夏の名を呼ぶ子どもたち。たいへんラブい。
  • よりかさん(漣):こちらでもキラキラしてる明石さん。漣ちゃんの優しさが五臓六腑に染みわたる。
  • よいろさん(若葉):微笑みに至るシークエンスisナイス。
  • 19さん(雪風):別にフェティッシュで手の話ばかりしてるわけではないんだけど、この雪風の提督に対する手の取り方もほんといいんだよ。
  • さぶさん(曙):側に居ながら何も言わないということができる、自分もそんな提督でありたいと思った。

――そして三つのエピソードが入れ替わり立ち代り。"「朧はこの季節が一番好きなんです」"、なので約束を持ちかける朧ちゃんと、ふるふるして(かわいい)それに応える提督。綾波ちゃんの穏やかでない話アンド極上辛辣スマイル。漣ちゃんの独白――独白? 本当に?――をもって、ひと夏の思い出は閉じられる。

朧ちゃんとちいさな提督のお話は続いていく。四冊の本を通して語られた思い出たちを辿っていくにつれ、いつか彼女たちの身に悲しいことが起こっていた/起こるんじゃないかという怖気が走る。辛い兆しを抱えた胸はもう破壊されそうになっている。けれど、思い出の一つ一つには確かに嬉しい楽しい喜ばしいがあるから、それらを装備して次の思い出へ向かうことができる。

藤色の遊び紙をめくり、本を閉じる。

おわりに

語り続けられている途中のお話について感想を書くということはわりと苦手な質で、それには落ち着かなさとか自分の予断に引っ張られる恐れとかいろいろ理由がある。けれども、この「朧ちゃんとちいさな提督」については克己してでも何か書いておきたいという想いがあった。

出来上がったこの文章は物語へのラブレターwith紹介&おすすめfeat.信仰告白みたいなものになってしまったけど、読まれた方が興味を持たれてこの作品を手に取ってくれることがあれば、1人のファンとしてこれ以上の喜びはない。

今後発行されるであろう続刊も楽しみにしている。東京圏のイベントにはあまり参加できないけれど、ありがたいことに委託があるからね。

8月14日から3週間と少し、自分の艦隊と共に艦これ夏イベントに向き合う傍ら、いつもこの物語が側にあった。幸福な夏だった。

 

――――季節はアップデートする。

 

「夏が終わっちまったねえ。なんだか、寂しいねえ。……ん、まあ、いいか! 夏はまた、来年もくるしねー。な!」

 

(「艦隊これくしょん」、谷風2015年秋ボイス)

委託情報

とらのあなに各刊が委託されていたりいなかったりするぞい。

【とらのあなWebSite】サークル:15練乳 作品リスト

【とらのあなWebSite】おぼろちゃんといっしょ

【とらのあなWebSite】ほしのふるよるは

【とらのあなWebSite】タメイキツミキ

【とらのあなWebSite】おもいでの殻

*1とらのあな紹介ページより

*2:1時間ドローイング=お絵描き60分一本勝負。艦これの場合はTwitterハッシュタグ「艦これ版深夜の真剣お絵かき60分一本勝負」が代表的。その他に特定艦娘やカップリング・艦隊ごとのワンドロも存在する。

*3:自分のFavologに記録されていた最古のFavは2015年5月。え、まだ初めて拝見してから半年経っていなかったのか?

*4:「ほしのふるよるは」あとがきより

*5:「まっかせてー」「谷風におまかせだよ」というおまかせ台詞を発する二人組。

*6:最近は長岡建蔵さんの煙草艦娘イラストなどもあって自分のタイムラインではけっこうトレンドっぽい。家具の設定から駆逐艦もお酒を呑むらしいことが明らかになったし、お酒を呑むなら煙草を呑んでもおかしくないだろうってことで艦これ界隈の煙草への抵抗感もあんまりないんじゃないかなという私見。煙草を吸う綾波の例としては、ソウタマエさんの「(仮)【カッコカリ 3話】」がある。

2015-08-31

【告知】元長柾木ファンブック「WORLD SHIFTER」にコラムを寄稿

そんなわけで。告知です。*1

2015年夏コミC88に発行された、litfさん(@litf_tw/サークル:Lost in the Frontline)による同人誌・元長柾木ファンブック「WORLD SHIFTER」に文章を寄稿しました。

本そのものについては以下の告知記事をご覧ください。

元長柾木ファンブック『WORLD SHIFTER』C88にて頒布します - Lost in the Frontline

この本は、作家・シナリオライターとして活躍されている元長柾木氏のファンブックであります。内容は、共にお仕事をなされたうつろあくた氏へのインタビュー、ゲストを招いてのコラム集、litfさんによる論考集、元長氏が関わった全仕事データベースなど多岐に渡っており、充実した一冊になっています。疏水太郎さんによる表紙も素敵ですね。成瀬……

僕は今回、コラム集「わたしのすきなもとながまさき」に文章を寄せました。「Like a wind, in the worlds.」と題しまして、自分が思う元長柾木作品の魅力を読者の方々へお伝えしています。約1千字程度の文章です。第一段落をサンプルとしてここに公開しておきます。

"個性というのは、何を作ったか、ではなく、どう作ったか、というところから出てくるものだと思います"、とは他ならぬ元長柾木自身の言葉である。ともすると彼の作品は、取り扱った主題や要素というWhatの部分が稀有なものとして捉えられがちだ。しかし、実はその取り扱いの作法、Howの部分にこそ交換不可能性があるのではないだろうか。筆者が好ましく想う元長柾木という作家の像もまた、何を語ったかではなくどう語ったかという視座から結ばれる。

こういうテイストです。興味を持たれたら購入をご検討いただけると幸いです。litfさんや他の方の文章も素晴らしいですから。今後の委託予定やイベント頒布予定はlitfさんのサイト・Twitterをご覧になって下さい。

追記 2015-09-08

COMIC ZINでの委託が始まりました。よろしくお願いします。

COMIC ZIN 通信販売/商品詳細 元長柾木ファンブック『WORLD SHIFTER』

*1:本来なら夏コミ前にこういう記事を出しておきたかったんですが、Twitterの告知ツイートRTくらいしかできませんでした。申し訳ありません。

2015-08-25

コミケC88・東京遠征記

そんなわけで。今年の夏コミケのために、そしてそれを機に全国から集まるごきげんなインターネッターたちとオフで会うために、お盆休みは東京へ旅行することとなった。日付を追って振り返っていこう。

8月13日

「うう……行きたいけど行きたくない……準備面倒だ……もう行かなくていいんじゃないかな……?」とイベントの直前に陥るよくある心理状態になり支度が捗らない。

結局夕方に京都を発ち、わりと空いていた新幹線で無事東京入り。宿にチェックインして遅めの夕食を取る。22時台に夜の街をぶらぶらして、ちょっと上等なハンバーガー屋さんで2000円くらい使ってハンバーガー・ポテトフライ・ビールを食しているとすごく悪いことをしているような気分になった。

翌朝の食事としてコンビニおにぎりを購入して宿に帰りターンエンド。

8月14日 C88・1日目

1

サークルチェック不足というか今回あまり乗り気でなかったので元々しっかりやるつもりはなかったんだけど、とりあえずコミケへ出発。東京は電車網が発達していて羨ましい。昨年みたく会場でポカリスエット買えばいいかなと思いつつ、一応当てにせず道中でポカリスエット900mlを購入。900はけっこう重かった。500を買って切れたらもう1回買った方がよかった。

10時30分頃に国際展示場着、列に並んで東館に入れたのが11時過ぎくらいだったかな。45分くらいだったのでそこまで列待機で消耗はしなかった。「艦これ」系の同人誌等をいくつか購入。a-parkさんのサークル宇古木亭へアイサツし、店番のpetrovichさんやminkaiさんともアイサツ。ぶらぶらと全く知らないジャンルを歩いたりしてコミケの雰囲気を楽しんだ。閉場前に宿へ帰還。

2

都内某所で疏水太郎さん・litfさんと食事をご一緒させてもらった。今回litfさんの元長柾木ファンブック「WORLD SHIFTER」が無事発行の運びとなり、表紙を描かれた疏水さんと寄稿者の僕を含めた軽い打ち上げのテイストも含んだオフ会みたいなもの。元長柾木作品についての話、その他アニメやゲームの話などでとても楽しい時間を過ごすことができた。

前期アニメの「響け!ユーフォニアム」がよかったねという繋がりで、僕からは作品の舞台となった宇治にちなんだお土産を二人にお渡しした。疏水さんからはthen-dさんが以前発行した「永遠の現在」を一冊いただいた。貴重な御本をありがとうございます。

「少女魔法学リトルウィッチロマネスク」などをいつかプレイするリストに再登録しつつ宿に戻る。

3

お風呂で汗を流したあと、コミケで買った同人誌をベッドでゆったり読んでいた。明石本・朧本・コスプレイヤー榛名小説本などの艦これ本(厳密には最後のは艦これ本ではない)。

なかでも15練乳「おぼろちゃんといっしょ」シリーズが素晴らしかった。朧ちゃんとちいさい提督を中心とした鎮守府のお話で、読み終わる頃には頭を揺さぶられて胸を締めつけられて心がぐちゃぐちゃになってもうわけがわからなくなってしまった(危険な読み物だと誤解されぬよう。朧ちゃんとちいさい提督の心温まる交感がメインだよ)。美少女ゲームで例えるなら共通ルート終盤から個別ルート序盤のアトモスフィア、未だ閉じられない物語世界の中で二人にはこれまでとこれからがあって貴いいまを生きている、そういう感じだ(伝われ)(伝わらないと思うので別に感想書くと思う)。

8月15日 C88・2日目

1

2日目はコミケ不参加。なのでゆっくり過ごしてしまったが、築地市場で鯨を食べるというミッションを思い出し慌てて出発。かつてススミハジメさんにTwitterで教えてもらったうちの一つ、登美粋というお店で人生初の鯨を食した。食べたのは鯨串カツ丼、赤身の部分なので鯖などに近い味だったかな。夜の飲み会のお土産に鯨畝須ベーコンというものを買って帰る。途中秋葉原で買い出し。好青年オーラが出ていたためか外国人観光客に電器屋の前で写真撮影を頼まれた。いろいろやりつつバ会会場へ。

2

参加者各位とバ会会場で準備。夕夜には無事開催できた。闇の宴もとい和やかで楽しい飲み会だったね◎

皆が持ち寄ったお酒やおつまみを存分に味わった。僕から出したのは玉乃光酒造・純米大吟醸・こころの京。これは以前試飲会で美味しいと思ったお酒で、京都限定品なので他の人ともかぶらないだろうということで。あと昼に買った畝須ベーコン。好評だったようで何より。

メロン日本酒、呑むのは3回目だったのでわりと慣れた感じに楽しむことができた。みなさんもぜひご自宅で試してみてくださいね。

話題としては*******実演講座や、とある写真の撮影場所を特定する遊びに興じつつ参加者たちと楽しくお話できた。

毎度のことながらコミケ3日目を控えてる人がいるので(というかほぼみんなそうだった)、各自適当に散会。

8月16日 C88・3日目

1

サークル入場してlitfさんのお手伝い。若干睡眠不足による二日酔いできつかったので今後は前日の休息をしっかり取ろう。litfさんの元長ファンブック「WORLD SHIFTER」はなかなかの売れ行きでよかった。lanigramさんの来訪にも立ち会えた。

買い物、一部の艦これの壁サークルは列の長さが尋常ではなかった。並ぶのを諦め、この日はサークルチェックをわりとしていたのでけっこうな数の同人誌、CDを購入。催眠音声も購入した。せっかくだから細かい催眠音声のことを尋ねてもよかったなあ。ココ山さんにスケブも描いていただいた。素敵な大和さんをありがとうございます。

撤収からの宿帰り即荷物まとめ引き払いからの打ち上げ参加。東京で偶然入ったお店で京風の料理が食べられたのはすごい縁を感じた。とにかく頼む品頼む品全部美味しくていいお店だった。ここでも楽しく話せてよかった。

新幹線に乗って東京を発ち帰宅。

以上が今回のC88に合わせた東京旅行の記録。主に自分があとで振り返る用のエントリなので、エンターテイメント性を考えて文章打ってないけど、旅の楽しさが伝われば幸い。

今回の反省点としては、コミケの参加度(ガチかゆるふわか)をあらかじめ決めておこう、特にサークルチェックは当日しておけばよかったなーと思うくらいならしっかりしようという話。まあそこまで後悔とかはなかったけど。3日目エロゲ島巡りが完全に意識の外だったからみなとそふと系同人誌は確認できてないのが少々気がかりではある。旅行用の小さいノートPC・タブレットはあればいいけどまあなくてもなんとかなった。宿のネット環境にもよる。ああ、一番思ったのはキャリーカート・スーツケースの類いは車輪2輪じゃなくて4輪のものが圧倒的に楽なので今後買うならそうしようということ。2輪は移動時かなり辛かった……

これはオフの度に思ってるけど、いろんな人たちに会って話をすることが刺激になってよかった。特に今回はいい作品に出会えたり自分が寄稿した本も出たりで同人って面白いと改めて思った。だからといって自分も本出すみたいな話には即ならないけど、とりあえずこうしてブログで久しぶりに文章書けるくらいにはいきいきとしている。

各種飲み会やコミケ会場等でお話してくれた方々、ありがとうございました。今後ともよろしくお願いします。京都に来てくれてもいいんだよ。

関連リンク

C88参戦記|ぺとろの棚ぼた生活記

nix in desertis:C88参加記録

昨年の

コミケC86・関東遠征記 - 詩になるもの

2015-01-28

ゲーム「きみはね 彼女と彼女の恋する1ヶ月」感想

そんなわけで。BasesonLightの日常系ガールズラブAVG「きみはね 彼女と彼女の恋する1ヶ月」をプレイしたので感想を書くよん。

本作の広報が始まった頃に、さる筋からうつろあくた氏の新作であり自信作であるとの報を受けた。ガールズラブゲーは数年やっておらず、この手のジャンルはあまり自分からは探索しないため、たまには外部のおすすめで遊んでみるのもいいかと興味を持って購入した。3000円以下だったのと、原画がMtU氏だったのが大きい。MtU氏のイラストはTwitterやpixivで見ていて素敵だなと常日頃から思っていたので親しみやすかった。

意匠とシステム

ゲームを始めると、クリスマスカラーのシンプルな画面がお出迎えしてくれる。統一感ある意匠がよい。

スタートするとシナリオ選択画面になり、クリスマスリースにあしらわれた誰かの「クリスマスの記憶」を選ぶことになる。最初は「夏目陽菜の場合」のみ選択可能で、陽菜-文と倫-陽菜の2つのカップリングルートを辿ることができる。選択肢は、文章ではなくアイコン(アイテム)を選ぶ方式で、例えば最初はトイカメラと封筒のどちら(にまつわる話)を見たいかを問われるのが面白い。アイコンの横にはそれがどのカップリングの話に至るかもイラストで表示してくれているので安心して選ぶことができる。

1ルート終えるごとに「浅生文の場合」「緒方倫の場合」が解放されていくようだ。僕のプレイ記録からすると、おそらく「夏目陽菜の場合」と「浅生文の場合」は冒頭の「クリスマスの記憶」部分が異なるのみで後の内容は同じ。なので「夏目陽菜の場合」で1ルート終えたら、2周はせずに「浅生文の場合」を開始してそこから別ルートに行けばよいと思う。「緒方倫の場合」は選択肢がなく、カップリングは文-倫固定になっている。そして、全てのエンディングを見るとタイトル画面の変化とともに4つ目のクリスマスリースが選べるようになり、最後のお話が語られる。

お話

本編はクリスマスに向けた女の子たちの恋とそれにまつわる日常を眺めるお話。

学生寮の部屋を中心としてこじんまりと繰り広げられる会話が心地よい。

陽菜-文:プリンセス・ブライド・ストーリー

彼女と彼女は幼い頃に天使を見た。そんな夢のような記憶は、たとえそれが真実だとしても(だからこそ)、大人になるにあたりどう扱っていいのかわからなくなる。

けれど、二人は健やかに互いの思い出を持ち寄り、成長につきまとう不安な心を溶かしていく。恐れることはない、大人になることには恋の喜びだってあるから。陽菜は文の新しい天使になり、倫は二人の天使(キューピッド)になる。ここにおいて天使は多義的で、それがなんだか賑やかで嬉しい。誰であっても人の善性に「はね」は宿るとされているようで。

"大人になることは夢を見ないことじゃない"。かつてのクリスマスの記憶を穏やかにフェードアウトさせながら、王子と姫君は新しい夢を創り始めていく。

倫-陽菜:マイライフ・アズ・ア・ドッグ

じゃれあいから始まる恋もある。ささいな成り行きから倫の煌きを見つけてしまった陽菜が、女の子同士に戸惑いながらも自分の好きを育てていく。人に好かれ慣れない倫は、ぐいぐいすり寄る陽菜に気持ちが押し倒されそうになってしまう……なんと贅沢な悩みだろう。

陽菜は倫の犬になり天使になる。だから倫は家出した犬を叱らないといけないし、犬への愛情を示さなければならない。好かれ慣れてないのに加えて実は好き慣れてもいない倫が好きを口にするのを恥じらうのがたまらない。

文-倫:誰でも知りたがっているくせにちょっと聞きにくいSEXのすべてについて教えましょう

恋人としてリードする側になろうと努める倫を、文はかわいいと言う。攻め受けどちらにもフレキシブル、というのは既に文が倫を包容しているってことだろう。ただでさえ色っぽい文が情事に開眼してしまったシーンは、このゲームの中でも一番のいやらしさがあってドキドキしてしまう。戦闘的な天使もいたものだ。

倫がお父さんで文がお母さんという家族ごっこをよくやる子たちだけど、本当にスイートホームを作ってしまった。ここまでのどのお話でもそうだけど、カップルを見守る役目の人がなんだかんだ言いながら祝福してくれるのが嬉しい。

誰もが-誰かを:天使の詩

最後のお話。章タイトルの怒涛の映画パロディも面白い(映画ネタは全編を通してテキストの随所にもある)。

このゲームのとある仕掛けは陽菜-文あたりで気付いたけど、その仕掛けを使った展開はワンダーに満ちていた。三人の女の子たちが三組の恋人たちとなって形作る三角形の美しさ。*1 *2どのカップルを眺めても観測は干渉にはならず、彼女たちは幸せに暮らしている。ところで、祥子さんが重要なキャラではあれ最後までほぼ何もしないところがよい。

そして、天使は堕天した。しかし、その堕天の、なんと昇天に似ていることか。翼を捨てた彼女が降り立った、そこが天国だった。

天国はここにある。人の心が織りなした夢のような物語が、そう信じさせてくれる。

おわり

快い短編だった。うつろあくた氏参加作品は「sense off」「虜ノ姫」くらいしかやっていない。それらとはまた色の違う作品であるし、宮本あかり氏との分担部分等はわからないものの、氏自ら自己ベストを誇るだけあってガールズトーク部分は楽しかった。MtU氏も立ち絵・一枚絵ともにかわいく、時に扇情的で素晴らしい。BGMは数こそ少ないが良曲ばかりで、タイトル曲「きみはね(You are --)」やエンディング曲「恋人たちの凱旋(Triumphant return of lovers)」など曲名も洒落ていて好み。

Webアンケートで今後の展開も示唆されていたので、次に繋がればいいね。

きみはね 彼女と彼女の恋する1ヶ月

*1http://highcampus.tumblr.com/post/109204261592/utsuron-twitter でいうところの"閉じた系"を連想させる。

*2:あえて言うなら、文-倫が仕掛けのネタばらしの都合上からか3番目に解放されて選択肢なく進行するのでやや「重み」が増してしまっている印象はある。真なる正三角形にはなっていないかもしれない。

2015-01-01

2015年

あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。

本年は

「なるべく諦めない」

「気を確かに」

「時々ふとんをほそう」

あたりを抱負・目標にがんばっていきたいと思います。

2014-12-14

then-d氏の訃報について

恋愛ゲーム評論サークルtheoriaのthen-d( d:id:then-d )さん、本名 遠藤浩(えんどう ゆたか)さんは以前より病気療養中でしたが、2014/12/11 早朝に逝去されました

通夜・告別式は下記の通り行われるとのことです

通夜 12月18日18時から

告別式 12月19日11時から

共に代々幡斎場( 〒151-0066 東京都渋谷区西原2-42-1 )にて

以上、故人のご冥福をお祈りすると共に、謹んでお知らせ申し上げます。

訃報 then-dさん - RyuAraiの日記 - lovegame30x30グループ


まずは謹んで哀悼の意を表します。

then-d氏には大変お世話になりました。

私のWeb上における美少女ゲームクラスタの方々との交流は2009〜2010年頃に始まりました。あの時期に氏の同人誌企画「恋愛ゲームシナリオライタ論集 30人×30説+」を知り、その参加者たちをフォローし始めたことが現在の交友関係の礎となっています。サークルtheoriaの主催としてthen-d氏が交流の基点を作られたことをありがたく思います。

そして、その後私自身も同人誌「恋愛ゲームシナリオライタ論集2 +10人×10説」の企画に挙手し、参加いたしました。拙論「タカヒロ論『憧れのあとさき』」を発表する場を与えていただいたこと(文章量が増大し約4万字になってしまった原稿を快く収録していただきました)は感謝しきれません。

「10人10説」の後もthen-d氏は精力的な活動を続けられていました。私は氏とTwitter上で時折やりとりしつつ、「恋愛ゲーム総合論集」シリーズ企画に読者として参加するという形で応援させてもらいました。

私がthen-d氏と直接にお会いしたことは2回あります。

最初は2010年に京都大学で行われた岸誠二麻枝准による「Angel Beats!」講演会の場で、この時はお互いの時間の都合もあり、ご挨拶と「10人10説」に参加させてもらった謝意を伝えただけであったと記憶しています。

次は4年後の今年、2014年3月1日、氏より連絡をいただき、京都で個人的にお会いしました。それまで密に連絡を取り合うといった間柄ではなかったので驚きましたが、憎からず思ってもらっていたことを嬉しく感じました。イノダコーヒー本店でコーヒーを飲みながら楽しくお話することができ、よい思い出になっております。

then-d氏の闘病生活について、その時説明を受けました。お会いする少し前、氏のTwitterの投稿内容にある種の危うさを感じており、お身体を心配していたところでした。あの頃は一時的に快方に向かわれていたものの、今後に不安もあるという話でした。今振り返ると、あの日のthen-d氏は命あるうちに誰かに何かを伝えたいという、まさに懸命の想いがあったように感じています。

印象深いのは「うた∽かた」というアニメについて語っておられたことです。私はこの作品を視聴したことはないのですが、then-d氏は喫茶店の中でゆうに一時間は熱のこもった全話解説を披露して下さり、なんと愛の深いことかと感心しておりました。一度観てみたいと思います。

then-d氏のTwitterは3月29日を最後に投稿が途絶えていましたが、もとよりお忙しい方なので過剰な心配はしていませんでした。しかし、それから半年ほど過ぎ、10月頃に雪踏駄氏よりthen-d氏の容態悪化の旨、連絡を受けました。それから今日まで、覚悟もしていたため、こうして文章を書ける程度にはthen-d氏の訃報を受け止めることができています。

それでも、辛いです。胸が苦しいです。

一緒に「天体のメソッド」の感想を話し合ったり、「Angel Beats!」の続報を楽しんだりしたかったです。

残念でなりません。

then-dさんから私なりに学んだことを、私の今後の生に活かしていきたいと思います。それがthen-dさんの生に花を添えることになるのかはわかりませんが、そうしたいと思います。

ありがとうございました。

2014-12-07

ゲーム「真剣で私に恋しなさい!A-4」感想

そんなわけで。みなとそふとの武士娘恋愛ADV「真剣で私に恋しなさい!A-4」をプレイした。やっぱり「まじこい」は楽しいね(いつもの)。

今回のヒロインは二人とも「まじこいS」からの新規キャラである林冲と大友焔。性格的にはどちらもいい娘で大人しめなんだけど、それは地味めということでもあるし、なんといっても今作はAシリーズの中で唯一ヒロインの数が三人に満たないから、パワー不足なのではないかと心配していた。

やってみると、実際ド派手さや血が滾るような熱さとかはないものの、賑やかな掛け合いを中心とした日常と大和とヒロインの優しく爽やかな触れ合いは健在で、こういう落ち着いた作風も「まじこい」のスタイルの一つだよなと思った。

今回はヒロインが西方勢と中国勢であるためか、「A-3」までに比べると九鬼家の描写は影を潜めていた。風間ファミリーの出張りはそこそこあって、焔ルートでは西方十勇士と風間ファミリーの交流が日常になるし、林冲ルートでは京やクリスの武士娘らしいところを再び見ることができた。お約束の京エンドもあって、今回はなるほどそう来たかという流れからしっかりと一枚絵のHシーンもあって充実していた。愛されてるなあ。

以下、ヒロインごとに。

大友焔

冒頭のライター(マッチか?)の火が灯る演出かっけー、などと思いつつ十勇士結成シーンを進める。タカヒロさんの忍殺ネタも板についてきた感あるね。

大和が東西交流戦できっかけを作っておいた焔と、天神館と川神学園の交換留学を機に接近していく筋立て。風間ファミリーは各個に西方十勇士の面々と仲良くなっていく。このへん、いつもと違うメンバー間の掛け合いが新鮮で面白かった。京は(無印のクリスに対してそうだったように)意外な人と親しくなるところが興味深い。メダルを集めていく演出は「ポケモン」感があった。ああいうカットイン演出にも手を抜かないところがみなとそふとらしい。ファミリーの女子五人に天神館の制服を着せるのはいいサービスシーンだった。

選択肢によって尼子晴とのHシーン・エンドがあり、これはサプライズだった。まじこいもAシリーズが最後ということで、悔いのないよう少しでもフラグが立ちそうな女子にはイベントを作っておこうということか。

本筋の焔ルートは彼女の花火修行をサポートするという大和らしい役回りをこなしつつ、穏やかに恋愛を発展させていく健康的なシナリオ。

花火、というところでまず「姉、ちゃんとしようよっ!2」が思い出される。「姉しよ2」ではいくつかのシナリオのクライマックスで花火が打ち上がるシーンがあり、例えば犬神歩笑ルートだと彼女と夜の海岸にいるシーンで立ち絵の背景として夜空に花火が打ち上がる様子が動的に演出される。今見返すと、ただでさえ小さい画面サイズのさらに小さい部分で咲く花火はささやかなものだったけれど、あれはあれで情緒があった。

この情緒というのが厄介で、焔はそれを上手く表現できず花火製作に行き詰まってしまう。大和が仕事として依頼したことで成果を出さないわけにはいかなくなり……というわけで悩みながらも根性見せて職人としてランクアップしようと頑張る焔は偉い。彼女は気骨と愛らしさを魅力として兼ね備えた、武士娘らしい武士娘と言える。触れ合う人を元気にするパワーを持っているところは一子にも似ていて好ましい。

話が進む中でさらっと触れられるに留まる焔のトラウマがあったけれど、あのあたりの処理がまた非常にタカヒロさんらしく、氏のシナリオの温かみを再確認できた。類型としては「つよきす」の鉄乙女さんのトラウマに近いものがあるか。乙女さんの「雷が怖い」に対して焔の場合は「闇が怖い」という心の傷を持っており、これは自身の過失の罰として家の土蔵に閉じ込められた過去から来ている。

この挿話におけるポイントは、焔が彼女を土蔵に閉じ込めた家族には(いけないことをしたと気付かせてくれて)むしろ感謝していて、トラウマにまつわるエピソードは既に終わっており、ただ後遺症的な患いがそこにあるということ。つまりトラウマの原因を遡りメスを入れることで治癒的な解決を目指す、ということは作中では推奨されていない。替わりに、タカヒロ作品では、乙女さんに対馬レオがそうしたように、往々にして「ただ側にいる」ということの大切さが描かれる。停電した教室の中で、大和も焔のために携帯電話の灯りをともして、彼女の側にいる。

【焔】「暗いのが苦手になってな」

【大和】「…でも閉じ込められた時は一人だったんでしょ」

【焔】「あぁ? そうだが」

【大和】「今は俺がいるから平気だね」

【焔】「あ、あぁ」

【焔】(人がいても、怖い物は怖いが…)

【焔】(ただ、励ましてくれてると思うと嬉しいな…)

"怖い物は怖い"、つまりトラウマは解決されておらず、依然として・この先も焔に付き纏う。けれど患いが完全に癒えなくても人はそのまま生きていけるし、支えてくれる人が現れればその歩みは一層確かさを増す。これはトラウマの程度の問題ではなく(「闇が怖い」程度の軽い症状だからではなく)、作中における人間観の問題としてそうなっている。

さて、花火製作の方は紆余曲折の末、焔が大和と見て楽しいと思える花火を作ったところ、家族からも認められて一段落。それをきっかけに大和と焔の交際がスタートする。付き合いだしてからは順風満帆に関係を発展させていき、Hもしつつ二人は恋人として充実した日々を送る。イイハナシダナー。水着Hシーンで大和を見上げる焔の目付きはゾクゾクするね。あとこの娘も京や小雪と同じく精液で強くなる属性持ちだったか……

交換留学も終盤になり、風間ファミリーそれぞれが十勇士から友好の証としてメダルをもらっていく。なかでもキャップがメダルのお返しとしてバンダナを石田に渡したのは印象深い。内申点を犠牲にしてまで普段から着用している一品だけに、キャップの真剣さが伝わる。

しかしこれからは二人遠距離恋愛かー、と思っていたら今度は焔が留学してくるというお約束のオチも決まり、焔ルート完。九州で繰り広げられた「まじこい」も新鮮でよかった。以下小ネタなどについて。

  • 一子、勇往邁進を「ユオマ」と略していたが今回は「ユーマ」。もう好きに呼ぶといいよ
  • "口の中が花火状態"という比喩、これからコーラ・炭酸飲む度に思い出す
  • 百代のプロレス的な戦い方にしっかりナベシマンが教育的指導入れたのはよかった
  • 丸戸・るーす・王・ロミオと激しい身内ライターいじりネタに"最後の太陽族"(二つ名)丸戸史明も苦笑い(しているかどうかは知らない)
  • 珍しく真剣に交際を申し込んで真剣にフラれるヒゲ先生だ

林冲

まじこい九州編につづいてまじこい中国(チャイナ)編……というほど中国舞台にはならないんだけど、海の向こうからお客さんがやってくる。

今回は<M>が曹一族に接触し、梁山泊で"盧俊義"にあたる武士娘管理能力者の資質を持つと目される直江大和の存在を教えるところから始まった。曹一族の師範代・史文恭と梁山泊の林冲をはじめとした面々が大和の争奪戦を繰り広げる、というのがストーリーの軸。序盤からどどーんと林冲・揚志・史進・武松・公孫勝が川神学園に転入してくる流れ、もう慣れたとはいえインパクトあった。

大和に対して出会い頭から過剰な親愛をもってよろしくしてくる林冲に京が待ったをかける。"目の前で旦那に粉かけられて黙ってるほど、ぬるい人間になった覚えはない"という京の熱いところが見られてよかった。事情により史進と決闘することになった京、そしてクリスだが敗北し入院することに。

林冲たちの転校初日深夜、寮の自室に史文恭さんがダイレクトアタック、林冲と一戦交えて退いていく。相手のヤバさを理解した大和は林冲の提案を受け入れ、彼女に護衛してもらうことになる。風間ファミリーにも口外できないが、そこはさすがにファミリーの面々、なんとなく察してはくれている様子でありがたい。

一方、武松は公孫勝を助けて武蔵小杉を処理したのち、川神院で門下生相手に難なく勝利し、川神院は梁山泊と合同稽古するにあたっては全体的なレベル不足であると残念がる。このあたりで梁山泊勢の強さと川神勢に対するライバル感を出しているんだけど、あまりヘイトを稼がせず憎まれ役にしすぎないような配慮もある。史進が入院した京・クリスを気遣う素振りを見せていたり。「まじこいS」以降タカヒロさんはそういうところに気を使っている印象がある。

梁山泊勢は護衛に伴うもう一つの重大案件、大和の盧俊義としての資質を見定めるフェイズに入っていく。大和も彼女たちの視線に何かを感じ探りを入れようとする。林冲以外のメンバーとも仲良くなるフェイズが始まる。

初手はちょろそうな公孫勝、大和や弁慶が所属するだらけ部との相性もばっちり。武松は甘い物を持ち寄り何度もトライする力押し、そうして二人との仲を深めていく様を見て揚志も大和を認めていき……史進はあまり描写がなかった。公孫勝から聞き出した盧俊義の件について、大和なりに前向きに検討し、梁山泊勢に認められることを一つの目標にして立ちまわる。ここはいつもの「まじこい」テイストだった。

林冲の学園生活、学生は本業ではないからそこまで乗り気ではないけど、根が善良だからか義経なんかとは相性がいいみたいで微笑ましい。大和が梁山泊メンバーと交流する中で、やっぱり一番に仲良くなりたいのは彼女というわけで、一緒に遊んだり七浜でデートしたりとステップを踏み、ついには林冲の方から大和にキスするところまで高まってしまう。

そこで選択肢が二つ出てくる。本格的に梁山泊入りし全員の"盧俊義"になり林冲ただ一人のための男ではなくなる道と、あくまで林冲との関係を深めていく道。

前者を選ぶと梁山泊ルートに入り、公孫勝・武松との3Pを経て梁山泊入りし盧俊義となった大和の将来が描かれる。なんと大和を追って京も梁山泊で花栄の名を継ぐというサプライズがあり嬉しい。大人になった京はいっそう妖艶になっていてHシーンも非常によい。幸せの青い鳥の囀る一つの未来がかいま見られた。

後者の選択肢が林冲ルート本筋となる。林冲と改めて契約し、性的なことも始めていく。美しい髪を巻きつけたフェラとかいけない。

仲が深まったところで、林冲の「守る」ということに対する重すぎる感情がついに暴走し始める。目からハイライトが消え、大和を気絶させて川神から離れたとある山中の山小屋へ運んでしまう。これは「君が主で執事が俺で南斗星ルートのリメイク感があった。南斗星さんも「守る」想いにセーブができず夢と練をさらって山中にこもっていた。七浜デートの際、林冲が南斗星さんと朱子らしきペアを目撃して南斗星さんの方に言及するくだりもあったし、かつて誰かを守れなかった過去を持つ似た者同士の縁があるということか。南斗星ルートは当時の逼迫した製作状況のせいかシナリオもやや雑であまり出来はよくなかったけれど*1、今回林冲ルートで同種の展開をやっている以上、南斗星ルートよりも丁寧に展開してくれることを期待した。

そこはさすがの直江大和、山中に軟禁されても逃げ出すことは考えず、まずはゆっくりと林冲の過去について聞き取る。友人ルオの死と彼女から異能を持つ眼を移植された話を聞き、そんな過去のせいで時折行き過ぎた守衛に走ってしまう林冲のことを受け止めなおかつリードすることを決意する。主人公らしくてかっこよい。

邪魔も入らない環境もあって二人は身体でも結ばれる。林冲の黒い下着は素晴らしい。数々のHシーンはほぼ連続して繰り広げられるんだけど、それぞれの尺がいまいち短いのが難点だった。まあだらだらやっても仕方ないのかもしれないが……wagiさんの絵は非常に扇情的なだけに惜しく思う。

ともかく共同生活で男としてのアピールにも成功し、夏休みの終了とともに川神へ帰ることにする大和とそれに従う林冲だったが、そこに史文恭が強襲する。ようやくの本格異能バトル展開だ。龍眼の史文恭と予知の目の林冲が激突し、一枚上手を取った林冲が勝ちを収めたところにヘルモーズなる傭兵集団が<M>に唆され漁夫の利を得にやって来る……も、気絶したふりをしていた史文恭と林冲の共闘により返り討ちにあう(その後、武松と史文恭の梁山泊・曹一族合同部隊で本拠地まで壊滅するインガオホー)。<M>……一体何者なんだ……という謎を残し、今回の直江大和・盧俊義争奪戦は終息した。という流れ自体は別によかったんだけど、史文恭さんの出番は少なかった上に林冲とは1ラウンド敗け、続くラウンドはご破算になってしまったのがちょっと残念だった。本気の本気バトルが見られなかった不完全燃焼感がくすぶる。

さて、舞台は川神に戻り、武松が川神院門下生にリベンジされて見直したり、史進が京・クリスと再決闘して敗けたり、公孫勝が紋様ちゃんと親しくなったりと、梁山泊勢の面々が川神に溶け込んでいく。そして大和の側には林冲がいて、いつも見守ってくれる――という円満なエンディング。あらゆる者を受け入れていく川神、恐ろしく不思議な街だ……

林冲ルートは、上述のようなバトルの不完全燃焼感以外は概ねよかった。バトルもある程度京・クリスの史進リベンジ戦で満足したし。あとは、新しい面子と既存の面子が掛け合いすると新しい面白さがあるというのは焔ルートと共通していた。以下小ネタなど。

  • 超武道伝2懐かしい。ボージャックとかも出てるんだよね
  • 「唐衣花のたもとにぬぎかへよ我こそ春の色はたちつれ」
  • 今は川神にいるのが楽しくて仕方ないという冬馬、しみじみする
  • 公孫勝の「明日から真剣」Tシャツ、よい

  • 次回予告
    • 義経の可愛らしさと凛々しさ両面が発揮されるのが楽しみ
    • マルさんはエロエロなのは嬉しいけどそれだけじゃねーかという「まじこいS」ユーザーの声にどう応えるのかが楽しみ
    • 天衣さんはいきなり遭難から始まるらしいが、幸せになるといいね
    • 天衣ルートで<M>案件がもし片付くのなら、「まじこいA」パッケージ版にグランドルートはないのかも?
  • チュートリアル18回目、やったねムサコッス、仲間が増えたよ!
    • BGM「君のヒーローになるために」がこのシーン上でも音楽モードでも再生されない不具合があり、みなとそふとにメールフォームから報告したんだけど2014-12-07の時点で返信がなく、公式サイトでの公表もない。2014-12-06の時点で返信が返ってきて、添付されていた修正ファイルを当てたら不具合は解消した。メールを見落としていて申し訳ない。知人も同様にこの曲が鳴らないらしく、bbspinkでも何件か報告されているので自分の環境固有の問題ではないっぽい。プレイ済みの人は音楽モードで確認後みなとそふとに報告したりしてみては
  • 新規BGMは「108の魔星」がかっこよかった
  • 掛け合いモード
    • 本編で出番があまりなかった分、史文恭さん系のネタが多めか。タカヒロさんも史文恭の役者さんはかなり好きなようだし
    • 結城友奈は勇者である」ネタで燕先輩がにぼっしーと化していた
  • 「まじこいA」シリーズも次回で最後、発売は来年7月くらいかなー。備えよう

まとめ

元気っ娘の焔といじられお姉さん林冲、どちらもタカヒロテイストがあって、5年以上ファンやってる身としては安心感があった。ヒロイン二人で落ち着いた作風だったので印象としては「まじこいA」の中でも地味な方だけど、次はシリーズの締めとしてド派手にやってくれてもいいのよ? 楽しみにしている。

まじこいAシリーズ感想

ゲーム「真剣で私に恋しなさい!A-1」 感想 - 詩になるもの

ゲーム「真剣で私に恋しなさい!A-2」 感想 - 詩になるもの

ゲーム「真剣で私に恋しなさい!A-3」 感想 - 詩になるもの

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*1:ユーザーの評価を受けてか、コンシューマ版で加筆修正されている。

2014-10-13

映画「たまこラブストーリー」感想

そんなわけで。京都アニメーションのアニメ映画「たまこラブストーリー」BD版を観たので感想を書く。

1

声は愛。愛は呼応。呼びかけ、受け止め、応えるラブストーリー。「たまこラブストーリー」は糸電話のように優しい恋物語だった。

2

本作を観たのは劇場版以来、このBD版で2度目となる。今回の鑑賞を通し、改めて声掛けのアニメだなと思った。たまこも周囲の人達も、密に声を掛け合い名前を呼び合って生活しているところがよい。BDに収録されている舞台挨拶映像を観て、ますますそう思った。金子有希氏がみどりちゃんからたまこへの呼びかけについてこう語っている。

金子「特に、たまこと一緒の時に、『行こ』ってよく言うんですよ。で、その『行こ』っていうのがすごくなんか印象に残っていて、[…]いろんな心情を込めての『行こ』があるので心に残ってます」

(劇場舞台挨拶 2014年4月26日@新宿ピカデリー 12分30秒頃)

そこに言葉を置く、彼・彼女たちの柔らかさがクッションになって、例えばみどりちゃんの表情が映す痛みも、幾らか和らいで見える。

3

声を掛けること、さらには、名前を呼ぶということ。

豆大さんが「ひなこ」と言いかけてから娘たちの手前「母さん」と言い直したり、普段「爺さん」と呼んでいる福さんが倒れた時は病室に駆け込むなり「父さん」と叫んだりする。

そういった「呼ぶ」ところが一つ一つ丁寧で、画面に優しく響く。声掛けというものに注目して本作を観てみた時、もち蔵に告白されたたまこが走って商店街に帰ってきた場面は、幾つもの声が鮮やかに重なり合った、すこぶるワンダーな山場だ。

4

声を発する器官としての口。

もち蔵については口が気になるところだった。彼は口元を押さえて泣く。これはTVシリーズからそうだし、本作でみどりちゃんと会話して「常盤てめえ……」とトイレ前でへたり込む時もそう。そしてラストシーンでもこの所作が見られる。

―――あの場面のもち蔵って、たまこの告白を聴いた瞬間、少しうつむいて手で口を覆いますよね。あれはTVシリーズの9話で、たまこからバースデーケーキをもらった時と同じ仕草なわけですが。

山田 あ、そうなんです!

―――ガッツポーズをしたり、抱きついたりという方向にいかないのがすごくもち蔵っぽいな〜と思いました、監督の中でも、もち蔵といえば、あのくらいしかできない子というイメージ?

山田 そういう感じです(笑)。9話のもち蔵のリアクションって、演出とコンテを担当された三好(一郎)さんが描いたものなんですけど。…

最初に見た時、その仕草が恐ろしくもち蔵で、本当にびっくりしました。大好きなシーンなんです。

―――その仕草を使わせてもらった?

山田 はい。告白されたもち蔵のリアクションは、あれしかないなって思っていましたから。

たまこともち蔵の恋する過程をまっすぐに「たまこラブストーリー」山田尚子監督に聞く2 - エキレビ!%281/5%29

僕もこの仕草はもち蔵らしくて好きだ。なよっとしてフェミニンな印象を受けると同時に、どことなく抑制的な動きに見える。

だから、鴨川のほとりでもち蔵が口を大きく開けて叫ぶ場面は、抑えられていたものや告白の後にわだかまったものが開放されたようで印象に残っている。

そして、口元を押さえるのが抑制的という話でいうと、これは本編の内容ではないんだけど、前売券特典のB2ポスター*1の中でみどりちゃんだけが口元に手を当ててるんだよね……ほんとなあ……そういうところこのスタッフは……

5

みどりちゃんの内心に過剰に接近しなかったことと、かんなちゃんが辿り着いた場所から見た景色が直接描かれなかったことについては、上品な手つきだと思うし僕は好ましく思う。あと、たまこたちの恋話でテンションが上がる史織ちゃんがかわいい。劇場で初めて観た時、ギャグの方には期待していなかったんだけど、たまこの友人たちには笑わせてもらえてよかった。特にかんなちゃんが可笑しくて好き。

7

京都の風景。たまこが行き慣れない駅で迷う様子すら愛しい。鴨川や疏水がたおやかに流れる様はとても心地いいものだ。

6

冒頭の話に戻すと、本作は大きく3つの段階に分けることができると思う。つまり、もち蔵がたまこに告白するまで、たまこがもち蔵の想いを受け止めるまで、たまこがもち蔵に告白するまで、という3つのフェイズに。時間も、それぞれに概ね1/3ずつ割り振られている。

このようにわかりやすく、ゆったりとした構成は、糸電話に由来するものだろうか。糸電話は話す方と聴く方とがはっきり分かれ、交代しながら会話を進めていく、優しい装置だ。

大きな見どころとしてはもちろん2つの告白がポイントなのだけれど、その間のこと、たまこがもち蔵の想いを受け止めるために流れた時間・もち蔵が告白の後の苦味を味わった時間の貴さを忘れてはならない。

だから本当は、呼応という言葉は危なっかしい。その二文字からは、呼びかけられてから応えるまでの時間がしばしば零れ落ちてしまいそうになる。歌から歌へカセットテープがリバースする時間、紙コップを耳から口へ運ぶための時間が。

8

たまこは「もち蔵 大好き!」という告白を「どうぞ」と結ぶ。声は愛。愛は呼応。恋人たちが交わす虹色のやりとりは、赤い糸を伝い、絶えることなく続く。

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