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2016-09-28 「ブンナよ、木からおりてこい」(水上勉)と十牛図(悟りの段階図)

「ブンナよ、木からおりてこい」(水上勉)と十牛図悟りの段階図) 16:04 「ブンナよ、木からおりてこい」(水上勉)と十牛図(悟りの段階図)を含むブックマーク 「ブンナよ、木からおりてこい」(水上勉)と十牛図(悟りの段階図)のブックマークコメント



故・「id:mikutyanさん」が彼女ブログで取り上げておられた「ブンナよ、木からおりてこい」につき、「ああ、あれはたしか小学校だったか中学校だったかで課題図書になっていたな」と思い出し、図書館で借りてみました。単行本はなかったので「水上勉全集 第24巻:中央公論」を読みました。


この際、私は水上さんが若いころ、禅寺で修行していたことがあり、当然彼が知っていたと思われる「十牛図」と照らし合わせてこの作品を読むことにしました。


その「十牛図」とは(wikiによると)

十牛図(じゅうぎゅうず)は、禅の悟りにいたる道筋を牛を主題とした十枚の絵で表したもの。十牛禅図(じゅうぎゅうぜんず)ともいう。中国宋代臨済宗楊岐派の禅僧・廓庵(かくあん)禅師によるものが有名。

以下の十枚の図からなる。ここで牛は人の心の象徴とされる。またあるいは、牛を悟り、童子を修行者と見立てる。

1. 尋牛(じんぎゅう) - 牛を捜そうと志すこと。悟りを探すがどこにいるかわからず途方にくれた姿を表す。

2. 見跡(けんせき) - 牛の足跡を見出すこと。足跡とは経典や古人の公案の類を意味する。

3. 見牛(けんぎゅう) - 牛の姿をかいまみること。優れた師に出会い悟り」が少しばかり見えた状態

4. 得牛(とくぎゅう) - 力づくで牛をつかまえること。何とか悟り実態を得たものの、いまだ自分のものになっていない姿。

5. 牧牛(ぼくぎゅう) - 牛をてなづけること。悟り自分のものにするための修行を表す。

6. 騎牛帰家(きぎゅうきか) - 牛の背に乗り家へむかうこと。悟りがようやく得られて世間に戻る姿。

7. 忘牛存人(ぼうぎゅうぞんにん) - 家にもどり牛のことも忘れること。悟りは逃げたのではなく修行者の中にあることに気づく。

8. 人牛倶忘(にんぎゅうぐぼう) - すべてが忘れさられ、無に帰一すること。悟りを得た修行者も特別存在ではなく本来自然な姿に気づく。

9. 返本還源(へんぽんげんげん) - 原初自然の美しさがあらわれてくること。悟りとはこのような自然の中にあることを表す。

10. 入鄽垂手(にってんすいしゅ) - まちへ... 悟りを得た修行者(童子から布袋和尚の姿になっている)が街へ出て、別の童子と遊ぶ姿を描き、人を導くことを表す。


なかなか洒落寓話です。一方「ブンナ」の場合、11章構成の中編小説ですので、ちょっと章立てが異なりますが、近い数の章立てで物語構成したかったのかも、と思います。


さて、「ブンナ」とは、若いトノサマガエルです。彼はアマガエルのように木を登る能力があり、仲間のツチガエルに対して肌の色の美しさも込みで、「増上慢」になっていました。その意気込みで、寺のそばの高い椎の木に登り、天辺に見事たどりつきますが、そこで待っていたのは、「命」が織り成すぎりぎりの修羅場だったのです。


ブンナは木の天辺に、葉が腐って出来た土を発見し、これは心地よいともぐりこみますが、これは僥倖でした。実はここは鳶(とび)が生き物をエサとして生きたまま一時保留しておいて行く場所だったのです。そして、スズメモズネズミ、ヘビ、牛ガエル、ツグミと、つぎから次へと「獲物」が運ばれてくるのです。


スズメモズもっと最初に運ばれてきた獲物でした。スズメは羽を折られ、モズは体のあちこちを痛めつけられていましたから、ブンナが「土」から出ても良かったものの、それは止めにし、連れ去られてきた動物間の会話に耳を澄ませました。


ほかの動物、とくにヘビについては、土にもぐりこむ能力があるため、警戒していました。でもヘビはすでに自分の命について悲観的で、とくに潜り込みませんでした。そして鳶に攫われて行っちゃうのですね。獲物の空白時期もあったのですが、その時に木を降りなかった愚かなブンナでした。


そして、冬の寒い時期、土の中で考えます。いわば魔王のごとき鳶(この物語の中では他の動物の命を自由にできるオールマイティー存在)でさえ、いつかは生まれ変わり「スズメ」になるかも知れないと。いわゆる輪廻転生に思いを致すのですね。


そして、春5月、仲間たちに歓迎されながら無事帰還します。このときブンナには「増上慢」の匂いは無くなっていたのでしょうね。


10章と11章は他の章に比べ短い文字数で、この2章を一まとめにすれば全体で10章になります。牧童の精神発展過程を示す「十牛図」とカエルのブンナの「増上慢」の状態から「悟り」の状態を示すこの小説は似ていると思います。



今日のひと言:水上勉さんは、私の好きな小説家で、これまでも何回か取り上げています。

ある人が言うに「日本海が似合うひと。」以下は取り上げた作品過去ログです。


http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100829

  :土を喰う日々書評)・・・水上勉の「食」エッセイ

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20121210#1355134294

  :フライパンの歌水上勉処女作

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20130915#1379241154

  :「エヴァンゲリオン」と「越前竹人形」は似ている

http://d.hatena.ne.jp/iirei/20131115#1384455195

  : 水上勉の「海の牙」〜社会派推理小説水俣病




ブンナよ、木からおりてこい (新潮文庫)

ブンナよ、木からおりてこい (新潮文庫)

飢餓海峡 (上巻) (新潮文庫)

飢餓海峡 (上巻) (新潮文庫)

十牛図入門―「新しい自分」への道 (幻冬舎新書)

十牛図入門―「新しい自分」への道 (幻冬舎新書)

現代語訳 十牛図

現代語訳 十牛図




今日一品


牛丼風煮込み


f:id:iirei:20160928160826j:image


弟作。牛バラ肉玉ネギショウガ(少々)を材料とし、牛肉はまず茹で、ショウガタマネギを炒め、合わせて醤油砂糖で味付けしました。一般牛丼屋のメニューの味とさほど変わらないですね。(今回は丼にしませんでした。)

 (2016.09.23)



大豆根昆布煮物


f:id:iirei:20160928160827j:image


健康に良い2品目を一緒に圧力鍋で煮、冷めたところで手鍋に写し、天塩シナモンで少々煮ました。大豆が十分甘いので、砂糖は入れませんでした。なお、根昆布ミネラル豊富食材ですが、ヨード分の含有量が半端でないので、食べ続けると、ヨード摂取過剰になりますのでご注意を。

 (2016.09.25)



@鶏モモ肉のマリネ


f:id:iirei:20160928160828j:image


弟作。肉をオーブントースターで充分焼き、秘伝のマリネ液に4時間ほど漬けました。液が持っている香り成分が移り、酢の爽やかな風味と調和して、とても美味しかったです。

 (2016.09.26)





今日の詩


@つる草の花


ともどもに

並ぶ2種の花たちよ


アサガオ(青)

マルバルコウ(赤)


巻きあって苦しくないかい?

いずれも同じつる草なるに


f:id:iirei:20160928160829j:image


(どちらもヒルガオ科植物。)

 (2016.09.27)




今日の二句


CDに

シンクロするや

虫の声



(秋の夜長の友・・・)

 (2016.09.23)




閉めたまま

ポンと鳴るなり

ペトボトル



(冷えた状態で空になったペットボトルが室温になるにつれ、容器内の空気が膨張して鳴るわけ。)

 (2016.09.25)

matsukentomatsukento 2016/09/28 17:26 iirei様、こんばんは。
mikutyan様が急逝して、2か月近く経ちますが、本当に早いものです(*^^;)。
私もひょっとしたら、mikutyan様が生き返って来るかと信じて、彼女のブログは毎日閲覧してますが、これも叶わぬことです(>_<)。
mikutyan様は本当に博学な方で、惜しい方を亡くしたと、つくづく思います。
息子様がブログで、母(mikutyan様)の他界を知れせてくれて、これは良かったと思います。
水上勉の文学も、結構奥が深いですね(o^_^o)v!!!
牛丼風煮込み、「風」どころか本家そのものですよ〜。
私はたまに吉野家に行って、牛皿を肴にビールを飲むのが、楽しみなんです♪
大豆と根昆布の煮物も健康的ですし、鶏もも肉のマリネも美味げでちゅ。
魚ならよくわりますが、肉とマリネの組み合わせ、あの酸味っぽさが、食欲を増進すると思うっちゃぁ〜(^o^)ノ!!!

iireiiirei 2016/09/28 19:18 >matsukentoさん
 mikutyanさんは、ほんと素晴らしい女性でした。白魔女さんによれば「(私の)無茶なコメントにも、適切にレスを返してくれて、亡くなられて残念でしたね。」と。mikutyanさんは小学校の先生だったこともあり、物事を解りやすく話にするのに長けていらっしゃったです。

水上勉さんは、京都の等持院で修行していましたが、出奔し、俗世界に戻った人です。自分のことを「凡夫」と称していました。悟りの世界にはほど遠い、と自己規定していました。

 鶏もも肉のマリネは、汁が肉をしっかり受けとめ、よい味になっていました。

o-uirio-uiri 2016/09/28 19:21 水上勉の本は数冊読みましたが、「ブンナよ、木からおりてこい」は、全然知りませんでした。カエルが主人公って、珍しいです。
「飢餓海峡」が一番インパクトありました!!
あ〜〜やっぱり「越前竹人形」も(*^^)良かったです。

o-uirio-uiri 2016/09/28 19:23 そうそう、昔等持院のそばに住んでいたので、より水上勉氏の作品が好きなのかも・・・(笑)

iireiiirei 2016/09/28 19:33 >o-uiriさん
 万物が輪廻転生するなら、カエルが主人公でも良いですね。本文にも書いたように、この「ブンナ・・・」という作品は、児童の課題図書向きであるとは思います。案外深いと思いますが。

私は水上作品では、「土を喰う日々」という食エッセイが最も好きです。等持院は足利尊氏という「朝敵」の武将の菩提寺なので、戦時中はかなり困窮したそうですね。

レモンバームレモンバーム 2016/09/28 19:34 水上勉さんてそんなおもしろそうな作品を書いているんですね。知ってる題名だから私たちも課題図書だったのかも。
動物を擬人化して表現できることってありますね。
パソコン壊れてスマホ買っててよかった。島だから壊れてもすぐには手に入らないのです。

iireiiirei 2016/09/28 19:49 >レモンバームさん
 内容は高度でも、児童向きの作品を書くというのは難しいですね。その辺、人間ではなく動物を持ってくると、ある意味抽象度が上がり、むしろ読みこみ易いようになるのかも知れないですね。動物の習性と酷似した習性の人も多いでしょうし。

スマホも、ブログへの書き込みが自由にできるようになりましたね。良き哉、良き哉。

whitewitchwhitewitch 2016/09/28 22:33  動物も人間も、他の命を犠牲にして生きているってことを自覚しながら、感謝して生きなければいけませんね。好きな言葉に、

Yesterday is history.
Tomorrow is a mystery.
Today is a gift.
Isn't that why we call it the present!

っていうのがあります。
まさにブンナは、贈り物をもらって生き延びたんですね。若い時に読んでも、そこまでピンと来なかった気がします。今読み返すと、また受け取り方が違うかも。

iireiiirei 2016/09/28 22:45 >whitewitchさん
 よい言葉ですね。哲学者・ウィトゲンシュタインの言葉に「今を生きる者は永遠に生きる」というのもあります。「今日、今」こそ祝福されているのですね。

童話であるにせよ、その話の深奥は、大人になって初めて解るものかも知れませんね。

miyotyamiyotya 2016/09/29 08:43 おはようございます。
話がそれますが、トノサマガエルが我が家のちっぽけな池にやって来ることがあります。
名前の通り、身体の色もきれいで大きくて立派です!
私にとっては特別の存在で嬉しくなります。

jun_111230jun_111230 2016/09/29 09:21 おはようございます。
水上勉は詳しく知りませんでした。
十牛図これは、字のお稽古によさそうです。
煩悩の多い私にとって,心が静まり、字も覚えられる、
鶏肉はポン酢煮、をよくします。マリネに近い味だから、さっぱりしていいですよね!

iireiiirei 2016/09/29 17:04 >miyotyaさん
 まあ、一般的にいうと、女性は「アマガエル」に触れるひとがいると思います。トノサマガエルは難しいかな。男性はトノサマガエルに触れても、ヒキガエルには尻込みするのではないか、と思います。(グロテスクだし、毒も持っているし。

でも、どんな種類でも、カエルたちは地球上の、人間と比べても遜色ない重要な一員ですね。

iireiiirei 2016/09/29 17:18 >jun_111230さん
 確かに、習字をするのに向いているかもですね。指摘されて気づいたのですが、十牛図の前半5項目は二字熟語、後半5項目は四字熟語になっています。なにか深い訳がありそうですね。

水上勉は良い作家です。小説に先立ち「土を喰う日々」(新潮文庫)をおススメします。禅寺で精進料理を学んだ氏が、一年通して軽井沢に住んでの食生活をしみじみと開陳しています。梅干し、筍、ミョウガなどなど・・・

酸味は、五味の一つ、重要な味覚ですね。

ceneciocenecio 2016/09/29 17:53 こんにちは。
ブンナの話は奥深いですね。教科書で読む子供だったらどんなことを考えるんだろう。仲間とみんなで話し合ってみるのはおもしろいだろう。
大人の私なら、収容所とか一緒に遭難してしまった一団を想像します。圧倒的に弱い立場に置かれたわけで、それぞれの本性が出ますね。それも時とともに揺れて変わっていくでしょう。ブンナは生きのびて帰宅しても、そのあとの日々はやはりいつか死ぬ運命の、残された日々を生きるのです。ただ依然と違った目で世界を見、違った心待ちで暮らせます。
私も木に登る経験をすることがあるのかしら。そんなことをしんみり考えさせてもらいました。

SPYBOYSPYBOY 2016/09/29 20:11  ご紹介されている『十牛図』の本(黄色の横山氏の本)、読んだことがあります。画と解説がセットになっていて、雰囲気が鳥獣戯画みたいで呑気で良かったです(笑)。ああいう、人も動物も一緒の世界っていいなあと思います。
内容はユングとか色んな人が言っているように、精神的に人間が成長していく過程を指しているのだと思いました。そういう点 東西共に共通していて面白いと思いました。

iireiiirei 2016/09/29 20:15 >cenecioさん
 流石のcenecioさんですね。鋭いコメントをありがとうございます。鳶にさらわれて木の上で孤立させられた生き物たち、まさに「収容所」に放り込まれた状態ですね。絶対者の鳶の前で、生殺与奪の権を一手に握られています。これこそ、仏教用語では「地獄」というのでしょう。ただ、ブンナは立場上、鳶の獲物として連行されたのではなく、自ら木に登って、いろいろな連行された動物を見た「傍観者」でもあるわけで、ブンナの精神上、他の動物とは違ったインパクトを受けたかも知れないですね。PTSDにはなったかも知れません。

iireiiirei 2016/09/29 20:29 >SPYBOYさん
 十牛図というくらいですから、文章は絵とセットになっていますね。牧童と、逃げた牛、この二者の相互作用が面白く、その点鳥獣戯画との類似点が浮かぶというわけですね。牧童、じつは布袋和尚が、街に出てほかの子供たちと遊ぶ・・・こんな牧歌的な社会が実在すれば良いのですが。遊びながら導きあうというような。ユングは東洋思想に詳しかったので、十牛図も当然知っていたでしょう。

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