hon-nin vol.00
松尾スズキがスーパーバイザーとしてまかされた新たな文芸誌です。
とりあえず
雑誌というのはお勉強のできる人が作るものですが
ぼくはお勉強ができません。
なので普通の雑誌を作ろうとしたら、
そらあまあ、負けますわな。
なのでいろいろ考えたあげく、
「本人しばり」というルールを思いついたわけです。
本人が書く本人の話。本人が登場する他人の話。
本人が本人のふりをして書く話。いかにも本人な話。
本人だからこそ書ける話。他人が聞く本人の話。
とにかくページを開くはしから本人の臭いが立ちのぼるような、
そんな雑誌にしてみりゃあいいんじゃないかと。
いわゆる「私小説」限定の文芸誌ってわけですね。
連載陣は松尾スズキ、宮藤勘九郎、安野モヨコ、宮崎吐夢+河井克夫、吉田豪、町山智浩、本谷有希子、堤幸彦……などなど、「らしい」ラインナップではあります。
本業が小説家の人の作品は少ないけど、なかなかのクオリティーだと思いました。
普通の文芸誌より級数が大きくて行間がゆったりしてるせいか、読みやすいし。
一番良かったのは人気コラムニストである町山智浩氏による『WHO'S YOUR DADDY?』。
在日三世であり現在はアメリカに住む主人公が、長年絶縁状態にあった父親の死期が迫っていると知らされ、一時帰国する。赦すためではない。父親が「何者」だったかを知るために……。
構成とかエピソードの使い方とか、普通に上手い。一番「小説」っぽい作品でした。次回も楽しみ。
今作で小説デビューとなる宮藤勘九郎の『君は白鳥の死体を踏んだことがあるか(下駄で)』は、意外性はなかったけど楽しめた。
自分のことを「オラ」と呼ぶしかなかった田舎時代の恥ずかしいエピソード満載。笑えます。みうらじゅんの小説とかに近いかなぁ。
松尾スズキはさすがに小説家としてのキャリアもあるので、他の作品に比べるとひねりが効いてていいかんじ。本谷有希子は初めて書いた小説をリライトしたものらしいが、自意識過剰の暴走がコミカルに描かれていて面白かった。安野モヨコのショート漫画も良かったなぁ。ちゃんと雑誌のテイストにあわせることができる、作風の広い人だと思う。「下北サンデーズ」は残念でしたの堤幸彦は、終わりかけの学生運動に傾倒した大学生時代を描いていて興味深い。一方『去年ルノアールで』でスマッシュヒットを飛ばしたせきしろさんの作品は初めて読んだけど、ちょっと微妙。とんだばやしさんのギャグ漫画は笑いました。あと辛酸なめ子が本名で書いてる「男性不信」も痛快です。
あと企画ものとしては「ビートたけしのオールナイトニッポン傑作選!」がインパクト大。伝説の第一回放送を起こしたものが掲載されてるんだけど、いやー凄いっすね。世代的にビートたけし時代のオールナイトニッポンなんて知らないんだけど、今読んでもその破壊力にはビビります。ていうか文字になったものを読んでも面白いわけだからね。当時、生でたけしのしゃべりが聞けた人は興奮しただろうなぁ。
創刊号だから当然だけどすべてが新連載なので、8割くらい読んでしまいました。面白かったです。
小説ではないけど、コラムや脚本など、文筆家として成功している人たちばかりなので、一定のクオリティーは満たしてるし、全体的にエンタメ性が高いですね。「私小説」というしばりもいいなぁと思いました。
次号は12月発売とのこと。楽しみだな。
群像 2006年 10月号 [雑誌]〜その2
- 出版社/メーカー: 講談社
- 発売日: 2006/09/07
- メディア: 雑誌
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なんか文芸誌ばっかりですね。
いやーしかし読み応えありますね。ていうか読んでも読んでも終わらない気がしてきました。全部で46編。単行本にしたら何冊分になるんでしょうかねぇ。楽しみにしてる舞城王太郎とか町田康の短編にたどり着ける日はまだ遠そうです……。
●「幻視心母」(桐野夏生)
母親が脳梗塞で倒れたことをきっかけに、音信不通だった姉妹が再会する。
桐野夏生らしい作品。そねみやねたみなどのマイナス感情を描かせると上手いですよね。
●「同行者」(黒井千次)
この人の作品を読むのは初。雨の日のお葬式にたどりつけない見知らぬ二人。静かで奇妙な物語。
●「魔」(河野多恵子)
この人の作品を読むのも初。「魔」に隠された「探しもの」をつくりだす、ホラーチックな物語。味わい深い。
●「誰かがそれを」(佐伯一麦)
この人の作品を読むのは初かな? 外から聞こえる奇妙な音に悩まされるもと電気工の作家。私小説風味。
●「簿暮」(坂上弘)
この人の作品を読むのも初。道半ばで自殺した実在の作家、金鶴泳にまつわるあれこれ。私小説だと思われます。
●「鉄が好き!」(島田雅彦)
島田雅彦読むのは久しぶり。紀元前にまで遡る一族の歴史を次世代に語り継がなくてはならないという一家の長男の物語。本人にしてみたらやっかいな風習だろうけど、祖先のことを知るのはきっと面白いだろうなぁと思いました。ま、とりあえずデータ化しとくのは無難ですねw
●「Birthday」(島本理生)
結構インパクトのある展開で楽しめました。『ラブリー・ボーン』(アリス・シーボルド)ぽい。
「それはまるで豪華なバースデーケーキみたいな夕方だった」とかそういう安易で微妙な表現はそろそろ卒業してほしいですが。どんな夕方だよ。
●「この街に、妻がいる」(笙野頼子)
私小説+文学論+夢小説+仏教ってかんじでしょうか。
歯切れの良い文章はやはり好みです。
●「燐寸妙」(瀬戸内寂聴)
これまた私小説。演出家の久世光彦氏の訃報を聞いてから溢れ出す、彼にまつわるエピソード。とても魅力的な人だったのだなぁと、今さらながら知りました。そしてさすがの瀬戸内寂聴ですから。きれいにまとまっている短編だと思います。