混乱する給食食材検査の現場

つい先日、宮城県の市町村の中で初めて学校給食の食材の放射線検査を始めた栗原市
地元の市民団体主催で、この食材の放射線の検査装置の見学会を行うという情報を、栗原市の災害復興を紹介している知人のblogで知りました。
http://ameblo.jp/mtsuda0506/entry-11093572475.html

実はこの栗原市の学校給食の食材検査で、宮城県産のジャガイモが先日ひっかかっております。

http://mainichi.jp/area/miyagi/news/20111120ddlk04040037000c.html

東日本大震災:県産ジャガイモからセシウムを検出−−栗原・給食食材 /宮城
 栗原市は18日夜、市内の単独調理校1校で17日の給食に使う予定だった県産ジャガイモを前日の16日に検査したところ、1キロ当たり23・68ベクレルの放射性セシウムを検出したと発表した。
 食品衛生法上の暫定規制値は同500ベクレルだが、同市は児童生徒と保護者に不安を与えることを考慮し、このジャガイモ計2キロ(60食分)を使用せず、「不検出」と確認した北海道産のジャガイモを使用した。
 同教委は東京電力福島第1原発事故により、今月1日から小中学校や幼保育園の給食食材の前日検査と調理済み料理の当日検査を順次行っている。当初2週分の検査ではすべて不検出だった。【小原博人】
毎日新聞 2011年11月20日 地方版

しかしながら、(財)食品流通構造改善促進機構で運営する食材の放射性物質検査データベース、いわゆる「yasaikensa」では、非流通品の原発近辺で採取されたモニターリング検査まで含めても、ジャガイモからは放射性セシウムはほとんど全くと言ってよいほど検出はされていないのです。
http://yasaikensa.cloudapp.net/product.aspx?product=%e3%82%b8%e3%83%a3%e3%82%ac%e3%82%a4%e3%83%a2&category=%E9%87%8E%E8%8F%9C%E9%A1%9E

さてこれはどういうことだ?、宮城県原発周辺よりも高度に汚染された地域がある??
実は、食品に元々含まれているカリウムの一部の放射性カリウムを、機器が誤ってセシウムと誤検出してしまう現象があります。
この現象は、例えば高エネルギー物理学研究所教授の野尻先生のblog記事で解説されています。
http://nojirimiho.exblog.jp/14725078/
ここでは「やさしお」を使っていますが、この成分はカリウム、ナトリウム、塩素だけで、本来セシウムは全く含まれていないはずです。しかし「やさしお」測定するとセシウムが含まれていると狂った表示をする現象が取り上げられています。

実は栗原市の学校給食の食材検査で使われている機器は、この野尻先生のblog記事で解説されているものと同じLB2045ですが、ここで紹介されている「スピルオーバコレクション」という機能で調整することにより、このカリウムによる誤検出を避けることができます。
この具体的な設定方法は、メーカーから10月末にマニュアルの改訂版が発表されており、その最後に記載されています。しかし、栗原市にこの機器が納品されたのは、9月末のことです。
測定機器の設定がうまくいっていないため、本来はほとんど放射性セシウムが含まれていないのに、カリウムにより誤検出されてしまった、という可能性はありえます。
ちょうどジャガイモは元々カリウムが多い食品です。100g当たり410mg含まれています。

さて、では実際のところどうなっているか?、現場で現物を見て確認したほうが早い、と、行ってきた次第です。

志波姫にある栗原市南部給食センター。場所は田んぼの真ん中です ^^

中では、こんなでっかい釜で調理します。

と、こちらも面白そうなのですが、今回はパスして、、、

これが検査装置です。周りに食材を刻んで加工する設備などがあります。

さて、測定中の計測画面を拝見しますと。。。

あ!、測っているのは放射性ヨウ素放射性セシウムだけで、放射性カリウムがありません。
これで、検査でひっかかった23.68Bq/kgのジャガイモは、誤検出である可能性が極めて高い、ということが判明しました ^^

さっそく見学会に同席していた栗原市危機管理室の室長さんとお話をしたところ、カリウムを多く含む食品が放射性セシウムとして誤検出してしまう現象があることは、把握しておられました。
ただ、メーカーからマニュアルの改訂版としてその対策が通知されていることについて、メーカーからは何も連絡を受けていないとのことでした。
とりあえず、突然現れたどこの馬の骨とも知らないわたしが勝手に栗原市の検査機器のセッティングを治していくわけにもいかず ^^ メーカーに問い合わせてもらうようお伝えしておきました。
このご時世で、納期が数カ月待ちと非常に引きあいの多い人気の機器ですので、メーカーのほうもアフターフォローまでなかなか手が回ってないのかもしれません。本来は言い訳にはならないのですが。。。

さてそれにしても、まだひっかかる点があります。
この23.68Bq/kgと誤検出していたジャガイモですが、本来はどの程度の数字だったんでしょうか?
おそらくはほとんどゼロかと思われますが、本来はこの簡易検査機器は一次検査で怪しいものを抜き出す目的のものですので、この後より精密なゲルマニウム半導体による検査を行えば、白黒がはっきりしていたはずです。
が、栗原市としては、このジャガイモを給食で使うことをやめただけで、風評被害を避けるためにこの産地も公開しておりませんし、精密な検査できちんと判別することもしておりませんでした。
結果としてこのままでは、宮城県のどこかの地方では全国的にも例がないほど高い放射性セシウムを含むジャガイモが採れたらしい、という風評だけが残ってしまいます。
もし、この時のジャガイモがまだ残っているようでしたら、カリウムの誤検出の対策済みの設定で再度測定し、念のためゲルマニウム半導体検出器ででも測定して、ジャガイモは濡れ衣であったことを証明してあげたいところです。