ウィリアム・アイリッシュ
(William Irish) 1903?-1968
別名義コーネル・ウールリッチ(Cornell Woolrich)
本名コーネル・ジョージ・ハプリー・ウールリッチ
アメリカの作家で、サスペンス小説の第一人者として高い人気を誇っている作家です。生涯で24の長編と230もの短編を残しました。
1903年(1906年説あり)12月4日、ニューヨーク市内生まれ。
幼い頃は独り遊びが好きで、自宅の庭先に落ちているライフルの空薬莢を拾い集めるのが趣味だったといいます。
大学卒業の年に病気になり、その療養中に多くの書物を読み、物を書くことに興味を覚えます。そうして発表されたのが1926年普通小説「カヴァー・チャージ」で、彼はそれ以来作家を志します。
その後世界恐慌の影響もあって苦しい作家生活を余儀なくされますが、それまで普通小説を書いていた彼はミステリーの分野、とりわけサスペンス作家への転向を決意し、1940年に発表した「黒衣の花嫁」で一躍人気作家になります。
その後も表題に「黒」のつくシリーズを発表するなど作家としての地位を固めていきます。その他にも同時期にウィリアム・アイリッシュ名義で代表作でもある「幻の女」などの傑作長編を次々に世に送り出しています。
また優れた短編の名手でもあり、1949年にはアメリカ探偵作家クラブ(MWA)賞の短編賞を受賞しています。
しかし感受性が強く、自己嫌悪に陥ることも度々であった彼の生涯は決して幸せなものではなかったようで、その生涯の大半をホテルの一室で孤独に過ごしたそうです。
1968年9月25日死去。享年64歳。
その年の九月二十五日、マンハッタンのシェラトン・ラッセル・ホテルの廊下で、アルコール中毒からくる糖尿病で片足を切断され、車椅子生活をしいられていた彼に発作がきた。そのままニューヨークのウィッカーシャム病院に送られ、まもなく六十四のきびしい生涯の幕をとじた。
『幻の女』(ハヤカワ・ミステリ文庫)p.444 稲葉明雄によるあとがきより
その作風は、主として大都会ニューヨークに集った人々を描いたものが大半で、〈いわゆる巻き込まれ型〉即ち彼自身の実生活を投影したかのような、失業・恋人の死・不条理な犯罪などに直面して孤独感・絶望感に苛まれた主人公が必死に生きる道を模索する様を鋭く描き出すところに特徴があり、彼は常に弱者の視点からその作品を描いています。