『愛のむきだし』ユーロスペースの初日興収記録更新/『映画芸術2009年冬号』

 ようやく引っ越しは終わりましたが、一度も整理していなかった映画チラシがこんなに邪魔だとは思わなかったとか、普段から余計なものは捨てておかないと、とんでもないことになるなあと実感しました。最終的にかなり捨てたにも関わらず120箱が動きましたが、どこから手をつけて良いやらという思いです。
 知り合いの年長の映画評論家の方に映画雑誌をバックナンバー順に並べたり、著者順に並べたり、DVDを監督のフィルモグラフィーに沿って並べるのを時給750円でバイトしてくれませんかと頼んだところ、君は完全に映画評論家という仕事を馬鹿にしていると言われました。「だって、詳しいでしょう」というこちらの反論も無駄でした。
 というわけで、御用の方、メールで連絡いただければ新住所をお伝えします。まだ自宅がネットに繋がっていないのでしばしお時間いただく場合がありますのでご了承を。


 告知が遅れてしまいましたので一気に行きます。
 コメントを書かせてもらった園子温監督の『愛のむきだし』は無事公開されたようで、既にヒットの報を耳にしていたものの、何とユーロスペースの初日興収の記録を塗り替えたそうで、この作品に惚れ込んでいる身としても、嬉しいことこの上ない吉報です。まだご覧になっていない方は、時間と料金で躊躇するかも知れませんが、どうあっても足を運んでいただきたい大傑作です。


 それから、発売中の「映画芸術2009年冬号」の<2008 日本映画ベストテン&ワーストテン>の選出に参加させていただきました。

映画芸術 2009年 02月号 [雑誌]

映画芸術 2009年 02月号 [雑誌]

 総合ランキングは既に方々で話題になっていますが、下記の通りです。
 本誌発売前に、自分が書いた【「映画芸術」2008年日本映画ベストテン&ワーストテン発表】で触れた“寺脇研野村正昭の両氏は、たぶん荒井さんの意向を受けて選んでるんじゃないかと予想する。”と“『ノン子36歳(家事手伝い)』を上位に選んでいる奴を見かければ、荒井晴彦別動隊”が、一部で物議を醸したようで、あんまりだと知り合いの映画評論家の方とかにも怒られましたが、これぐらい煽らないと映芸のベストとワーストなんて総合ランキングが話題になるぐらいで、本誌を手に取る人や、まして購入する人なんて少ないのだから、いいじゃん別にと思っておりましたが、発売されてみると、驚くほど購入率が高い。そして、やたらと今回のランキングをサカナに喋る喋る。30分は確実に「なんで『ノン子』が1位だ」「『おくりびと』がワースト1なのは許せない」「『実録・連赤』が2位なのは納得できない」「いや、連赤はもっと下位かと思っていた」「『PASSION』が入ったのは意外だ」「荒井さんが『PASSION』好きなのは嬉しい」「『私は貝になりたい』はワーストじゃないだろ」などなど、ずーっと話が続く。
 いまどき、たかが映画雑誌のベストテンでここまで話題になることは皆無と言っていい。柳下さんの激烈な批判(腹が立ったから購入するという姿勢が素晴らしい。そして、ちゃんと誰が何を選んでいるかをリストアップしているのだ。本当はこういうことはプロの映画評論家にやってもらっていては駄目で、読者がやらなければ)と同じ意見も含めて映画方面の人と顔を合わせれば映芸のベストとワーストをネタに昨年の日本映画について語ってしまうのだから、ある意味、映芸の試みは大成功だったのではないか。アクセス数が少ないと嘆いていた「映画芸術DIARY」にも柳下さんはリンクを張ってくれていることだし、荒井さんはどう思っているか分からないが、これだけ話題になって、尚且つ普段買わないような層が購入した上で、あれは納得した、納得できないと言っているのだから、お気楽と言われようが、状況としては非常に面白いことになっていると思う。本来、映芸のベスト&ワーストの面白さは、総合よりも誰が何を何故選んだかだという部分にあるのだから、誰が『実録・連赤』をワーストに選び、『おくりびと』を誰がどういう理由でワーストにしているのかという興味で読むという、本来のベスト・ワーストの愉しみ方を思い起こさせてくれる。
 実際、自分も小学生の頃は『キネ旬』のベストテン号で、この寺脇研という人は、『変態ONANIE』とかエロ映画ばかりベストに挙げているが、こんなエロ映画が本当にベストテンに入れるようなものなのか不思議でしょうがなかったが、それがピンク映画への興味の第一歩となった。あるいは松田政男という人の書いている“批評の党派性”って何だろう?という疑問が映画の間口を広げてくれたので、今回の映芸のベストとワーストは、総合ランキングよりも如何に個々のベストとワーストで誰が何をどういう理由で選んでいるかが重要であるかを再認識させてくれる。
 個人的には『ノン子』は当て馬にするには強度に問題があり、自分もベストに入れた『俺たちに明日はないッス』を1位にしてくれていたら、断固擁護したのにという思いはあるが、昨年は映芸特有のベストからワーストの点数を引くという方式を取り止めたところ、キネ旬と大差ない結果となったことだし、これぐらい極端で、邪推させるものの方が結果的に昨年と比較にならないくらい話題になっているのだから、映芸が売れて欲しいと思っている身としては良かったと思う。淀川長治先生もベストテン号が通常よりも売れる理由を“誰が何を選んでいるか、証拠を握っておいてやろうと思うのよ”と仰っていたことだし。
 ベスト・ワーストばかりが話題になりがちだが、『愛のむきだし』特集の園子温監督と稲川方人氏の対談は詩人同士ということもあり言葉の遣り取りがやはり面白いし、『チェ 28歳の革命チェ 39歳 別れの手紙』を、松田政男×すが秀実×井土紀州×荒井晴彦で語るというこれ以上ない並びなのも良いし、「特集 『男はつらいよ』と1969年」は映芸でしか読めないアプローチだろう。編集後記で「荒井晴彦脅迫事件」の赤裸々すぎる全貌が書かれているが、荒井さんにかかると、財布を落とした話から娘からのメール「ここぞとばかりに国家権力に守ってもらって!」まで映画的になってしまう。

 そんなわけで、『映画芸術2009年冬号』は買いですよ。大多数の人は興味ないでしょうが、私の昨年のベストテンとワーストテンも載ってるので、立ち読みじゃなく、是非買ってください。
 書き忘れていましたが、野村正昭さんは『ノン子36歳(家事手伝い)』を選んでいませんでした。私の予想が外れました。ここにお詫びいたします。ごめんなさい。寺脇研さんは予想通り『ノン子36歳(家事手伝い)』を選んでましたが。
 

ベストテン

1位 ノン子36歳(家事手伝い) 熊切和嘉監督
2位 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 若松孝二監督
3位 接吻 万田邦敏監督
4位 トウキョウソナタ 黒沢清監督
5位 人のセックスを笑うな 井口奈己監督
6位 PASSION 濱口竜介監督
7位 闇の子供たち 阪本順治監督
8位 カメレオン 阪本順治監督
9位 石内尋常高等小学校 花は散れども 新藤兼人監督
10位 きみの友だち 廣木隆一監督


ワーストテン

1位 おくりびと 滝田洋二郎監督
2位 少林少女 本広克行監督
3位 ザ・マジックアワー 三谷幸喜監督
4位 私は貝になりたい 福澤克雄監督
5位 トウキョウソナタ 黒沢清監督
6位 アキレスと亀 北野武監督
7位 七夜待 河瀬直美監督
8位 歩いても 歩いても 是枝裕和監督
9位 クライマーズ・ハイ 原田眞人監督
10位 実録・連合赤軍 あさま山荘への道程 若松孝二監督

http://eigageijutsu.com/article/112695867.html

映画芸術2009年冬号:通巻426号


2008 日本映画ベストテン&ワーストテン 選評  
  相田冬二、渥美喜子、井川耕一郎、伊藤 雄、上野昴志、宇田川幸洋、内田 眞 
  浦崎浩實、大口和久、岡田秀則、岡本安正、荻野洋一、桂千穂北小路隆志 
  木全公彦、切通理作、葛生賢、粉川哲夫、国映ピンキーズ、新宿かぼす会 
  高橋洋田中誠一、田中千世子、谷岡雅樹寺脇研、中島雄人、中村賢作 
  野村正昭、林田義行、福間健二藤井仁子、藤元洋子、松江哲明松田政男 
  モルモット吉田、山下絵里、ローランド・ドメーニグ、渡辺武信
  わたなべりんたろう、映芸ダイアリーズ、荒井晴彦


特集 『男はつらいよ』と1969年
  論考:吉田 剛 、田中眞澄、赤地偉史、野村正昭  
 〈アンケート:1969年の私〉 
  樹木希林菅孝行、田中康義、沖島勲内藤誠福間健二、荒井美三雄
  岡田裕、渡辺護神波史男、小松範任、小野沢稔彦、葛井欣士郎
  かわなかのぶひろ、波多野哲朗、澤田幸弘、大木雄高寺脇研松本俊夫
  松田政男稲川方人荒井晴彦


特集 ロウ・イエと中国映画の現在
  座談:ロウ・イエ×メイ・フェン×荒井晴彦×井上淳一×アンニ
     ×ファン・タン×ワン・シャウチイ
  論考:アンニ、韓燕麗

愛のむきだし
  対談:園子温×稲川方人 
  論考:安川奈緒


『彼女の名はサビーヌ』
  鼎談:サンドリーヌ・ボネール×諏訪敦彦×アントワーヌ・ティリオン  
  論考:中尾太一

チェ 28歳の革命チェ 39歳 別れの手紙
  座談:松田政男×すが秀実×井土紀州×荒井晴彦
 

私は貝になりたい 論考:劉文兵 、渡辺考
少年メリケンサック 論考:宇野常寛
『旅立ち〜足寄より〜』 論考:谷岡雅樹
我が至上の愛 アストレとセラドン 論考:濱口竜介
『ブロークン・イングリッシュ』 論考:青山真治


新連載
  やまが まあさ 雲呼荘の思い出/田中眞澄 解説・雲呼荘の人々
  大木雄高 「LADY JANE」又は下北沢周辺から  
  熊谷対世志 韓国現代演劇を紹介する


連載
  白坂依志夫の続・人間万華鏡  
  中原昌也×千浦僚 映画なんて観てる場合じゃねぇんだよ!  
  荒井晴彦×寺脇研 日米★映画合戦  
  石井裕也 愛という名の黙契
 

書評
  「生まれたら戦争だった。」 加藤正人 
  「B級ノワール論 ハリウッド転換期の巨匠たち」上島春彦  
  「イタリア人の拳銃ごっこ柏原寛司 
  「映画論講義」結城秀勇 
  「お前はただの現在にすぎない テレビになにが可能か」赤坂三郎  
  「ハリウッドの密告者」 荻野洋一 
  「マキノ雅弘 映画という祭り」 磯田勉