雑駁一瞥近代日本文学史・6
6 鷗外と漱石─高踏派(余裕派)★
・明治40年代から大正の初期にかけて。
・日本の「自然主義」が西欧の文学理論を曲解して、これが文学DA!と息巻いているとき、一方で、本当に西欧に留学し(しかもどちらも国家の施策として留学させられる。どんだけエリートなんだという話ですよ。鷗外は陸軍省派遣、漱石は文部省派遣)、じゃあ西欧かぶれかというと、西欧に対して日本の国家や社会はどうかというところまで考え込まざるをえなかった男たちが、日本流自然主義と一線を画して小説を次々に発表していく。自然主義側からすれば彼らは、エリートが高みから見下ろして偉そうに、という感じなので、揶揄を込めて「高踏派(余裕派)」★という。ようやく森鷗外と夏目漱石にたどり着きました。詳細は高2の授業で扱うので、ここではどちらも大まかな小説紹介にとどめます。
a 森鷗外
・陸軍軍医としては、陸軍軍医総監・陸軍医務局長(軍医の最高職)まで昇りつめる、エリート中のエリート。後で述べますが、文学者たちが「エリート崩れ」(漱石もまたそうですが)として、国家や社会に対する違和を陰に陽に見せるのに対して、鷗外は(左遷されたことや、墓碑銘の件などは微妙ですが)どうも、自分の職業と捜索活動とがあまり矛盾しない点、珍しいと思います。もちろん小説のなかではそうした違和が描かれはするのですが。
・初期は浪漫主義★にカテゴライズされます。『舞姫』★は初期の作品。
・ほか代表作は、『青年』★『雁』★『阿部一族』★や『高瀬舟』★といったところですかね。個人的には『渋江抽斎』推しなのですが、あまり賛同は得られまい。
▽『高瀬舟』を中2で学んだり、高2で学んだりすることも結構あるのですが(もちろん中2と高2とでは取り上げ方や焦点のあて方が異なります)、この学年は『舞姫』を見据えてこれまでは鷗外はやってきていません。
▽とりあえずは鷗外ビギナーは、初期鷗外は『舞姫』でお腹いっぱいになると思うので、『高瀬舟』と『雁』あたりがいいかな。『高瀬舟』は安楽死問題に関して作文課題にしたこともありました(安楽死問題だけに収斂させてしまってもつまらないのだが)。
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b 夏目漱石
これも授業で扱うのでごくさらりと。ただ、いったい男性作家たちによる日本近代文学は、「ナンバースクール(旧制高校→帝国大学)→エリート」や「国家」が対抗軸としてあることを、必ず前提として読んでほしい。これは授業でいつも言っていることですがね。
・初期『吾輩は猫である』★『坊っちゃん』★『草枕』★。
・前期三部作『三四郎』★『それから』★『門』★。
・後期三部作『行人』★『彼岸過迄』★『こころ』★。
・晩年 『道草』★『明暗』(絶筆)★
全部覚えること。
▽『吾輩は猫である』を小学生のころ読んだという生徒は結構いるのですが、その体験じたいは貴いものながら、やっぱり中高の時期に『三四郎』ぐらいは、これからの自分に重ね合わせながら読んでほしいものです。
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