盛岡市は今月、中核市に移行した。市によると、県が行っていた約1900の事務が市に移譲される。住民サービスや知名度の向上などの利点が強調されるが、首都圏では、要件を満たしていても中核市移行を避ける市も多い。中核市の現状を探った。【念佛明奈】
■県の事務移譲
 中核市は、住民により身近な市町村に県の事務権限を積極的に移譲する制度。人口30万人以上が条件で、保健所設置や屋外広告物規制、産業廃棄物処理業への許可などの権限が県から移譲される。「住民サービスの向上」の代表例は、身体障害者手帳の交付申請だ。従来は県の審査を通していたので申請から交付まで約1カ月かかったが、市が一括して行うと3週間程度に短縮できるという。しかし、住民側からみればそれほどのメリットとは感じられない。
■先行の秋田、青森
秋田市は97年に中核市となった。独自の保健所設置に伴い、秋田県の保健所が隣接する潟上市に移転。秋田市は「近隣から秋田市内に勤務する人にとっては逆に不便になってしまった」と話す。青森市は06年に移行。知名度アップや企業誘致への効果については「中核市で人口が多いから立地したという企業は聞いたことがない。セールスポイントになるかどうか」と懐疑的だ。
■首都圏の動向
 「中核市になるメリットはない」と言い切るのは人口約47万人を抱える千葉県松戸市。同市は地方交付税の不交付団体で、移行に伴い必要となる経費を交付税で賄えないからだ。「県保健所は市役所の前にあり、住民サービス向上も手続きがちょっと短縮される程度。中核市制度に不備がある」と手厳しい。首都圏には東京都八王子市や神奈川県藤沢市など中核市「昇格」をあえて見送る市が多い。千葉県市川市は、政令指定都市になると事務移譲に伴う道路財源の移譲や、宝くじ販売による収益など財政上のメリットがあることを挙げ、「権限は財源と共に移譲されてこそメリットになる」として、松戸市などと政令指定都市の研究を進める。盛岡市と同時に中核市となった千葉県柏市には「中核市移行が旧沼南町との合併時の前提条件。後でメリットがないことに気づいても避けられなかった」(自治体関係者)という別の事情もあるようだ。
■職員負担は増大
 盛岡市は事務量増加に伴う交付税の増加額を年間約20億2700万円と試算する。事務移譲に伴う人件費増加や打ち切られる県補助金分などを差し引くと年間約5億6000万円が「浮く」。だが財政状況は依然厳しく、交付税の総額も「地方分権改革の進み方による。今後の予測は困難だ」(県地域企画室)と不安が残る。また今年度当初の市職員定数は県から派遣された職員を含めても前年度当初比3人減の2476人で、今後さらに削減される見通しだ。「業務の見直しなどで対応している」(市職員課)が、中核市業務に他部署からの人員も充てており、市職員からは「1人当たりの仕事は増えるし、予算は削られる」と恨み節も聞こえてくる。行財政改革の一方で、中核市によって増える事務負担と消えない財政への不安。これを補うほどの住民サービスができるかは、今後の盛岡市の課題になる。

同(解説)記事では、盛岡市を事例として、中核市移行後のメリットとデメリットを他市との比較調査のうえで紹介。やや厳しい評価に立っているものの、良いレポート。2006年の地方自治法改正により、中核市への移行要件は人口30万以上であればよいとされた*1。そのため、今年度からも、柏市や西宮市、久留米市政令指定されて、中核市に移行した。現在でも、既に人口要件を満たしている尼崎市*2では移行手続きを進めており、また、久留米市*3太田市*4のように合併による中核市移行を見通している自治体もある。「デ・メリ」は相対的なものであり、特定の都市自治体でデメリットとされる状況が、他の都市自治体でも共有されるものではない場合もあることだろう。ただ、同(解説)記事で挙げているように、首都圏で要件を満たす都市自治体では軒並み移行に関して沈静化の姿勢にある現状からは、中核市制度自体のメリットの過小性を示すとの指摘も妥当性が高い。既に移行している都市への検証が必要な時期か。