矢祭町は23日、「第二役場準備室」の開所式を庁内で開いた。職員OBらで「第二役場」の法人を発足し、役場業務の一部を委託する構想で、来年度からの実施を目指す。業務の外部化により役場職員は削減し、人件費などを節減する狙い。全国でも異例の試みだが、識者からは「天下り組織になりかねない」などと不安視する声も上がっている。
 同町は経費削減のため、03年度から職員の新規採用を見合わせており、職員数はピークだった86年度の108人から今年度は65人に減り、4年後の2012年度は51人になる見通し。町によると、「第二役場」はNPO法人などの組織を予定し、人員規模などは今後定める。役場業務のうち、事務事業を中心に消防団の運営、交通安全対策などの業務委託を検討しており、「役場業務の3〜5割程度を委託したい」(同町)という。今後、外部委託できない法定事務を除き、委託可能な業務を精査し、事務分掌など関連規則の改正も検討していく。準備室は今月1日に開設し、室長には3月に退職したばかりの前・自立総務課長をあてた。町は節減した予算を子育て支援事業などに回すという。古張允(まこと)町長は「外部委託できる事業の選別は、外部の有識者の意見も聞きながら進めたい。全体として、町の経費節減につなげていく」と話した。一方、東大大学院法学政治学研究科の金井利之教授(自治行政学)は「外部委託すれば人件費が削減されるという単純な議論は良くない。行政サービスが安かろう悪かろうでは駄目で、どれくらいのコストでどのようなサービスが提供されるのか住民に提示することが重要」と指摘し、「職員OBなどで構成する第二の役場は、天下り外郭団体と見なすことができ、利権が絡む恐れもある。情報公開を徹底させ、住民がコントロールできる団体にする必要がある」と話していた。【和泉清充、西嶋正法】

少し古い記事だが,同記事では,矢祭町において,第二役場の設置に向けた準備室を設置したことを紹介.矢祭町としては,現在の役所業務の「3〜5割程度」を委託する方向で検討しているとのこと.
第二役場の取り組み自体は,少ない人的資源のなか退職職員をも活用する「最大動員のシステム」*1の一事例であり,または,「公共サービス論再考」*2の一事例,更には「ネットワーク型政府」*3の可能性も秘めており,観察対象としては興味深い(かも).ただ,問題は委託の形態にあるかと思う.同記事のみでは委託方式が不明ではあるが,まさか随意契約では行うことはあるまい(と思いたい).公正な競争入札を経たとき,「第二役場」が非効率であるならば,自然淘汰されることは確かであろう(地方自治法施行令167条からすれば,指名競争入札となれば結果は同じか).入札を通じて淘汰されなければ,それこそ「市民としての住民」*4がしっかりと統制しなければならない.
ただ,統制面の議論ばかりではなく,個人的には,委託する業務としないもの(つまりは,町として残す業務(更に言い換えれば,「自分たちが資源を集中しなければならない業務」*5))との仕分けもまた必要と思う.難しい問題(つまり,町に残す業務)は後にして,解ける問題(つまり,委託業務の対象)を先に解いていくことは,巷の受験テクニックに限ることなく,世の常ではある.問題の回答(つまり,第二役場)に満足して,難問だけが町に残ることがないよう,両面からの議論が必要か.

*1:村松岐夫『日本の行政』(中央公論社,1994年)28頁

日本の行政―活動型官僚制の変貌 (中公新書)

日本の行政―活動型官僚制の変貌 (中公新書)

*2:今村都南雄「「公共サービス改革法」と行政学」『2008年度日本行政学会総会・研究会要項』2008年,1頁.ただ,当該レジュメにおいて今村都南雄先生がご指摘されているように公共サービス論は再考に至る前の「考」があったのだろうか.

*3:ティーブン・ゴールドスミス, ウィリアム.D.エッガース『ネットワークによるガバナンス』(学陽書房,2006年)20〜21頁

ネットワークによるガバナンス―公共セクターの新しいかたち

ネットワークによるガバナンス―公共セクターの新しいかたち

*4:礒崎初仁・金井利之・伊藤正次『ホーンブック地方自治』(北樹出版,2007年)222〜223頁

ホーンブック 地方自治

ホーンブック 地方自治

*5:稲沢克祐『自治体の市場化テスト』(学陽書房,2006年)103頁

自治体の市場化テスト

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