「Half moon」(74)

社会人の二人の物語。オリキャラ祭り。オリキャラ紹介⇒(1)をご覧ください。

爽子に告白した光平は・・・?そして、強力な助っ人に爽子は・・・?
もう一人初登場です。

こちらはHalf moon          10 11 12 13 14 15 16 17  18 19 20 21 22 23 24 25 26 27 28 29  30 31  32 33 34 35 36 37  38 39   40 41  42 43  44 45 46 47 48 49  50 51  52 53  54 55 56 57 58 59  60 61 62 63 64 65 66 67 68 69 70 71 72 73 の続きです。
それではどうぞ↓


























*****



「ああ・・・・」


家に戻った光平はベッドに横になってずっと天井を見ていた。そして昨日の出来事が自然

に頭に浮かぶ。


『・・・好きなんだ。ずっと・・・君に会った時から』

『・・・・・・』


彼女の目がきょとんとなった。


『あの・・・誰が?』

『俺が』

『・・・誰を?』

『え?・・・黒沼さんを』


それから長い間のあと、思いっきり驚かれた。そして後ろに仰け反られた。


『だって・・・好きな人がいるって・・・』

『あ・・・・』


そっか、まさか気づかれてるかもって思っていたけど全く伝わってなかったんだ。

その時やっと彼女の鈍感さを再確認した。あまりの好意の鈍さに。


『好きな人って・・・黒沼さんなんだけど・・・』

『・・・・・・』


それからまた長い間があって一際大きな声で驚かれた。でもはっきりと伝わると彼女は

悲しい表情をした。その時の表情が頭から離れない。

期待してたわけじゃない。風早と別れたからってすぐに他の誰かと付き合うなんて彼女

ができるわけないのだ。

でも、俺はそれ以上その場にいられなかった。彼女の表情を見た瞬間から。

そして、彼女の口が開かれようとした時、俺は咄嗟に口を挟んだ。


『返事はいらない。・・・黒沼さんの心から風早がいなくなるまで』


そして、彼女の顔も見ずに背中を向けた。俺は怖かった。彼女の答えが。


”『真っ直ぐ見れる恋愛しろよ・・・』”


真っ直ぐでありたかったから彼女に告ったのか?

それとも、ただ彼女を振り向かせたかったからか。


本当のことを言ったのだ。後悔なんかしていない。ただ・・・・。


爽子の悲しい目が脳裏に浮かんでは気持ちが沈んでいくのを感じた。光平は初めて感じた

感情をどう対処したら良いのか分からず困惑したまま横たわっていた。



***********


水曜日――


週の半ば、なんとか仕事をこなした爽子は前を見れずに俯いたまま会社玄関に向かった。

あれから友香は何かと気を遣ってくれる。しかし、結局友香を悩ませただけなのではない

だろうか・・・・。と爽子は心の出口を見つけられないまま別れを告げて一週間の時が経過

していた。俯いていた爽子は自動ドアが開くと、立っていた人物を見て大きく目を見開いた。


「えっ・・・あやねちゃん・・・?ちづ・・・ちゃん?」


懐かしい顔を見つけた爽子は驚いた表情のまま固まった。


「よっ爽子!久しぶりっ!」


千鶴がにっこり笑って手を振った。


「いきなりごめんね。今からちょっと時間ある?」


あやねに言われて、爽子は戸惑いながらも頷いた。歩き出した3人の後姿を友香は目を

細めて見ていた。ロビーで爽子を見守っていたのだ。


「・・・あれ誰?」

「っと・・・たぐっちゃんか・・・」


友香は後ろから声を掛けられ、びっくりしたように振り向いた。


「爽ちゃんの高校の時の友達。絆がすごいんだよね・・・ははっかなわないわ〜〜」

「高校ん時の・・・?」


光平は思った。ということは風早のことも知っているのだと。


「ねぇ、たぐっちゃんさ・・・爽ちゃんに告ったの?」

「え??」


光平はいきなりの友香の言葉に大きく動揺した。


「黒沼さんが・・・言ったの?」

「そんなの言うわけないじゃん〜〜あの人が。女の勘かな」

「・・・・・まぁ」

「振られたよね?」

「えっ!!」


友香がにっこり笑って言うと、光平は拍子を抜かされたように目を丸くした。


「無理だよ」

「・・なんだよ。それ」

「だって分かるもん」

「何が?」


光平がぶすっとして言うと、友香は手を後ろで合わせて空を見上げた。


「彼女が好きな人って・・・・すごい人だよ」

「・・・・・」

「会ったことないけど分かるの。だって爽ちゃんの好きになった人だよ。やっぱすごい人

 なんだろなって・・・思う」

「・・・・・・」


光平は何も言えなかった。そしてその時初めて考え始めた。彼女から見た風早という人間を。

彼女がなぜ風早が好きなのか。


「・・・・かもな。沢渡の言うとおりだよ。俺じゃ無理なんだな・・・」

「え?」

「俺じゃ・・・・あの笑顔にさせることはできない・・・」


光平は仙台での爽子の笑顔を思い浮かべた。


「たぐっちゃん・・・」


光平は悲しそうな顔で、すっかり冬の星座が輝いている夜空をいつまでも見上げていた。




**********




「コーヒーお待たせしました」


コトンッ


会社近くのカフェに入った3人は店の暖かい雰囲気に気持ちを落ち着かせた。静かな

BGMと人の入り具合が、話をするのに丁度良かった。爽子はそっと二人に視線を送る。

すると優しい面持ちでこちらを見ている二人の姿があった。


「あ・・・あのっ」

「ばかっ!」

「え・・・・」


いきなり叫んで泣き出した千鶴に爽子はびくっとして身構えた。


「なんで言わないんだよ―っそんなことになってるなんて全然知らないから・・・っ」

「え・・・あのっ・・・」


爽子は千鶴の叫びに状況を飲み込めずおろおろとして瞳を揺らした。


「いや・・怒ることでもないんだけどさ・・・私らこんなもんかって・・・」

「爽子・・・もう自分で抱え込むのはやめな」

「・・・・・」

「全部、聞いたよ。友香さんから」

「!」


爽子が驚いたように目を見開くと、温かい目で微笑んでいる二人がいた。そして、爽子は

二人がどんどんぼやけて見えなくなっていくのを感じた。今まで我慢していたかのように

自然な涙が次から次に溢れてくる。


「ううっ・・・・うっ」

「よしよし」


あやねはそう言うと優しく爽子を抱きしめた。千鶴もその上から二人を抱きしめる。いつ

しか爽子は子供のようにしゃくりあげて泣いていた。


うわぁ〜〜〜〜〜〜〜んっお〜いお〜いっ


「ちづ〜〜あんた泣きすぎだって」

「矢野ちんだって・・・っ」

「うぇんっ〜〜〜〜っ」


爽子は二人に抱きしめられながら、胸の中の悲しみが外にあふれ出していくのを感じた。

ずっと心の奥にしまい込んでいた感情。”悲しみ”が出てくると、止まらないほど悲しく

なってどうしようもなくなって涙が次から次にあふれ出した。

こんなに悲しかったのに、どうして今まで”見ないふり”ができたのだろう。


この時、やっと爽子は現実と向き合うことができたのだ。二人が側にいるだけで、以前の

自分になっていくのを感じた。


「あ・・・りがとう」


爽子は二人の存在に心から感謝した。



* * *



あやねと千鶴はもう一度、今までの経緯を詳しく爽子から聞いた。


「ふぅ・・・・それで”別れよう”なんて言ったんだ」

「風早くんから・・・絶対言えないと分かってたから・・・」


あやねはコーヒーを一含みすると、そっとカップを置いて言った。


「爽子あんたね・・・どうしたの?」

「え・・・?」

「確かに電話も聞いてないし、その女との状況もよく分かんないよ。分かってんのは

 風早の性格だけ。あんな真っ直ぐな男がそんなことをするかってこと」

「そーだよね。あの風早が爽子を裏切るとは到底思えないわ」


千鶴もあやねの言ったことにうんうんと頷くように言葉を添えた。


「でも・・・私、風早くんに嘘をついてしまったから・・・」

「え?それ何?」

「・・・・・」


二人は爽子に詰め寄ったが、爽子は絶対に口を割らなかった。


「それが何か分からないけど・・・・どんな引き金があろうと、話さなければ

 何も始まらないんじゃないの?」


爽子が顔を上げると、真剣な目のあやねと千鶴が爽子を見つめる。


「高校の時、爽子が勇気を出してくれたから、私たち分かりあえたんじゃない。風早

 とのことだって・・・」


爽子はあやねの言葉にハッとしたように目を見開いた。


お付き合いした時、どうしたらいいのか分からなかった私に風早くんは言ってくれた。


”たとえば、間違っててもいいから・・・いいんだ”


それからは彼に対して誠実でありたいと思った。ただ誠実でいたいと・・・。今の私は誠実

なのだろうか。ううん・・・違う。ちゃんと・・・向き合ってない。


「私たちが言えるのはそれだけだよ。爽子を信じてるから・・」

「あやねちゃん・・・ちづちゃん・・・」


爽子は潤んだ瞳で二人を見つめると静かに首を縦に振った。もう自分の中の”悲しみ”に気づ

いた以上、それと向き合うしかないのだ。話さなければ何も始まらないのだから・・・・。


「というわけで、はいっ」

「え?」


千鶴はカバンの中から取り出したものを爽子の前に差し出した。横であやねもにっこりと

笑っている。爽子は訳が分からず戸惑い気味に差し出されたものを見つめた。


「・・・これ」

「金曜の最終になってる。もう今週末、予定とかあっても知らな〜〜い」


千鶴は舌を出していたずらっ子のような顔で言った。爽子の驚いた顔が段々と崩れていく。

二人に差し出されたものとは、仙台への航空券だった。


「ち・・・づちゃん・・・あやねちゃん・・・・」


震える声で必死で言葉を紡ぎだした爽子を二人は優しく抱きしめた。


「何があっても向き合えると信じてるから。ちゃんと話して来るんだよっ!私らもやだから

 さっ・・・二人が幸せじゃないと」

「そうだよ。爽子。あんたらは特別なんだから。ずっと・・・一緒にいるんだよ。」

「ううっ・・・・あり・・がとっ」


爽子は喉の奥が痛くなる感覚を覚えながら手の平の幸せを優しく握りしめた。


「それから、友香さんにもよろしくね」

「うん・・・・・本当に・・ありがとう」


友香ちゃん・・・ありがとう。ちづちゃん、あやねちゃん・・・ありがとう。自分の秘密を伝えて

くれてまでも私のことを心配してくれた友香ちゃん。みんななんていい人なのだろう。

爽子は幸せな表情で涙を流し続けた。


あやねと千鶴は爽子の表情を見て、安心したように微笑んだ。















あとがき↓

爽子救済の回でした。二人の存在はいるだけで信頼できるのだと思います。そんな気持ちを
込めて書きました。さて、いよいよ今晩はアニメのあのシーン!!(関東地区だけだっけ?)
もぅぅ・・・眠れません。夜遅すぎなんだよねぇ。明日は寝不足ですね。仕事が・・・。w(*´Д`*)
それでは明日も頑張って更新しますっ!また遊びに来てくださいっ!

Half moon 75