まるはち人類学研究会(2017)

まるはち人類学研究会 活動報告(2015〜2016年度)

■目的、設立の経緯
[研究会の目的]まるはち人類学研究会は、中部地区の人類学を専攻する、もしくは人類学に興味を持つ若手研究者が集まり、研究発表、研究交流を行う場、同地区の人類学の振興に寄与することを目的とする。
[設立経緯]2010年4月より始動した中部地区の院生主導の研究会。中部地区には、約200回の開催の歴史をもつ中部人類学談話会(「談話会」)が継続的に活動をしているが、院生間の交流は場がなく、研究交流の場を用意する必要があった。当初は、「談話会」の下部組織としての活動を指向したが、オープンな敷居の低い研究会を目指し完全に独立した研究会として活動を開始した。

■活動の内容
原則、院生/若手研究者2名以上が共同テーマを設定して研究会を企画し、コメンテーターの人数・指名などは発表者の自由裁量としている。テーマの設定と企画書の提出を基本的には義務としており、定期的に個別の研究を発表する場としてだけではなく、人類学のなかでの議論の蓄積を踏まえた新たな論点の提示を図ってきた。南山大学人類学研究所を中心に名古屋大学、中部大学などで、原則として、8月を除く偶数月最終土曜日に開催している。
2011年からは月ごとの企画のシリーズ化を試みている。2011年から6月は人類学や関連諸学の新刊本を対象とし著者を招いた合評会、2012年から2月は中部地区の博士後期課程に進学しない学生も対象とした修士論文検討会、2013年から4月は社会人大学院生や一般企業等に就職した元院生による社会と人類学をテーマにした研究会を開催し、2014年から地方の大学院に出張する交流セミナーを実施してきた。
なお、合評会では、2011年6月は東賢太朗『リアリティと他者性の人類学―現代フィリピン地方都市における呪術のフィールドから』(2011年、三元社)、2012年6月は足立重和『郡上八幡 伝統を生きる 地域社会の語りとリアリティ』(2010年、新曜社)、2013年6月は平井芽阿里『宮古の神々と聖なる森』(2012年、新典社)、2014年6月は山本達也『舞台の上の難民 ―チベット難民芸能集団の民族誌―』(2013年、法蔵館)、2014年9月は新ヶ江章友『日本の「ゲイ」とエイズ:コミュニティ・国家・アイデンティティ』(2013年、青弓社)、2015年7月には塚原伸治『老舗の伝統と〈近代〉: 家業経営のエスノグラフィー』(2014年、吉川弘文館)、2015年10月には磯野真穂『なぜふつうに食べられないのか―拒食と過食の文化人類学』(2015年、春秋社)、2015年12月には野澤暁子『聖なる鉄琴スロンディンの民族誌: バリ島トゥガナン・プグリンシンガン村の生活、信仰、音楽』(2015年、春風社)をとりあげ、すでに合計8冊となっている。
評者のほか、まるはち人類学研究会の運営に参加している院生も著作を購入し、事前に検討会をおこなっており、若い院生の率直な感想を聞く機会としても活用されている。新刊を上程された著者自身による合評会の依頼、評者他薦による合評会の持ち込み企画など、また、合評会の場での自主的な宣伝・販売の機会としての活用を歓迎しており、全国から依頼を受け付けている。

【これまで2年間の活動実績】(所属等はすべて当時のもの)

【2016年度】
第32回「家とケアを考える」(2016年6月11日実施)

第33回 まるはち人類学研究会「特別企画:北陸先端科学技術大学院大学の大学院生・若手研究者との交流セミナー」(2016年11月26日実施)

  • 早川和哉(JAIST博士後期課程)「知的財産権法制度下での先住民運動における歴史的変遷──ディズニー映画「モアナ」関連商品に対するNZマオリによる抗議の事例か」
  • 須藤修司(JAIST博士後期課程)「テレビ放送のメタ情報の加工・流通・消費をめぐるビジネス人類学的研究」
  • 大熊裕太(JAIST博士前期課程)・伊藤泰信(JAIST)「日本における産業系エスノグラフィ概観──過去15年の経緯をめぐって」
  • 小野田敬(JAIST博士後期課程)公的研究開発機関における研究施設の共用をめぐるエスノグラフィ── NMR(核磁気共鳴)の事例から」
  • 山口宏美(JAIST博士後期課程)「多職種協働の医療人類学」
  • 加藤英明(南山大学大学院博士後期課程)「設計図から現場へ──研削と計測の技法を中心に」
  • 天野紗緒里(南山大学大学院博士前期課程)「「占いの館」における「スピリチュアル系」の占い師──名古屋市内で活動する占い師の事例から」
  • 石川俊介(日本文化人類学会会員)「おんばしら」とその周辺──「モノ」の二次利用についての予備的考察

 
【2015年度】
第27回「「出家」とはなにか:タイとミャンマーの比較民族誌的研究」(2015年4月5日実施)

  • 岡部真由美(中京大学)「出家者による世俗への接近:現代タイ社会における上座仏教僧の「開発」からみた僧俗の境界をめぐって」
  • 藏本龍介(南山大学)「現代ミャンマー社会における『出家』の挑戦:贈与をめぐる出家者/在家者関係の動態」
  • コメンテーター:速水洋子(京都大学)、石森大知(武蔵大学

第28回「合評会−塚原伸治『老舗の伝統と<近代>:家業経営のエスノグラフィー』」(2015年7月19日実施)

第29回「合評会−磯野真穂『なぜふつうに食べられないのか―拒食と過食の文化人類学』」(2015年10月25日実施)

  • 発表者:磯野真穂(国際医療福祉大学大学院)
  • コメンテーター:濱雄亮(慶応大学文学部)、碇陽子(金沢大学)、小川さやか(立命館大学

第2回交流セミナー「北陸先端科学技術大学院大学の大学院生・若手研究員との交流セミナー」(2015年11月15日実施)

  • 早川和哉(北陸先端科学技術大学院博士後期課程)「知的財産法制度のもとで財産化する伝統知識とハワイ先住民との関係性」
  • 須藤修司(北陸先端科学技術大学院博士後期課程)「ペイテレビイノベーションの普及と視聴者の知識について」
  • 山口宏美(北陸先端科学技術大学院博士後期課程)「カンファランスと境界対象が媒介する多職種協働 :心大血管疾患の治療と予防の事例から」
  • 坂下凌哉(南山大学大学院博士前期課程)「カンボジアにおける土器生産の変様:コンポンチュナン州アンドゥオン・ルッサイ村の民族誌
  • 加藤英明(南山大学大学院博士後期課程)「 NC旋盤の使用からみる機械工の創造性:愛知県刈谷市の町工場を事例に」
  • 石川俊介「『民俗行事』の存続と目的:富山県南砺市城端の盤持大会から」
  • コメント:松村恵理(金沢大学)、田村うらら(金沢大学)

第30回「風土に根ざす住まいの伝統と変容:ブルキナファソ、カッセーナの調査から」(2015年11月28日実施)

  • 発表者:清水貴夫「趣旨説明」(総合地球環境学研究所
  • 中尾世治(南山大学大学院)「屋敷の不均衡な変容:ラングェロ村の村長の屋敷の経年変化」
  • 伊東未来(南山大学・学振PD「住まいとジェンダー:ラングェロ村の女性にとっての家-イエ」
  • 小林広英(京都大学大学院地球環境学堂)「土の家をつくる技術:ラングェロ村の伝統住居と在来建築技術」
  • コメンテーター:栗原伸治(日本大学)、後藤澄子(リトルワールド)

第31回「合評会−野澤暁子『聖なる鉄琴スロンディンの民族誌: バリ島トゥガナン・プグリンシンガン村の生活、信仰、音楽』」(2015年12月19日実施)

■研究会のスピンオフ的な活動、および今後の展開について考えていること
昨年度同様、「地方」――「周縁」という語を用いる誘惑に駆られますが――の大学院では、ますます院生数が減り、「客観的な」状況は年々困難になっていますが、様々な方々にご支援をいただきながら、研究会はついに32回を超え、7年目を迎えることができました。昨年度も引き続き、3回目となる北陸先端科学技術大学院(JAIST)との交流セミナーを開催いたしました。一昨年同様、北陸先端科学技術大学院(JAIST)の伊藤泰信先生、山口宏美さんの御好意と熱心なサポートをいただき、開催を実現できました。そして、第1回から第3回までの北陸先端科学技術大学院(JAIST)との交流セミナーに関する活動内容については、山口宏美さんによって、北陸人類学研究会ニューズレターNo26のなかでご報告頂きました。発表者、コメンテーター、参加者、ならびに陰ながらご支援いただいているみなさまにあらためて感謝申し上げます。
 
今年度も2カ月に1回のペースで研究会を開催していく予定です。毎回の平均参加者数は約20名です。研究会企画、合評会のもちこみは随時歓迎しております。ご発表はお一人による発表からも受け付けております。発表時間、質疑応答時間はご相談の上、可能な限りご要望にお応えいたします。発表時間1時間以上、質疑応答時間1時間以上のじっくりとした議論をお望みの方、ぜひご連絡ください。
一昨年度から開始した「地方」の大学院との「交流セミナー」では、「まるはち人類学」が日本各地に出張して研究発表や交流会を実施しています。「院生/研究仲間が少ない」あるいは「議論の場が少ない」といったお悩みをもつ大学に「まるはち人類学」が出張いたします。基本的に手弁当の研究会であるため、交通費等の問題はありますが、可能な限り実施に向けて努力いたします。ぜひご相談ください。

■連絡先
hide2369@hotmail.co.jp(メール、代表:加藤英明)

(文責:加藤英明)