『井上眼科』の袖を走る本郷通り越しには「御茶ノ水ソラシティ」が広がっている。どちらかと言えば閑散としていて、観光誘致としては失敗例なのではないか。 この施設ができたのは一昔以上前だから、私には以前の風景は思い出せない。ただし、今でも傍らには「幽霊坂」が残されており、その名前だけがこの地の記憶を辿るよすがとなっている。 その坂の名が示す通り、この一辺は昼間でも陰鬱とした感があり、江戸の風情を漂わせていたものだが、それもこの再開発で陽の当たる場所へと変貌を遂げてしまい、その面影はもはや無い。 幽霊坂といえば、佐藤春夫の『退屈読本(上)』(冨山房百科文庫)には 「嘗て私が窮乏して幽霊坂といふ地にゐた…