理想と現実のはざまに響く声――プラトン『国家』における正義と哲人統治 一、はじめに――正義への問いとしての『国家』 プラトンの著作『国家(Politeia)』は、古代ギリシア哲学における政治・倫理・教育の三位一体を根幹から問い直す大著でございます。本書は「正義とは何か(τί ἐστι δικαιοσύνη)」という根源的な問いを起点としながら、理想国家の建設を描き出すことで、個人の魂の在り方と共同体の秩序を重ね合わせて論じております。 本稿では、まず『国家』における正義と哲人統治の理念について概観し、ついで「洞窟の比喩」に代表される認識論的枠組みを検討いたします。さらに哲学史的背景、他の対話篇…