春を待つ逝くに逝けない老夫婦 先日、永年付き合ってくれた先輩が亡くなった。ここ数年は年賀状やりとりだけになってしまっていたので、まさか、と虚を衝かれた。葬儀中には彼とのいろんな思い出が脳裏に湧き上がってきた。彼は半年ほど病床にあり、ご家族に篤く看取られたようだった。私はお話を伺いながら、バッハの「カンタータ82番」を無性に聴きたいと思った。後日、故人を知る友人と共に思い出を語りながら「カンタータ82番」をかけてささやかに悼んだ。 この曲はバッハのカンタータの中でもよく知られたもので、タイトルは「Ich habe genug」。アルヒーフのカール・リヒター版解説では「われは足れり」と訳しているが…