導入:夕暮れと、伝説の串が呼んでいた それは、何の変哲もない平日の夜だった。けれど街角に灯るネオンの向こうで、私の胸はひとつの名を囁いた──「新時代」。新時代。大衆居酒屋の名である。だがその名は、ただの屋号ではない。それは“安さ”という福音を携えた教えであり、“伝串(でんぐし)”という祭具を讃える信仰だった。伝串は伝説のように語られる。一本50円(税抜)、55円(税込)という奇跡の価格。外はパリパリ、中はモチモチ──「パリモチ」の食感は、誰もが頷く至高の調和。累計販売本数は数億本を越え、ピラミッドのように積まれた串の塔は、見る者の胸を震わせる。生ビール一杯190円、ハイボール150円。深夜まで…