池波正太郎(1923-1990)の『剣客商売』が一般人に対してイメージを変えた功績の一つは田沼意次のイメージだと思う。我々は小さい頃から田沼意次は賄賂政治家、松平定信は寛政の改革を行った清廉潔白な政治家というように習っていると思う。しかし、『剣客商売』の田沼像は秋山小兵衛・大治郎親子の庇護者で、武芸者を愛し、大所高所から物事を見る、懐の大きな老中として描かれる。*1実際の意次も重農主義から重商主義へ日本社会が変わる中で貨幣経済を熟知した政策を行った政治家だったと考えるべきである。 学術的に田沼像を大きく修正したのは大石慎三郎(1923-2004)*2の『田沼意次の時代』(岩波書店、1991)で…