たこつぼやはかなきゆめをなつのつき 貞享5年(1688)4月、明石での作。蛸壺は、蛸を捕らえるための素焼の壺で、浮標をつけて海に沈めて、そこに入った蛸を引き揚げる。潮目が変わる際に天敵から身を守るために蛸が穴に隠れ潜む習性を利用したもので、多くは夜に仕掛けて朝に引き上げて蛸を捕らえる。 蛸は明石の名産であり、海岸には蛸壺が多く見られたのであろう。そして、今まさに海底で蛸壺に入った蛸に思いを寄せれば、その一夜かぎりの命はもちろん、芭蕉自らも含めた有情の一生は、下天のうちを比べれば夢幻のようなものであることが今さらながら思い知られる。折しも、暑苦しい浮世にあって一服の涼をもたらす夏の月が、真如の月…