あとどれだけ、待ったらいいのだろうか。 二十世紀後半を生きた者で、文学か演劇に興味を抱いた経験がある者なら、サミュエル・ベケットの『ゴドーを待ちながら』に考え込まされた経験をもたぬ者は少なかろう。 噺をくわしくなぞることをここでは措いて、粗雑に申しておけば、二人の浮浪者が、自分の存在理由やら生甲斐やらを説き明かしてくれるはずのゴドーなる人物を、来る日も来る日も待ちわびて過したあげく、ついにゴドーはやって来ないという噺だ。 日本での初演は宮口精二主演による文学座アトリエ公演とのことだが、私は年代的に間に合っていない。次が宇野重吉・米倉斉加年主演による劇団民藝公演で、これが日本の観客の多くに衝撃を…