怪談 ~正座する男~ 夕闇が迫る11月、冷たい雨が降りしきる中、優里は駅に降り立った。時刻はすでに21時を過ぎている。どうも昼間から少し熱っぽく感じられ、体調が優れない。駅から家路の途中には川があり、いつもなら遠回りになってでも街灯があり明るい大橋を選ぶところだが、一刻も早く家に着きたい一心で、優里は暗くて人通りの少ない近くの歩行者専用の橋へ向かった。 駅を出て土手沿いの道を少し歩くと、眼下にひっそりと佇む歩行者専用の橋が見えてくる。そこへ続く下り坂は土手の上からは死角になり、橋の街灯も球切れか点いていないものもあり、如何にも心許ない。普段なら夜中に一人で渡ることをためらう場所だが、急ぐ気持ち…