武者小路実篤の作。初出:昭和14年7月「日本評論」
この小説は、「友情」が女学生の間で愛読されているという噂が一つの刺激になって書かれたという。なお、「当時シナで戦争が始まって居、若い人たちがよく死ぬので、愛する者を失う人に同情」して書いたとも、作者はいっている。1936年から翌年にかけて武者小路はヨーロッパを旅行したが、その体験が取り入れられていることも注目される。
この作品では、この上ない純粋な愛が、運命の魔手によって、不意に打ち砕かれてしまう悲劇が描かれている。しかし、暗くはない。なおも、生を信じようとする作者の態度が力強い。「友情」と共通するところもあるが、真の愛について考えさせられる作品である。(参照「読書への招待」旺文社)