あくまでも当方事情と視定めねばならない。先方事情ではない。つまり評価だの想い出だのは、このさい度外視である。 文学史上の大家による過去の名作ならば、古書肆に出しやすい。同時代作家のお仕事として、刊行時に買って読んだ作品は、出すと残すの線引きが微妙だ。 商業的成果の側面がようやく色褪せ、文学的評価が定まるのはいよいよこれからだという作品が多い。作品と出逢った時局や、当時のわが身の上など、忘れえぬ想い出が強くこびり着いている場合もある。貴重といえばどの一冊も、貴重でないものなどない。 当時は巧く読取ることができなかった作品についても、今読返せば印象が異なることもきっとあろう。より深く理解できること…