文芸批評家としての入江隆則に、注意を払っていた時期があった。 第一評論集『幻想のかなたに』に広津柳浪論の力篇が収録されてあったのに驚いた。かような入口から登場する批評家もあるのか、という感じだった。以後の批評文にも教えられた。『新井白石 闘いの肖像』からはありがたい啓蒙をいだだいた。D・H・ロレンスについてもだ。 だが批評文のなかには、これなら江藤淳でいいや、あるいは桶谷秀昭のほうがと感じさせられるものもあって、この世代の批評家のお一人なのだなと記憶した。 ふたたび入江隆則に刮目させられたのは『敗者の戦後』が出たときである。敗戦後の日独比較よりは、第二次大戦敗戦後日本と第一次大戦敗戦後のドイツ…