『絵のなかの散歩』洲之内徹/新潮文庫/平成10年刊 本に始まり、本に終わる。それが私の引越しだ。机や床に積み上げられた本をどかさないことには荷造り一つできない。越してしまえば生活必需品を開梱し、足りないものを買い足すことに追われる。洗濯と入浴と睡眠ができるようになれば、あとのことは後回し。段ボール五箱の本は長らく手付かずで放置された。 食事も、簡単なもの以外は外食に頼ってばかりで、おかげで近所にいくつか馴染みができた。羽根つき餃子が名物のカフェがその一つで、カウンターと二人掛けのテーブル三卓の小さなお店だ。おいしいのはもちろん、器や内装の感じがとても良い。テーブルごとに異なる椅子、入口のステン…