🪻病から回復した源氏【源氏物語 65 第5帖 若紫9】 夜明けの空は十二分に霞んで、 山の鳥声がどこで啼《な》くとなしに多く聞こえてきた。 都人《みやこびと》には 名のわかりにくい木や草の花が多く咲き多く地に散っていた。 こんな深山の錦《にしき》の上へ 鹿が出て来たりするのも珍しいながめで、 源氏は病苦からまったく解放されたのである。 聖人は動くことも容易でない老体であったが、 源氏のために僧都の坊へ来て護身の法を行なったりしていた。 嗄々《かれがれ》な所々が消えるような声で 経を読んでいるのが身にしみもし、 尊くも思われた。 経は陀羅尼《だらに》である。 京から源氏の迎えの一行が山へ着いて、…