明治二十七年十月二十五日、石黒忠悳(ただのり)に勅が下った。 朝鮮半島へと渡り、戦地各所を巡視して来よとの命である。 翌日、直ちに広島大本営を出立したと記録にあるから、派遣自体は前々から決まっていたことなのだろう。 日清戦争の幕が切って落とされてから、既に三ヶ月が経過している。 黄海海戦の勝利によって制海権は掌握済みだ。安泰そのものな航路をたどって、石黒忠悳は現地入りした。 (Wikipediaより、黄海海戦を描いた浮世絵) 半島内は半島内で、第一軍の獅子奮迅の活躍により、清軍の影はまったく駆逐済みである。 大本営の重鎮たる石黒を、 今次戦争の野戦衛生長官を、 大日本帝国に軍医制度を整えた、草…