いったん海に出た以上、手ぶらじゃ港にゃ戻れねえ――。 額の上にねじり鉢巻きでも結んでそうな、そういう頑固な漁師気質は、どうも日本の独占物ではないらしい。 アメリカでもそうだった。 少なくとも十九世紀、ニューイングランドの諸港に集った、捕鯨船団のやつらは、だ。 (セミクジラ) 彼らが目指すはサンフランシスコ。クジラを獲りつつ、北極海を横切って、西海岸の都市へと向かう。ほぼ同時期の日本国では「桑港」の二文字で表記されたこの街こそが、鯨油取引の中心だった。 航路の危険は折り紙つきだ。 ガスが湧き、暗礁待ち伏せ、氷山さえも押し寄せる。北極海とはそういう海だ。そういう海でクジラを探す。毎年決まって一隻や…