行くと来《く》と せきとめがたき 涙をや 絶えぬ清水《しみづ》と 人は見るらん 逢坂の関で源氏とすれ違った空蝉の君‥ 昔が昨日のように思われて心が乱れる (by 空蝉の君) 〜行く時も帰る時にも逢坂の関で、 せきとめがたく 流れるわたしの涙を 絶えず流れる関の清水と 人は見るのでしょうか 【第16帖 関屋 せきや】 九月の三十日であったから、 山の紅葉は濃く淡《うす》く紅を重ねた間に、 霜枯れの草の黄が混じって見渡される逢坂山の関の口から、 また さっと一度に出て来た 襖姿《あおすがた》の侍たちの旅装の厚織物や くくり染めなどは一種の美をなしていた。 源氏の車は簾《みす》がおろされていた。 今…