【私本太平記19 第1巻 大きな御手11】 終日《ひねもす》の舟行《しゅうこう》なので、 退屈もむりはないが、舟の中ほどで、 博奕《ばくち》が始まっていたからである。 たしか花街《いろまち》の神崎あたりで、 どやどや割りこんで来た 今時風《いまどきふう》な若雑人の一と組なのだ。 初めのほどは、酒を酌みつつ、 わざとらしい猥談《わいだん》を放って、 女客が顔赤らめるのを興がッていた程度だったが、 やがてのこと博奕道具を取出すと、 ことば巧みに、そこらの乗客を鴨に引きこんで、 銭の音やら雑言のやりとりに、 眼いろを変えだしたものだった。 その手練やら軽妙な諧謔《かいぎゃく》などに、 つくづく感じ入…