「この道誉とて、鎌倉の恩寵をうけた一人、 なにも世変《せいへん》を好むものではないが、 かなしいかな、天運循環の時いたるか、 北条殿の世もはや末かと見すかさるる。 高時公御一代と申しあげたいが、ここ数年も、こころもとない」 道誉の眸は、高氏の眸をとらえて、離さない。 横にはまた、息をつめて、 彼の顔いろを見すましている土岐左近の毛あなから立ちのぼる殺気があった。 あわてまい、身じろぎも危険である。 と考えてか、高氏は乾きを覚えた唇もしめさずに凝《じ》っといた。 すると、道誉の頬の黒子《ほくろ》がニヤと笑ったと思うと、 高氏の眸から、眸を外した。 「はははは、ご迷惑かな。かかる心をゆるしたおはな…