『雑文集』/村上春樹/新潮文庫/平成27年刊 フリーライターをしていた頃、私の書いたものを読んで「小説を書いたら」と言う人がたまにいた。そういう人はおそらく小説という形式を文章表現の最上位と捉えていて、「あなたにはそれが書けるよ」という褒め言葉として言ってくれたんだと思う。それを真に受けて小説を書いたり、どこかの編集部に持ち込もうとか新人賞に応募しようとか、そういう野心も余裕も私にはなかった。それに、小説だろうとエッセイだろうと、日記だろうと何だろうと、おもしろいものはおもしろいし、つまらないものはつまらない。形式は別は何でもいいじゃないかと思っていた。 だから、ある文芸誌で小説家ではない人に…