西暦一六四一年、江戸時代初期、三代将軍家光の治下。寛永の大飢饉がいよいよ無惨酷烈の極みへと達しつつあったその時分。幕府の命で、三十人の首が斬られた。 比喩ではない。 そっくりそのまま、物理的な意味で、である。 彼らに押された烙印は「奸商」ないし「姦吏」のいずれか。 囲炉裏端の筵を刻み、煮込んで喰らう。そんな真似さえ百姓たちの間では常態化しているこの苦しみの只中で、なおも物資を不当に溜め込み値を吊り上げて、もって私腹を肥やさんとした。そういう廉(かど)で告発されて、処刑されたものだった。 (江戸城、幕末に撮影) ――ざまをみよ。 庶民はむろん狂喜した。さもありなん、「他者(ひと)の膏血を啜る鬼め…