東証一部上場企業経営者の報酬とプロ野球選手の年俸の比較
株主総会が多い6月も終わり上場企業経営者の報酬額がどの程度なのか明らかになりました。
産経新聞によると、上位10人は以下の通りです。
順位 | 企業名 | 氏名 | 報酬額 |
---|---|---|---|
1 | 日産自動車 | カルロス・ゴーン社長 | 8億9000万円 |
2 | ソニー | ハワード・ストリンガー会長兼社長 | 8億1400万円 |
3 | 大日本印刷 | 北島義俊社長 | 7億8700万円 |
4 | 武田薬品工業 | アラン・マッケンジー取締役 | 5億5300万円 |
5 | 信越化学工業 | 金川千尋会長 | 5億3500万円 |
6 | 双葉電子工業 | 細矢礼二会長 | 5億1700万円 |
7 | 日本調剤 | 三津原博社長 | 4億7700万円 |
8 | セガサミーHD | 里見治会長兼社長 | 4億3500万円 |
9 | 富士フイルムHD | 古森重隆社長 | 3億6100万円 |
10 | ファナック | 稲葉善治社長 | 3億3100万円 |
これに対して、高額年収者の代表とされるプロ野球選手の年俸を見てみましょう。
(プロ野球選手の年俸はあくまでも推定額です。こちらのサイトを参考にしています。)
順位 | 球団名 | 氏名 | 報酬額 |
---|---|---|---|
1 | 巨人 | ラミレス | 5億円 |
2 | 阪神 | 金本知憲 | 4億5000万円 |
3 | 中日 | 岩瀬仁紀 | 4億3000万円 |
4 | 阪神 | 城島健司 | 4億円 |
5 | ソフトバンク | 松中信彦 | 4億円 |
6 | 阪神 | 藤川球児 | 4億円 |
7 | 巨人 | 小笠原道大 | 3億8000万円 |
8 | 巨人 | 高橋由伸 | 3億5000万円 |
9 | 巨人 | 阿部慎之助 | 3億5000万円 |
10 | 日本ハム | ダルビッシュ有 | 3億3000万円 |
1億円以上もらっている経営者は朝日新聞によると280人、これに対して野球は先程の資料を元にすると73人です。
野球選手は、イチローや松井秀喜のような高額プレーヤーがメジャーに行ってしまったこともあり安くなっているように思います。他方で、経営者はグローバル企業の経営者ということもあり、メジャー並みの報酬もさもありなん、と思います。
問題は、これらの報酬が高すぎるのかという点です。野球選手の年俸が高すぎるという批判はほとんど聞こえてきませんが、企業経営者の報酬については嫉妬も含めてかなり強い批判があるようです。
しかし、この数字が報酬のすべてであるならば、あまり高くはないように思います。高額報酬を得ている企業経営者は実力主義が徹底しています。高額報酬を得ている経営者は野球選手と同じで、企業の業績が悪化すれば確実に責任を取らされる人です。10年も続けられることは極めて稀でしょう。
企業経営者になるには並みはずれた努力が必要です。知識だけではなく人格や精神、身体をも鍛えなければなりませんし、運も必要です。企業経営者には少なくとも野球選手位の報酬が与えられるべきだと思います。
例えば、成功の証としてわかりやすい例である東京都心のちょっとした家を買おうと思えば数億円です。年俸1億〜3億円というのは5年程度でこれくらいの資産が形成できる程度の報酬です。
企業経営者の報酬がサラリーマンとほとんど変わらないなら、誰も企業経営者になどなりたいうと思わなくなるでしょう。世の中、もちろんお金だけじゃないですが、貧しい人が夢を見るのは、まず家族が生活する家や家族を養うお金です。それは資本主義社会にあっては間違いではないと思います。
報酬額はプライバシーだから公開すべきでないという意見も多いようですが、公開は必要です。お手盛りの防止などと言われますが、それよりもまず、企業経営者という地位を向上させることにつながるからです。将来なりたい職業の中にプロ野球選手だけでなく企業経営者が出てくるようになってもらいたいです。日本のこどもがジョブズやゴーンに憧れるというのもあって良いのではないかと思います。
最後に、報酬は高額で構わないのですが、高額報酬をもらっている人はぜひともお金をどんどん使っていただきたいです。使わなければ経済は回りません。お金を持っている人には社会に対する責任があります。多くの人の雇用を生み出すような素晴らしい使い方をしていただきたいと思います。
個人から出資を受けたらIPOできなくなる日本証券業協会の規則変更に大反対する磯崎先生を強烈に支持する
公認会計士の磯崎先生がご自身のブログで日本証券業協会の規則変更に大反対しています。磯崎先生はアゴラにも記事を投稿されています。詳しい話は、磯崎先生のエントリーを読んでいただくのが一番良いと思います。このような規則変更がまかり通れば、日本からベンチャー企業と個人投資家が消えてなくなるでしょう。
磯崎先生は会計とベンチャー支援の専門家の立場からいろいろと論じられていますが、私は視点を変えて法務の視点から考えてみました。結論から申し上げると、このような規則変更がなされると、上場しようとしている企業や個人投資家は、司法的救済を受けることさえでききないかもしれません。裁判を受ける権利さえも否定されかねないように思います*1。
まず、この規則案は、ベンチャー企業がその役職員又はその親族以外の個人から出資をしてもらった場合には、日本証券業協会の引受会員が新規公開時の引受けを行うことを原則として禁止するものです。未公開株詐欺を防止することを目的とするものですが、目的を達成するために必要な限度を超えた過度に広範な制限です*2。規則制定権の逸脱濫用の可能性が高く、金商法が金融商品取引業協会に規則制定権を与えた趣旨に反しているのではないかと考えます。私はこの規則案は違法である可能性が高いと思います。
次に、株式公開(上場)するには、証券会社に引き受けてもらう必要がありますが、現時点で日本の証券会社はすべて日本証券業協会に加入していますので、規則が変更されれば個人投資家から資金提供を受けた企業は上場できなくなります。上場できないということは、企業にとっては資金調達の手段が著しく制限され、株主にとっては投下資本の回収方法が著しく限定されるので、企業と株主双方にとって経済的損失です。そのため、この規則変更によって、企業と株主双方に経済的損害が発生します。
ところで、この規則は金融商品取引法(以下、金商法)が定める内閣総理大臣の許可のもとに設立された金融商品取引業協会の一つである「日本証券業協会」の規則です。そのため、訴訟の前提として「日本証券業協会」の法的性質を考えておく必要があります。
金商法では、金融商品取引業協会は理論上は強制加入団体ではありません。法律の上では金融商品取引業協会に加入しない証券業者が存在することを予定しています(金商法56条の4参照)。しかし、証券取引業においてはわが国には現在日本証券業協会に加入していない証券業者は存在しません。すべての証券業者が日本証券業協会に加入しているのです。そのため、この日本証券業協会に加入しない団体が新規公開時に引き受けすることは事実上あり得ません。
そのため、日本証券業協会は、現実的には強制加入団体に限りなく近い団体なのですが、あくまでも建前上は強制加入団体ではない任意の自主規制団体です。この点は誰を訴えればいいのか考える上で重要です。
日本証券業協会の規則案は違法である可能性が高いですし、企業や株主はこの規則変更によって損害を受けますので当然に司法的救済を求めたいと考えます。しかし、一体誰を訴えればいいのでしょうか。
民間企業にすぎない証券業者に引き受けを断られたとしても、企業や株主と証券業者の関係は互いに任意の取引でしかありません。企業や株主に一切問題がなくても証券会社に引き受けをする義務はありません。つまり、企業や株主は証券会社と契約が成立する(つまり引き受けがきまる)までは訴えることはできないでしょう*3。
次に、日本証券業協会を訴えることを考えてみます。もし日本証券業協会が強制加入団体であれば、日本証券業協会を行政庁と同視し、日本証券業協会を被告として行政訴訟を提起することが可能かもしれません。しかし、先に説明したように日本証券業協会は法的には強制加入団体ではありません。また、裁判所に証券業者の自主規制団体でしかない日本証券業協会を行政庁であると認めさせるのは相当の困難が予想されます。仮に行政庁であると認めさせることに成功しても、さらに日本証券業協会の規則は企業や個人投資家を直接拘束するものではなく、加入する証券業者を拘束するにすぎないので、日本証券業協会の規則変更行為には処分性がないように思われます。行政訴訟はかなり困難です。
また、民事訴訟もかなり困難です。まず、企業や個人投資家は日本証券業協会と契約関係にないので不法行為を主張することになります。しかし、日本証券業協会の規則変更行為と損害との間の因果関係を証明することは極めて困難であります。なぜなら、証券業者は規則案以外の理由(たとえば利益にならないと判断した等)で引き受けを拒否したのかもしれないですし、日本証券業協会に加入しない証券業者に引き受けてもらうことも理論上可能だからです。
結局、日本証券業協会の規則変更は内閣総理大臣の認可が必要(金商法67条の12)なので、内閣総理大臣の認可行為を処分行為として国を訴えることになるのでしょうか。しかし、規則が適用されるのは日本証券業協会に加入している証券業者であって企業や個人投資家ではありませんし、企業や個人投資家がこの規則案が原因で証券会社から引き受けを拒否されたという事実を立証するのは極めて困難です。
結局、企業や個人投資家が司法的救済を得たいと思っても、誰を訴えればいいのかさえよくわかりませんので、司法的救済は極めて困難と言わざるを得ません。仮にいずれかのルートが裁判所に認められて司法的救済が可能になるとしても訴訟費用や上場までに要する期間など、企業や個人投資家が被る損害はあまりにも大きいものとなります。
日本証券業協会の規則変更は、上場を目指す企業や個人投資家の損害が甚大であり、さらに司法的救済が困難になるため、極めて不公正です。日本証券業協会の規則変更に私は反対します。
*1:かなり急いで考えたのでどこかに穴があるかもしれません。穴に気づかれた方がいらっしゃいましたら、コメント欄でご教授いただければ幸いです。
*2:どのように過度に広範な規制なのかは磯崎先生のブログなどを参照してください。例外的に許される場合が列記されていますが、第三者からの出資の場合には有価証券届出書や有価証券報告書を提出しないといけません。上場前の企業やそれに投資しようとする個人に対してここまで大きな負担を課すことはもはや合理的とは言えません。未公開株詐欺を防止するだけであれば、詐欺罪の罰則を強化する、株式を用いた詐欺の罪を新設する、検察側の立証負担の軽減(立証責任の転換)など、他にいくらでも方法がありますし、個人の財産を制限する話ですからあくまでも国が法律を改正すべき話です。
*3:そして、証券業者は何か面倒な点があれば利益にならないと言って断るでしょう。誰も利益にならない面倒な訴訟を抱えることを望まないものです。