2007-07-30

休刊したことが記憶に新しいアワーズプラスに掲載され、とんでもなく先が気になる引きで終了、続きは単行本の書き下ろしという形をとった「いちごの学校」の単行本がついに発売ですよ！
いやぁ、面白かった！胃が痛い！

書き下ろしされたラストは…色んな意味で満足できるものでした。
では書き下ろし分のネタバレはほとんど無しで、感想を。
雑誌掲載分のネタバレは有ります。

1話目冒頭のカラーページ、起床した若い夫婦とその赤ん坊の幸せそうな風景。
「おお、きづきあきらでハートフルなファミリーものか！？」と思ったものです。

が、そこはきづきあきら先生、一筋縄ではいきません。
夫婦は、元教師と元・その教え子。
しかも、生徒は妊娠により高校を辞めているときた。

元高校教師の夫・大宮壱吾。生徒からの評判もいいやり手の現国教師…だった。
元生徒の妻・旧姓、板橋くるみ。友達思い*1で、ミステリアスな面も持つ女生徒…だった。

1話の時点では、まだハートフルと言っていい話。
この漫画は、結婚している”現在”と学校にいた頃の”回想”と、過去と現在の場面を切替ながら展開されます。
で、1話での現在は「結婚して半年」でくるみが初ハンバーグに挑戦せんとする初々しいもの。
くるみにとっての壱吾はまだ「先生」の抜けず、「好き」と「愛している」の違いがわからないと訴える存在。
回想では、壱吾がくるみを認識し、異性として意識し始めた頃を描いています。

とはいえ、くるみは終始”親”でありながら”子供”でもある位置づけで、その不安定さと時折見せる「何を考えているかわからない」部分に壱吾は戸惑う。
壱吾は、年齢的にも社会経験的にも”くるみよりも大人”なだけで、やはり”大人”でありながら”子供”だと言えるでしょう。
”親”になって、壱吾は大人になっていく感じ。
ですが、くるみは年齢的にも「高校中退」という経緯的にも割り切れない部分は大きくて、そこがこの作品の闇のひとつでしょうね。

2話では、三橋がくるみと壱吾を訪ねる現在と、壱吾がくるみを意識し始めてから二人が教師と生徒の一線を越える回想。
三橋が壱吾を好き、と知っていた三橋の友達のくるみが壱吾と妊娠して結婚ということに思うことが無いはずがなく、その心情の吐露が「ああ、黒くなってきた」と雑誌を読んだ時には思ったものです。

3話、一目につかないよう逢瀬を重ねる二人と妊娠が発覚する回想、その頃の壱吾の認識の甘さの露呈。
3話での現在は、母としてのくるみと、二人に会わないようにしていた壱吾の母と孫との初対面*2があり、”母性”が描かれています。
これは後に描かれる”父性”と対応してる形になるのかな。

4話の回想は、妊娠発覚後に訪れるべくして訪れた状況。
「産む」「堕ろす」の問題だけでなく、教師と生徒の関係により生じた問題「一人の生徒のあらゆる可能性を摘み取る」か「一人の赤ん坊を殺す」の選択なので、読んでいて胸が痛い胃が痛い。
さらには、二人だけの問題だけでなく周囲の環境・人間の問題でもあるので、より重い。
これを読んでいて、「実際にこういう状況ならこういう問題は出てくるよな」と思わされてなりません。

4話の現在は、3話のラストで提示されたことに対しての答えがないまま進み、それを壱吾がくるみに言ったことで新たに「提示されたことに対して答えがない」状態が発生。
そのまま4話終了、書下ろしへ続くとなってました。
き、気になり過ぎる…
くるみの選択次第では”現状”は維持されないという重いもの、しかもくるみが何を考えているかわからない描かれ方をしてるもんだから、やっぱり胃が痛い。

そうして、書き下ろし分に続きます。
きづき作品が合わない方でなければ、続きは是非読んで見てください。
面白い漫画なので。

この漫画、一貫して視点は壱吾のもので、モノローグも壱吾のみ。
「教師から見た生徒」、「男から見た女」、「成人から見た未成年」という見方もできる。
そして、そのどれもが「何を考えているかわからない」というふうに私には読み取れるのです。