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John 8:32 Then you will know the truth, and the truth will set you free."  複数ブログの過去記事を移管し、管理の委託を受けています/※場合により、語る対象の「ネタバレ」も在ります。ご了承ください 

「地球防衛家のヒトビト」

しりあがり寿朝日新聞に連載している「地球防衛家のヒトビト」が実におもしろい。朝日新聞に連載されているが、同紙の社論ともあまり関係はない(しりあがり氏は「わしズム」にも連載してるし、第一朝刊の顔いしいひさいちだって思想性が朝日と重なるような点はない)。

単純に、その風刺性やギャグにおいて、純粋に漫画として優れているのだ。同時にその視点は、右でも左でもない、斜めだか真下だか、とにかくへんなアングルからのものである。
イラク戦争がらみでは、とくに傑作を連発した。

その時期の作品も、おいおい紹介したいが5/31付(朝刊紙面では6/1付)の作品を。

「町内会のピクニックの行き先に意見がありますか」
とたずねる会長と、役員?の主人公である父さん。
その他たくさんの参加者「もじもじもじもじ(擬音)」


「こーゆー場では意見も出にくいですかな」
「そうですね・・・そしたら・・・」


「希望の場所を私のパソコンまでメールしてください」
参加者「もじもじもじもじ(擬音)」


そして、会長さんのところに届いたメール
「そもそもピクニック自体めんどう(匿名)」
「会長の自己満足(匿名)」「家でねてたいのに(匿名)」
「会費のムダ使い(匿名)」「ピクニック反対(匿名)」


で、会長さんまっ青(笑)

これはモチろん、イラク人質や北朝鮮拉致被害者家族への批判・いやがらせを皮肉ったものだろうが、批判的な視点という感じでもまたない、ある一断面を冷静に切り取った、という感じを持たせるのがうまいところだ。


ところで、このピクニック反対メールは、民意を実は反映していなかった独善の権力者(ということにしてくれ)に、しがらみや義理を断ち切った民衆が立ち上がって革命を起こした、と肯定的に見ることもできる(笑)。



このブログには、今まで何度も文章中に名前を挙げたから、浅羽通明氏や阿部謹也氏の読者で、問題意識を自分なりに消化している人も読んでいるかもしれない。
そういう人だけに向かい(笑)、解説抜きで質問。



ネットの匿名書き込みは、「世間」を代表する声なのか、
それとも「世間」から解き離れたヒトビトの声なのだろうか?

菊池寛の短編より

ある推理小説を読んでいたら、その小説内で菊池寛の短編を紹介していた。
それがまた、ストーリーだけでぞっと怖くなるものなので、引用を引用させてもらう。
だれの何という小説だって?それは、推理小説であるということで、今の段階では一応秘密に。まず読み進めてください

===「義民甚兵衛」===

足が不自由に生まれついた甚兵衛は、継母や義弟たちにいじめ抜かれる。実父は気が弱く、我が子をかばうこともできない。奴隷のような苦役をして、与えられるのは犬猫のような食事だった。あまりのことに不平をいえば暴力と罵倒の嵐が襲った。
<形は人であるけれども境遇は牛馬より劣つて居た。牛馬よりも苦しまされて居た。継母や弟に対する無念は、肝に銘じ骨に徹して居たけど、何うする事も出来なかつた>。
やがて父は死に、家督も弟に奪われた。


飢饉となり一揆が起きたとき、母は甚兵衛を加わらせる。やがて一揆終結するが、郡奉行に向かって石を投げた下手人を出さねばならぬことになる。だが勿論自分から進んで磔になろうというものはいない。
<村一統の難儀を救ふものは誰もないか。>
大庄屋の声は悲痛を極めた。恐ろしい沈黙。その時、暗い意志そのもののように、縁側から這い上がった甚兵衛が叫ぶ。この小説で、ただ一つの彼の台詞である。
<あるだ。あるだ。俺が、出るぞ。俺や石を投げたぞ。>


歓喜とも悲鳴とも、付かないような>
群集の声。
<何云ふだ。馬鹿を云ふじゃない!>
と絶叫する弟。


罪は一族に及ぶ。処刑の日、次々に首をはねられる母や弟達を見て甚兵衛は<止め度なく>笑った。
<義民甚兵衛の碑は、今でも香東川畔に立つている>
と、冷たく投げ出された最後の一行には、思わず背筋が寒くなる。

これでトリックがばれるとかそういうんじゃないけど、引用元の書籍を下に記します。知りたい人のみ見てね。


この本からの引用でした

六の宮の姫君 (創元推理文庫)

六の宮の姫君 (創元推理文庫)