井出草平の研究ノート RSSフィード

2016-08-09

[]シーハン障害尺度

シーハン障害尺度は仕事/学校、社会、家族という3つの相互に関連のある領域における機能障害の評価をするツールである。自記式(Self-Report)である。

Sheehan Disability Scale (SDS) - Overview

http://www.cqaimh.org/pdf/tool_lof_sds.pdf

http://www.medical-outcomes.com/index/sds

この概要の2ページ目にあるのがシーハン障害尺度の本体。

日本語は下記の論文信頼性・妥当性が確認されている模様。

Sheehan Disability Scale(SDISS)日本語版の作成と信頼性および妥当性の検討

著者:吉田卓史・大坪天平・土田英人

資料名:臨床精神薬理 巻:7 号:10 ページ:1645-1653

発行年:2004年10月10日

http://jglobal.jst.go.jp/public/20090422/200902218806750007

非常に簡便である。自記式である点はWHODASなどのQOL尺度と同様であり、一部質問項目も似たものも含まれる。

シーハン自身が1966から2007年までのシーハン障害尺度のレビューをしている。

Sheehan KH, Sheehan DV. Assessing treatment effects in clinical trials with the discan metric of the Sheehan Disability Scale. Int Clin Psychopharmacol. 2008;23:70–83.

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/18301121

2016-08-06

[]ひきこもり現象はいつから始まったか

「ひきこもり」は70年代に現れ80年代から90年代にかけて激増したと言われている.斎藤環は次のように述べている.

私自身も,医師になりたてだった1980年代中期の時点で,この種の事例をごくありふれたものとして診療にかかわっていた経験があります.(斎藤 2002: 34)

また,最初期からひきこもり問題に関わり続けているNPO法人・青年自立援助センターの代表である工藤定次によると,「ひきこもり」と呼ばれるようなケースに初めて関わったのは1978年であるという(斎藤 2003b: 52)

この傍証となるのは不登校者の推移 )である.ただ不登校統計を使う際には注意が必要である.なぜならば,不登校統計には様々な問題点があるからである.例えば,長期欠席の中で不登校が占める割合が都道府県によって非常に大きな相違があることである.小学校の不登校率は最高値[青森県52.7%],最低値[長崎県22.0%]であり,中学校の不登校率は最高値[青森県89.9%],最低値[愛媛県48.6%]である(門ほか 1998: 27).

県によって30〜40%あまりの差異があるのである.教育レベルに地域差があるかもしれないが,そのことを差し引いてもこの数字をそのまま受け取るわけにはいかない.実態として,各都道府県で30〜40%ほどの開きがあるというよりも,各地の教育委員会方針や不登校児童のカウントの方法に違いがあると解釈した方が妥当であろう.例えば,「不登校」であっても「病欠」と記録した方が親にとっても学校にとっても差し障りがないことから,実態としては「不登校」であるにも関わらず「病欠」となっている生徒は多数存在している.

保坂(2000)によると,多くの不登校児童が病欠としてカウントされているのである.長期欠席者に占める不登校率の低い都道府県では,実態しては「不登校」であるにもかかわらず,「病欠」などでカウントして,見かけ上は不登校の児童が非常に少なく見えているのだ.

このような事情を考慮すると,不登校統計を使っても実態をうまく掴むことができないことがわかる.恣意的に統計が取られる「不登校」よりも,実数に限りなく近い長期欠席者の統計推移を見る方が賢明であると考えられる.また,不登校の統計は1966年から開始されているので,66年以前の動きも把握できず,長期のトレンドを見ることも出来ない.このような理由から,ここでは不登校ではなく,長期欠席者のデータをここで示す.

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図 3 年間50日以上の長期欠席児童生徒数の全児童生徒数に占める割合の推移

(文部科学省『学校基本調査』(1953-1999)・保坂(2000)から作成)

このグラフは中央が谷になっているという全体的な特徴を持つ.中央の谷は70年代半ばあたりである.70年代以前には,長期欠席の生徒は珍しくなかった.戦後しばらくは生活困難という理由が考えられるし,そもそも学校とは必ずしも「行かなければならないもの」ではなかったのだろう.その後,70年代には日本国民がこぞって学校に登校する時期になる.しかし,その70年代半ばから「不登校」が徐々にあらわれ,80年代から90年代にかけて激増をすることがこのグラフから読み取れる.

「ひきこもり」の7〜8割は「不登校」の延長で起きている.つまり,70年代半ばあたりから不登校者の一部が「ひきこもり」に移行して,「ひきこもり」という現象を生み出してきたと考えられるのである.

このことの証左となるのは,40代の「ひきこもり」がここ数年の間に一般化してきたという事実である.ひきこもり問題を長年に渡って取材しているフリーライター永冨奈津恵は「最近では,40代の方の話も,珍しくはなくなりましたよね」 )と述べている.筆者も親の会などで40代の「ひきこもり」の存在をたびたび聞くことがあり,数年前までは珍しかった40代の「ひきこもり」が,現在ではかなり一般化してきていると思われる.図3のグラフの谷にあたる1975年に中学1年生であった人を考えてみた場合,その人は1962年に生まれたことになる.2007年時点での年齢は45歳である.彼らがいわば「ひきこもり第一世代」である.彼らは70年代に「不登校」になり,「ひきこもり」へと移行して,そのままひきこもり続けて,現在になって,40代の「ひきこもり」として発見されていると考えられる.

「ひきこもり第一世代」は70年代に「不登校」から「ひきこもり」に移行した人たちであり,図3に見られるように,後年に比較してそれほど多くはない.しかし,80年代から「不登校」は激増していく.この図3が示しているのは40代の「ひきこもり」の下には,激増期の80年代に「ひきこもり」になった30代の「ひきこもり」が40代の数倍の規模で存在していることを示している.

臨床医や支援者の証言,長期欠席者の年次グラフ,40代の「ひきこもり」の一般化などから,「ひきこもり」は70年代から増加してきたということが言える.「ひきこもり」はここ数十年の間に大規模に発生した極めて現代的な現象なのである.

参考文献

文部科学省『学校基本調査』(1953-1999)

門眞一郎・滝川一廣・高岡健, 1998,『不登校を解く―三人の精神科医からの提案』ミネルヴァ書房.

保坂亨, 2000,『学校を欠席する子どもたち―長期欠席・不登校から学校教育を考える』東京大学出版会.

斎藤環, 2002,『ひきこもり救出マニュアル』 PHP研究所.

2016-08-01

[]ひきこもりの定義

ひきこもりにはいくつかの代表的な定義がある。ここでは、それぞれを比較してみたい。

厚生労働省『ひきこもりの評価・支援に関するガイドライン』(2010年)

厚生労働省による2回目のガイドラインでの定義である。行政を中心に2016年の段階ではこの定義が使われることが多い。

様々な要因の結果として社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には 6ヵ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と交わらない形での外出をしていてもよい)を指す現象概念である.」

http://www.ncgmkohnodai.go.jp/pdf/jidouseishin/22ncgm_hikikomori.pdf

厚生労働省のガイドラインの定義は(1)社会参加の回避、(2)6か月以上、という2つの要素から成立している。つまり、(1)他者とのつながりが消失し、コミュニケーションが欠如し、社会の中で孤立していること、(2)一定期間それが続いていることである。

この定義には「他者と交わらない形での外出をしていてもよい」と但し書きがある。ひきこもりとは自宅や自室に閉じこもること、外出しないことと理解されていることがある。つまり空間的に閉じこもることである。しかし、その理解は誤りである。ひきこもりの本質は社会とのつながりを消失することである。例えば、社会とのつながりはないが、毎日、公園を散歩している者は、社会的にひきこもりであり、空間的に閉じこもりではない。したがって、このケースはひきこもりなのだ。

なお、このガイドラインは精神科医らによって作成されていることから、定義に引き続いて次のような注意が追加されている。

な お,ひきこもりは原則として統合失調症の陽性あるいは陰性症状に基づくひきこもり状態 とは一線を画した非精神病性の現象とするが,実際には確定診断がなされる前の統合失調 症が含まれている可能性は低くないことに留意すべきである。

精神疾患の症状としての社会的ひきこもりは他所で開設するので、そちらを参考にしていただきたい。

国立精神・神経センター精神保健研究所社会復帰部『『10代・20代を中心とした「ひきこもり」をめぐる地域精神保健活動のガイドライン──精神保健福祉センター保健所市町村でどのように対応するか・援助するか』(2003年)

厚生労働省による初めてのひきこもりに関するガイドラインである。

「ひきこもり」はさまざまな要因によって社会的な参加の場面がせばまり,就労や就学などの自宅以外での生活の場が長期にわたって失われている状態のことをさします.

このガイドラインでは、ひきこもりについて明確な定義がされていない。明確な定義がないことを欠点と指摘する人がいるかもしれないが、このガイドラインが作成されたのは2003年である。民間施設の一部ではひきこもり支援は行われていたが、行政ではほとんど実施されていなかった。このガイドラインはひきこもり支援の黎明期に出されたものである。まだまだ、ひきこもりとは何かということが明らかになっていなかった時期である。したがって、定義もやや不明確さの残るものにされていると考えられる。

斎藤環『社会的ひきこもり――終わらない思春期』(1998)

ひきこもり現象を日本に広めた記念碑的な本である。この本の定義は下記のようになっている。

20代後半までに問題化し,6ヵ月以上,自宅にひきこもって社会参加をしない状態が持続しており,ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいもの(斎藤 1998: 25)

この定義は(1)20代後半までに問題化、(2)6ヵ月以上、(3)社会参加をしない状態が持続、(4)ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくいという4点である。

(1)20代後半までに問題化

「20代後半までに問題化」というのは、この本の副題が「終わらない思春期」であることと関連がある。斎藤の本はひきこもりといっても、不登校からのひきこもりについて分析した本であるため、定義に若年であることが含まれているのである。斎藤は「ただし、二十代後半までというのは、ちょっと広くとりすぎかもしれません。実際にはほぼ二十代前半までで、事例のほとんどをカバーできます」(斎藤1998: 26)と述べているので、斎藤が意図したひきこもりは思春期の問題であったことがわかる。ただし、斎藤本人は、後にこの年齢の制限を取り除いている。

(2)6ヵ月以上

「6ヵ月以上」は、精神医学の診断基準『精神障害の診断と統計マニュアル DSM』で使われる期間を流用したものだ。精神疾患はある程度の期間、精神症状が現れない限り、精神障害とは認められない。6か月基準というのは、あくまでも目安であって、一定期間その状態が続いているという意味以上のものはない。

(3)社会参加をしない状態が持続

斎藤は社会参加の「社会」を次のように述べている「ここでいう「社会」とは、ほぼ対人関係全般をさすものと理解して差し支えありません。家族以外のあらゆる対人関係を避け、そこから撤退してしまうこと。それが『社会的ひきこもり』です。」したがって、ひきこもりは、働かないや学校に行かないということだけではなく、家族以外の他者とのコミュニケーションからの撤退までを含めた意味を持つ。

(4)ほかの精神障害がその第一の原因とは考えにくい

うつ病や統合失調症といった精神障害によって、社会的ひきこもりは生じる。うつ病がひどく動くことができない、統合失調症の荒廃がすすみ、自発的行動が少なくなったといったケースである。斎藤定義の特徴は、こういった精神障害を原因としたひきこもりではないとしている。「第一の原因と考えにくい」とは、ひきこもりと併存して、もしくはひきこもり後に精神障害を引き起こすことがよくあるためである。

2016-07-31

[]精神病性障害患者の犯罪被害リスク要因

Benjamin Chapple · David Chant · Patricia Nolan · Sue Cardy · Harvey Whiteford · John McGrath

Correlates of victimisation amongst people with psychosis

Soc Psychiatry Psychiatr Epidemiol (2004) 39 : 836–840

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/15669665

精神病性障害患者の犯罪被害について調べた研究。962人中172人、17.9 %が犯罪被害を受けている。これは一般人口と比較しても非常に高い。分析結果は2016年に訂正されている(http://link.springer.com/article/10.1007/s00127-015-1147-6)。図表は訂正後のものである。

f:id:iDES:20160801024826j:image

モデル1は調整なしのオッズ比。モデル2は年齢と性別を調整したオッズ比である。

関連があるのは、年齢(1.62倍)、12か月以内のホームレス体験(3.46倍)、薬物濫用・依存(1.84倍)、12か月以内の逮捕経験(3.68倍)、社会的職業的機能障害(2.73倍)である。社会的職業的機能障害にはSOFASが使用されており、他の項目と合わすためにバイナリで使用されている。高機能のカットオフは70である。SOFASのカットオフについての箇所を引用しよう。

For the purposes of this study, the scores were dichotomised into "slight or no impaired social and occupational functioning” (SOFAS>69) and “poor social and occupational functioning” (SOFAS<70)

SOFAS>69がslight or no impairedで、SOFAS<70がpoorだと書いてあるが、この書き方だと両方70を含んでいるように読める。SOFASは0と1の間でカテゴリカルに分類するので、SOFASは71以上と70以下と分けるのが正しい。この論文筆者は書き間違いをしたか、混乱して理解をしているのかよくわからない(2016年の訂正表では正しく記述されているので現在は正しく理解しているのは間違いない)。

重要なのは、SOFASを2値で使用する際のカットオフの基準は70という点である。。

2015-07-15

[]いじめを受けやすい二つのタイプ

いじめに対応する教員の報告・論文を集めた特集から。


森薫
不登校の真因を把握し、かかわる
月刊生徒指導 29(13), 22-26, 1999-10
http://ci.nii.ac.jp/naid/40001020890

いじめ被害側の特徴が示されている。


■いじめを受けやすい二つのタイプ


いじめによる不登校を論ずる前に、いじめられやすい二つのタイプについて述べてみたい。


(1)無視されるタイプ(逃避型)

(1)身体がひ弱。

(2)身体に対するコンプレックスがあって、遊び、スポーツがつたなく、けんかも弱い、運動神経が発達していない。

(3)用心深く、繊細、静か、引っこみ思案、受動的、従服、恥ずかしがり屋、泣き虫

(4)常に不安感を持ち、自分を不幸せだと感じており、悩みが多い。

(5)自己否定的で自信がない(アイデンティティの欠如}。

(6)「いじめられでも、仕返しができない」というシグナルを、ほかの子どもたちに感じとられている。

(7)自己主張ができず、同年齢の仲間とより、大人とのほうがうまくいく。

(8)成績はまちまちだが、学年が進むとしだいに落ちてくることが多い

このタイプは、いじめの標的になりやすく、不登校につながるケースが多い。


(2)排除されるタイプ(攻撃型)

(1)怒りっぽく、攻撃や侮辱を受けると、口応えをしたり手を出そうとするがうまくいかない。

(2)過剰に活動的で、落ち着きがなく、攻撃的で周囲に緊張をもたらす。

(3)不器用かっ来熟で、人をいらいらさせる。教師を含めて大人たちからも、反感を持たれやすい。

(4)時には、自分より弱い子どもをいじめようとする。


このタイプは、不安感と攻態的な行動パターン(多動、集中力欠如)をあわせ持つために、集団に適応できず、多くの生徒、時にはクラス全体からいじめを受け、排除されることが多い(今では、このタイプの子どもの多くがADHD(注意欠陥、多動症候群)ではないかと疑われている)。

しかし、このタイプはエネルギーがあるため、一時的に学校を飛びだしたりすることはあっても、長期の不登校につながることはまれである。


後者のタイプについては、英語で発表された複数の論文において支持されている。タイプが分かれるならば、対応も違うのは当然。


いじめが不登校を起こすという仮説には著者は懐疑的である。


いじめをきっかけとする不登校の場合において、そのほとんどは、いじめは誘因であって真因ではないのである。その真因がしっかり把揮され、その克服への取り組みがなされないと、問題は繰り返され、解決にはならない。


いじめ研究はあまり読めてないが、この考え方は正しい気がする。構造方程式で研究してみたい内容。

    
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