芥川龍之介と徒然草
以前、芥川龍之介はその著「侏儒の言葉:しゅじゅのことば」のなかで、徒然草(つれづれぐさ:吉田兼好の随筆)について以下のように書いていました。
つれづれ草
わたしは度たびこう言われている。――「つれづれ草などは定めしお好きでしょう?」しかし不幸にも「つれづれ草」などはいまだかつて愛読したことはない。正直な所を白状すれば「つれづれ草」の名高いのもわたしにはほとんど不可解である。中学程度の教科書に便利であることは認めるにもしろ。
この一節、中学生のころ、「侏儒の言葉」と「徒然草」を両方読んでいた私には、とても意外に思いました。まあ、似たテイストの作品であると思われるのに、芥川龍之介の、この冷たい態度。
これについては、他の人にも同じ思いをした方がいるようで、逆に「侏儒の言葉」を貶める(悪く言う)評価をしています。
http://ameblo.jp/minaura222/entry-10951794603.html
でも、実際のところ、どうなのでしょうか。私にはどちらも面白く深い作品だと思えるのですが。
そこで、図書館から荻野文子(おぎの・あやこ)さんの著「ヘタな人生論より徒然草」(河出書房新社)を借りてきて、彼女が誘う徒然草の世界に入っていきました。なお、荻野さんは、東進ハイスクールの古文の教師として「マドンナ」の称号を得たカリスマ講師です。
まず、作者の吉田兼好の視点の素晴らしさが語られます。一つに、僧侶としての存在にとらわれない自由な視点、無常観べったりでもない合理的で論理的な思考。また一つに、ものごとを多面的にとらえる複眼的思考。これらが相俟って、徒然草を魅力的な随筆にしているのですね。2つ現代語訳を引用します。訳者はもちろん荻野さん、本とは「ヘタな人生論より徒然草」。
ひとつの専門の道に従事している人が、専門以外の場に出席して、「ああ、自分の専門の道であったなら、こんな風に傍観していることはないだろうに」といい、また心にも思っていることは、世間によくあることだけれども、まったくよくないことだと思われるのである。知らない道が羨ましく思われるのなら、「ああ羨ましい、どうして習わなかったのだろうか」といっておくのがきっとよいだろうに。
自分の智恵を持ち出して人と争うのは、角ある動物が角を傾け、牙のある動物が牙を剥き出して噛みつくのと同類である。(第167段 本36P)
だいたいにおいて、なんでも珍しくめったにないものは、教養のない人のもてはやすものである。そのようなものは、きっとないほうがよいだろう。
(第139段 本112P)
なんだか、老成して世の中の酸いも甘いもかみ分ける境地に入った印象があります。ここで挙げた2文は、もちろん仏教の無常観に根ざした部分もあるでしょうが、私には老子の哲学にも近しいように感じられます。「老子」64章に「・・・是を以て聖人は、欲せざることを欲す。得難きの貨を貴ばず。学ばざることを学ぶ。・・・」とありますが、「得難きの貨」とは手に入れにくい品物のことです。
そして重要な点は、先ほど参照ブログで挙げた人も、荻野さんも、「徒然草」は年を取って経験を積むほど解るようになると主張していることです。
その意味では、いかにも怜悧な作家であった芥川龍之介でも35歳で亡くなっていますので、兼好の達した境地には至らなかったのかと思います。それに、以下は案外皮肉な現象ですが、芥川作品は中学校の国語の教材になり、徒然草は高校の国語の教材になることが多く、どちらも初等教育には恰好の題材であり、もしかしたら、芥川は兼好を「近親憎悪」の目で見ていたのかも知れません。
過去ログより(警句・箴言集)
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100804
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100809
アナトール・フランス「エピクロスの園」・・芥川の師
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100818
http://d.hatena.ne.jp/iirei/20100824
今日のひと言:私は案外芥川龍之介を批判的な視点でみることが多いですが(上掲の過去ログ「アナトール・フランス「エピクロスの園」・・芥川の師」など・・・)それは、私の精神的成長過程において、彼の文学が大きな影響を与えてくれ、またその境地を超えるために奮闘した私史があるからです。その意味で、芥川は、私の初めての文学上の師なのです。
なお、徒然草の現代語訳として
「現代語訳徒然草」(佐藤春夫・訳:河出文庫:本体680円)もおススメです。
- 作者: 吉田兼好,佐藤春夫
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2004/04/07
- メディア: 文庫
- 購入: 3人 クリック: 134回
- この商品を含むブログ (12件) を見る
- 作者: 荻野文子
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2003/05/19
- メディア: 単行本
- クリック: 4回
- この商品を含むブログ (3件) を見る
「うな重」ではなく「なすの蒲焼き重」
昨今、ウナギの稚魚の「シラスウナギ」が世界的に不漁で、うなぎの値段も「うなぎ登り」です。しらすうなぎの卸値が2年ほどで倍くらいの値段になっているようで、うなぎ好きの私には厳しい状況になっています。その状況で、今年7月27日のNHK「首都圏ニュース845」と、7月28日のNHK「ニュース深読み」で立て続けに紹介されたのが、群馬県太田市にある食堂が、うなぎではなく茄子を使って蒲焼を作って販売しているという情報です。「なす蒲焼 太田市」のダブル・キーワードで検索したら、すぐに解りました。
私はこの食堂――「かわとみ」が「上州御触れ弁当(600円)という商品を出していて、かなり美味しいのを知っていましたので、7月30日、昼食にと、「なすの蒲焼き重」(600円)を食べに行きました。(「上州御触れ弁当」は以前「忠治召し捕り(とり)弁当」と言っていったように、鳥の弁当でした。)
待つこと数分、それは出されてきました。確かに、見た目うな重です。茄子(ナス)を蒸すことまでうな重に準拠しているそうです。美味しかったです。ただ、やはり野菜を使っているので、繊維の縦の繋がりが強く、動物のうなぎの肉のようにほぐれて取れるという感じではありませんでした。お櫃の中間部にはお得意の鳥肉も敷いてあります。
太田市は「やきそば」による町おこしを標榜していて、「かわとみ」も「やきそば」がメイン・メニューなので、翌日食べるために買ってきました。それにしても、この「なすの蒲焼き重」、鶏肉を入れなければ精進料理としても人気がでるでしょうね。
@上州太田焼きそば かわとみ
〒373-0004 群馬県太田市強戸町(ごうどまち)178-2
TEL.0276-37-1390(代) FAX.0276-37-7012
E-mail info@kawatomi.com?subject=注文・問い合わせの件
ホームページ http://www.kawatomi.com/
営業時間 11:00〜14:30
定休日 毎週木曜日・日曜日
駐車場 8台分
収容人数 10組様
宗哲和尚の精進レシピ 家庭で簡単に作れる鎌倉不識庵のとっておき128品
- 作者: 藤井宗哲,藤井まり
- 出版社/メーカー: 河出書房新社
- 発売日: 2004/05/11
- メディア: 単行本
- クリック: 39回
- この商品を含むブログ (8件) を見る
- 作者: 藤井宗哲
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2004/12/09
- メディア: 文庫
- 購入: 2人 クリック: 13回
- この商品を含むブログ (6件) を見る