Taxonomy
生物を分類する学問。今日的には生物学の一分野として扱われる。もともとは生物学、特に動物学・植物学の基礎(もしくはそのもの)であり、その先祖である博物学(本草学)の直系子孫であるとも言える。
生物を分類するという意味では有史以前、あるいはもっと極端に言えば(人類時代ですらなく)経験に基づいて「これは食える」「これは食えない」と判断していれば分類学は存在していたと言える。
普通の意味での起源は(いつも通り)アリストテレスに求めることができ、その段階で生物を「動物」と「植物」に分類された。つづいてその弟子のテオフラストスは植物学を作り出し、以後中世期を通じてその大系が君臨することになる。
18世紀にリンネが出現して体系的な分析の基礎を完成させたことで近代的な分類学は誕生した。19世紀に進化論が出現すると、種の分化であるとか進化系統であるとかが存在することになり、「見た目が似ている」だけではなく「進化上も近い(遠い)」と考察することが可能になり、つまり生物を分類するという行為にも客観的な根拠が存在することが明らかになった。20世紀になって生物の究極のコードである遺伝子に手が届くようになると、分類学もその成果を取り入れることでより精密なものとなった。また、従来の分類体系が見直されてより実態を反映したものへと近づける努力も行われている。
一方では研究が手薄な分野というのも多数存在しており、系統がはっきりしていない生物群や未発見の種なども残されている。
基本的な種の分類は以下のような形となる。
場合によっては「亜門」「亜綱」といったサブグループが組織されることもある。また分類上便利なのでいくつかの門を集めて、たとえば「種子植物」と言ったりもする。
門は本来は体のつくりの共通点(体制)に着目して設定されていたが、近年は遺伝子からのアプローチで研究が進むことが多く、「これは独立の門として扱おう」「これは△△△門に分類したほうが適切だ」といった配置換えがよく話題に上る。
分類学の祖たるリンネによって「植物界」「動物界」の二大分類が採用され*1、それ以後発見された生物はこのいずれかに分類されてきた(二界説)。
が、微生物の発見と研究が進むにつれ、それは大分怪しくなってきた。よく知られたところでは、ミドリムシは「光合成ができるが自分で運動できて従属栄養で生活することもできる」ので、古典的な考えでは動物と植物の両方に属する(もしくはいずれにも属せない)ことになってしまう。
そこで、ヘッケル*2は、微生物とかそういう連中はまとめて「原生生物界」を新設して放り込んでしまえと提唱した(三界説)。
その後研究が進むと、原核生物と真核生物は根本的に違うということが発覚した。これも分類に取り入れる必要があるのは明白だが、「真核生物」の適用範囲が広すぎるのも明らかである。
現在の認識の基盤となる五界説はウィットカー*3によって提唱された。
これによれば、生物は以下の5つの界に分けられる。
場合によってはさらにこの上に「超界*4」として「原核生物」と「真核生物」を置くこともある。
栄養摂取における役割に注目して「生産者→消費者→分解者」の三段を導入して分類し直したものと言える。とりあえず分かりやすくなったが、どう見ても怪しさ爆発の原生生物界が取り残されているのと、あと、わかりやすさを重視したので実際の進化系統上とは矛盾する点が残っていることが課題となった。
分子生物学という学問の出現は生物学のエポックメーキングであるとともに、分類学にも多大な影響を与えた。ものすごく極端に言えば、遺伝子を解読すればどういう進化系統上に位置する生物であるかは判明するはずであり、それに基づいて分類するのがもっとも正確なはずである。そこまで極端に走らずとも、従来の分類で不備な部分・不明な部分を補うのに、その種の方向から攻めるのはきわめて有効である。
イリノイ大学のカール・ウーズらは、原核生物の中にまとめて分類されていた細菌を詳細に分析・研究して、RNA中の塩基配列の違いから、メタン菌のような古細菌が普通の細菌と別物であることを発見した。もちろん真核生物ともことなっているので、ウーズはこれを受ける形で以下のような分類を提案した*5。
現在の高等学校の生物の教科書では、これまでの説について解説しながらも、この説が現状では有力であるとして3ドメイン説をベースに、記述されている。
一応の参考として、五界説時代の分類の一例を門のレベルまで掲げておく。