児童ポルノ・児童買春・児童福祉法・監護者わいせつ・不同意わいせつ・強制わいせつ・青少年条例・不正アクセス禁止法・わいせつ電磁的記録弁護人 奥村徹弁護士の見解(弁護士直通050-5861-8888 sodanokumurabengoshi@gmail.com)

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被害者をして裸体を撮影させる行為は「わいせつ行為」にあたらない。という主張

 古い未公開判例をチェックしていたら強要被告事件の高裁判例に、「(撮影させ・送信させる行為について)このような行為がその性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,」というのがあったので、判例違反も主張してみる。多分「事案を異にする」という判示になる。

阪高裁r2.10.2
すなわち,原判決が認定した原判示第1及び第3の各事実の要旨は,被告人が各被害者に対し,それぞれ脅迫文言を記載したメッセージを送信するなどして脅迫し,これによって被害者らを畏怖させ,被害者らに裸の姿態をとらせて自らこれを撮影させた上,その画像ないし動画データを被告人の携帯電話機に送信させ,又は送信させようとしたが未遂にとどまったというものであるところ,なるほどこれらの事実中には,各被害者を脅迫し畏怖させた上,同人らに裸の姿態をとらせて自ら撮影させ,又はさせようとしたという点では,性的な意味合いを持つ行為が含まれている。
しかし,このような行為がその性質上当然に強制わいせつ罪に当たる行為とみることはできず,その該当性を判断するに当たっては,当該事案における具体的状況等に則して強制わいせつ罪に係る構成要件を充足するに足る事実があるか否かを総合的に考慮する必要があることに加え,

~被害者をして裸体を撮影させる行為は「わいせつ行為」にあたらない。 5
1 はじめに 5
1審判決 5
原判決 7
2 わいせつの定義がないので議論しづらいが、馬渡(向井)解説*3・薄井論文*4の「手法」に沿って検討してみる 9
(1)撮影させる行為の「性的な意味」とは 9
(2)撮影させる行為の「性的意味合い」の程度 10
馬渡(向井)解説 11
大塚仁ほか編・大コンメンタール刑法〔第3版〕(9)[亀山継夫=河村博]67頁 12
薄井論文 14
(3)学説 15
佐藤陽子 自己のわいせつな画像を撮影( ・送信)させる行為の「わいせつな行為」性について 山口厚ら「実務と理論の架橋」 15
②木村光江「強制わいせつ罪における『性的意図』」判例時報 736号18頁。*5 17
③橋爪隆・研修860号3頁 17
(4)高裁判例・裁判例 18
①名古屋地岡崎支部h30.4.19*6 18
②大阪高裁H22.6.18*7(神戸地裁H21.12.10*8) 19
③大阪高裁r02.10.2*9(奈良地裁葛城支部R02.3.30*10) 19
④大阪高裁R2.10.27*11(奈良地裁葛城支部R2.2.27*12) 20
⑤大津地裁R5.3.1 23
長崎地裁佐世保支部r6.2.21*13(強要) 25
⑦札幌高裁r5.1.19*14(札幌地裁R04.9.14*15 ) 26
(5)社会通念上の「撮影させる行為」の扱い=強要罪の裁判例 26
3 起訴検察官は高検判決速報のアドバイスに従っていないこと 30
4 1審判決の説明(送信させる行為はわいせつ行為にあたらない) 33
5 原判決 35
原判決 35
名古屋地裁金沢支部の検察官答弁書h27.7.23 36
東京高裁h27.12.22の検察官答弁書 37
6 判例違反(大阪高裁R2.10.2 大阪高裁r2.10.27) 37
③大阪高裁r2.10.2*50(奈良地裁葛城支部R02.3.30*51) 37
④大阪高裁R2.10.27*52(奈良地裁葛城支部R2.2.27*53) 38
7 まとめ 39

テレビ会議ソフトのビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、性器を露出させる姿態をとらせた行為は「わいせつ」行為に当たらないという主張

 これは4つ強要被告事件の高裁判例を4つ並べておけば十分。
 地裁レベルでも、自慰行為させ+送信させでないとわいせつ行為と評価されていない。
①広島高裁岡山支部H22.12.15*72 69
②東京高裁H27.12.22 69
③大阪高裁r2.10.2*73(奈良地裁葛城支部R02.3.30*74) 71
④大阪高裁R2.10.27*75(奈良地裁葛城支部R2.2.27) 71

テレビ会議ソフトのビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、性器を露出させる姿態をとらせた行為は「わいせつ」行為に当たらない 40
1 はじめに 40
2 「被告人の使用するパーソナルコンピュータのアプリケーションソフト「」のビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、」行われた点について 41
(1)ビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態」でというのは、被告人が被害者をして画像を撮影送信させたものであること 41
(2) 馬渡解説・薄井論文によってもを用いて送信させる行為はわいせつ行為ではない。 47
(3) 高検速報のアドバイスでも、せいぜい「撮影させ」がわいせつとされていて「送信させ」ることはわいせつ行為とはされていないのに、原審の検察官は高検速報のアドバイスに従っていないこと 49
(4)1審判決 52
(5)高裁判例 52
広島高裁岡山支部H22.12.15*55(岡山地裁H22.8.13*56) 52
東京高裁H27.12.22*57(新潟地裁高田支部H27.8.25*58) 52
3 「(オンラインで)性器を露出させる姿態をとらせ」行われた点について 54
(1)学説 54
大竹依里子 研修の現場から オンラインで,児童を裸にさせ,動画撮影させた行為について,強制わいせつ罪で処理した事例 54
橋爪隆 非接触型のわいせつ行為について 54
(2)裁判例では、送信させた場合は、自慰行為・性器接触させている場合をわいせつとしている 54
長崎地裁R1.9.17*59 54
岡山地裁H29.7.25*60 54
大分地裁h23.5.11*61 55
横浜地裁h28.11.10*62 55
高松地裁H28.6.2*63 55
松山地裁西条支部H29.1.16*64 55
高松地裁丸亀支部r2.9.18*65 55
熊本地裁r3.1.13*66 55
札幌地裁小樽支部R4.3.2*67 55
東京地裁R4.3.10*68 55
東京地裁r4.8.19*69 55
津地裁r5.3.1*70 55
松山地裁西条支部R5.8.31*71 55
(3)検察官の論稿 55
熊本地裁r3.1.13 56
4 小括~ビデオ通話機能により被告人が視聴できる状態で、性器を露出させる姿態をとらせた点について(総合的評価) 58
5 学説・裁判例 59
佐藤陽子 自己のわいせつな画像を撮影(・送信)させる行為の「わいせつな行為」性について 山口厚ら「実務と理論の架橋」 59
津地裁R5.3.1 61
6 原判決の問題点 64
1審判決 64
原判決 65
※裸体を送信させる行為はわいせつ行為ではないという高裁判例。 68
①広島高裁岡山支部H22.12.15*72 69
②東京高裁H27.12.22 69
③大阪高裁r2.10.2*73(奈良地裁葛城支部R02.3.30*74) 71
④大阪高裁R2.10.27*75(奈良地裁葛城支部R2.2.27) 71
※ 高裁レベルでは、送信させた行為をわいせつと評価した判決はないこと 72
①大阪高裁r03.7.14*76(京都地裁R3.2.3*77) 72
②大阪高裁r04.1.20*78 (京都地裁r03.7.28*79) 73
③札幌高裁r5.1.19*80(札幌地裁R04.9.14*81 ) 73
広島高裁岡山支部H22.12.15*82(岡山地裁H22.8.13) 73
東京高裁H27.12.22*83(新潟地裁高田支部H27.8.25) 73

実子に対する強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ製造(那覇地裁R06.2.2)

実子に対する強制わいせつ罪(176条後段)と児童ポルノ製造(那覇地裁R06.2.2)
 よくわからないけど、数回の製造罪は併合罪かなあ

【文献番号】25597989

強制わいせつ、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反被告事件
那覇地方裁判所令和5年(わ)第285号、令和6年(わ)第1号
令和6年2月2日刑事第1部判決

       調書判決
宣告日 令和6年2月2日
裁判所 那覇地方裁判所刑事第1部
罪名 A  強制わいせつ
   AB 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反
被告人


       判決主文

被告人aを懲役3年に、被告人bを懲役2年に処する。
この裁判確定の日から、被告人aに対し4年間、被告人bに対し3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。

罪となるべき事実の要旨
 起訴状及び令和6年1月9日付け追起訴状記載の公訴事実と同一であるから、これらを引用する。
適用した罰条
1 被告人aについて
(1)令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法176条後段
(2)刑法60条、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
(3)刑法45条前段、47条本文、10条
(4)刑法25条1項
(5)刑訴法181条1項ただし書
2 被告人bについて
(1)刑法60条、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
(2)刑法45条前段、47条本文、10条
(3)刑法25条1項
(4)刑訴法181条1項ただし書

       理由の要旨

 別紙記載のとおり
(求刑 被告人aにつき懲役3年、被告人bにつき懲役2年)
令和6年2月19日
那覇地方裁判所刑事第1部
裁判所書記官 ○○○○
裁判官 小野裕信

(別紙)理由の要旨
 被告人Aは、令和5年3月から9月にかけて、定期的に性的関係を持っていた被告人Bがラブホテルに連れてきた被告人Bの実子(被害者・当時11歳ないし12歳)に対し、乳房や陰部を直接弄ぶわいせつ行為に及ぶとともに、被告人Bと共謀し、その際を含めて5回にわたり、被害者の胸部等を動画撮影して児童ポルノを製造した。
 強制わいせつの態様は直接性器に触れるなど、侵害の度合いが大きなものであるし、児童ポルノ製造のデータはひとたび流出すれば将来にわたって残り続けるおそれがあるのであって、いずれも被害者の性的自由や自尊心を深く傷つける犯行である。性的満足を得ようとした被告人Aも、対価欲しさに撮影に協力した被告人Bも、厳しく非難されるべきである。
 以上の犯情評価や量刑傾向を前提に、被告人両名ともさしたる犯罪歴が見当たらないことや、公訴事実を認めて反省の弁を述べていること、データ流出はうかがわれないことなども考慮し、主文のとおり判決する。
以上
令和5年検第11659、11660、11784号
起訴状
令和5年11月17日
那覇地方裁判所殿
那覇地方検察庁
検察官 検事 山田与志人
下記被告事件につき公訴を提起する。

       記
公訴事実
第1 被告人aは、被告人bの実子である■(当時11歳)が13歳未満であることを知りながら、同人にわいせつな行為をしようと考え、令和5年3月8日午後9時7分頃から同日午後9時52分頃までの間に、沖縄県浦添市字α××××番地cホテル▽▽▽号室において、入浴後で全裸の状態であった同人の乳房を直接手で触った上、さらに同人をベッドの上に仰向けにして、陰部を直接手指で弄び、もって13歳未満の者に対し、わいせつな行為をし
第2 被告人両名は、共謀の上、前記■(当時12歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、同年9月5日午後6時24分頃から同日午後7時25分頃までの間に、前記cホテル□□□号室において、同児童の胸部等が露出した姿態を動画撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、その動画データ1点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって,殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造し
たものである。
罪名及び罰条
第1 強制わいせつ 令和5年法律第66号による改正前の刑法第176条後段
第2 児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反 同法第7条第4項、第2条第3項第3号、刑法第60条
令和5年検第12025、12026号
追起訴状
令和6年1月9日
那覇地方裁判所殿
那覇地方検察庁
検察官 検事 山田与志人
下記被告事件につき公訴を提起する。 

       記

公訴事実
 被告人両名は、共謀の上、被告人bの実子である■(当時11歳)が18歳に満たない児童であることを知りながら、別表記載のとおり、令和5年3月8日頃から同年7月5日頃までの間に、4回にわたり、沖縄県浦添市字α××××番地cホテルの各客室内において、同児童の胸部等が露出した姿態を動画撮影機能付き携帯電話機で動画撮影し、その動画データ6点を同携帯電話機の内蔵記録装置に記録させて保存し、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造したものである。
罪名及び罰条
児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反 同法第7条第4項、第2条第3項第3号、刑法第60条
別表
番号 日時(令和5年)                      客室    動画データ
1  3月8日午後9時7分頃から同日午後9時52分頃までの間に  ▽▽▽号室 1点
2  4月5日午後6時52分頃から同日午後7時38分頃までの間に ◇◇◇号室 2点
3  5月5日午後7時54分頃から同日午後8時48分頃までの間に ◎◎◎号室 1点
4  7月5日午後6時27分頃から同日午後7時26分頃までの間に ▲▲▲号室 2点

愛知県条例では「 公共の場所又は公共の乗物(第三項に定めるものを除く。)において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、人に対し、卑わいな言動をすること。」が処罰されるので、「匂いを嗅ぐ」でも「卑わいな言動」とされてしまいそうです。

愛知県条例では「 公共の場所又は公共の乗物(第三項に定めるものを除く。)において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、人に対し、卑わいな言動をすること。」が処罰されるので、「匂いを嗅ぐ」でも「卑わいな言動」とされてしまいそうです。

https://news.yahoo.co.jp/articles/00edc54e78f49f0484a36fa390794e5065e61003?source=fb&fbclid=IwZXh0bgNhZW0CMTEAAR2CpeDHb70KjkolQtwItYS24Wx_Kw4FRk9H2beuCRdeQOlBwmTOO6anKE8_aem_AS5kql8h7j_BY3xqbQGkkPWleb7xAbDvMIwKbDR6weZhImXWvTd_sXWiIcTWcLS3AMASQbEeCU0MRnNnHD0XimUP
“匂いを嗅ぐ”は法律等で規制しきれず…急増する新たな手口『触らない痴漢』苦心する鉄道警察隊の捜査
そして追及する捜査員に、男が動機を口にしました。
男:
「においとか」
男性捜査員:
「においが好きなの?」
男:
「うん」
「女性の匂いを嗅ぎたかった」。法律では規制しきれない、“触らない痴漢”といわれる行為です。

“触らない痴漢”とは「わざと至近距離に近づいてにおいをかぐ」「首筋や耳などに息を吹きかける」「見知らぬ相手に、スマホのデータ共有機能でわいせつ画像を送り付ける」といった行為で、近年急増している、新たな痴漢の手口です。
痴漢行為を規制する、愛知県の迷惑行為防止条例では、「卑猥な行為」として「体への接触」は明記されているものの、匂いを嗅ぐなどの「触らない痴漢」には明確な記述がありません。

男性捜査員:
「それがエスカレートしていって、手を触っただとかそういう話になってくると、もちろん捜査員が見ていたら、現行犯逮捕します」

愛知県迷惑行為防止条例
(卑わいな行為の禁止)
第二条の二 何人も、公共の場所又は公共の乗物(第三項に定めるものを除く。)において、正当な理由なく、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法で、次に掲げる行為をしてはならない。
一 人の身体に、直接又は衣服その他の身に付ける物(以下「衣服等」という。)の上から触れること。
二 衣服等で覆われている人の身体又は下着をのぞき見し、又は撮影すること。
三 前号に掲げる行為をする目的で、写真機、ビデオカメラその他の機器(以下「写真機等」という。)を設置し、又は衣服等で覆われている人の身体若しくは下着に向けること。
四 前三号に掲げるもののほか、人に対し、卑わいな言動をすること。
・・・
愛知県警の解説
11 「ような」とは、実際に相手方が不安を覚えたかどうかは問わず、具体的な言動の内容等を客観的に判断して、通常不安を覚えるであろうと考えられる言動を含み、不安を覚えさせたよりも広い概念である。
12 「言動」とは、言語・動作をいう。
13 「人」とは、男性、女性、成年又は未成年を問わないが、ここでいう人は卑わいな行為の相手方であるから、その行為を卑わいなものとして感じうる能力を有する者であることを要する, しかし、他人に対するものであれば足り、その直接たると間接たるとを問わないから、行為者が他人の認識しうるものであることを知ってなす場合には、本項に触れるものと解すべきである。
14 「人に対し」とは、他人を相手方としてという意味である。
15 「故なく」とは、正当な理由がなくの意である「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」による行為にかかる。これは、医療行為等の正当な理由によって、人の身体に接触するようなことがあり得るので、そのような行為は、違反態様から除外するために「故なく」と規定するものである。
16 「しゅう恥」とは、性的しゅう恥心を意味する。このしゅう恥心、すなわち、性的恥じらいは、幅の広い概念であるので「著しく」(社会的に認容し得ない程度に甚だしいものをいう。) という限定を付したものである。

20 「卑わいな言動」とは、「人を著しくしゅう恥させ、又は人に不安を覚えさせるような方法」によるもので、第1号及び第2号に規定する行為以外のものを指し、通常人がしゅう恥又は不安を覚えるであろうと考えられる程度の野卑で、みだらな言語又は動作をいう。
刑法第174条(公然わいせつ罪) より広い概念であり、わいせつに至らないもので性的道義観念に反し、人に性的しゅう恥や嫌悪の念又は不安を覚えさせるものをいう。わいせつな言語は、刑法第174条にいう、わいせつ行為に含まれないとするのが通説であるので、卑わいな言語のみによるときは、本条第2項第3号のみが成立すると解すべきであろう。

強制わいせつ罪における「性的意図」薄井真由子判事
植村立郎「刑事事実認定重要判決50選 上 《第3版》」2020立花書房
 これに対し、客観的にみて性的意味が認められない行為については,行為者が性的意図をもって行っていたとしても,行為者の主観的事情だけで性的意味を肯定することはできないというべきである。この点に関し,行為者の主観的事情との関係で取り上げられることの多い治療行為と行為者の特殊な性的嗜好フェティシズム)に基づく行為について検討しておく。
(ア)治療行為
(イ)行為者の特殊な性的嗜好フェティシズム)に基づく行為
 行為者の特殊な性的嗜好フェティシズム)に基づく行為についても,性的意味の有無の判断と行為者の主観的事情の関係が問題となる。こうした行為は,一見性的意味を持つようには思われない行為であっても,行為者は性的意図を有して行っているからである。この点、あまりに特殊な性的嗜好であり,社会通念上は性的性質が認められない行為については,やはり,行為者の性的意図だけを理由に性的意味を肯定することはできないというべきである。例えば,女性が汗を流す姿を見ることに性的興奮を覚える者が,その姿を見たいがために無理やり運動場を走らせたとしても,社会通念上当該行為に性的意味は認められないから,行為者の主観的事情だけで性的意味があることにはならない。もっとも,社会通念上もフェティシズムに基づく行為として認知されているような行為であれば,そのことから性的意味を肯定できることもあるだろう。

「欲望を抑えられず行為に及んだが、付き合っているつもりだった」という児童淫行被疑者の弁解

https://www.sankei.com/article/20240422-E5HHCJY3T5MZHLWXF5ISVG5D6A/
自身がプロデュースするアイドルグループの少女(17)にみだらな行為をしたとして、警視庁少年育成課は児童福祉法違反の疑いで、東京都世田谷区世田谷、タレントマネジメント容疑者を逮捕した。「欲望を抑えられず行為に及んだが、付き合っているつもりだった」などと容疑を否認している。
逮捕容疑は2~3月、3回にわたって自宅や都内のホテルなどで、少女が18歳未満であることを知りながら、みだらな行為をしたとしている。
同課によると、容疑者は「奥さんと別れるから待ってて」「アイドル卒業したら結婚しよう」などと言い、少女に恋愛感情を抱かせて自宅やホテルに呼び出していたとみられる。少女の父親が警視庁に相談し発覚した。


 児童淫行罪の成立要件につき「同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。」と判示していますが
  行為者と児童の関係
  助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,
  淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,
  児童の年齢,
  その他当該児童の置かれていた具体的状況
は、量刑の要素でもあるので、弁護人はこれらの項目について程度を争って情状立証を行えば、その分軽くなります。可罰性を下回れば無罪になるという連続的な関係です。
 児童淫行罪の保護対象は18歳未満ですが、刑法改正で16~17歳が保護対象から外れている点も検討する必要があります。

判例番号】 L07110035
       児童福祉法違反被告事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷決定/平成26年(あ)第1546号
【判決日付】 平成28年6月21日
【判示事項】 1 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」の意義
       2 児童福祉法34条1項6号にいう「させる行為」に当たるか否かの判断方法
【判決要旨】 1 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいい,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,これに含まれる。
       2 児童福祉法34条1項6号にいう「させる行為」に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断すべきである。
【参照条文】 児童福祉法34-1
       児童福祉法60-1
       児童福祉法
【掲載誌】  最高裁判所刑事判例集70巻5号369頁
       裁判所時報1654号174頁
       判例タイムズ1452号72頁
       判例時報2384号126頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 警察学論集69巻10号162頁
       警察公論71巻10号87頁
       研修820号15頁
       論究ジュリスト22号229頁
       ジュリスト1505号182頁
       ジュリスト1521号112頁
       法学新報124巻11~12号179頁
       法学セミナー61巻10号115頁
       法曹時報70巻8号217頁
       刑事法ジャーナル51号125頁

       主   文

 本件上告を棄却する。

       理   由

 弁護人竹永光太郎の上告趣意のうち,憲法31条違反をいう点は,児童福祉法34条1項6号の構成要件が所論のように不明確であるということはできないから,前提を欠き,その余は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論に鑑み,職権で判断する。
 児童福祉法34条1項6号にいう「淫行」とは,同法の趣旨(同法1条)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当であり,児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交又はこれに準ずる性交類似行為は,同号にいう「淫行」に含まれる。
 そして,同号にいう「させる行為」とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいうが(最高裁昭和39年(あ)第2816号同40年4月30日第二小法廷決定・裁判集刑事155号595頁参照),そのような行為に当たるか否かは,行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である。
 これを本件についてみると,原判決が是認する第1審判決が認定した事実によれば,同判示第1及び第2の各性交は,被害児童(当時16歳)を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であり,同児童が通う高等学校の常勤講師である被告人は,校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し,ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んでいることが認められる。このような事実関係の下では,被告人は,単に同児童の淫行の相手方となったにとどまらず,同児童に対して事実上の影響力を及ぼして同児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をしたと認められる。したがって,被告人の行為は,同号にいう「児童に淫行をさせる行為」に当たり,同号違反の罪の成立を認めた原判断は,結論において正当である。
 よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 小池 裕 裁判官 櫻井龍子 裁判官 山浦善樹 裁判官 池上政幸 裁判官 大谷直人)

判例番号】 L07110035
       児童福祉法違反被告事件
【事件番号】 最高裁判所第1小法廷決定/平成26年(あ)第1546号
【判決日付】 平成28年6月21日
【出  典】 判例タイムズ1452号72頁

 1 本件は,高校の常勤講師の被告人(当時28歳)が,同校生徒の被害児童(当時16歳)に対し,2度にわたり自己を相手に性交(以下「本件各性交」という。)させたという児童福祉法違反の事案である。被告人は,被害児童と本件各性交をしたことは認めていたが,弁護人は,被告人が同児童と交際していたから,本件各性交は児童福祉法34条1項6号(以下「本号」ともいう。)にいう「淫行」に当たらない,被告人が同児童に事実上の影響力を及ぼして働きかけていないから,同号にいう「淫行をさせる行為」はしていないなどと主張して同号該当性を争うと共に,第1審当時から,同号の構成要件が不明確であるから,同号は憲法31条に違反するとの規定違憲を主張していた。本決定は,規定違憲をいう点を前提を欠いた不適法な主張として排斥した上で,職権により,「淫行」の意義と「させる行為」の判断方法について判示し,被告人に同号違反の成立を認めた原判決の判断を結論において是認して上告を棄却した。
 2 本号にいう「淫行」の意義を示した最高裁判例はこれまでなかったが,学説上は,同号の「淫行」の意義として,「性道徳上非難に値する性交又はこれに準ずべき性交類似行為」とする解釈が一般的なものとされ(小泉祐康「児童福祉法」『注解特別刑法(7)風俗・軽犯罪編〔第2版〕』36頁等),本件原判決が是認した第1審判決も同様の解釈を明示していた。
 しかし,「性道徳」として想起されるところには,かなりの広がりがある上,その判断は,それぞれの人が抱く価値観によって差が生じかねない。そこで,児童福祉法の理念,趣旨に立ち返ってみると,本号の定める「淫行」に当たるかどうかは,児童福祉法の趣旨に照らし,端的に,「児童の心身の健全な育成を阻害するおそれ」があるかどうかによって,決せられるべき事柄といえ,また,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあるかどうかは,一般人であれば共通のイメージを抱くことができ,明確な解釈基準になり得るものと思われる。このようなことから,本決定は,「児童福祉法34条1項6号にいう『淫行』とは,同法の趣旨(同法1条)に照らし,児童の心身の健全な育成を阻害するおそれがあると認められる性交又はこれに準ずる性交類似行為をいうと解するのが相当」としたものと思われる。
 3 「させる行為」の解釈
 (1) 本号の解釈に係るこれまでの動きをみてみると,淫行が児童に及ぼす有害性の高さや児童保護の観点から,淫行を「させる行為」に当たると解される範囲が徐々に広がっていき(最三小判昭和30年12月26日・刑集9巻14号3018頁,判タ57号41頁等参照),最二小決昭和40年4月30日・裁判集刑事155号595頁において,「淫行をさせる行為のうちには,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をも包含する」との解釈が示され,その後,緩やかな助長・促進行為であっても,「させる行為」に該当するとされる事例が増えていった。ただし,昭和40年判例当時には,自己を淫行の相手とする場合は,淫行を「させる行為」に当たらないとの解釈が通説的見解であり(伊藤榮樹ほか編『注釈特別刑法(8)医事・薬事法,風俗関係法編』〔澤新・長島裕執筆部分〕790頁等),昭和40年判例も,同見解を前提としていたものと思われる。一方,児童保護の観点から,自己を淫行の相手とする淫行をさせる場合も本罪に含まれるとの解釈がかなり早い段階から学説上示され,有力となっていたところ(小泉祐康「児童福祉法」研修252号105頁等),やがて,下級審判例において,これを肯定する事例が急速に増え,最三小決平成10年11月2日・刑集52巻8号505頁もこれを肯定する趣旨の判示をした。このように自己を淫行の相手とする場合も淫行を「させる行為」に当たり得るとしつつ,その行為としては緩やかな助長・促進行為があれば足りると解されるとすると,処罰範囲が広くなりすぎるのではないか,各都道府県における青少年保護育成条例における淫行処罰との違いが不分明になるのではないか,といった問題が指摘されており(例えば,佐々木史朗・若尾岳志「児童福祉法34条1項6号の『児童に淫行をさせる行為』にあたる行為」判タ1053号67頁等),児童買春を処罰する法律との関係も問題とされるなど,本号の処罰範囲をどのように解すべきなのかについて,改めて検討すべき必要性が高まっていたものと思われる。
 (2) 最近の学説上,「淫行をさせる行為」について,自己を相手とする淫行をさせる類型(二者関係型)と自己以外の者を相手とする淫行をさせる類型(三者関係型)の二類型に分けて検討するアプローチが有力になっている(芥川正洋「児童福祉法34条1項6号にいう『児童に淫行をさせる行為』の意義」法律時報84巻4号116頁,本決定後のものとして,深町晋也「児童に対する性犯罪について」山口厚ほか編『西田典之先生献呈論文集』327頁,樋口亮介「性犯罪の主要事実確定基準としての刑法解釈」法律時報88巻11号91頁等)。また,「させる行為」の内容を考える視点の一つとして,自律的判断が困難な状況下で性行動が行われることにより児童の健全育成が阻害されるとして,本罪と児童の自律的判断との関係を指摘する見解(前掲芥川)や,「させた」といえるには児童の意思決定に対する影響力,心理的負担があったことを必要とする指摘する見解もかなり早くから示されていた(横田信之「児童福祉法34条1項6号の『児童に淫行をさせる行為』の意義」家裁月報39巻4号108頁)。
 そもそも,本罪は,双方の同意に基づくものである限り本来的には可罰性のない性行動につき,軽はずみな性行動が児童の心身に重大な害悪を及ぼし得ることや,未熟な児童には性行動に係る適切な判断力が備わっていないことから,児童の心身の健全育成を保護するため,児童の同意や自発的意思の有無を問うことなく,「淫行をさせる行為」をした者を重く処罰しようとするものであると解される。そうであるとすると,当該児童において自己の性行動に関する適切な判断力が十分にあり,かつ,心身の健全育成の観点からみてもその判断を尊重するのが相当といえる状況下で,当該児童による自律的な自己決定として性行動に及んだ場合には,仮に淫行の相手方から児童に対して何らかの助長・促進行為があったとしても,児童の意思決定に影響力を及ぼしたとはいえず,当該児童に淫行を「させた」と解すべきではないように思われる。この点,昭和40年判例においても,「淫行をさせる行為」について,「直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為」と判示されており,助長・促進行為のみならず,児童の意思決定に対する影響力についても検討することが求められていたと解される(なお,児童福祉法の理念として,児童の自立,児童の年齢及び発達の程度に応じて,その意見が尊重され,その最善の利益が優先して考慮されるべきことについて,児童福祉法2条1項参照。)。他方で,本罪は,児童の判断力が未熟であることを前提に児童の心身の健全育成を図るものであるから,児童に自発的意思があるようにみえたからといって,ただちに児童に影響力が及んでいないとみるべきでないことも当然である(昭和30年判例参照)。
 このような観点から考えてみると,三者関係型では,本来は二者間の交渉においてなされるべき性行動に係る判断過程に,第三者が関わってくるということ自体が,児童の性行動に係る判断の自律性を一般的に歪める行為であるから,緩やかな助長・促進行為しかなく,児童の自発的意思があったとしても,児童の意思決定に「事実上の影響力」を及ぼしたものとして「させる行為」に当たると認められやすいということができ,二者関係型では,「させる行為」に該当するかどうかを判断するためには,その二者の関係性や,助長・促進行為がどのようなものであったかを具体的に検討して,児童の意思決定に及ぼされた事実上の影響力がどのようなものであったかを個別に検討する必要性が高くなるという違いがあるように思われる。したがって,二者関係型と三者関係型とでは,児童の意思決定に対する影響において,類型的に異なる性質があり,これらを分けて検討することは有益と考えられ,二者関係型では,「させる行為」に該当するというためには,三者関係型に比べて+αの要素が必要になってくるものと思われる。そして,そのような+αの要素となり得るものとして,①行為者による優越的地位の利用や困窮状態の利用といった何らかの支配関係の成立(西田典之「児童に淫行をさせる罪について」『宮澤浩一先生古稀祝賀論文集(3)』305頁,鎮目征樹「児童福祉法34条1項6号にいう『児童に淫行をさせる行為』に当たるとされた事例」ジュリスト1210号219頁等。)や,②保護責任者的地位の利用(前掲深町328頁)などを典型的なものとして捉えることができるように思われる。
 他方で,児童の心身の健全育成という児童福祉法の趣旨に照らしてみれば,二者関係型において,支配関係の成立や保護責任者的地位利用が認められなくても,本罪による処罰にふさわしい「させる行為」といえるだけの実質を備えた行為があり得るようにも思われ,二者関係型類型において本罪が成立するのは,支配関係の成立や保護責任者的地位利用がある場合に限定されるとまで言い切ることには疑問が残る。また,行為者と被害児童との間に何らかの支配関係あるいは保護責任者的地位がありさえすれば,助長・促進行為が微弱であっても常に「させる行為」に当たるとまではいえないであろうから,支配関係や保護責任者的地位を要求するだけでは,なお処罰範囲の外延が明らかになっているともいい難いであろう。
 (3) 「させる行為」について本決定が示した判断方法
 以上のとおり,「させる行為」の解釈が次第に変遷していく中で,「させる行為」の本質部分をどのように捉えるべきかや,その類型化をめぐる議論は,未だ十分に熟しているとはいい難い状況にあるように思われる。
 そのような中,本決定は,「同号にいう『させる行為』とは,直接たると間接たるとを問わず児童に対して事実上の影響力を及ぼして児童が淫行をなすことを助長し促進する行為をいう」と判示し,昭和40年判例で示されていたとおり,「させる行為」該当性について,①「事実上の影響力」を児童に及ぼしているか,②児童が淫行をすることを助長し促進する行為であるか,の二つの観点から判断する解釈を踏襲する判示をし,その上で,「させる行為」に該当するかどうかについては,「行為者と児童の関係,助長・促進行為の内容及び児童の意思決定に対する影響の程度,淫行の内容及び淫行に至る動機・経緯,児童の年齢,その他当該児童の置かれていた具体的状況を総合考慮して判断するのが相当である」と判示して,その判断方法を明らかにした。本決定は,「淫行をさせる行為」が,立法当初の解釈に比べて相当に広範囲なものを含む解釈が定着している中で,本号による重い処罰にふさわしい行為に限定されていなければならないとの要請も満たしつつ,児童保護の観点からも適切な処罰範囲を画するため,本罪に該当するとされた裁判例の集積を踏まえ,「させる行為」を判断する際の具体的考慮要素を明示して判断方法を明らかにすることにより,処罰範囲の明確化を図ろうとしたものと思われる。
 本決定によれば,「させる行為」に当たるかどうかを評価するに際しては,当該児童に及んでいる「事実上の影響力」の程度を踏まえた上で,「させる行為」と評価できるような「助長・促進行為」があるかどうかを,当該児童が淫行に及んだ具体的状況に照らして個別に検討していくことになろう。
 4 本決定は,①本件各性交が,被害児童を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱っているとしか認められないような者を相手とする性交であること,②被告人と同児童との関係について,被告人が同児童(当時16歳)の通う高等学校の常勤講師であったこと,③被告人の具体的行為として,校内の場所を利用するなどして同児童との性的接触を開始し,ほどなく同児童と共にホテルに入室して性交に及んだことを簡潔に指摘しており,本件においては,強力といえるような助長・促進行為はないものの,高校講師である被告人が被害児童に及ぼした「事実上の影響力」を踏まえれば,本件各性交をした行為が,「児童に淫行をさせる行為」に当たると判断されたものと考えられる。ただし,この判断は,第1審判決が詳細に認定した具体的事実関係が前提とされている点にも留意すべきであろう。
5  本決定は,児童に対する性犯罪を規制する重要な法令の一つである児童福祉法に定められた本罪の構成要件である「淫行」の意義を明らかにするとともに,「させる行為」の判断方法を示した最高裁判例として,実務上重要な意義を有するといえる。なお,本決定は,二者関係型と三者関係型との区別を含む類型別の検討の重要性を否定するものではないし,また,本罪の処罰対象となり得る典型類型をどのようなものとみるべきかや,そのような典型類型以外にどのような類型があり得るのかなどについては,今後の裁判例や議論の積み重ねに委ねられたものといえよう。

同性愛という志向自体が被告人の非難可能性を高めるとは言えず、性的マイノリティであることを刑を重くする事情として取り扱うことは許されない(松江簡裁r05.12.12)

「同性愛」を被告人・被疑者に不利益な事情として挙げることはときどきある。
 例えば、同性の青少年条例の淫行を

「淫行」とは、広く青少年に対する性行為一般をいうものと解すべきでなく、
①青少年を誘惑し、威迫し、欺罔し又は困惑させる等その心身の未成熟に乗じた不当な手段により行う性交又は性交類似行為のほか、
②青少年を単に自己の性的欲望を満足させるための対象として扱つているとしか認められないような性交又は性交類似行為をいうものと解するのが相当である。(最大判S60.10.23)

という判例で検討する場合など、法律婚が認めらていないので、マイナス要素として考慮しているような気がする。こういうのもupdateして書き直してもらわないと。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20231212-OYT1T50295/
判決によると、男は男性の尿の臭いをかぐことで性的欲求を満たしており、9月4日、松江市内のスーパーにある男子トイレで、気に入った顔立ちの見知らぬ男性の尿臭をかぐため、小便器用目皿(時価1000円相当)1個を盗んだ。
 今井裁判官は「計画性のある大胆で手慣れた犯行。常習性も認められる」とし、「性的快楽を得るためという動機には同情の余地が乏しい」と指摘。一方で被害弁償を行っていることなどから執行猶予判決とした。

 また、同性愛を背景にした犯行である点に触れ、「性的マイノリティーであることを、刑を重くする事情として取り扱うことは許されない。ダイバーシティー&インクルージョン(多様性と包摂性)が求められる現代社会においては、なおさらだ」と述べた。

松江簡裁r05.12.12
量刑理由
性的欲求を背景として商店トイレの小便器からその部品を盗んだ窃盗1件の事案である
計画性のある大胆で手慣れた犯行態様で同種行為を繰り返す一環として犯行に及んだ被告人には常習性も認められる。
確かに恋愛感情や性愛についても多用な価値観が受容されるべきで同性愛という志向自体が被告人の非難可能性を高めるとは言えず、性的マイノリティであることを刑を重くする事情として取り扱うことは許されない
ダイバーシティインクルージョン(多様性と包摂性)が求められる現代社会においてはなおさらである
しかしながら~~

児童ポルノ単純所持罪(7条1項)の無罪判決(大阪地裁r06.4.16)

児童ポルノ単純所持罪(7条1項)の無罪判決(大阪地裁r06.4.16)
 東京地裁H28、東京高裁H29の流れです。
 無罪事件で用いられる文献・判例を紹介しておきます

東京地裁のCG事件(東京地裁H28.3.15)
https://www.courts.go.jp/app/hanrei_jp/detail3?id=87027
では、34画像中31画像が無罪になっています。

控訴審(東京高裁h29.1.24)で追認

d1law
被告人が、不特定多数の者に提供する目的で、衣服をつけない実在する自動の姿態が撮影された画像データを素材として編集した画像データである児童ポルノを製造し、同一のファイルを訴外会社に送信して記憶・蔵置させるとともに、その販売を同社に委託し、不特定の者に販売することで児童ポルノを提供したという件で起訴された件につき、被告人が控訴した控訴審において、原判決が破棄され、被告人が罰金30万円に処せられた事例。
東京高裁h29.1.24
判    決
 上記の者に対する児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反被告事件について,平成28年3月15日東京地方裁判所が言い渡した判決に対し,被告人から控訴の申立てがあったので,当裁判所は,検察官和久本圭介並びに弁護人山口貴士(主任),同壇俊光,同奥村徹,同野田隼人,同北周士,同北村岳士,同歌門彩及び同吉峯耕平(いずれも私選)各出席の上審理し,次のとおり判決する。
主    文
 原判決を破棄する。
 被告人を罰金30万円に処する。
 その罰金を完納することができないときは,金5000円を1日に換算した期間,被告人を労役場に留置する。
 原審における訴訟費用のうち,2分の1を被告人の負担とする。
 本件公訴事実第2(平成25年9月3日付け訴因変更請求書による訴因変更後のもの)のうち,児童ポルノである画像データを含むコンピュータグラフィックス集「聖少女伝説」を提供したとする点について,被告人は無罪。
イ 児童性の認定について
(ア)所論は,原判決が児童性に関する唯一の証拠としたy医師の鑑定及びその原審証言は,同医師が依拠する理論自体,刑事事件で児童性の認定に利用できるほど理論的,合理的なものとはいえず,タナー法については,提唱者であるタナー氏自身が,同法で年齢を推定することはできないとして,これを年齢の推定に利用することを批判していることなどに照らすと,y医師の原審証言は信用できず,また,判断対象は本件CGの児童ポルノ性であるのに,本件CGを見て判断しておらず,その基となった素材画像の写真のみを見て判断している点でも信用できないと主張する。また,原判決が,タナー法で乳房2度以下であれば18歳であるといえると判断した点についても,18歳以上の女性の中に,実際に乳房についてタナー2度の女性がどの程度存在するかに関するデータはない上,実際,y医師は,原審公判において,明らかに18歳以上であるAV女優の乳房の写真を弁護人から示されて,タナー2度であると誤った証言をしていることなどに照らすと,同医師の証言は信用できない,結局,原判決の判断は,裁判所が写真を見て幼く感じたから18歳未満であるというにすぎず,このような原判決の判断には事実の誤認がある,などと主張する。
(イ)そこで検討すると,胸部及び陰毛のみを判断資料とするタナー法に基づいて年齢を判定することには限界ないし危うさがあること,タナー法に依拠して,本件において素材画像の写真の児童性を判定したy医師の原審証言を全面的に信用して年齢を判断することが相当でないことは,原判決が適切に説示するとおりである。もっとも,原判決が乳房についてタナー法で2度以下と判定された事例について,児童性を認定した点については,確かに,18歳以上の女性の中に乳房がタナー2度以下の者がどの程度の確率で存在するかを実際に調査したデータはないものの,y医師は,原審において,タナー2度以下で18歳以上である可能性として,体質性思春期遅発症による可能性と性腺機能低下症による可能性が考えられるところ,前者については,性発達の年齢の分布が正規分布となることが分かっていることから,乳房についてタナー2度に達する日本人女性の平均年齢と標準偏差を元に計算すると,100万人に3人(1万人に0.03人)未満の確率となり,後者の可能性についても,1万人に1人未満であるから,前者と後者の可能性を併せても,18歳以上の者の中で乳房タナー2度以下が存在する可能性は,理論上,1万人に1人未満という極めて低い確率である,18歳未満か否かの判断については,乳房タナー2度を基準とすればまず間違いがない旨証言している。
 加えて,y医師が引用する田中敏章氏らの研究(y原審証言調書別紙6。当審弁3。)によれば,1983年ないし1986年生まれの日本人女児226人について,乳房タナー度数別の累積頻度を実態調査したところ,12歳になるまでに,全ての者がタナー2度に達し,95%の者がタナー3度に達したことが認められ,更に18歳になるまでにはタナー3度に達する者の割合が高くなることが推認される。
 y医師の上記の原審証言は,小児科学,小児内分泌学等を専門とする同医師の専門的知見に基づき,上記の実態調査等のこれまでの医学的,科学的な研究等の成果に基づくものであって,その内容には合理性があり,十分信用することができるというべきである。そうすると,少なくとも,y医師が述べるように,18歳以上の者の中に乳房についてタナー2度以下の者が存在する可能性が極めて低いことについては,十分科学的な裏付けがあるといえるから,原判決が採ったように,少なくとも,乳房がタナー2度以下と判断された者については,18歳未満であると推認することができ,さらに,顔立ち,乳房や肩幅,腰付近の骨格等の身体全体の発達の程度をも加味して検討すれば,18歳以上の女性で乳房がタナー2度以下と判定される例外的な事例は,排除できるというべきである。したがって,y医師が乳房についてタナー2度と判定した被写体について,上記の諸点も考慮した上,児童性を認めた原判決の判断に,事実の誤認はなく,単に裁判所が写真を見て幼く感じたから児童性を認定したとする所論の論難は当たらない。その他,所論が指摘する点を踏まえても,上記の判断は揺るがない。


タナー法を批判する論文として
 浅田和茂先生古稀祝賀論文集(平成28〔2016〕年10月l日刊)
 児童ポルノ事件における児童性の認定方法に関する考察
 -タナー法を用いた年齢推定法の利用について- 吉井匡
 https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-22K01206/

  The difficult issue of age assessment on pedo-pornographic material
  Inaccuracy of age assessment from images of postpubescent
  Misuse of Tanner Puberty Stages to Estimate Chronologic Age

吉井論文を批判してタナー法も絞ればまだ使えるという論稿
 性犯罪捜査全書 理論と実務の詳解
 タナー法による性(犯罪)被害児童の年齢推定
 城祐一郎 元検事

無罪判決
 佐賀地裁r02.2.12 D1-Law.com判例体系
 大阪地裁r06.4.16

朝日新聞デジタル記事
児童ポルノ所持に無罪 大阪地裁「写真では18歳未満か疑い残る」
2024年4月17日 12時27分
 児童の性的動画を持っていたなどとして児童買春・児童ポルノ禁止法違反の罪などに問われた男(53)の判決で、大阪地裁の松本英男裁判官は「被写体が18歳未満か合理的な疑いが残る」として、同罪を無罪とした。動画や画像から「18歳未満」と判断する際に使われる医学的手法の適用時には、「慎重な判断が必要」と述べた。

 判決は16日。6歳の児童の下着を撮った大阪府迷惑防止条例違反の罪は認め、懲役6カ月執行猶予3年(求刑・懲役8カ月)とした。

 男は2022年3月、スマートフォン児童ポルノの動画を保存していたなどとして起訴された。被写体が誰なのかは特定されておらず、「動画に映っている女性が18歳未満か」が争点だった。

 捜査現場では児童ポルノかどうかを判断する場合、体の発育状況などから性的な成熟の度合いを評価する「タナー法」が広く用いられている。

裁判官「タナー法での判定時、慎重な判断必要」
 検察側は、動画の写真資料をタナー法を用いて鑑定した小児科医の意見をもとに、被写体は「小学校高学年から中学生の女児と考えられる」と主張。弁護側は「間違いなく18歳未満とは言えない」と反論した。
 松本裁判官はまず、性的な成熟には個人差があることや判定には主観が入ること、画像の解像度の問題を踏まえて、「タナー法で年齢を判定する際は慎重な判断が必要だ」と述べた。
その上で、今回の写真資料は不鮮明で映った人物の人種や国籍も断定できないことから、「日本人女性の性成熟度の研究をそのまま援用できるのかは疑問がある」と指摘。体つきからの年齢判断に統計学的な合理性があるとしても、「具体的な例外を許さないものとは考えられない」として、「18歳未満」とする検察側の主張には合理的な疑いが残ると結論づけた。
 弁護人の川崎拓也弁護士は「主張が一部認められなかったのは遺憾だが、画像からの年齢の判定には慎重さが必要だという判断は妥当だ。近年は写真の加工も当たり前になっており、捜査にも慎重さが求められる」と話した。(山本逸生)

青少年条例が、法律の範囲を超えて、16歳から17 歳までの者の性的行為の自由及びそれらの者との性的行為の自由を不当に制限するとして規定違憲をいう点は、同条例が、青少年をその健全な成長を阻害する行為から保護し、青少年の健全な育成を図ることを目的とするものであるから、前提を欠く(最決R6.4.8)

青少年条例が、法律の範囲を超えて、16歳から17 歳までの者の性的行為の自由及びそれらの者との性的行為の自由を不当に制限するとして規定違憲をいう点は、同条例が、青少年をその健全な成長を阻害する行為から保護し、青少年の健全な育成を図ることを目的とするものであるから、前提を欠く(最決R6.4.8)

 原判決はR5.12で、確定をR6.4以降に延ばすというミッションは達成。ほとんどは4ヶ月以内に棄却されるし、事実誤認だけだと上告趣意書差出最終日から2週間くらいで棄却されることもある。
 そういうときは、控訴理由の段階で、最高裁の判断がない論点を挙げる。
 よくわからないので、文献を羅列するだけの主張になっている。上告趣意書起案段階で憲法学者のコメントをもらって構成を修正している。
 なお、同じ控訴理由について、別件の東京高裁R6.4.10でさらに詳しい判断が出ている。

上告理由第1 法令違反~17歳との性行為は、国法上許容されるに至っているから、憲法94条違反で無効となり、刑の廃止による免訴(刑訴法337条2号)にすべきであった。 4
1 青少年条例は刑法の性犯罪規定とは補充関係にある 4
2 青少年の性的行為の実情 9
3 最近の未成年者法の動き 11
4 福岡県青少年保護育成条例違反被告事件大法廷判決(最大判S60.10.23)の合憲理由の大半が失われたこと。 13
5 憲法94条違反 17
木村光江「性的自由に対する罪」再考法曹時報第76巻01号p19 17
6 本件被害青少年の成熟度 28
7 刑の廃止 30
8 17歳後半の青少年との性行為を懲役刑を以て規制する青少年条例は「法律の範囲内」(憲法94条)に収まらないから無効である。 33
9 原判決とその問題点 37
上告理由第2 憲法違反~国法上許容されることになった17歳との性行為を条例で懲役刑を以て規制することは、青少年の性的行為の自由+その相手方の性的行為の自由を不当に制限するものあって、条例の当該部分は憲法13条・24条に違反して無効である。 41
1 原判決は根拠規定も合憲性判定基準も示さずに合憲とした 41
憲法と青少年―未成年者の人権をめぐって2021 42
2 青少年側の性的権利について 43
(1)未成年者の人権享有主体性 43
佐藤幸司 日本国憲法論 第2版P155 44
米沢「未成年者の自由」憲法の争点[旧]〔新版〕71頁) 47
(2)青少年側の性的権利について~最高裁の判断はまだ無い 49
憲法と青少年―未成年者の人権をめぐって2021 50
村西良太「刑罰法規の不明確性と広範性―福岡県青少年保護育成条例事件―」『憲法判例百選Ⅱ 第7 版』(別冊Jurist No.246)有斐閣, 2019, pp.240-241 51
(3) 現行刑法は、青少年側の決定権を重視して、13~15歳に対する性的行為を明文で許容したこと(5歳差ルール) 52
【逐条説明】刑法及び刑事訴訟法の一部を改正する法律案 54
梶検事の説明 55
城祐一郎元検事も「対等性」を理由とする。 56
米沢「未成年者の自由」憲法の争点[旧]〔新版〕71頁) 58
3 根拠規定 60
(1)原判決は根拠規定を示さない。 60
(2) 幸福追求権(13条)侵害 61
①文献 61
ア 最高裁判例解説s60 61
イ 安部哲夫「青少年の性的保護と刑事規制の限界「青少年保護育成条例」を中心に 63
ウ 米沢広一 子ども,親,政府--アメリカの憲法理論を素材として神戸学院法学15巻3号 65
オ 横田耕一:九州大学教授 ジュリスト853号 44頁 1986年2月1日発行 特集・青少年保護育成条例大法廷判決 青少年に対する淫行の条例による規制と憲法 68
カ 福岡 久美子「青少年保護条例による性的自由の制限」 70
キ 羽渕雅裕「親密な人間関係と憲法」 71
ク 竹中勲:京都産業大学教授法学教室176号 49頁 1995年5月1日発行 重点講座【現代人権展望】〔2〕親密な人的結合の自由(Ⅰ 自由と自己決定) 72
②裁判例では青少年側の性的行為の自由への言及はない 74
名古屋高裁s53.10.25*4 74
福岡高裁s55.10.30*5 74
(3) 家族生活における個人の尊厳と両性の平等(24条)侵害 74
松井茂記日本国憲法 第3 版』有斐閣, 2007, pp.549-550 75
(4)青少年のリプロダクティブ・ヘルス / ライツ(子どもの権利条約34条) 77
4 青少年の性的自己決定権の限界・合憲性判定基準 78
辻村みよ子 憲法第7版p107 79
佐藤幸治 人権の観念と主体 79
岩村正彦 岩波講座 現代の法14 自己決定権と法 P165 81
5 青少年の相手方(被告人)の性的権利について~最高裁の判示がないこと 84
(1) 幸福追求権(13条)侵害 84
①文献 84
ア 最高裁判例解説s60 84
②裁判例 86
名古屋高裁s53.10.25*6 86
福岡高裁s55.10.30*7 86
(2)本件について 86
上告理由第3 青少年のリプロダクティブ・ヘルス / ライツ(子どもの権利条約34条)違反 87

最決r6.4.8
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人○○の上告趣意は、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であり、弁護人奥村徹の上告趣意のうち、青少年条例○条、○条が、法律の範囲を超えて、16歳から17 歳までの者の性的行為の自由及びそれらの者との性的行為の自由を不当に制限するとして規定違憲をいう点は、同条例が、青少年をその健全な成長を阻害する行為から保護し、青少年の健全な育成を図ることを目的とするものであるから、前提を欠き、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
よって、同法41 4条、38 6条1項3号、18 1条1項本文により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
令和6年4月8日
最高裁判所第三小法廷

東京高裁令和6年4月10日
上記(2)の主張は、控訴趣意書差出最終日経過後の新たなものであるから、不適法と解されるが、 上記(1)の主張の前提となることにも鑑みて、職権で検討する。
所論は、本件各罰則規定は、いずれも憲法13条が保障する青少年の性的自由を一律かつ広汎に制約し、 しかも青少年の性的行為を相手方の処罰により禁止するものであり、このような強度の規制に正当性はなく、規定自体が憲法13条、 24条に違反し文面上無効である、そうでなくとも、当時○○歳で性的行為に対する十分な判断能力がある被害者に保護の必要はないから、本件各罰則規定を適用して被告人を処罰することは、被害者の性的自由に対する過度の介入であり、憲法13条に違反する、 というのである。
検討するに、両条例における本件各罰則規定は、いずれも、 18歳未満の青少年は、その心身の未成熟などから、 性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分に備わっているといえないことなどを踏まえて、青少年の育成を阻害するおそれのある行為を禁止すべく、 「みだらな性行為」(A県条例) ないし 「みだらな性交」 (B県条例)を処罰の対象としたものと解され、結婚その他正当な理由がないのに、単に自己の性的欲望を満たす目的でする性行為ないし性交は、この要件を満たすものである。
所論がいうように、かかる罰則規定の適用により、青少年の性的行動に事実上の制約を及ぼす面があるとしても、本件各罰則規定は、いずれも青少年の育成を阻害するおそれのある行為を禁止する目的に基づきこれを達するに必要な罰則を定めたものといえ憲法13条、24条に違反するものでないことはもとより、本件各行為に適用することが憲法13条に違反するともいえない。
所論は、令和5年改正に係る刑法176条3項、 177条3項においては、行為者と相手方の年齢差が5歳以上でない限り13歳以上16歳未満の者とのわいせつな行為、性交等が許容され、 青少年の性的自由が認められているというが、上記の刑法改正においても16歳未満の者には性的行為について有効に自由な意思決定をする前提となる能力が十分に備わっているといえないことが前提になっているものであり、 上記の刑法改正によっても、本件各罰則規定の文面及び適用に係る憲法適合性の判断が左右されるものではない。
本件の被害者に性的行為に関し十分な判断能力がある旨をいう所論についても、 原審記録を調査しても、本件の被害者が本件各罰則規定における青少年から除外されるべき事情は認められない。

児童を脅迫して裸の画像を撮影・送信させた行為を、強要+児童ポルノ製造罪の観念的競合とした事例(佐世保支部r6.2.21)

児童を脅迫して裸の画像を撮影・送信させた行為を、強要+児童ポルノ製造罪の観念的競合とした事例(佐世保支部r6.2.21)
 最近は、強制わいせつ罪・不同意わいせつ罪+製造罪の観念的競合で処理されています。
 「送信させ」をわいせつ行為とするのを躊躇して、強要罪で起訴されることがあるようです。
 強要罪と製造罪とは併合罪とするのが判例です。強制わいせつ罪とは観念的競合。「一個の行為とは、法的評価を離れ、構成要件的観点を捨象した自然的観察の下で、行為者の動態が社会的見解上一個のものと評価される場合をいう。(最大判昭49・5・29)」というものの、構成要件的観点が捨象されていません。
 

東京高裁平成28年2月19日
なお,原判決は,本件において,強要罪と3項製造罪を観念的競合であるとしたが,本件のように被害者を脅迫してその乳房,性器等を撮影させ,その画像データを送信させ,被告人使用の携帯電話機でこれを受信・記録して児童ポルノを製造した場合においては,強要罪に触れる行為と3項製造罪に触れる行為とは,一部重なる点はあるものの,両行為が通常伴う関係にあるとはいえず,両行為の性質等にも鑑みると,両行為は社会的見解上別個のものと評価すべきであるから,これらは併合罪の関係にあるというべきである。したがって,本件においては,3項製造罪につき懲役刑を選択し,強要罪と3項製造罪を刑法45条前段の併合罪として,同法47条本文,10条により犯情の重い強要罪の刑に法定の加重をした刑期の範囲内で処断すべきであったところ,原判決には上記のとおり法令の適用に誤りがある 平成28年2月19日
東京高等裁判所第5刑事部
裁判長裁判官 藤井敏明
裁判官 福士利博
裁判官 山田裕文

提供 TKC
【文献番号】 25598401
【文献種別】 判決/長崎地方裁判所佐世保支部(第一審)
【裁判年月日】 令和 6年 2月21日
【事件名】 長崎県少年保護育成条例違反、強要、児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、強制性交等被告事件
【裁判結果】 有罪
【裁判官】 柴田寿宏 大島泰史 新納亜美
第2(令和5年7月11日付け起訴状公訴事実第2、第3の分)
 被告人は、B(当時13歳)から入手した同人のわいせつな画像データ等を拡散する旨告げるなどして同人を脅迫し、同人のわいせつな動画データを送信させようと考え、令和4年11月19日午前10時42分頃から同日午前10時57分頃までの間、長崎県内又はその周辺において、被告人の携帯電話機のアプリケーションソフト「インスタグラム」のメッセージ機能を使用して、Bが使用する携帯電話機に、「許せないです」「頼んだ時に言ったように見せてくれるなら許します」「バラします」「じゃあ出す動画撮って」などと記載したメッセージを送信してBに閲読させ、同人の陰部等を撮影した動画データを送信するよう要求し、この要求に応じなければ、同人のわいせつな画像データ等を拡散して同人の名誉等に危害を加える旨告知して脅迫し、よって、同日午前10時48分頃から同日午前11時2分頃までの間、3回にわたり、同人に、その陰部を露出した姿態をとらせてこれを同人の携帯電話機で動画撮影させた上、その動画データ3点を前記インスタグラムのメッセージ機能を使用して被告人の携帯電話機に送信させ,もってBに義務のないことを行わせるとともに、Bが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記動画データ3点を、前記インスタグラムを運営する「c,Inc.」が管理する場所不詳に設置されたサーバコンピュータに記録・保存させ、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。
第3(令和5年7月11日付け起訴状公訴事実第4、第5の分)
 被告人は、第2と同様に考え、令和4年11月22日午後9時54分頃から同日午後10時23分頃までの間、佐賀県内又はその周辺において、被告人の携帯電話機の前記インスタグラムのメッセージ機能を使用して、Bが使用する携帯電話機に、「腰振る動画撮って」「布団に擦り付けてって言ってるじゃん」「遅い」などと記載したメッセージを送信してBに閲読させ、同人の陰部等を撮影した動画データを送信するよう要求し、この要求に応じなければ、同人のわいせつな画像データ等を拡散して同人の名誉等に危害を加える旨告知して脅迫し、よって、同日午後9時54分頃から同日午後10時28分頃までの間、5回にわたり、同人に、その陰部等を露出した姿態をとらせてこれを同人の携帯電話機で動画撮影させた上、その動画データ5点を前記インスタグラムのメッセージ機能を使用して被告人の携帯電話機に送信させ、もってBに義務のないことを行わせるとともに、Bが18歳に満たない児童であることを知りながら、前記動画データ5点を、前記サーバコンピュータに記録・保存させ、もって衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するものを視覚により認識することができる方法により描写した電磁的記録に係る記録媒体である児童ポルノを製造した。 
(法令の適用)
罰条
判示第1の所為 長崎県少年保護育成条例22条1項1号、16条1項
判示第2、第3の各所為
いずれも強要の点は刑法223条1項、児童ポルノ製造の点は包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項3号
判示第4、第6の各所為
いずれも令和5年法律第66号附則2条1項により同法による改正前の刑法177条前段
判示第5、第7の各所為
いずれも包括して児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律7条4項、2項、2条3項1号
科刑上一罪の処理
判示第2、第3の各罪
いずれも1個の行為が2個の罪名に触れる場合である(被害者を脅迫して動画データを送信させ、サーバコンピュータに記録・保存させるという強要の行為がそのまま児童ポルノ製造罪の行為となっている。)から、刑法54条1項前段、10条により1罪として犯情の重い強要罪の刑で処断
刑種の選択 判示第1、第5及び第7の各罪についていずれも懲役刑を選択
併合罪の処理
刑法45条前段、47条本文、10条により刑及び犯情の最も重い判示第6の罪の刑に法定の加重
未決勾留日数の算入 刑法21条
訴訟費用の不負担 刑事訴訟法181条1項ただし書

令和6年2月21日
長崎地方裁判所佐世保支部
裁判長裁判官 柴田寿宏 裁判官 大島泰史 裁判官 新納亜美

強姦・強制性交罪で懲役20年以上になった裁判例

強姦・強制性交罪で懲役20年以上になった裁判例

 

            最年少被害者  
広島 地裁   H21.9.14 懲役30年 95罪 10才 師弟
大阪 地裁 H21.3.19 懲役25年 13罪 18才 凶器
宮崎 地裁   H20.7.17 懲役20年 10罪 20才 霊能力
神戸 地裁   H24.7.19 懲役20年 08罪 05才  
千葉 地裁   H24.8.28 懲役30年 06罪 11才 凶器
福岡 地裁 飯塚 H26.3.27 懲役23年 11罪 12才 交際相手の娘
名古屋 地裁 岡崎 H26.8.28 懲役26年 16罪 11才 師弟

アスリート盗撮の構成要件がまとまっていない

 法制審議会でも話題になっていますが、「広島県のケースのように迷惑防止条例を適用して対処しようにも、性被害に詳しい上谷さくら弁護士(東京)は「選手の全身を撮影している場合は単なるファンと同じで、罪に問えない」と話す。23年の刑法改正で性的姿態撮影罪が新設されたが、ユニホーム姿は「性的な意図の線引きが難しい」と対象外になった。」というよりは、アスリート盗撮の犯罪化を求める側が構成要件をまとめられなかった感じですよね。胸部・股間を強調して撮影・トリミングする行為の犯罪化

法制審議会 刑事法(性犯罪関係)部会
第5回会議 議事録
○長谷川幹事
もう一点は、撮影の対象です。スポーツ選手のユニフォームなどが問題となってくるのですが、衣服に覆われているということでこの犯罪の対象から一律除外されるということはないようにというか、それも検討に残しておきたいと思っています。下着が明確に入ったら、それはそれでいいのですが、ユニフォームなどについても、これは、例えばスポーツジャーナリストの写真はどうだとか、そういう区別の難しさはあるのですが、実際に撮影されたものが、見る者をしてやはり性的な羞恥心を覚えさせるような形で、着衣の上からでも撮影されているようなものについては、犯罪化の検討は論点として残しておいていただきたいと思います。
○井田部会長 それは、スポーツ選手が競技しているところを撮影する行為をすべて処罰すべきだということではないですよね。どういう場合に処罰すべきだということなのでしょうか。
○長谷川幹事 撮影行為と撮影の成果物、なかなか切り離すのが難しいかもしれないですけれども、撮影された者がスポーツをしているところを普通に撮影しているものと評価されないもの、例えば、殊更に、胸の谷間のところを強調して撮影しているだとか、見ている人が性的な羞恥心を覚えたりするようなものについては対象とすると、そういうものを撮影したことが構成要件としてなっていく形を考えています。
○橋爪委員 一点質問させていただきたいのですが、具体的にどのような処罰規定を設けるべきという御提案でしょうか。
○長谷川幹事 処罰規定というのは、法定刑などでしょうか。
○橋爪委員 むしろ具体的な構成要件の内容です。スポーツ選手の臀部や胸部などをアップにする写真を撮影する行為を対象にされていると思いますが、具体的にどのような行為態様を規定した上で、どのような構成要件を設けるべきとお考えかについて、お伺いさせてください。
○長谷川幹事 ほかの要件についてまだ分からないのですけれども、着衣の有無にかかわらず、人の性的な部位、臀部とか、そこの定め方は少し置いておきますが、そういったものを強調又は露出するような方法で、かつ、人に羞恥心をもたらすような画像とか、何かそのような、すみません、まだ練れていないですが。わいせつ物頒布罪の判例の定義とか、いろいろな定義を参考にして持ってきたらと思うのですが、そういう二つの要素を構成要件にした形を考えています。

ジェンダー その先へ #五輪イヤー=アスリート盗撮 対策苦慮 相次ぐ被害、ネット流出も 条例規制も「性的意図」判断難しく
2024.03.30 西日本新聞
 22年にはこの競技場でカメラをかばんや車の下に隠して撮影していた男に出入り禁止を言い渡した。男は23年8月、広島県で女子陸上選手の下半身を撮影したとして県迷惑防止条例違反(卑わいな言動)容疑で逮捕された。だが福岡陸協の大神和彦常務理事(69)は「わが子を撮影する保護者も多く、性的な目的の撮影を見破るのが難しい」と話す。
・・・

 広島県のケースのように迷惑防止条例を適用して対処しようにも、性被害に詳しい上谷さくら弁護士(東京)は「選手の全身を撮影している場合は単なるファンと同じで、罪に問えない」と話す。23年の刑法改正で性的姿態撮影罪が新設されたが、ユニホーム姿は「性的な意図の線引きが難しい」と対象外になった。
西日本新聞社

提供目的製造行為を、姿態をとらせて製造罪で起訴していいのか~4項製造罪と7項製造罪との関係

提供目的製造行為を、姿態をとらせて製造罪で起訴していいのか~4項製造罪と7項製造罪との関係
 島戸さんらの解説では、各項の製造罪の守備範囲は重ならないとされていたのですが、提供目的で姿態をとらせて製造したとか、ひそかに姿態をとらせて製造したような事案が出てきたので、最近はそうるさいこというなよ、優先順位はないよという高裁判例が続いています。
 訴追裁量論でごまかしているような気がします。

島戸純「児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律の一部を改正する法律について」警察学論集57-08(2004.8.10)
p97
ウ構成要件
第2項に規定するもののほか、児童に第2条第3項各号のいずれかに掲げる姿態をとらせ、これを写真、電磁的記録に係る記録媒体その他の物に描写することにより、当該児童に係る児童ポルノを製造する行為である。
(ア) 姿態をとらせ」
「姿態をとらせ」とは、行為者の言動等により、当該児童が当該姿態をとるに至ったことをいい、強制によることは要しない。
いわゆる盗撮については、本項の罪に当たらない。一般的にそれ自体が軽犯罪法に触れるほか、盗撮した写真、ビデオ等を配布すれば名誉致損の罪も成立し得るし、他人に提供する目的で児童ポルノを製造すれば、第7条第2項、第5項により処罰されることとなる。
(イ) 第1項の目的で児童ポルノを製造した場合は本項の罪からは除かれる。これは単に重複を避けるための技術的なものにすぎない。
・・
p98
オ他罪との関係
他人に提供する目的又は公然陳列目的をもって第7条第3項に規定する児童ポルノの製造行為を行った場合、第7条第3項は、第2項に規定するものを除いているので、他人に提供する目的等があった場合には、その第3項の犯罪は成立しない。
なお、第2項は、第5項に該当する場合を含むものであり、第3項においては、第2項に規定する場合のみを除けば、当然に第5項に該当する場合も除くこととなるものであるから、第3項において、第5項に該当する場合を除くこととはしなかったものである。

阪高裁令和2年10月27日
被告人とOを4項製造罪の共犯として認定した点に関する主張
被告人とOを4項製造罪の共犯として構成した原判示第5に関し,実行行為をしたOには,提供する目的があるから加重類型である7項製造罪が成立し,被告人には提供目的がないから7項製造罪の幇助に止まるが,幇助の故意がないから無罪であって, この点,原判決には,法令適用の誤りがある,というものである。
そこで,検討すると,上記1で説示した通り,検察官が,その訴追裁量にしたがって,実行犯であるOについて, 7項製造罪ではなく4項製造罪として公訴提起するとともに,被告人が4項製造罪の共犯に当たるとして公訴提起したものであるから,裁判所は,その成否についてのみ認定判断すれば足りるところ,原審裁判所が,被告人には4項製造罪につきOとの共謀共同正犯が成立すると認定判断した上で,その旨の法令を適用したことはもとより正当であって,法令適用の誤りはない。
5 4項製造罪の罪となるべき事実に関する主張
被告人に4項製造罪を認めた原判示第2,第5に関し, 「前項に規定するもののほか」として3項製造罪の不成立を認定しておらず,原判決には,理由不備がある, というものである。
そこで,検討すると, 「前項に規定するもののほか」という文言が構成要件であるというのは,弁護人独自の主張であって, 4項製造罪は, 3項で処罰されないものについても,新たに児童ポルノを製造する行為は,児童に悪影響を与えるものであるから, これを処罰しようとするものであって, 3項製造罪の不成立は,構成要件になっているものではない。したがって,原判示第2,第5に理由不備はない。

阪高裁r02.10.2
3 原判示第4の事実に関する理由不備,理由齟齬,法令適用の誤りの各主張について
(1)論旨は,児童ポルノの製造に係る行為について児童ポルノ法7条3項の罪が成立する場合には,同行為が同条4項の罪に該当する場合であっても,法条競合により同項の罪は成立せず,同条3項の罪が成立しないことが同条4項の罪の構成要件になるという解釈を前提に,原判決が原判示第4の事実について,①(罪となるべき事実)の項において,同条3項の罪が成立しないことを摘示しなかったことは理由不備の違法に当たり,②提供目的により本件の児童ポルノの製造に及んだ旨の被告人の供述を含む供述調書を(証拠の標目)の項に掲げ,(量刑の理由)の項でも提供目的を認定しながら,(罪となるべき事実)の項で同条4項に係る事実を認定したことは理由齟齬の違法に当たり,③同条3項の罪が成立する本件の事実関係において同条4項の罪の成立を認めたことは,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りに当たる,というのである。
(2)そこで原審記録を調査して検討するに,児童ポルノ法7条4項の「前項に規定するもののほか」との規定ぶりからして,同項は同条3項の補充規定であり,両規定に係る罪はいわゆる法条競合の関係に立つと解されるが,これは,ある事実が同条3項に該当する場合に実体法上およそ同条4項の罪が成立し得ないということまでをも意味するものではなく,当該事実に同条3項を適用する場合には,同事実について同条4項の適用が排除されることを意味し,同条3項の罪が成立しないことが同条4項の罪の構成要件になるとは解されない。
 したがって,原判決の理由不備の違法をいう論旨は,そのよって立つ解釈自体が採用し得ないから,失当である。
(3)そして,訴因の構成・設定は検察官の合理的な裁量に委ねられており,検察官は,実体的には児童ポルノ法7条3項を構成すると評価し得る行為についても,立証の難易等諸般の事情を考慮して同条4項の訴因により公訴提起することは許容され,裁判所も,当該公訴事実に掲げられた行為について,同条4項の成立に証拠上欠けるところがないのであれば,原則として,その公訴事実に沿ってこれを認定すれば足りるというべきである。本件では,原判示第4の事実に係る起訴状の記載を見ると,検察官が児童ポルノ法7条4項の罪に当たる行為について起訴していることは明らかであり,原審記録に照らしてその罪の成立に必要な事実関係について証拠上欠けるところも見当たらないから,検察官が設定した訴因に沿って原裁判所が原判示第4の事実を認定したことに何ら違法とすべきところはない。
 所論は,冒頭陳述の記載,検察官請求証拠の立証趣旨や証拠の内容,論告の記載等からすると,検察官は,提供目的での児童ポルノ製造行為を起訴しており,原判決の(証拠の標目)や(量刑の理由)の各項の記載等からすると,裁判所もこれに沿って同目的を認定したとみるのが相当であるなどと主張する。
 しかし,所論が指摘する冒頭陳述の記載は,被告人がこれまでに販売目的で児童から裸の画像を入手するなどの行為を繰り返していた旨の本件犯行に至る経緯を記載しているにすぎず,これに関する検察官請求証拠の立証趣旨をみても,このような経緯を立証するために請求されたものと解される。また,請求証拠の一部に販売目的で本件犯行に及んだ旨の被告人の供述が記載されていたとしても,検察官が自ら設定した訴因を超えて,提供目的による児童ポルノ製造罪の処罰を求める趣旨でそれらの証拠請求をしたとみることはできない。さらに,検察官が論告において,被告人が画像等のデータを販売するために本件犯行に及んだ旨指摘している部分をみても,あくまで本件の動機や経緯の一事情としての記載にすぎず,検察官が証拠調べの結果を踏まえて,提供目的による製造罪での処罰を求める趣旨で指摘したものとみることもできない。加えて,原判決の(量刑の理由)の項における説示をみても,冒頭陳述の記載と同様,被告人が従前から販売目的で児童から裸の画像を入手するなどしていたとの経緯を指摘しているにすぎず,(証拠の標目)に掲げられた被告人の供述調書中に,被告人が販売目的で本件の児童ポルノ製造に及んだ旨の供述が含まれていたとしても,原判決が提供目的での児童ポルノ製造罪の認定根拠としたなどとみることはできない。
 所論は採用できず,原判決の理由齟齬の違法及び法令適用の誤りをいう論旨は,いずれも理由がない。

非接触型わいせつ行為の文献

接触型わいせつ行為の文献
薄井論文に引用されているとこ

薄井真由子「強制わいせつ罪における「性的意図」」植村立郎「刑事事実認定重要判決50選_上_《第3版》」
3「わいせつな行為」該当性の判断について
(1)本判決の分析
 本判決は,あくまで性的意図の要否について判断したものであって,性的意図を強制わいせつ罪の成立要件でないとしたことに関連して,行為者の主観的事情が「わいせつな行為」該当性の判断要素の一つとなることがあり得るとしたにすぎない。したがって,本判決は,刑法176条の「わいせつな行為」の定義を直接判示するものではない。もっとも,その判示内容からすると,「わいせつな行為」該当性についても,次のとおりの判断枠組みを示しているとみることができる。
 ア 判断基準
 第1に,判断基準として,「いかなる行為に性的な意味があり,同条による処罰に値する行為とみるべきかは,規範的評価として,その時代の性的な被害に係る犯罪の一般的な受け止め方を考盧しつつ客観的に判断されるべき」であるとする。これは,一般人からみて刑法176条の「性的な被害」と評価できるかという観点の検討を求めているものと考えられる 5)。強制わいせつ罪のわいせつ概念については,「性的性質を有する一定の重大な侵襲」と定義する見解が示されている 6) が,本判決もこの見解に親和的と解される 7)。
 イ 具体的判断方法
 第2に,具体的判断方法としては,まず,①行為そのものが持つ性的性質が明確で,直ちにわいせつな行為と評価できる行為と,②当該行為が行われた際の具体的状況等をも考慮に入れなければ当該行為に性的な意味があるかどうかが評価し難いような行為があるとした。そして,②の行為については,当該行為が行われた際の具体的状況等の諸般の事情をも総合考慮し,○アその行為に性的な意味があるといえるか否かや,○イその性的な意味合いの強さを個別事案に応じた具体的事実関係に基づいて判断するものとした。その上で,そのような個別具体的な事情の一つとして,行為者の目的等の主観的事情を判断要素として考慮すべき場合があるというのである。
 したがって,「わいせつな行為」該当性の判断に当たっては,まず,「行為そのものが持つ性的性質」を検討することになる。
(2)行為そのものが持つ性的性質の判断について 8)
 上記(1)イ①行為そのものが持つ性的性質が明確で,直ちにわいせつな行為と評価できる場合とはどのような行為であろうか。
 本判決で問題となった「被害者に対し,被告人の陰茎を触らせ,口にくわえさせ,被害者の陰部を触るなど」の行為が,①の場合に当たることは異論のないところである(なお,平成29年改正により刑法177条の強姦罪は強制性交等罪となり,同罪の処罰対象となる性交等に膣性交のほか口腔性交・肛門性交が含まれるようになったため,現在ではそもそも陰茎を口にくわえさせる行為は176条ではなく177条による処罰対象となっている。)が,①の場合に当たる行為について,部位と態様の2つの側面から検討することとしたい 9)。

6)佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」法時88・11・60。この見解は,①刑法176条の保護法益が個人の性的自己決定権であること,一方,②「被害者の性的羞恥心を害する行為」「被害者の性的自由を害する行為」との定義では幼児など性的羞恥心・判断力を持たない者に対する保護が及ばないかのような誤った印象を与えうること,③同条の法定刑は比較的高く,迷惑防止条例における「卑猥な行為」などがより軽く処罰されている以上,ある程度の重大性が必要であることを理由とする。
8) 佐藤・前掲注6)63以下では,ドイツの議論を参考とし,刑法176条の「わいせつな行為」の判断に当たっては,全事情を評価し,その評価の基準は一般人の通常の感覚に求められるとする。そして,全事情の中でも,①関係する部位,②接触の有無・方法,③継続性,④強度,⑤性的意図,⑥その他の状況といった要素が重視される。最も重要なのは①②であり,③④は行為者と被害者の身体が接触するような行為態様において①②に準じる重要性を有するのに対して,⑤⑥の要素は①~④による判断を補う程度の重要性しか有していないとしており,参考となる。
 なお,①関係する部位については,関係する部位に性的要素が強いほど,重大な性的性質は認められやすくなること,同じ性器であっても,被害者側の性器が関係している場合と行為者側の性器が関係している場合とでは,被害者側に関係する方が性的自己決定権侵害の程度が高く,重大といえること,性器や性を象徴する部位以外の部位では,性器等と

9)嘉門優「日本におけるハラスメントの法規制―セクハラに対する処罰のあり方について」刑ジャ60・27では,裁判例を分析すると,強制わいせつ罪におけるわいせつ行為として理解されるものは,大きく分けて接触型・非接触型があり,さらに部位,態様等により8類型に分類することができるとしている。

嘉門優「日本におけるハラスメントの法規制―セクハラに対する処罰のあり方について」刑事法ジャーナル60号p27
また、性的侵害性判断においては、接触が基本的な要素であるため、非接触型(G・H類型)については(19,基本的にはその性的侵害性は低いという位置づけになり、それを補うために強制という要素が強く要求されることになる。つまり、被害者は、目をつぶるなどして「見ない」という形で被害を避けることもできると考えられるため、この類型の性的侵襲の重大性を根拠づけるために、裁判例において、被害者が見ることを「強いられた」ということがより強く要求されてきたのである20)
以上のように、強制わいせつ罪の判断においても、判例上、柔軟な解釈によって非接触型を含めてかなりの範囲の性的嫌がらせを捕捉することが可能となっているものの、その判断において一定の重大な性的侵害性が要求されてきたと分析しうる。そのため、被害者の性的部位を服の上から触るような場合や、オフィスで、ポルノ写真を部下である被害者に見せるといった環境型のセクハラの場合については、原則、強制わいせつ罪の対象とはならないということになる。

佐藤陽子「強制わいせつ罪におけるわいせつ概念について」法律時報第88巻第11号P60
(2)我が国における判断方法
(a)基本的視点
ドイツの議論を参考にすると、176条の「わいせつな行為」の判断にあたっては、全事情を評価の基礎とし、その評価の基準は一般人の通常の感覚に求められうる。
確かに一般人の通常感覚は基準足りえないとの批判もありえよう。
しかし、性的か否かは、科学的に検証可能な概念ではなく、その評価は社会通念に依存するのであるから、この基準が妥当というべきである。
そして、176条の「わいせつな行為」、すなわち、性的性質を有する一定の重大な侵襲に該当するかを判断する際には、①客観的にみて、行為がわずかでも性的性質を帯びていることが必須である。
およそ性的でない行為は176条には含まれ得ない。
さらに、②性的性質を有するすべての行為がわいせつなのではなく、その行為に法定刑にふさわしい一定の重大性が必要である。
(b) 具体的指針
それでは、全事情の中でもいかなる要素が、わいせつ性判断の際にとりわけ重視されるべきであろうか。
これまでの我が国の裁判例及びドイツの議論を参考にすれば、
(i)関係する部位、
(ii)接触の有無.方法、
(iii)継続性、
(iv)強度、
(v)性的意図、
(ⅵ)その他の状況
が挙げられるように思われる。
(i) 関係する部位は、最も重要な考慮要素であろう")。
たとえばドイツでは性器はタブーゾーンと呼ばれ、この部位が行為に関係していれば重大な性的性質は容易に認められる。
また性器以外の性を象徴する部位(胸、緯部)も、重大な性的性質が認められやすいとされる。
我が国でも、このような関係する部位による区別はすでに行われている。
関係する部位に性的要素が強いほど、重大な性的性質は認められやすくなり、弱いほど、それを補う別の要素が必要になるとの基準は、我が国の社会通念においても十分認められるだろう。
そして同じ性器であっても、被害者側の性器が関係している場合と行為者側の性器が関係している場合とでは、被害者側に関係する方が性的自己決定権侵害の程度が高く、重大といえよう。
また、性器や性を象徴する部位(性器等)以外の部位では、性器等との距離が重要となる。
太ももの付け根部分と足首とでは太ももの方が性器に近く、性的要素が強いというべきである。
他方で、性的部位とまではいえないものの、我が国におけるキスに対する社会通念に鑑みると、唇、口腔、舌にも性的要素は強く認められうるであろう。
なお、男性・児童の胸や臂部は女性のそれと同視できない(36)との理解は、少なくとも176条においてはもはや通用しないであろう。
セクシャル.マイノリティーの保護、そしてペドフィリアからの児童の保護に鑑みて、それらも性的要素の強い部位と解されるべきである(37)。(ⅱ)接触の有無・方法に関しては、原則として、物理的接触があるほど侵襲の程度は高くなろう。
また同じ接触であっても、被害者の肌と行為者の肌が触れ合うほど、重大な侵襄性が認められる。
このような基準は、実際我が国の刑事実務においても用いられているように思われる。
たとえば、臂部を着衣の上から触った場合は迷惑防止条例上の罪になるが、着衣の中に手を入れて触った場合は強制わいせつ罪であるというような区別である(38)。
それに加えて、道具を用いた行為は、その道具の性質も考慮されるべきである。
服の上からの接触であっても性具を用いた場合は、その他の道具を用いた場合よりも重大な性的性質を認めやすい39)。
性具はまさに性を象徴する道具だからである。
(ⅲ)継続性も重要である。
短期間一回きり触るより、執勧に触った方が重大であるのは自明であろう.。
(iv)強度もまた重要である。
胸を手の甲でさっと触るより、掌でしっかり握った方が重大であるといえよう。
なお、性器を切り落とすような場合は、侵襲性は極度に重大ではあるが、社会通念上、性的と評価されないため、176条のわいせつ該当性は否定されうるだろう。
(v)性的意図については、最高裁判例において必須とされている‘皿)。
しかし、そもそも伝統的わいせつ概念では性的意図が要件になるものであるのに対し、本稿のように被害者の性的自己決定権を重視する定義においては、行為者の性的意図を必須の要素として求める理由がない。
176条の成立において行為者の内面における性的な堕落は重要ではないのである。
性的意図以外の要素に基づいて既に重大な性的性質が認められている場合、性的意図の欠如はわいせつな行為を否定する根拠になりえない。
嫌がらせ目的にせよ、戯れにせよ、幼児の陰部に物を挿入した場合42)には、重大な性的性質が認められるから、行為態様から性的意図を推認せずとも、176条のわいせつな行為は肯定されるというべきである.43)。
一方、性的意図は必須ではないとしても、一つの考慮要素にはなりえよう4''。
例えば、児童を抱きしめて体を撫でる行為であっても、性的意図なく愛情から撫でる場合と、性的意図をもって撫でる場合とでは、重大な性的性質が異なるというべきである。
性的性質の弱い行為であっても、性的意図があることにより、わいせつな行為として認められるようになるのである。
本稿のように、性的意図をわいせつな行為の-考慮要素とすれば、①治療行為や②フェティシズム行為において、性的意図がどのような影響を与えるかが問題になろう。
①我が国の裁判例においては、治療行為についても性的意図を重視する傾向にあるように思われる45)。
しかし、治療行為は社会通念上、およそ性的性質を有さないであろう。
同じ陰部に指を挿入する行為であっても、婦人科医が診察行為としてそれを行う場合はもはや社会的評価が異なるといえる。
さもなければ、客観的に全く正当な治療行為46)をおこなった医師に犯罪が成立しうることになるだろう。
確かに、仮に行為者の性的意図が被害者に明らかになれば、被害者の董恥心が著しく害されることになるだろうが.47)、内心に性的意図が|隠れていることだけを理由として、客観的に正当な治療行為を処罰することは不当であろう.48)。
②性的意図だけで処罰できないという点では、フェティシズム行為も同様であろう。
たとえば、女性が嘔吐する姿に性的興奮を覚える者が、女性の口に指を入れて嘔吐させる行為(49)は、社会通念上ほとんど性的性質を有さない行為であるため、単に行為者に性的意図があったことを理由に、176条で処罰すべきではないだろう50)。
(vi) その他の状況として、行為時のひわいな言動が行為の性的性質を高めうることについては我が国の社会通念上、認められるであろう51)。
その他の状況に関係して、ドイツでは、暴行.脅迫の強度が重大性の判断に影響を与えるかが争われている52)。
例えば、同じく着衣の上から幼児の胸部を数回なでる行為でも、満員電車で身動きできない状況を利用する場合と、被害者を力ずくで壁に押さえつけるなど強度の暴行を行った場合では、強制わいせつ罪の成否の判断が分かれうるかという議論である。
暴行・脅迫の強度は行為の性的性質とは無関係であるが、我が国の実務には、暴行の強度を強制わいせつを認める要素に取り込んでいるように見える裁判例も存在する53)。
確かに、暴行・脅迫は行為の性的性質に関係しておらず、重大性の判断とは無関係なように思われる。
しかし、そもそも性的性質に一定の重大性を求めたのは、法定刑に見合った侵害レベルを求めるためであった。
だとすれば性的性質の程度が弱くとも、強度の暴行・脅迫かそれを補うことも例外的にありうるように思われる54)。
ただし、その際には、暴行・脅迫が性的性質に影響を与えない以上、問題となる行為に-.定程度を超えた性的性質が最初から備わっていなければならないであろう。
また、性的性質は弱くとも、付随する行為の侵襲性の強度によって一定の重大性を補うという考え方は、行為が密室で行われるような場合にも妥当するように思われる。
密室による心理的圧迫は侵婆性を高めるからである55)
以上が、わいせつの判断要素である。
これらの中で最も重要なのは(i)(ii)であろう。
(iii)(iv)は、行為者と被害者の身体が接触するような行為態様において(i)(ii)に準じる重要性を有する。
これに対して、(v)(、Ii)の要素は、(i)~(iv)による判断を補う程度の重要性しか有していないといえよう。

「プールでの水遊び、泥遊び、体に絵の具を塗って遊ぶボディーペイント、乾布摩擦、内科検診など。その多くは下半身や胸などを露出した半裸の状態で、全裸の園児が掲載されているケース」は児童ポルノか

「プールでの水遊び、泥遊び、体に絵の具を塗って遊ぶボディーペイント、乾布摩擦、内科検診など。その多くは下半身や胸などを露出した半裸の状態で、全裸の園児が掲載されているケース」は児童ポルノ罪か

 3号ポルノの「性欲を興奮させ又は刺激するもの」という要件の問題です。

児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律
第2条
3この法律において「児童ポルノ」とは、写真、電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によっては認識することができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)に係る記録媒体その他の物であって、次の各号のいずれかに掲げる児童の姿態を視覚により認識することができる方法により描写したものをいう。
二 他人が児童の性器等を触る行為又は児童が他人の性器等を触る行為に係る児童の姿態であって性欲を興奮させ又は刺激するもの
三 衣服の全部又は一部を着けない児童の姿態であって、殊更に児童の性的な部位(性器等若しくはその周辺部、臀でん部又は胸部をいう。)が露出され又は強調されているものであり、かつ、性欲を興奮させ又は刺激するもの

 一般人基準だと、普通は興奮しないから、児童ポルノには当たらないはずと説明されていますが、判例はかなり厳しく、親が撮っても児童ポルノにあたる(東京高裁h30.1.30)としています。

森山野田「よくわかる改正児童買春ポルノ法」P201
Q49
第7条第3項で、他人に提供する目的がないのに児童ポルノを製造する行為を処罰することにすると、親が自己の子どもの入浴、水遊びの情景を写真撮影する等の行為についても処罰の対象になるのではないですか。

このような情景を撮影した写真に関しては、現行法第2条第3項第3号に該当するか否かが問題とされるのかもしれませんが、同号については、その要件として「性欲を興奮させ又は刺激する」との要件がついており、子どもの入浴、水遊びの情景を見て通常、一般人は性欲を興奮させ、刺激するというところまで至らないと思いますので、このような写真は児童ポルノに当たらず、その撮影行為についても改正後の第7条第3項の犯罪が成立しない場合が多いのではないかと思われます。
・・・
Q38 第2条第3項第2号・第3号には「性欲を興奮させ又は刺激する」とありますが、だれの性欲を興奮させ又は刺激するのでしょうか。また、この要件に該当するか否かは、だれが判断するのでしょうか。
大多数の者に対して、児童の(特に低年齢児童の)裸体は性欲を興奮させ又は刺激するとは考えられないという考えもありますが、どうでしょうか。
一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものも児童ポルノとして処制の対象になりますか。

「性欲を興奮させ又は刺激する」 とは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激することをいうものと解しています。
これに該当するか否かの判断は、犯罪構成要件に該当するか否かの判断ですので、最終的な判断は刑事事件において裁判所がするものとなります。
児童の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激するかどうかについては、性的に未熟な女児の陰部等を描写した写真が刑法のわいせつに当たるとした判例があり、必ずしも年少者の裸体が一般人の性欲を興奮させ又は刺激することがないとはいえないと考えております。
なお、一部の少数者の性欲を興奮させ又は刺激するものは、一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものでない限り、児童ポルノには当たりません。

 高裁判例では児童ポルノとされます。

阪高裁平成24年7月12日
2 控訴趣意中,その余の法令適用の誤りの主張について
 論旨は,(1)本件各画像は,児童の裸が撮影されているが,一般人を基準とすると「性欲を興奮させ又は刺激するもの」ではないから,児童ポルノ法7条2項の製造罪(以下「2項製造罪」という。)は成立しないのに,原判決は原判示罪となるべき事実に同法7条2項,1項,2条3項3号を適用しており,また,(2)本件は,公衆浴場内での4件の2項製造罪であって,常習的に撮影,提供がされていたのであるから,それらは包括一罪となり,また,被害児童が特定されているのは1件だけであり,3件は被害児童が特定されておらず,結局被害児童は1名としか認定できないから,その意味でも包括一罪とすべきであるのに,原判決は,併合罪として処理しており,以上の各点で,原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というものである。
 そこで検討するに,(1)の点は,本件各画像が「性欲を興奮させ又は刺激するもの」といえるかどうかについては一般人を基準として判断すべきものであることはそのとおりである。しかし,その判断の基準とすべき「一般人」という概念は幅が広いものと考えられる。すなわち,「一般人」の中には,本件のような児童の画像で性的興奮や刺激を感じる人もいれば,感じない人もいるものと考えられる。本件は,公衆浴場の男湯に入浴中の女児の裸の画像が対象になっており,そこには大人の男性が多数入浴しており,その多くの男性は違和感なく共に入浴している。そのことからすると,一般人の中の比較的多くの人がそれらの画像では性的興奮や刺激を特に感じないということもできる。しかし,その一方で被告人のようにその女児の裸の画像を他の者から分からないように隠し撮りし,これを大切に保存し,これを密かに見るなどしている者もおり,その者らはこれら画像で性的興奮や刺激を感じるからこそ,これら画像を撮影し,保存するなどしているのである。そして,これらの人も一般人の中にいて,社会生活を送っているのである。ところで,児童ポルノ法が規制をしようとしているのはこれらの人々を対象にしているのであって,これらの人々が「一般人」の中にいることを前提に違法であるか否かを考える必要があると思われる。他人に提供する目的で本件のような低年齢の女児を対象とする3号ポルノを製造する場合は,提供を予定されている人は一般人の中でそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人達が対象として想定されているものであり,そのような人に提供する目的での3号ポルノの製造も処罰しなければ,2項製造罪の規定の意味がそのような3号ポルノの範囲では没却されるものである。したがって,比較的低年齢の女児の裸の画像では性的興奮や刺激を感じない人が一般人の中では比較的多数であるとしても,普通に社会生活を営んでいるいわゆる一般の人達の中にそれらの画像で性的興奮や刺激を感じる人がいれば,それらの画像は,一般人を基準としても,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」であると解するのが相当である。
 したがって,原判決が原判示各事実に児童ポルノ法7条2項,1項,2条3項3号を適用したのは正当である。

保護責任者遺棄致傷,強制わいせつ,児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反,強制わいせつ(変更後の訴因わいせつ誘拐,強制わいせつ),殺人,強制わいせつ致傷被告事件
【事件番号】 東京高等裁判所判決【判決日付】 平成30年1月30日
【掲載誌】  高等裁判所刑事裁判速報集平成30年80頁
       LLI/DB 判例秘書登載
【評釈論文】 法学教室458号145頁
       法学研究(北海学園大)54巻2号209頁
2 低年齢児等に対する児童ポルノ製造罪(原判示第1,第2の3,5,第5の2,4,6,第7から第11まで)の成否について
  (1) 論旨は,まず,6歳未満の児童の姿態は,「性欲を興奮させ又は刺激するもの」に該当せず,その姿態を撮影しても児童ポルノ製造罪は成立しないから,零歳から5歳までの児童の姿態を撮影した行為について同罪を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,6歳未満の低年齢児の姿態でも一般人が性的な意味があると評価するものがあることは既述のとおりであり,画像の対象が6歳未満の児童であるというだけで性的搾取及び性的虐待から児童の権利を擁護することを立法趣旨とする児童買春等処罰法における児童ポルノに該当しないとの所論は,同法が「児童」の定義を「18歳に満たない者」と定め(同法2条1項),下限を設けていないことなどにも照らし,採用の余地がない。
  (2) 論旨は,また,原判決が児童ポルノと認めた画像の中には,一般人の性欲を興奮又は刺激させないものが含まれているとして,具体的には,トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,児童を拘束している画像,上半身裸の男児の目や口をガムテープで塞ぎ両手を緊縛した画像で性器が映っていないもの,児童が突っ立っている画像を挙げ,これらの画像を撮影した行為について児童ポルノ製造罪を認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある,というのである。
 しかし,原判決は,公訴事実に含まれる各画像を個別に検討し,一部の画像を性欲を興奮させ又は刺激するものに該当しないとするなど,児童ポルノの該当性を慎重に判断しており,所論指摘の画像の撮影行為をいずれも児童ポルノに該当するとした原判決の判断は不合理ではない。トイレに座る画像,一部着衣してあどけなく座る画像,児童が突っ立っている画像であって,児童に殊更扇情的な姿態をとらせたものではなくても,性器を殊更露出させたものであれば,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものといえる。また,全裸で両手を縛った画像や性器をひもで緊縛するなどして児童を拘束している画像や,上半身裸の男児の目,口をガムテープで塞ぎ両手を緊縛した画像も,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものといえる。所論は,少年アイドルの上半身裸の写真や小学生の水泳の写真と同視でき,児童ポルノに該当しないとも主張するが,それらは,画像から読み取れる姿態,場面,周囲の状況,構図等を総合的に考慮して判断するならば,一般人の性欲を興奮させ又は刺激するものとはいえないと評価されるにすぎない。なお,保護者が陰茎をつまんで撮影した写真は,児童ポルノに該当するが,その製造,所持の目的が,子供の成長の記録のためであるなどして,性的好奇心を満たす目的等に欠ける場合には,犯罪を構成しないと評価されるだけである。

https://mainichi.jp/articles/20240324/k00/00m/040/145000c?inb=ys
毎日新聞SNSなどで啓発している市民団体「子どもを児童ポルノから守る会」(守る会)の協力を得て、2023年7月以降、ネット上で同様の画像を検索するなどして実態を調べた。

 その結果、全国の保育園、幼稚園、認定こども園など、少なくとも135園がブログなどに園児が裸で写る画像を掲載していた。現在は削除している園もある。

 撮影時の状況はプールでの水遊び、泥遊び、体に絵の具を塗って遊ぶボディーペイント、乾布摩擦、内科検診など。その多くは下半身や胸などを露出した半裸の状態で、全裸の園児が掲載されているケースもあった。

 135園のうち、画像が海外のポルノサイトなどに転載されているのが確認されたのは12園。画像を含むページごと外部のサイトに複製・保存されていたのは6割の80園に上った。

 東日本のある保育園はブログに、10年以上前のお泊まり保育で撮影した園児の入浴画像を掲載。かつて外部の指摘で全て削除したつもりだったが、1枚だけ消し忘れていた。

 園長がブログの検索履歴を調べると、ブログ内の検索ボックスに何者かが「子ども 裸」「子ども お風呂」と入力した形跡があったという。

 そもそも、園側はなぜ、裸の画像をブログなどに掲載してきたのだろうか。

 ある保育士の男性(32)は「数十年前に乾布摩擦や裸足での教育が流行し、今でも『子どもは裸で元気よく』という価値観が残っている」と指摘する。

違法性は? 国は規制に及び腰
 ポルノサイトなどへの転載は規制できないのか。

園児の画像悪用に関する調査結果
写真一覧
 児童ポルノ対策に詳しい森亮二弁護士(第一東京弁護士会)によると、保育園が園児の日常生活として裸の画像を掲載する場合、児童ポルノ禁止法が禁じる「殊更に性的な部位が露出または強調されているもの」「性欲を興奮させ、刺激するもの」には当たらないという。

 一方、同じ画像でも、どこに掲載するかによって問題になる場合がある。森弁護士は「ポルノサイトに転載すれば児童ポルノの提供として処罰される可能性はある」と指摘する。