井伏鱒二「荻窪風土記」 小山清

荻窪風土記 (新潮文庫)

荻窪風土記 (新潮文庫)

日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)の解説に、"彼のことを書いた一番いい文章は、井伏鱒二の『荻窪風土記』のなかに入っている「小山清の孤独」であろう。"とあったので、古本屋で購入。井伏鱒二の文庫の中でもよく見かけるものの一つだと思う。
関東大震災被災の経験から、その後荻窪に転居し、戦後にかけての交友関係などを綴ったもの。
関東大震災の直後、当時住んでいた早稲田から歩いて立川に行き、中央線経由で故郷の福山に帰るくだりが非常に興味深い。朝鮮人暴動のデマが相当浸透していて、自警団が目を光らせていること、避難民を乗せた列車が途中の駅に着くたびに、炊き出しなどの接待を行う様子などが記されている。
時折、詩が挿入される。それがまたよい。ひょっとすると文章より好きになるかもしれないとすら思った。

小山清 日々の麺麭・風貌

日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)

日日の麺麭・風貌 (講談社文芸文庫)

庄野潤三の新連載「ワシントンのうた」を目当てに、「文學界」1月号を購入した話は前に書いた。
他のページを見ていたら、狐(ペンネームです)の「文庫本を求めて」という書評の連載があるのに気が付いた。
水曜日は狐の書評 ―日刊ゲンダイ匿名コラム (ちくま文庫)
ここでは、長年続いた「日刊ゲンダイ」での書評の連載が、2003年8月で終了したとある。発表場所を移して健在だったというわけだ。
さて、本欄で発刊を知ったのが冒頭の文庫である。
小山清は、小沼丹庄野潤三の文章に触れられていたので、気になっていた。
筑摩書房から全1冊の全集が出ているが、高いのと、電車に持ち込んで読む本では到底ないのとで、買わないままになっていた。
読みたい作家の本が文庫で出るのはうれしい。早速購入した。
小山清明治44年浅草区千束町、通称新吉原で生まれる。
関東大震災以前の、おそらくは江戸の名残を色濃く留めていたであろう吉原の街並みでの日常生活を丹念に綴った「桜林」がいい。
後年、脳梗塞による失語症に陥った「不遇」の作家、とされている(「不遇」は、わざわざ帯にも記されている)が、あんまりそういうことは気にしないで読んだほうがいいみたいだ。
ずっと昔に挑戦して挫折した樋口一葉たけくらべ」に再挑戦したくなった。

庄野潤三 ワシントンのうた 文學界1月号

文學界1月号購入。庄野潤三の新連載「ワシントンのうた」を読む。
庄野さんは、毎年毎年、文芸雑誌の新年号に新連載開始、12月号に最終回、そういうペースでずっと執筆を続けている。
題材は、もっぱら自分の身の回りのこと。自宅の庭に何が咲いたとか、家の周りを散歩していたらだれそれさんとすれ違ってあいさつしたとか、そういうことが書かれている。
まあ、言ってみれば、我々がやっているブログと大差ないということもできる。
ところが、「貝がらと海の音」でも「せきれい」でもよいが、このシリーズを通して読んでみると、一つ一つの小さな出来事が響きあって、大きな交響曲のような一つの世界を作っていることに気付いて驚かされる。
そこが我々素人との大きな違いであり、つまりは筆力の差ということなのだ。
さて、そんなわけで、また新連載が始まった。
また、いつもの世界が始まるのかと思ったら、「ここで私は、これまであまり取り上げたことのない私の幼年時代のことを中心に書いてみたい」というので驚いた。
今回は、そういう作品になるらしい。
実際、子供のときのトンボとりの話などが書かれている。
これは、大きな方向転換である。びっくりした。
ただし、文体はいつもの庄野文体であるので、ゆったりとした気持ちで読み進めることができ、楽しい。
これからどういう展開になるのか、毎月楽しみだ。

このオルガンが好き!Illinois Jacquet(イリノイ・ジャケー)、Milt Buckner(ミルト・バックナー)

ゴー・パワー

ゴー・パワー

老舗の居酒屋で食する肉豆腐、もしくはもつ煮込みの汁を煮詰めたような音。
イリノイ・ジャケーのテナーサックスもそうだが、ミルト・バックナーのオルガンも、どうしてまあ、とあきれ返るくらいに泥臭い。
ライブ盤だが、観客の反応も、この雰囲気を増強している。
"Water Melon Man"をやっている。Herbie Hancockのにしてもそうだが、この曲はソウルフルではあるがこじゃれた演奏、というものが多いと思うが、ここではそういうイメージを鼻くそにして丸めて指で弾き飛ばすような演奏をしていて、観客が100%それに反応している。
ソウルジャズという範疇をはるかに超えた、本当にすばらしくも恐ろしいブラックミュージックの神髄、というアルバム。

このオルガンが好き! Baby Face Willette Stop And Listen

ストップ・アンド・リッスン

ストップ・アンド・リッスン

1曲目のWillow Weep For Me。やっぱりいい曲。いい演奏。
ピーターバラカンのオルガンジャズの編集版(Soul Fingers...And Funky Feet)に入っていた。
彼がやっていたFMの音楽番組(FM千葉「ベイ・シティ・ブルース」)のテーマ曲でもあった。
P蔵
http://www60.tok2.com/home/pbsl/p-P-KURA-top-j.htm
ここはピーター氏のデータがこれでもか!と収められている凄いサイト。
ここの、"Bay City Blues"によると、
午前3時の時報!*、*、*、*−−−− の後、
BABY FACE WILLETTE「WILLOW WEEP FOR ME」
に乗せて始まる
不眠症のみなさん、こんばんわ!
 早起きの方、おはようございます。
 そのほかの皆さん、
"Welcome To The Peter Barakan's Bay City Blues !"
ハイ、ピーター・バラカンのベイ・シティ・ブルーズです。これから
2時間たっぷり、ブルーズ感覚に溢れる素晴らしい音楽を紹介
していきます。それでは今日の1曲目 「********!」 
という、出だしの部分が紹介されている。
この始まり方は、記憶に残っている。懐かしい感じ。
ただ、この番組は、金曜日の深夜3:00〜5:00にやっていた、とある。
そんなに遅くまで起きていたのかなあ。
番組をやっていたのが、1989年から1995年だというから、このころ(特に初めのころ)は、金曜日だったらこういう時間まで起きていたのかもしれない。
今ではずいぶんオルガンジャズのレコードがたまっているが、私にとっては、この曲がきっかけだった。
ソウルフルだけれど、泥臭いとまではいかないバランスがとても良い感じだ。
この曲はBlue Note録音だけれど、その後Argoに吹き込まれた彼のレコードを聴くと、段違いに泥臭い。Baby face Willete自身のセンスは、Argo盤の方に近いのかもしれない。
でも、やっぱりBlue Noteのこの曲、この演奏は、いいなあと思ってしまう。
ピーター氏も、あまたあるオルガンジャズの曲から、よくこの曲を選んだものだと思う。

このオルガンが好き! Jody Harris It Happened One Night

James Chance&The Contortions(ジェームズ・チャンス&ザ・コントーションズ)のギタリスト、Jody Harrisのソロアルバム。
どうも、CDは出ていないみたい。
B面がフェイクジャズといったらいいのか?オルガン、ギター、ドラムスの編成だが、いわゆるオルガンジャズとはテイストの異なる演奏が収められている。
で、これが良いのです。
オルガンのクレジットが"ace tone"になっている。実際そのとおりのチープな音。それがドローン的にえんえんと鳴っている曲がある。それがまたいいんだなあ。
60年代的な、いかにも、といったコンボオルガンの使い方とは、発想の違う使い方。
私がエーストーンのオルガンを買ったのは、このアルバムの存在が大きいのです。

このオルガンが好き! NOISE 天皇 工藤冬里

天皇

天皇

中学の時に買った、のだと思う。工藤冬里の歪んだオルガンに漂うような歌(大村礼子、現:工藤礼子)がのる。
オルガン含有比率としては今まで書いてきた中で断トツである。
工藤冬里のバンド、Maher Shalal Hash Bazとはぜんぜん違う音。
それにしても、中学生のころは、アバンギャルドな音をずいぶん聴いていた。
1980年の年末に「愛欲人民十時劇場」を買った。そこで、灰野敬二、白石民夫、山崎春美工藤冬里などなどに触れた。
灰野敬二のLP「わたしだけ?」は、当初1981年の初頭に出るとの予告が出ており、いつ出るかいつ出るかと期待していたが、半年以上待たされたのではなかったか?
そういうLPを自宅の居間のステレオ(自室にステレオを持ってきたのは大学に入ってからだった)で聴いていたほか、自分でもラジカセを細工してハウリングの音をえんえん出す、ギターアンプの入力とヘッドホンジャックを直結して、リバーブをきかせてノイズをえんえん出す、ちゃぶ台の脚にエキスパンダーを斜めにはり、イヤホンをピックアップ代わりにして自作の打楽器ににしてがんがん叩く、などなど、中学生の小遣いの範囲をフルに活用してなんやかんや音を出していた。
親は心配していたのではなかったか。
それは知らないのだが、まあそういう中学生時代でした。
このLPもそういう中で買ったものである。いわゆるアバンギャルドな音、というものではないので、買った当時は拍子抜けした。
でも何というか、これは歌の力かな?頭に残る音なのだ。
今でも、例えばマヘルとかの良さを理解しているとは思えない私ではあるが、このLPの音は頭に残っている。

http://d.hatena.ne.jp/canoa/20051009
たまたまマヘルに遭遇した人によるライブレポ。
面白い。いきなり聴いたらこう思うだろうなあ。