覚え書:「「ウルトラセブン」の帰還 [著]白石雅彦 [評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)」、『朝日新聞』2018年02月25日(日)付。


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ウルトラセブン」の帰還 [著]白石雅彦
[評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)
[掲載]2018年02月25日

■試行錯誤繰り返し、時代刻む

 学生運動ベトナム反戦運動が高揚しつつあった1967年10月から68年9月にかけて、毎週日曜日に49回放送された子供向けのテレビ番組があった。「ウルトラセブン」である。
 いまなお熱狂的なファンが多く、語り尽くされてきた感のあるこの番組を、著者は監修者の円谷英二の日記、新たに発見された脚本家のノート、そして当時のスタッフへのインタビューなどを通して、一つひとつ丁寧に検証してゆく。その結果、私たちがテレビで目にすることができたのはあくまでも完成作品のみであり、そこに至るまでには想像を絶するほどの試行錯誤が繰り返されたこと、脚本が完成しながら映像化されなかった幻の回も少なくなかったことが明らかになる。
 最も多く脚本を手掛けたのはともに沖縄出身の金城哲夫上原正三である。当時はまだ返還前だったが、著者はこの二人が書いた作品に沖縄からのまなざしを感じとる。例えば上原が担当した「700キロを突っ走れ!」は爆発物を積んだ米軍の車が島内を走り回る恐怖の記憶が原点になっているし、「あなたはだぁれ?」は沖縄にはない都会の団地の不気味さを描いている。上原ほど問題意識を前面に出さない金城にも、「ノンマルトの使者」のように沖縄人のアイデンティティーがにじみ出た作品がある。沖縄に固有の他界観が、この作品に反映しているというのである。
 金城や上原のほかにも、実相寺昭雄佐々木守ら多彩な監督や脚本家が集まり、それぞれの構想をぶつけ合っていた。例えば戦後民主主義者を公言する佐々木守が脚本を担当した「勇気ある戦い」には、ウルトラ警備隊とロボットが皇居前で闘う場面があった。この場面は完成稿で削られたが、新左翼の皇居突入があり得た時代との連動性が感じられる。
 驚くべきは、これほどの高度な内容をもつ番組が子供向けに作られたことである。前作「ウルトラマン」ほどの人気は望むべくもなく、当初30%を超えていた視聴率はどんどん下がり、ついには10%台にまで落ち込んでしまう。円谷英二の日記にはそれを嘆くぼやきの言葉が目立つようになる。
 だが「ウルトラセブン」は、繰り返し放送されることで、しだいに名声を獲得してゆく。初めて見たときに子供だった世代が、再放送でようやく内容を理解できるようになるからだ。かく言う私もその一人である。本書は、テレビ番組もまた時代の刻印を帯びていることをまざまざと示したという点で、画期的な意義をもつ。戦後思想史のなかにこの番組を位置づける試みを始めなくてはなるまい。
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 しらいし・まさひこ 61年生まれ。映画研究家、脚本家、映画監督。著書に『「ウルトラQ」の誕生』『「ウルトラマン」の飛翔』『円谷一』『飯島敏宏』など。
    −−「「ウルトラセブン」の帰還 [著]白石雅彦 [評者]原武史(放送大学教授・政治思想史)」、『朝日新聞』2018年02月25日(日)付。

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試行錯誤繰り返し、時代刻む|好書好日




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