1933年長崎県生まれ。元編集者。文芸評論家。 早稲田大学卒業。61年、文芸誌「文藝」の復刊スタッフとして河出書房新社入社。65年「文藝」編集長に就任。 79年、作品社創設に参加し、文芸誌「作品」を創刊したが、7号で休刊となる。 81年、福武書店に入社し、「海燕」創刊編集長、取締役出版事業本部長を歴任。94年退職。 2010年3月5日死去。享年76。
今日の見出しを、はじめは「大先達」とした。おこがましいと思いなおして「別世界」とした。 小林勇の回想録や随筆集を、面白がって読んだ時期があった。岩波茂雄の片腕にして娘婿、そして岩波書店の会長だった人だ。平民視線で申せば、岩波新書という形式を発明した人であり、岩波映画を設立した人だ。岩波茂雄の傑物たるを語り残した逸話は多いが、小林勇もまた豪傑の誉れ高い人だ。岩波茂雄の伝記も著している。 退職しての晩年は山荘に独居して、厨房や日常茶飯の明け暮れを綴った随想を残した。その分野の愛読者も多いことだろうが、私はやはり、現役時代に出版人として接した、多くの傑物著者たちに触れた人物回想録が、もっとも記憶に残…
動作も物言いも、慌てず騒がずといった風格だった。なにをなさっても、山が動くという形容がピッタリだった。 「第一次戦後派と云ったって、せんじ詰めれば野間宏と椎名麟三の二人だけだろう」 文芸界の名編集長のお一人である寺田博さんが、あるときおっしゃった。気楽な酒場トークのなかでである。カウンターの隅っこで耳をそばだてていた私は、わが意を得てひそかに安堵した。日ごろさよう思いながらも、私ごとき雑魚が口にできる事柄ではなかったのである。「そうですよね、寺田さん」と、胸の裡でつぶやくしかなかった。 矛盾や不合理がいく重にも絡みあって、容易には解きほぐせぬ錯雑さに身動きとれぬ日本近現代史を、あるいは近現代の…
中央公論新社(編) (2023年6月30日刊行、中央公論新社[中公文庫・ち-8-19]、東京, 257 pp., 本体価格840円, ISBN:978-4-12-207380-7 → 版元ページ)版元はすべての本の目次を自社サイトで公開してほしい。本書のようなアンソロジーで目次がなければ、何の手がかりもないし、買う意欲も湧かないでしょう。【目次】 虚無の歌(萩原朔太郎) 9酒友のいる風景はせ川(井伏鱒二) 14 中原中也の酒(大岡昇平) 20 青春時代(森敦) 24 酒の追憶(太宰治) 35 酒のあとさき(坂口安吾) 52 池袋の店(山之口獏) 60 音問(檀一雄) 64 詩人のいた店(久世光…
三浦雅士――人間の遠い彼方へ その1 鳥の事務所 三浦雅士――人間の遠い彼方へ 鳥の事務所 第Ⅰ部 批評家としての三浦雅士 α篇 三浦雅士 ――批評的散文詩の発明 そもそものはじめに 本稿は以前、突発的に、前の会社を辞めて、次の仕事が全く見つからなかったときに、半年ほどかけて書いた、一種の殴り書きです。テーマとなっている三浦さんには全く申し訳ないが、自らの能力的な問題で、全く的外れな文章のようなものになってしまいました。 ただ、ほっておいても仕方がないので、ここに徐々にアップしていこうと思います。その過程でなにか修正すべきことも、自分で気づくのではないかと思います。 という訳で、宜しくお願いし…
年頭愕然。そして反省。そして決断。 拙宅内の片づけに重大な障害となっているもののひとつは、わが生涯にもはや再読の機会は訪れまいと思える書籍類だ。場所を塞ぎ、移動を妨げ、よろづ片づけの邪魔となってある。 中味を空にした箪笥だの、故障したままの家電だの、運び出したい家具は眼に余る。しかし出せない。まず床積み・階段積み・箱詰めの書籍・書類を、書架およびせいぜい書斎の床へと移動させなければならない。それには書架および書斎を空けなければならない。古書肆のお世話になるほかない。三日坊主に陥らぬよう、整理の模様をブログに記録してゆくとしよう。我ながら悪くない着想だった。 で、昨年から「古書肆へ出す」シリーズ…